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KH 3-09


「なっ……に?」

 額然とする『男』に鎌が迫る。二条、四条と鎌の白刃が連なり、叩いた。『男』は2本のキーブレードでそれを撃ち落とした。
 続く連撃も鎌を微細に揺らし、伸ばし、己の体の『変形』の特性をフェイントに織り交ぜてトリッキーに攻め立てた。
 『男』が飛び跳ね、キーブレードを払い炎の壁でセキを仕切った。セキの動きが一瞬止まった。そして左右から別の男が一度襲いかかった。
 鎧姿の男と黒コートの男。彼らの突進を突き出した鎌で制し、黒コートの男の二刀と鎧姿の男のキーブレードのコンビネーションを変形を駆使した挙動で水のようにするりと回避していく。
 そのスピードと精密動作は圧巻の一言に尽きる。ソラの周囲を包囲していた『男』の仲間たちが動揺のあまりソラに仕掛けてくるのを忘れるほどだ。

 ――――およそ、ヒトの動きではない。
 ハートレスというハードを駆使するための『使い魔』というソフトを刷り込まれているのだ。とても今までの『セキ』の心《ソフト》ではそんなもの、できるはずがない。
 無感動かつ無表情に対象を圧倒していく様は、むしろ氷のセキ・グレンの様子だった。

「……いまのうちだ」
 ヒスイがソラの手を引いた。逃げようと言うのだ。
 ソラは首を横に振った。

「なぜ?」

「できないよ……なんでヒスイはそんなことできるんだ?あいつ、たった一人で戦ってるんだぞ!」

「問題ない。行くぞ」

「ないはずないだろ。そんなのいいわけない!」

「いいの!」

 ソラと同じようにヒスイは声を張り上げた。互いに有無を言わせない。そういう気迫を醸し出していた。

「あいつは私が作った『合鍵』だ。そして見事にここまで君を連れてきた。私の前にね。それが全てだ。アイテムとしてのあいつの役目は完遂された」

「アイテム……?」

「用の済んだアイテムだ。こうして役立ってくれたのは計算外だが、都合はいい」

「おまえっ!」

「地下だ。行け。あの子に会え――――すぐに追うから」

「そんなの……」

 できるか!
 ソラはそう声を張り上げようとした。
 ヒスイの涙が、それを制止した。

「お願いよ。潮の音のように儚いあの子の歌だけれど……すぐに消えていってしまいそうな願いだけれど……呪いに変わってしまった幻想を叶えられるのは、あなただけ」

 遠く、セキが咆哮した。衝撃波が幾重も重なって、この立方体の箱庭を揺らす。
 局面が変わったのだ。男たちが引き、一人が前に出る。あれは――――。

「すぐに追いかける。あいつを片付けてね」

 ヒスイは断言した。ソラに背を向ける。
 ――――ヒスイの能力は『反転』だ。『逆転』の力。『逆さま』の異能。
 ソラが思うに、それは態度にも現れているんじゃないだろうか。
 セキを「道具《アイテム》」と断じた冷たさと、「あいつ」とセキを指した時の感情に温度差を感じたのだ。
 どちらも突き放した態度だった。
 けれど、心は嘘をついていなかった。手にした『セキ・グレン』の氷の鍵がそれをソラに看破させまいとしたのかもしれない。
 ソラはヒスイを信じたくなった。
 だから、信じることにしたのだ。

15/07/13 22:57更新 / 夢旅人
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