真白の空間。
足元から引っ張られていく感覚が全身を満たしている。
落ちているのか。昇っているのか。それさえ曖昧になる。
「このままじっと目を閉じれば、全部を忘れて、元の世界に戻れる」
声がする。どこか聞きなれた、親しみのある声。
「――――どうする?」
そう声は問いかける。
なんだ、とソラは口を緩ませた。
どうするか、などと。
――――じっとしているはずがない。目を閉じてなんかいられない。
ソラはそんな選択をしない。「しない」を選ばない。
ソラが「やる」ことを確信した問いかけだった。
――――あのとき咄嗟に無貌の王を守った衝動は消えていない。
つながりを求める心の糸は切れていない。
この想いは、未だ光り輝いている。
「ああ。行ってこい。……さすがは、俺の――――」
「――――だから!なぜだ!!」
ヴァニタスの光線に焼けたらしい。無貌の王が半身を焦がしている。
ヴァニタスは未だ狂ったように咆哮を続けている。体の奥から溢れ出るエネルギーを制御できていない。
最早標的さえ見失い、周囲をでたらめに破壊し、燃焼し、滅却している。
しかし空手でもなおヴァニタスの前に立つ無貌の王。その背中を見て、ソラは言った。
「……心は、厳しいだけじゃない。強いだけじゃないんだ」
「説教か?この我に」
「……おまえは、いつも厳しかったよな。俺にも、リクにも……セキに特に辛く、厳しく当たってた。そして多分、自分にも」
「だったらどうした?」
傍に立ったソラを、無貌の王が目で射抜いた。厳しく、辛く、容赦のない眼光。
それでも、ソラは言葉を止めなかった。
「心は厳しいだけでも、強いだけでもない。――――いろんなものが詰まってる。それをおまえに思い出して欲しいんだ」
「…………どうやって?」
「許す!」
「………………は?」
「俺は、みんなに酷いことをしたおまえを許せない。……でも、許せるようになりたい。おまえにもそうして欲しいんだ」
「跪き、泣いて許しを請えとでも?……馬鹿な。そんなレベルととっくに過ぎている。無理だ。無駄だよ光の勇者。おまえの頑張りは無意味だ」
「やってみなくちゃわからない……!」
「なにを言って……」
「――――おまえは王様なんだろ!?力があって、偉いんだろ!?だったら諦めるな!どれだけ時間を掛けたって、ダメだなんて言わないでくれ」
ソラが叫んだ。祈りと命令が入り混じったような言葉。
無貌の王は目を見開いた。唇が震えている。何かを言おうとして、躊躇することを繰り返している。それを背負い、ソラが再びキーブレードを握りしめた。両手に構える。ヴァニタスがこちらに気がついた。ヴァニタスのキーブレードが足場のドラゴンの表皮を削り取る。
ソラは一気に踏み込んだ。最早小難しい駆け引きをしている時間はない。ヴァニタスまでの距離を全速力で駆け抜ける――――!
突っ込んでくるソラを前に、ヴァニタスのキーブレードが弓に変形した。光の矢が雨のように降り注いだ。圧倒的な手数――――だが、狙いが甘い。10発の内1発が体を掠める程度だ。
致命傷をキーブレードで斬り落とし、更に進む。背後で矢が撃ち込まれて何かが爆発する。熱量と音圧がソラを襲う。――――ソラは歯を噛み締める。集中を乱してはいけない。気を乱してはいけない。心が緩めば、目の前の小さな魔人はソラの心を容赦なく握りつぶすだろう。
弓矢をいなし、あと5歩でヴァニタスをキーブレードの射程に収めるところにまで接近した。
ここからが正念場――――ソラと同時にヴァニタスもそれを悟った。
ソラが大きく踏み込み、ヴァニタスのキーブレードがまた変形する。
キーブレードの刀身が細長くしなって――――鞭状に。
「しまっ……!!」
ソラが気付いた時にはソラのキーブレードにはヴァニタスの鞭が絡み付いていた。
次の瞬間にはソラのキーブレードは空高くまで飛ばされた。空手。ヴァニタスがキーブレードを剣に戻した。
射程まで、あと2歩。
ヴァニタスが深く踏み込み――――射程距離。
ヴァニタスのキーブレードが風を切った。
刺突。最速の一撃が、ソラを捉えた。
目の前が真っ赤に染まる。
熱量と音圧が、ソラを呑み込んだ。
「…………」
目が眩む。燃える空。ドラゴンが落ちる。
ソラは助けを求めるように手を伸ばす。
空の右手は、空を切った。
そして。
「いけっ!!」
合図と共に、ソラは右手を握りしめた。
ヴァニタスのキーブレードはソラを捉えている。だが貫いてはいない。僅かに胸の王冠のネックレスに触れただけ。
踏み込みが足りなかったのだ。ヴァニタスが躊躇った。
突如眼前に炎が立ち上ったためだ。心が壊れ
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