第五話 死神の夜明け
朝。太陽がこんなにまぶしかったなんて思わなかった。果てしない輝きに、俺の魂は今まさに焼かれてしまいそうだ。
「さて、と…」
ベッドから体を起こし、新たなる冒険へと旅立つ……
「何かっこつけてんのよ?さっさと着替えて行くわよ」
「おわっ!!なんで…」
ここに、と言おうとしたが、昨日の晩の会話を思い出し、その言葉を止めた。
そう、あれは昨日の夜の事だ。
コン、コン
俺が使っている小さな部屋の入り口からノック音が聞こえた。
「?どうぞー」
こんな時間に誰かと思ったが、まあ別に怪しい人間ならノックはしないから大丈夫だろう。
そんな事を思ったのが間違いだったのか、いや、決して不審者や知らない奴ではなかったのだが…
「…ちょっと、いい?」
なんだかいつもと様子が違うように見えるが…
「なんだ?どうかしたのか」
まあ、理由は明白だが…強がってはいるが、一応こいつもガキだったわけだ。
「その…あ、あんたが寂しいだろうと思って来てあげたのよ。感謝しなさい!」
まあ、こういうのも悪くはないか。妹と思えばなんて事無い。
不安に駆られている少女を、せめて安らかに眠らせてやってもバチは当たらないだろう。
「その…いいい一緒に寝てあげてもいいわよ」
こういうところは子供っぽくてほっとするね。
だからこそ気を許してしまったのさ。無論断ってなどないさ。丁重に返答をした。
「ああ、頼むよ」
別に何をしようなんて気はさらさら無い。ただ、その笑顔にやられただけだ。
というエピソードが、昨晩あったのだが…
いくら何でも無防備すぎやしないか?10ぐらいの女の子なんだぜ?何もしないけど、…なあ。
そんなこんなで一緒に寝たわけだが……無論、何もなかったぞ、ほんとに。
「おまっ…!!」
「ちょっと…着替えるんだから、あんまりこっち見ないでよ…」
うおっ!?パジャマを着替えてるところをモロに見てしまった!!
Yシャツのボタンをちょうど閉めようとした所を直撃! 下をはいていないという、なんとも言えない状況だ。
「ほ、ホラ!さっさとしなさい!」
俺はせかされるままに、仕度を始めた。無論後ろを向いて。
少し動揺したのか、すこし支度の時間が遅れてしまったようで、後ろでツグミがこちらを向いて座っていた。しかもお前はこっちを見てるし。
「準備できたわね。…それじゃあ行きましょう」
ゴクリ、と唾を飲む。翔はもちろん、ツグミすら経験した事のないこと。
一歩、また一歩、旅人の扉のある部屋へと向かう。
(なんだ?怖いような、懐かしいような…)
翔は自分の心のなかの不安を振り払えずにいた。
そして…
「……準備はいい?」
「…ああ」
迷う事なんか無いさ。元々、元の世界に戻れる保証は無いんだ。だったらもう何があっても関係ねぇ。
「ツグミ、頼む…」
コクン、と小さく頷き、中へと入っていく。
そして、一度深呼吸をしてからツグミが台に石を置いた。
石が光り、やがてオレンジ色の旅人の扉が出来た。
「……とりあえず、今のところは大丈夫みたいね」
再び深呼吸をする。
「じゃあ、行って来るよ。じゃあな…」
翔はスラッシュ達を連れて、旅の扉に入っていった。
そこには、いつも通り?の平原が広がっていた。
「特に異常はなさそうだな…」
これと言って不審な点も見つからないので、とりあえず歩いてみる事にした。
懐かしい感じもしなければ、別段恐怖感も無い。ただあるのは、いつも通りの感じ。
またあっさり魔王を倒して戻れるのだろう。
などと思っている内に、いかにもな建物が見えてきた。
「今回も村人とかに遇わないのか…なんか悲しいな」
自分でも緊張感に欠けると思ってはいるが、とりあえず大きな門を開いた。
「おや、旅人かい?ようこそ。ここはメダル王の城だよ」
