炎が止む。その中心にいたハートレスもまた、動きを止めていた。
取り囲んでいた6人が各々に様子を伺った。ハートレスには動きはない。
女性の器を取った『男』が笑う。だが、『男』の手足は動かない。
『どうやら……この女の子が泣いているようだね。想い人か? カレシか?
それとも赤の他人にもこうなれる人間なのかもしれないな。なにせ勇者というやつは――――』
「黙れ!不完全な心の群体が、私に知った口を利くな!」
『自分を掻き集めて悦にいる変態にあれこれ言われるのは癪だが……このザマなのには変わりない。甘んじて受けてやろう。――――だが、いいのかなぁ?」
「なに……?」
『くす玉が割れる』
瞬間、セキが発光した。閃光を撒き散らし、炎が噴火し、箱庭の闇を呑み込む。
セキが疾る。白衣の男の眼前で爪を光らせた。五指が空を裂く。白衣の男は仰け反った。
構えなおした白衣の男の剣の腹に拳を叩き込む。そのまま剣を掴み、衝撃に怯んだ顔面に一撃を打ち込む。
救援に入った青年の剣の刺突を軟体生物のような動きでかわす。体を変形させる回避。人あらざるものとしての特性を十二分に扱い、攻撃と回避を両立させた。
「……ハートレスのままじゃないか……」
ヒスイの表情が曇る。飛び火を『反転』させて周囲に散らし防御する。
ロクサスが消滅した今、既にこの場所の意味はあのハートレスだけだった。
あのセキは『六貌』達の求める心には足りない。あのハートレスはただの障害物だ。駆逐の対象である。
しかし白兵戦では高速かつ変態的な動きで回避と攻撃を打ち込んでくる上、遠距離も炎で牽制してくるセキを倒すのは、それなりに厄介のようだった。
「強い心……とは、なんだと思うね?」
『六貌』のうち、老人がヒスイに歩み寄った。
「高潔、純粋、博愛…………混じり気がなく、ただ、強く、強く、強く……想いを高めていける心。そうとは思わないか?」
「……それで、私を見初めているということか?」
「我が高潔な世界のために、未来を切り開く鍵をやって欲しい」
「口説き文句としては三流以下だな」
「――――『反転』がある以上、拘束は出来ないと思っているのか?」
「……!」
老人は取り出した杖をヒスイに向けた。杖の装飾の蛇がヒスイを睨む。
ヒスイが身じろぎをする――――が、四肢は動かない。硬直している。メデューサに睨まれているようだった。
「やはりな。ハートレスに心を奪われた経緯からも、お前の『反転』が物理的・魔術的な現象にのみ働くことはわかりきっている。精神操作であれば……私にも心得がある」
老人が近づく。ヒスイは横一文字に唇を結んだ。
杖先が、頬に当たる――――。
「がああああああ!!」
瞬間、咆哮の音圧がヒスイと老人を押し潰した。
老人の杖が引きちぎられた。老人が吹き飛ぶ。
ヒスイの前に、黒い影が現れた。
セキ。ただのハートレス。無貌の王の指。
「それが助けた? 私を? ……なぜ?」
セキは答えない。動かない。
ヒスイは更に問いかける。
「なぜそんな……心があるみたいに動く!? ……いや、心があったとし、私はお前を道具のようにっ……心があるなら許せるはずがない。許されるはずがないんだ。
…………ああ、わかっている。『異能』以外に戦闘能力がない私はこの場で最も弱い。だから後回しにしているだけだ。無視しているだけなんだろ。
…………そうだと言ってくれ。でないと、私は…… ……いよいよどうしようもなくなってしまう。……頼むよ……」
セキは答えない。動かない。
――――否。震えている。セキは小刻みに揺れている。目から赤い涙を流している。
自分の内側で、何かと戦っている。怯えている。恐れている。
「…………」
ヒスイはセキの背中に手を当てた。手を伸ばす。その奥にあるものに向けて――――。
暗黒――――というより、様々な色が混じり合った世界。
宇宙のような幻想さで、その世界は揺れていた。
怨嗟。嘲笑。怒気。同情。いくつもの感情が仮面を付け、隠れ偽り、でたらめに縫い合わされたモザイクとツギハギの世界。
本来の形は、どうやらその渦の中で壊れ、崩れ、失われてしまったようだった。
器に中身は存在するが、ミンチにされてその形骸さえもなくしたもの。
喪失感に苛まれた黒い塊。けたたましい感情の乱流の中でも、それを探し出すことはそう難しいことではなかった。
黒い塊を、なにかが叩いた。脈打つような心地よさ。感情の雑踏の中でも通る凜とした声がそれに続いた。
「セキ! 手を伸ばせ――――!」
どうして、と黒い塊は疑った。
俺は道具だ。ヒスイの心を隠し保存するためのもの。鍵を持つものが来るまでの間の金庫だ
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