第7章『救出大決戦』 4
レイノス達は、スクルドを助ける為にシュレーの丘へとやってきていた。
シュレーの丘はセントビナーからそんなに遠くなかったため、すぐに辿り着くことが出来たのだが…
「やはり見張りがいるな」
物陰に姿をひそめたミステリアスが、小声でつぶやく。
シュレーの丘には、数人の賊が見張りとして立っていた。
「マ、あの程度の見張りなら楽勝だよネ♪」
「いくぞ、クノン」
「リョウカイだよ、漆黒ー」
次の瞬間、クノンとセネリオは目にも止まらぬ速さで見張りの賊に接近。
見張りをしていた賊は、一言も言葉を発する間もなく攻撃をくらい、気絶させられた。
気絶させた賊をその辺に寝かしといてやると、彼らはシュレーの丘の内部へと入った。
「ここがシュレーの丘、か」
中へ入り、レイノスは辺りを見回す。
道は一つしかなく、しばらくは一本道のようだった。
「すっごい長いね、ハノン。もしかしたらチーグルの森より広いかもしれないよ」
「みゅっみゅう」
シノンとハノンも、その一本の道の長さに驚いた様子を見せる。
ともかく彼らは、足早にその道を歩き始めた。
「ち、また魔物か!」
現れたフェニックスゴーレムに舌打ちしつつ、レイノスは剣を抜く。
「虎牙破斬!」
剣を抜いたレイノスは、ゴーレムに斬撃をあびせる。
「荒れ狂う流れ!スプラッシュ!」
「煌めき轟け!フォトン!」
レイノスの攻撃に怯んだゴーレムに対し、リンとミステリアスの譜術がさく裂し、ゴーレムは動かなくなった。
「くっそ、なんだよここ、モンスター多すぎだろ!」
思わず悪態をつくレイノス。
まだそれほど進んでいないというのに、彼らはモンスターの襲撃を何度も受け続けていた。
「ホーリーボトル、壊れてるんでしょうか?」
アルセリアは先ほど空にしたホーリーボトルの瓶を見つめながらつぶやく。
魔物との余計な戦闘を回避するために内部へはいってすぐに使用したのだが、これでは効き目があるとは言い難い。
「う〜ん…なんか変だよ。ここの魔物、殺気というか雰囲気というか…それが他の魔物と違う気がする」
そうつぶやいたのはシノンだった。
彼女は、ここにいる魔物達の様子に、違和感を感じていた。
「ともかく、魔物に出会ったら適当に切り上げて、先に進むぞ」
セネリオがそう言って再び歩き出す。
他の一同も魔物に警戒しつつ、先へと進んだ。
やがて、彼らは少し広い空間へと足を踏み入れた。
といっても、まだまだ直線の一本道は続くようだが。
そして、その広い空間の中に…一人の男がいた。
「ふふ…ここまで来たという事は、グラシャラボラスも退けたというわけですね。全く…気に入りませんね!」
その男とは、初対面ではなかった。
目つきの悪い顔に、他人を小馬鹿にしたような嫌味な態度。
そして一度、交戦したことがある相手。
「フォルクス…てめえ」
レイノスが、怒りを込めた表情でその人物…フォルクス・ソレイユを睨む。
一方のフォルクスはそんなレイノスに怯む様子もなく、武器であるチャクラムを構える。
「あなた達に生きてもらっていては困ります…ここで、この【道化のフォルクス】に殺されなさい!」
レイノス達には、スクルド誘拐に関わっていることを知られてしまっている。
ゆえに、口封じのために彼らを殺さなければ…せっかくの六神将への出世の道が断たれてしまう。
「まだ私たちの邪魔をするっていうの!?いい加減しつこいわよ!」
リンが鬱陶しげに叫ぶ。
「黙らっしゃい!おとなしくチーグルの森で殺されておけば良かったものを、しつこく抵抗するあなた達が悪いのですよ!」
リンの言葉に対し、フォルクスは必死の形相で言い返す。
そう、彼は必死だった。
自らの栄光の障害を、倒すために。
「なるほどな、ここの魔物の様子がおかしかったのも、お前の仕業か」
セネリオは、フォルクスが立ちはだかったことで、このシュレーの丘で魔物とのエンカウントが妙に多かったこと、シノン曰く様子に違和感があった理由を察した。
