その瞬間――――ソラは見た。
黒ずくめの人影に踏みつけられ、それを追ってソラの目の前から消えた自動車。ビビ。
それが今度は黒ずくめの影をルーフに乗せて舞い戻ってきた。
ありのままに捉えたらまるで意味がわからない状況。しかもよく見たら黒ずくめは黒ずくめでも人影の詳細は全く異なる。
ラバー系の全身スーツにフルフェイスのマスクで顔をすっぽり覆っている。強盗かライダーか判別がつかない奇妙な風貌だ。
――――どういう状況だ。これは。
「ぎゃーぎゃーぐあーぎゃーぎゃー!!おちろこらこらこらああああ!!」
ビビが騒いでいる。なんか泣き叫んでいる。
そのままぎゃんぎゃんと蛇行を繰り返し、無秩序な動きで無貌の王に突っ込んだ。
――――瞬間、突っ込んだ速度の倍以上の勢いで壁に叩きつけられた。ビビはひっくり返って倒れてしまった。
マフラーとボンネットの隙間からもくもくと黒い煙が上がる。アンダートレイは剥き出しになる。4つのタイヤがぎゅんぎゅんと空転を続けている。黒ずくめの人影がいたルーフは床に擦り付き、べこりとへこんでいる。
「し……死ぬ……まじしぬ……」
よろよろとビビ改め事故車から何人かが這い出てきた。3人のうち、ひとりはセキだとわかったが――――他のふたりは知らない(しらない?)人だ。(本当に?)
「…………」
無貌の王は口を噤んだ。怒りも露わにはせず、ただ事故車を観察している。
対応にあぐねいているようだった。それだけこの3人の出現は意外だったのだろうか?
「………………お、ソラ……ぶじか?」
「あ、ああ……そっちは……」
――――見るからに無事ではなさそうだ。
三者三様によろよろと立ち上がった。うち、女性はきょろきょろと周囲を見渡している。あの人影を探している。
セキはヒスイを抱きしめている。そして、視ているのは無貌の王だ。
そしてひとりは――――栗毛の少年は、じっとこちらを見てくる。
なぜだろう。その目はいやにソラの胸を打つ。切なさ。悲しさ。痛み。やりきれない感情が溢れてくる――――。
「…………ヒスイの心を返してもらう」
バラバラだった視点は、セキの一言で束ねられた。4人の双眸が無貌の王を刺した。
無貌の王はキーブレードを肩に背負った。不敵に、あるいは歯牙にも掛けないように牙を光らせる。
「何を言っている?」
「言葉通りだよ……この子をこんな風にした償いをしてもらう」
「だから……どうした?」
「――――ッ!」
セキが炎の剣を引き抜いた。ヒスイをそっと床に寝かせ、剣を両手で握る。
「震えてるぞ? 怖いか? ……そうだろうなぁ」
「黙れ!」
「どうしたというんだ?…………ああ」
怒りの感情が剣の熱量に直結している。めらめらと刀身は揺れている。十分離れているソラにさえそれが伝わり、全身から汗が噴き出した。
それを前にしても、やはり無貌の王は不遜な態度を崩さない。
キーブレードの切っ先をセキに向ける。
その言葉は、やはり、正しく――――かつ、場を氷結させる冷徹さに満ちていた。
「籠絡されたか、我が忠実なるハートレス。貴様自身が食らった心に」
無貌の王はキーブレードの先を光らせた。
人の心のキーブレード。それが『人の心』を呼ぶ。セキの体の奥底にあるものを引っ張り出そうと――――。
「ぐっ……!」
セキの腹部が光り、セキは身悶えした。その場に崩れ落ちる。
あれだけ燃え盛っていた炎の剣が呆気なく四散した。
「我が使い魔がこうして他人の人形遊びのコマにされるというのは甚だ不快だが……良い。興が乗った。
その衝動と共に創造主たるこの俺に刃を向けてみよ、ハートレス。真にこの俺の使役力がその女の拘束力に劣っているのか、見定めるには良い指標だ」
無貌の王のキーブレードが一層輝きを増した。セキの声が大きくなる。体の苦痛と心の矛盾がセキを削り、歪ませていく。
「やめろ……」
「キーブレードの勇者は黙っていてほしいなぁ。これは僕のモノで、しかもハートレスだ。実際、人の心を食らっている薄汚いケダモノだよ。
……まさか、それを庇うのかなぁ? それでは世界の安定はどうなる?」
「…………ッ!」
「君達の相手はこの躾が終わってからだ。待たせはしないよ」
無貌の王は歩み寄り、キーブレードの切っ先でセキの顎を引っ掛けた。
目からは赤い涙が溢れている。無貌の王は汚物を見るように顔を歪ませた。
「そうだ。心が割れるようだろう? 余への忠誠とその下女の操作の矛盾に、貴様の脆い心は破断寸前なのだろう?
実に、実に、実に愚かだよ、貴様は。まさか、一切疑問に思わなかったのか? 彼女の声も色も好みも歌も、何も知らない。
そんなもののために恐怖を押し殺し
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