セキが咆哮する。
ロクサスとふたり、取り囲むように炎の壁が円形にせり立った。
変形したセキの爪がロクサスの2本のキーブレードを受け止めた。がりがりと金属が削れる音が耳を突く。
鍔迫り合いを制したのはロクサスだった。セキは両手ごと後ろに吹き飛ばされる。怯むセキを肉薄する。後退するセキ。自分で作った炎の檻を自分の背中に背負うまで、そう時間はかからなかった。
セキが吼える。痩せ細った野犬のようなそれをロクサスは文字通り一蹴した。吹き飛ばされたセキにキーブレードを十字に叩き込む。
「……」
ロクサス閉口していた。既に言葉は尽くした。言うべき言葉はない。説得の言葉はもう、ない。
あとは約束のため、せめて綺麗に消してやるだけだ。だが。
――――あの6人を圧倒したほどのハートレスが、こうもあっさりと。
ひとかけらの疑問があった。ロクサスには本気を出していないのではないか。その理由は――――なんだ?
心が残っている? 馬鹿な。もう言葉では解決できない。それは確かな感触だ。
仮にそうだったとして、ロクサスに何か出来るのか? ――――知るものか。俺だって心なんて持っていないんだ。心なんて、心のことなんて、知るものか。わかるものか。
どうしようもない。
仮にそうだったとして、ロクサスには何もできない。
仮にそうだったとして、運が悪かったよ諦めてもらう他はない。
ロクサスに出来るのはこれだけだ。祈るように感傷を言葉に表して、悼んでやるだけだ。
「……生まれ変わったら会おう」
口にして、酷く頭痛がした。胸の奥がざわざわする。落ち着かない。
――――既視感。
そう。さっきから(いつから?)止まらない。
胸の奥がちりちりとする。熱がこみ上げてくる。――――切なさ。
このハートレスと相対して。
あの6人に取り囲まれて。
ヴァニタスを見て。
アクアに会って。
ソラを見つけて。
この世界にきてからだ。どうしようもなく落ち着かない。この胸から外れた空洞に入るパーツを探している。
それが機関の任務で――――任務? 機関?
機関の誰から受けた任務だ?いつ? どこで?
いや、そもそも、機関とはなんだ?
――――なぜ、ロクサスはここにいる?
「――――ここは『存在しないもの』が訪れる場所だ。ソラは『呪い』のためにここに引きずり込まれたが、君は違う。…………つまり、そういうことだよ」
声がする。頭が痛い。ロクサスは頭を押さえた。頭が痛い。右手のキーブレードを落とす。吐き気もする。黒いキーブレードが砕ける。気分が悪い。
自分の中の空白を強く感じる。
記憶の穴。心の穴。その意味――――過ぎ去った思い出が。
砕けたキーブレードの残滓を見やる。黒い鍵。XXXを離さないために、握ったもの。
そして。
ロクサスは。
「……………………そうか、俺は……あの時…………そうか…………そうだったのか…………」
セキがまた咆哮する。地面を爪でがりがりとえぐる。キーブレードを弱々しく握るロクサスに飛ぶかかった。
剣尖が貫き通る。
ロクサスは弱々しく笑った。
「思い出したんだ。……意味があった。俺たちには意味があるんだ。この心の旅には、意味があったんだ」
自分の腹部を貫くセキの腕にそっと手を添えて、ロクサスはセキの頭をコツンと叩いた。
「セキ。俺から言えるのはこれだけだ。
――――どんなものにも、答えはある。意味はある。それが自分の求めるものかはわからない。価値もわからない。けれどゼロじゃあない」
それを最後に。
ロクサスは、キーブレードを地に置いた。
「……おまえを……ソラに会わせるわけには…………いかない」
顔の無い怪物はキーブレードを翻した。鍔迫り合いを演じていた相手を吹き飛ばす。
ただそれだけで相手はよろよろとふらついた。とても万全とは思えないコンディション。仮に十全であっても顔の無い怪物に比肩する力量はないだろう。
先の鍔迫り合いで無様にも剣が遥か遠くの壁に 突き刺さってしまった。
まったく勝ち目はない。
それは相対する少年も理解しているはずだった。
しかし、顔の無い怪物は立ち止まった。
無視してもいい相手に足を止め、正面から向き合っている。
何か思惑があってのもの――――と、いうわけではない。
何か心を動かされたから――――と、いうこともない。
強いて挙げる理由は一切ない。
痛めつける嗜好でもなく、後ろから斬られる膨大な焦燥感もなく、機械的に、ただ現象として「攻撃されたからやり返す」。
差し当たり、向かってくることも突破を試みることもなく、しかし武器を下ろさない相手。しかしこれは能動的に叩き潰すほどの力量もない。
ぬるま湯に浸かるような硬直
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