門を開け、入るとそこには椅子におそらく王様かその辺の人が座っていて、今の台詞はそのそばにいた奴だな。
「ホッホッホ、ようこそ。わしはメダル王。世界中に散らばる小さなメダルを集める事を仕事にしている。いま持っているかね?もし持っているならメダルの枚数に応じて、何か物と交換してあげよう!」
結構な年のように見えるが、その元気さはうちのじいちゃんよりもいいかもしれない。まさかこの人が魔王……なわけないか。
「いえ、特にそういうのは持ってないんですけど…」
「そうか…だが、これからどこかで見つけるかもしれん。そのときはきちんと拾って私の元へと届けてくれ!」
「はあ…ああ、王様。一つ質問をいいですか?魔王について何かご存じのことはないでしょうか?」
自分でも嫌になるほど簡素な質問だな。一体いつまでこんな事が続くのやら……
しばらく王様は考えていたが、やがて結論が出たようだ。
「おお、そうそう。魔王だったな。たしかここから遙か北の大陸に神殿があっての。そこになんだか邪神だかなんだかが住み着いたらしいから、そこにおるかもしれん」
「ホントですか! 有力な情報ありがとうございます」
とはいったものの、遙か北の大陸ってどこまで行くんだか……。今回はけっこうな長丁場になりそうな予感がする。
一礼して城を出る。さて、まずは船だな。北の大陸ってぐらいだから、ずっと陸続きとは考えにくい。
「ところで、北ってどっちだ?」
目的地を見失う前に、進むべき方角すら見失ってしまった。
どうしたもんかと悩んでいると、後ろからごつごつした岩がこういった。
「……こっちだ」
俺の前を歩いて道を教えてくれるドン。もしかしたら体内に磁石でも入っているのかもしれない。
しばらくドンの道案内に従って進む。
「ん? この匂いは……」
嗅ぎ覚えのある匂いだ。そう、あれは昔――
「海か!」
そう。それは潮のにおい。数年前にじいちゃんが連れて行ってくれた海を思い出す。
と、言うことはだ。俺達は今いる大陸の最北端にたどり着いたと言うことになるのだろう。ドンの道案内が正しければ、だが。
「……あそこに町があるようだ。いってみるか?」
「あ、ああ……」
ドンが指し示した方向には、確かに町らしき物がある。見たことはないが、港町だろう。海に面しているしな。
町を視認することはできたが、都会のようにビルやらが立ち上っているわけではなく、地平線まで見渡せるような障害物は何もないところだ。
つまり、かなり遠くに見えているわけで、歩いてもかなりの時間が掛かった。
それまでの移動とあわせて、かなり体力を持って行かれていた俺は、町に入るなり船よりも先に宿屋を探した。
そこそこ広い港町のようで、いろんな人がそこらに座敷を広げ、物を売っている。
中には美味そうなものもあったが、そんなことよりもまずは寝床だ。
「翔。宿屋ならこっちだ」
ドンに案内され、道を歩く。すぐに宿屋につき、金を払って部屋に入った。そして、ふかふかのベッドに転がり、俺の意識は夢の中へと――
*
「おーい、起きろー」
なんだよ。もうちょっとぐらい寝かせてくれてもいいだろう。
「はいはい。今起きますよ……」
目を開けてベッドから起きると、ツインテールの似合う可愛らしい少女が立っていた。――というよりも。妹が立っていた。
「って! なんでハルがここに!?」
「なんでって……いつも起こしに来てるでしょ?」
「そうじゃなくて……」
はっとして周りを見回す。あれ? 俺は確か、さっきまで宿屋にいたはずじゃ?
ん? 手の中に何かある……?
違和感の正体を突き止めるため、静かに手を開くと、
「……」
戻らなきゃ。
「悪いハル。兄ちゃんはいかないといけないところがあるんだ。じゃあ、行ってくる」
「ちょ、待って! おにい……」
寝起きのまま、何の支度もなしに家を出た。
end...
