「どぅららららららららっらあらあららららあっららららららららあっらららら!!?」
騒いでいる。ビビが。
無理なブレーキングとステアリングで鋭角コーナリング連発したり最高速度で石垣に乗り上げたり露店の残骸のようなテントを吹っ飛ばしたり、果ては後ろからロケットブースター的なノズルを出して文字通り無限の彼方にテイクオフかましたりしたわけである。
暴走していた。
道交法に唾を吐きつけるようなラフなドライビング(弾道飛行なども織り交ぜているためフライトといってもいいのかもしれない)が許されるのも、ひとえに街中に人がいないせいだった。
居住区というものがそもそもないのかもしれないが、そこは支配者であるハザードの通り名から推して知ることは難しくない。
路肩のハートレスを吹っ飛ばす。なるほど相手は無尽蔵に尖兵を差し向けるハートレスの王である。一箇所に留まらず動き続けていることは確かに重要だろう。
ジェットコースターのようなビビのスピードにおっかなびっくりしつつ、ソラは外に視線を走らせた。
大木の中に町がある。そういう印象を受ける場所だった。それだけにここユグドラシルを覆う樹木は大きく、そして根が深い。
城壁など、根やツルが複雑に絡んでいて、大木の中から城が生えてきた、あるいは城からこの木が伸びたかのような印象を受ける。
魔都。その形容は表面を撫でる程度に見たソラの目から見ても絶妙だった。
見た目以上の問題だ。その奇妙さはもはや単なるスパイスでしかない。
重く、静寂で厳かな空気。神格の一片が雪のように降り積もり、青葉になって生い茂っているかのような、絶対的な存在感。
この街は、実に魔的だ。魔が住まう街。妖怪や精霊が住み着くとすれば、それはきっとこんな場所に違いない。
しかし――――。
そんな場所で脇目も振らずに暴走できるというのは、まさしく天性の才能なのだろう。
ビビ、すげぇ。
「マシーンに信仰心求めるのも……いささか酷ってもんじゃあないかっ……!!」
ソラの心を汲み取ったかのようにセキが返した。顔はひどく引きつっている。もしかしてこの男、実はただの怖がりなんじゃああるまいか。
――――とは思いつつ、ソラも言うほどその場に呑まれていた訳ではなかった。
似た雰囲気の場所を知っているのだ。
島の「秘密の場所」だ。意味ありげな扉だけがあった洞窟。絡まるツタなどパーツ単位で見ればホロウバスティオンのイメージも出てくるが、「秘密の場所」の方が全体的な印象近い。
扉。
やはり、この場所には別の世界にジャンプするためのなにかがあるのだ。
――――など、抜かしている間に。
ビビは城門を突破しエントランスを疾走し階段を駆け上がり、一際広いホールまで来て、ようやく停止した。
否。止まったのではなく止められたのだ。より厳密に言うと正面からぶつかったのだ。立派な自動車事故だが、あのスピードで突っ込んでおいてビビはバンパーがへっこんだだけ。ソラたちに至っては無傷である。イナーシャルキャンセラーとやらの恩恵か。ヒスイちゃんマジ天使。
しかしそんな冗談は言ってられない状況だった。
目の前に敵がいる。ビビが正面衝突した相手である。
巨大な体躯を持つ人型のハートレスだ。
「……この場合、人身事故か?」
「ほほぅ、ヒトのココロなだけに人心……ってゆーとる場合ちゃうわー!」
ビビが急速でバックする。
巨人のハートレスはじっとこちらを見ている。追ってくる様子はない。ただ奥に入らないよう塞いでいるだけのようだ。さながら門番のように。
「……つまり、ここ先がド本命、か」
呟いて、セキはヒスイを置いて車外に出た。ソラもそれに続く。
「僕に提案があります。セキをエサにハートレスの気を引いて先生が僕に乗って先に奥まで行くってどう?」
「それじゃセキはどうなるんだよ。あいつ、強いぞ」
「注意を引くのも俺一人じゃ役不足かもしれないしな……みんなであいつを手早く倒す方向で行くか」
「セキも戦えるのか?」
「不思議とそういう気分でね」
またはぐらかすようにそう言って、セキは右手を握り、ソラに向けた。
「この心、信じてみようと思う。だから、ソラも俺を信じてみせてくれないか」
「……わかった」
その拳にソラも拳を合わせた。コツンと小さな音がなる。
セキはその手を胸元に押し付け、一度、大きく息を吐いた。
「……不思議だ。少しだけこわくなくなった。これが信じるっていうことか」
「ちょっと違うかな」
「そうなのか?」
「それは――――信じ合えたってことだ」
「そうか……そうか?…………そうか――――」
まどろんでいるような弱々しい声。しかしそれは、決して心を無くした言葉ではなかった。
心
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