「さて、我が招きに応じてくれて感謝するぞ、勇者。許す。掛けろ」
「……なんだよ……?」
「うん?」
「さっきまで俺のことを馬鹿にして、見下して、リクまでッ……あんな風にしておいて!おまえはいったいなんなんだよ!!」
ソラの怒りを受けて、【無貌の王】は牙を光らせて嘲笑をかみしめた。擦り切れた笑みが空を揺らす。
長机の端の椅子に腰かけた【無貌の王】は指を伸ばした。ひとりでに【無貌の王】の対岸の椅子が引かれた。
「座れ」
【無貌の王】は命じた。それはただの言葉だった。しかしそれはソラの手足に魔力の枷を付ける。心が圧迫される。強制の呪文に貫かれたように。
「……ふむ、やはり。あなたは実に良い。私のギアスに抗っている。さすが、そのキーブレードのユーザーに相応しい、真の光を司る勇者のようだ」
「偉そうに……!」
「偉いんだよ、俺は。指先ひとつのさじ加減でこの世界を覆う暗闇の雲を操り、あらゆる世界に闇の氾濫を起こすことも造作もない。
――――わかるか?お前の目の前にいるこの俺は、いともたやすく光と闇のバランスを辛うじて保った世界という天秤を、支点から破壊できる。
天秤はその機能を失い、あらゆる虚飾は流れ落ち、最後には丸裸の高位意識のみが残る。……わかるか?」
「……………………」
まったくわからない。
闇の氾濫、というのは、聞くだけで危なっかしそうだ。
世界が壊れる。きっとハートレスが世界に溢れるということ。わかりやすくヤバい。
しかし、その後の虚飾だの高位意識だの――――意味がわからない。
「おまえは……いったい、なんなんだ?」
先と同じ疑問を打つ。無貌の王は口端を歪めた。翳りが濃くなったその顔は、笑っているようにも、怒っているようにも、悲しんでいるようにも、喜んでいるようにも見えた。
「余は無貌。
顔のない王。
ない、というのは『持っていない』ではない。
『固定されていない』だ。
故に無貌にして夢貌。
無限にして夢幻。
余は一であり全。
個であり群。
アルファにしてオメガ。
円環の中心にして外。
すなわち世界、
そして真理である」
無貌の王は言った。
その様は、ソラの胸を鋭く突き貫いた。
「…………どうしたの?私の話、ショックだった?」
「ああ……」
目を見開いてソラは肯定した。
恐怖。畏怖。憎悪。――――そういった衝撃ではなかった。
言葉ではとても尽くせない衝動がソラの胸を激しく揺さぶった。
ソラの「心をつなぐ」天賦の才能故に、頭が理解できずとも心が確信を得てしまった。
胸を手で押さえる。王冠のネックレスを握る。
どうしようもなく――――切ない。
「――――やめろ」
無貌の王が低く命じた。今度は手足も重くならない。
頬に、涙がつたうのを感じた。
「我を憐れむ目を向けるんじゃねぇッッッ!!!」
無貌の王が長机を蹴り飛ばした。机は天井で粉々になって黒い霧に消えていく。
あらあらしく椅子から腰を上げ、無貌の王はキーブレードを握りしめた。ミシミシと軋む音がソラの耳にまで伝わってくる。
「憐れむな。哀しむな。嘆くな。見下すな。
それは全てこの僕だけに許された感情だ。たかが人間が、この僕に……よりにもよって、この僕にだ!向けていいものじゃあ、断じてない!!」
「でも、おまえにも心がある。そうだろ?」
「黙れ……黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!
この俺を畏怖しろ。崇めろ。頭を垂れろ。泣いて赦しを請え。この俺は無貌の王だ……怪異の王、闇の王、貴様が直々に引き裂かれることさえおこがましい、絶対の神だ!偉いんだよ!」
「違う!お前だって心がある。人の心があるんだ。それが、つながりの外に弾かれてしまって……つなぐことを忘れて、壊れてしまっているだけの……ただの人間だ。だから――――」
ドンッ――――!!
空気がハンマーの衝撃を伴ってソラの全身を圧し込んだ。ぶすぶすと背中に黒煙が上がり、ソラの意識は上下左右に激しく震えた。
倒れこみそうになるのをどうにか堪える。
ふらついたソラの目の前にいるのは――――無貌の王。変わらず。
しかし、その圧力は先ほどまで子供のように怒り、否定し、泣き叫んでいた姿とは似ても似つかない。
有体にいって、伝わってくるエネルギー純度が高くなっている。毛布の温かさから炎の熱量に。粘土の軟らかさからダイヤモンドの硬度に。
生命体としての純度がより一段高位に登ったかのような錯覚を覚えた。
――――錯覚。問題は、その錯覚が雄弁すぎるほどの実態を持っているということ。
ありえない。ただの一瞬で、生物の有り様はここまで大きく変容するものであるはずがない。晴れた日に嵐は起こらない。夏に雪は降らない。必ず夜は明けるし、
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