「さて、と…」
ベッドから体を起こし、新たなる冒険へと旅立つ……
「何かっこつけてんのよ?さっさと着替えて行くわよ」
「おわっ!!なんで…」
ここに、と言おうとしたが、昨日の晩の会話を思い出し、その言葉を止めた。
そう、あれは昨日の夜の事だ。
コン、コン
俺が使っている小さな部屋の入り口からノック音が聞こえた。
「?どうぞー」
こんな時間に誰かと思ったが、まあ別に怪しい人間ならノックはしないから大丈夫だろう。
そんな事を思ったのが間違いだったのか、いや、決して不審者や知らない奴ではなかったのだが…
「…ちょっと、いい?」
なんだかいつもと様子が違うように見えるが…
「なんだ?どうかしたのか」
まあ、理由は明白だが…強がってはいるが、一応こいつもガキだったわけだ。
「その…あ、あんたが寂しいだろうと思って来てあげたのよ。感謝しなさい!」
まあ、こういうのも悪くはないか。妹と思えばなんて事無い。
不安に駆られている少女を、せめて安らかに眠らせてやってもバチは当たらないだろう。
「その…いいい一緒に寝てあげてもいいわよ」
こういうところは子供っぽくてほっとするね。
だからこそ気を許してしまったのさ。無論断ってなどないさ。丁重に返答をした。
「ああ、頼むよ」
別に何をしようなんて気はさらさら無い。ただ、その笑顔にやられただけだ。
というエピソードが、昨晩あったのだが…
いくら何でも無防備すぎやしないか?10ぐらいの女の子なんだぜ?何もしないけど、…なあ。
そんなこんなで一緒に寝たわけだが……無論、何もなかったぞ、ほんとに。
「おまっ…!!」
「ちょっと…着替えるんだから、あんまりこっち見ないでよ…」
うおっ!?パジャマを着替えてるところをモロに見てしまった!!
Yシャツのボタンをちょうど閉めようとした所を直撃! 下をはいていないという、なんとも言えない状況だ。
「ほ、ホラ!さっさとしなさい!」
俺はせかされるままに、仕度を始めた。無論後ろを向いて。
少し動揺したのか、すこし支度の時間が遅れてしまったようで、後ろでツグミがこちらを向いて座っていた。しかもお前はこっちを見てるし。
「準備できたわね。…それじゃあ行きましょう」
ゴクリ、と唾を飲む。翔はもちろん、ツグミすら経験した事のないこと。
一歩、また一歩、旅人の扉のある部屋へと向かう。
(なんだ?怖いような、懐かしいような…)
翔は自分の心のなかの不安を振り払えずにいた。
そして…
「……準備はいい?」
「…ああ」
迷う事なんか無いさ。元々、元の世界に戻れる保証は無いんだ。だったらもう何があっても関係ねぇ。
「ツグミ、頼む…」
コクン、と小さく頷き、中へと入っていく。
そして、一度深呼吸をしてからツグミが台に石を置いた。
石が光り、やがてオレンジ色の旅人の扉が出来た。
「……とりあえず、今のところは大丈夫みたいね」
再び深呼吸をする。
「じゃあ、行って来るよ。じゃあな…」
翔はスラッシュ達を連れて、旅の扉に入っていった。
そこには、いつも通り?の平原が広がっていた。
「特に異常はなさそうだな…」
これと言って不審な点も見つからないので、とりあえず歩いてみる事にした。
懐かしい感じもしなければ、別段恐怖感も無い。ただあるのは、いつも通りの感じ。
またあっさり魔王を倒して戻れるのだろう。
などと思っている内に、いかにもな建物が見えてきた。
「今回も村人とかに遇わないのか…なんか悲しいな」
自分でも緊張感に欠けると思ってはいるが、とりあえず大きな門を開いた。
「おや、旅人かい?ようこそ。ここはメダル王の城だよ」
門を開け、入るとそこには椅子におそらく王様かその辺の人が座っていて、今の台詞はそのそばにいた奴だな。
