闇の奥から雷が走る。幾重もの稲光が束ねられた一条の光線だ。ヒスイを狙ったそれを、ソラはキーブレードで割り込んだ。
雷の光線はとんでもなく重い。ソラの顔が歪む。キーブレードを伝わり、体がビリビリと震える。このまま硬直は――――まずい。
「くぅぅ――ぁああ!」
気合い一発、壁に叩きつけた。接地する建物をアースに、雷の光線はコゲを残して掻き消えた。
雷光を放った左手は、紫電を巻いて闇の奥で浮き上がっている。
黒いグローブ。黒く長い袖。黒いコート。フードですっぽり顔を隠した――――黒ずくめ。彼女と同じ。
「誰だ!」
「これは……予想外だな」
呟くヒスイをよそに、黒ずくめの男は顎でしゃくったようなジェスチャーをとった(フードのせいでよく見えないが)。
瞬間、闇の奥から人影が現れた。いくつもいくつも――――計6人分。
1人は正面の黒コートの男。
1人は鎧を纏っている。兜で顔は見えない。
1人は老人。眼光が怪しい覇気に満ちている。
1人は浅黒い肌の青年。
1人は白衣の青年。
1人は――――女性。青い髪と小麦色の肌。
「……アンセム――――!?」
「懐かしい名前だ」
「彼と我々は似ている」
「そして君とも」
「アンセム。彼は探求者としての純度は低かった」
「為政者の外套にこだわりすぎたのだよ」
「カードがありながらリスクに震えてドロップに徹した彼には資格がない」
「……?」
――――話がかみ合わない。いや、かわりばんこにお話をしてくれるまどろっこしさの所為もあるが。どうも違和感がある。
アンセムでは……ない?
「……彼らのバックボーンについては、この際どうでもいい」
耳打ちしたヒスイの声には切迫感があった。火がついたのだ。焦燥に駆られる。うかうかしていればまっ黒焦げになってしまう。
周囲をぐるりと包囲されたこれは、いかにも問題だ。苦しい。厳しい。危険。
「君の力の証明ならば、既に終了している」
「剣を交えることは手段たり得ない」
「戦わない……ってことか?」
「そうだ」
包囲の一人がソラの問いかけに首を縦に振った。ソラはほっと胸をなでおろす――――気には、なれない。
戦いたくない。嘘を言うな。
だったらこの緊迫した雰囲気はなんなんだ。なぜソラの心はキーブレードから手を離そうとしない?
「――――ひとつ、提案がある」
「私の仲間に加わるのだ」
「……なんのために?」
ソラが問う。キーブレードを握る。
包囲すり彼らは、ぽつりぽつりと語りはじめた。
「我らは六貌――――遥か昔、6つに砕けたひとつの心」
「砕けたのは探求のため。真理のため……悠久の旅の末、我らは遂に、答えを得た」
「奇しくも同じ解を掴んだのだ」
「闇の扉を抜け、強大な一個のエネルギーを掴むのではなく」
「心の器を満ち満ちと満たし、強靭な一と成るのではなく」
「心を2つに分かち、成長させて融合させ……唯一無比のスペシャルを打ち立てるのでもなく」
――――我らは。
強き力を束ね、ひとつにすればよい。
「……なんだって?」
「扉の向こうは唯一無二の力。それを手にしようとする私の前に抑止力が立ちふさがるのは当然のこと。それも、その邪魔は無視できないほど強大だ」
「しかしその邪魔を回避するために、かの無貌の王がキーブレードの精錬に費やしたように、か弱き有象無象を何十何百何千何万何億と積み重ねるのでは、私には時間がかかりすぎる」
「さりとて唯一つの心の成長手塩をかけるのも、また時間もかかるというもの」
「既に強者。それも強すぎず……純粋かつ、意思の強いもの。我々の邪魔立てをするために律儀に現れる憎き抑止力ども。7つの光の守護者足り得る者ども。それを利用するのだ」
「そして結論だ。正邪、善悪、光闇……そんなものはもはや問わぬ。
ただただ強い心。プリンセスのような曇りなき輝きなど要らぬ。闇に呑まれた愚者も無用だ。光も闇も持つ、純然で平凡な心。
己が心を引き裂かれても喪失しない、強き心があればよい」
「それを砕き、純然たる光と闇が鍵を握る。それらがあわさり、最後の一は全となる。
あとは精錬方法だ。魔術的な意味が重要になる。…………六芒星。禁術とされる秘法を実現するには、6の要素が必要だ。6が2つに分かれた12の鍵……その力を手に入れる。私という13人目が」
しんとその場は静まり返った。話は終わった――――らしい。
聞き漏らしはなかった。
しかしどうして、意味がわからない。
ソラの知力の問題というより、彼らの言い回しだ。自分たちだけでわかる話ばかりでつらつら説明されたところで意味がわかるはずもない。専門用語で専門用語を説明されてなにがわかるというのだ。
さっぱり、
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