「その通りですよセネリオ。ここにいる魔物には、私が催眠術をかけておきましたからね。私の配下の魔物達の襲撃で、そちらは相当消耗しているようです」
ニヤニヤしながらフォルクスは種明かしをする。
確かに彼の言う通り、ここに来るまでの戦闘で彼らはそれなりに消耗をしていた。
「あなたたちが疲労している今がチャンスです…レイトラスト!」
フォルクスのチャクラムが一直線に放たれる。
「レイトラスト!」
フォルクスがいるのとは反対側、つまりはレイノス達の側から、フォルクスが叫んだのと同じ技名が聞こえてくる。
その瞬間、フォルクスのとは別のチャクラムが飛び出してきて、二つのチャクラムはぶつかり合った。
ぶつかり合ったチャクラムはそれぞれ弾かれ、それぞれの持ち主のところへ戻ってきた。
「あなたが…フォルクスなんだね」
フォルクスのチャクラムを弾いた主…シノン・エルメスは、前に出た。
そして、フォルクスを睨む。
「新顔ですね…誰ですあなたは?」
「そんなのどうでもいいでしょ…それより、あなたが私たちの森を、チーグルの森にあの魔物を放ったの?」
「チーグルの森?ああ、確かにグラシャラボラスをあの場所に放ったのは私ですが」
「あなたのせいで、パパやママ、沢山のチーグルが大けがして、森はいっぱい傷ついたんだよ!?」
怒りをこめて、涙を溜めながらシノンは叫ぶ。
そばにいるハノンもフォルクスが許せないらしく、無言で怒っている。
「そんなの知りませんよ。仮に森がムチャクチャになったとして、それはグラシャラボラスの責任でしょう?私の知ったこっちゃないですよ」
「な…あなた、グランコクマを襲ったのも自分のせいじゃないとか言うの!?」
フォルクスの発言に、今度はリンが反応する。
シノンと同じく故郷が襲撃された身としては、今のフォルクスの発言には黙っていられなかった。
「当然でしょう?私は魔物を操っただけです。悪いのは私じゃない、街や森を襲った魔物達ですよ」
その言葉が引き金となった。
「あああああああああああああああああああああ!!!」
凄まじい雄叫びと共にシノンが駆け出した。
「はああああああああ!」
そして、フォルクスの身体をチャクラムで殴りつける。
「があああ!…いきなり襲ってくるとは、失礼なガキですね!」
「あなたは…あなただけは、許せない!」
「お、おいシノン」
突然飛び出していったシノンに困惑しつつ、加勢しようと前に出ようとしたレイノスの肩をクノンが掴む。
「おチビちゃんとフォルクスはボクがなんとかするから、お坊ちゃんとみんなは先に進んでヨ」
「クノン、お前…」
「お坊ちゃんは妹ちゃんを助けるンだロ?だったらこんなところで足止め食らってる場合じゃないでしょ」
「…サンキューな、クノン。みんなもそれでいいか?」
確認を取るレイノスに対し、他のメンバーも肯定の意を示した。
「クノンさん、フォルクスの事、よろしく頼みますね。私も内心、シノンちゃんと同じで腸が煮えくり返りそうだから」
「ハハ、了解だよお嬢様♪」
リンの言葉にいつもの軽い調子で了承の意を示す。
リンも、グランコクマの襲撃を自分の操った魔物に責任転嫁するフォルクスの態度は許しがたかったのだろう。
レイノス・リン・セネリオ・アルセリア・ミステリアスの5人は、先へ続く道に向かって走り出した。
先頭をレイノス・セネリオ・アルセリアが走り、その後ろをリンとミステリアスが走る陣形だ。
「先には行かせませんよ!」
シノンと交戦していたフォルクスがそう叫ぶと、どこからか数体の魔物がレイノス達の前に立ちはだかる。
「邪魔なんだよ!」
「どけ……!」
「どいて下さい!」
しかし、レイノス・セネリオの剣とアルセリアの斧の前に一瞬のうちに切り伏せられ、5人は先へと進んだ。
「ち!彼らには逃げられてしまいましたか…」
「よそ見してる暇なんて与えないよ!ブランディス!」
両手にチャクラムを持ったシノンが、回転する。
フォルクスはその攻撃をバックステップでかわすと、こちらもチャクラムを投げつける。
シノンは攻撃モーション後の膠着で動けないが…