「ホッホッホ、ようこそ。わしはメダル王。世界中に散らばる小さなメダルを集める事を仕事にしている。いま持っているかね?もし持っているならメダルの枚数に応じて、何か物と交換してあげよう!」
結構な年のように見えるが、その元気さはうちのじいちゃんよりもいいかもしれない。まさかこの人が魔王……なわけないか。
「いえ、特にそういうのは持ってないんですけど…」
「そうか…だが、これからどこかで見つけるかもしれん。そのときはきちんと拾って私の元へと届けてくれ!」
「はあ…ああ、王様。一つ質問をいいですか?魔王について何かご存じのことはないでしょうか?」
自分でも嫌になるほど簡素な質問だな。一体いつまでこんな事が続くのやら……
しばらく王様は考えていたが、やがて結論が出たようだ。
「おお、そうそう。魔王だったな。たしかここから遙か北の大陸に神殿があっての。そこになんだか邪神だかなんだかが住み着いたらしいから、そこにおるかもしれん」
「ホントですか! 有力な情報ありがとうございます」
とはいったものの、遙か北の大陸ってどこまで行くんだか……。今回はけっこうな長丁場になりそうな予感がする。
一礼して城を出る。さて、まずは船だな。北の大陸ってぐらいだから、ずっと陸続きとは考えにくい。
「ところで、北ってどっちだ?」
目的地を見失う前に、進むべき方角すら見失ってしまった。
どうしたもんかと悩んでいると、後ろからごつごつした岩がこういった。
「……こっちだ」
俺の前を歩いて道を教えてくれるドン。もしかしたら体内に磁石でも入っているのかもしれない。
しばらくドンの道案内に従って進む。
「ん? この匂いは……」
嗅ぎ覚えのある匂いだ。そう、あれは昔――
「海か!」
そう。それは潮のにおい。数年前にじいちゃんが連れて行ってくれた海を思い出す。
と、言うことはだ。俺達は今いる大陸の最北端にたどり着いたと言うことになるのだろう。ドンの道案内が正しければ、だが。
「……あそこに町があるようだ。いってみるか?」
「あ、ああ……」
ドンが指し示した方向には、確かに町らしき物がある。見たことはないが、港町だろう。海に面しているしな。
町を視認することはできたが、都会のようにビルやらが立ち上っているわけではなく、地平線まで見渡せるような障害物は何もないところだ。
つまり、かなり遠くに見えているわけで、歩いてもかなりの時間が掛かった。
それまでの移動とあわせて、かなり体力を持って行かれていた俺は、町に入るなり船よりも先に宿屋を探した。
そこそこ広い港町のようで、いろんな人がそこらに座敷を広げ、物を売っている。
中には美味そうなものもあったが、そんなことよりもまずは寝床だ。
「翔。宿屋ならこっちだ」
ドンに案内され、道を歩く。すぐに宿屋につき、金を払って部屋に入った。そして、ふかふかのベッドに転がり、俺の意識は夢の中へと――
*
「おーい、起きろー」
なんだよ。もうちょっとぐらい寝かせてくれてもいいだろう。
「はいはい。今起きますよ……」
目を開けてベッドから起きると、ツインテールの似合う可愛らしい少女が立っていた。――というよりも。妹が立っていた。
「って! なんでハルがここに!?」
「なんでって……いつも起こしに来てるでしょ?」
「そうじゃなくて……」
はっとして周りを見回す。あれ? 俺は確か、さっきまで宿屋にいたはずじゃ?
ん? 手の中に何かある……?
違和感の正体を突き止めるため、静かに手を開くと、
「……」
戻らなきゃ。
「悪いハル。兄ちゃんはいかないといけないところがあるんだ。じゃあ、行ってくる」
「ちょ、待って! おにい……」
寝起きのまま、何の支度もなしに家を出た。
end...
12/07/20 13:21 デロリン・デ・ローデ ▲
■作者メッセージ
よくわからない感じで終わりました。なお、二次創作は終了し、これからは小説家になろうに移住します。