「ハノン!」
「みゅううううう!」
すかさず、ハノンが炎を噴いてチャクラムを撃ち落とす。
「全く、あなたもしつこいですね。そんなに私が憎いのですか?」
「当たり前だよ…私は、私は……!」
「掌底破!」
「な…!?ぐはああああ!」
突然現れたクノンの攻撃に、フォルクスは吹っ飛ばされる。
「ふう、やれやれ、戦闘と子守りを、同時にこなさなきゃいけないとはネ」
「クノン…!」
クノンは、真顔でシノン近づくと、じっと彼女を見つめる。
その表情は、いつもの明るくふざけた感じはなく、真剣な表情だった。
「ど、どうしたの?なんか顔が怖いよ」
クノンは、シノンをしばらくじっと見つめた後、
パチン
頬を叩いた。
「う…痛……」
「…悪いことしたガキをしつけるのが大人の責任ってもんだからな。これは一人で勝手に突っ走ったことへの罰だ」
「…ごめんなさい」
クノンの言葉に、シノンは素直に謝罪する。
シノンの謝罪の言葉を聞くと、クノンはニッと笑って、シノンの頬をびよ〜んと横に引っ張ってやった。
「フフェ!?はひふるのフノン!(訳:ふえ!?なにするのクノン!)」
「ほらほら、辛気臭い顔してないで、スマイルスマイル♪」
「グレイブ!」
「うおお!?」
突然唱えられた譜術に、慌ててクノンはシノンを抱えて横に跳んで回避する。
「あっぶな…大丈夫、おチビちゃん?」
「う、うん…」
返事をするシノンの顔は、少し紅い。
回避の際、クノンはシノンを腕に抱えながらうつぶせで地面に倒れ込んだため、はからずも押し倒される格好となってしまったのだ。
恥ずかしさで、間近に迫るクノンの顔を直視できない。
「どしたの?ほんとにダイジョブ?」
「う、うん、大丈夫だから…早く起きてよ」
ともかく二人は起き上がり、譜術を放った主・フォルクスの方へ顔を向ける。
「よくもやってくれましたねガキどもが…もう、絶対に許しませんからね!」
「誰がガキだっての!ボクは二十七歳だってのに…」
「あなたは、私とハノンとクノンで倒す!」
こうして、スクルドをめぐる戦いの第一幕が、今まさに開かれようとしていた。
シュレーの丘はセントビナーからそんなに遠くなかったため、すぐに辿り着くことが出来たのだが…
「やはり見張りがいるな」
物陰に姿をひそめたミステリアスが、小声でつぶやく。
シュレーの丘には、数人の賊が見張りとして立っていた。
「マ、あの程度の見張りなら楽勝だよネ♪」
「いくぞ、クノン」
「リョウカイだよ、漆黒ー」
次の瞬間、クノンとセネリオは目にも止まらぬ速さで見張りの賊に接近。
見張りをしていた賊は、一言も言葉を発する間もなく攻撃をくらい、気絶させられた。
気絶させた賊をその辺に寝かしといてやると、彼らはシュレーの丘の内部へと入った。
「ここがシュレーの丘、か」
中へ入り、レイノスは辺りを見回す。
道は一つしかなく、しばらくは一本道のようだった。
「すっごい長いね、ハノン。もしかしたらチーグルの森より広いかもしれないよ」
「みゅっみゅう」
シノンとハノンも、その一本の道の長さに驚いた様子を見せる。
ともかく彼らは、足早にその道を歩き始めた。
「ち、また魔物か!」
現れたフェニックスゴーレムに舌打ちしつつ、レイノスは剣を抜く。
「虎牙破斬!」
剣を抜いたレイノスは、ゴーレムに斬撃をあびせる。
「荒れ狂う流れ!スプラッシュ!」
「煌めき轟け!フォトン!」
レイノスの攻撃に怯んだゴーレムに対し、リンとミステリアスの譜術がさく裂し、ゴーレムは動かなくなった。
「くっそ、なんだよここ、モンスター多すぎだろ!」
思わず悪態をつくレイノス。
まだそれほど進んでいないというのに、彼らはモンスターの襲撃を何度も受け続けていた。
「ホーリーボトル、壊れてるんでしょうか?」
アルセリアは先ほど空にしたホーリーボトルの瓶を見つめながらつぶやく。
魔物との余計な戦闘を回避するために内部へはいってすぐに使用したのだが、これでは効き目があるとは言い難い。
「う〜ん…なんか変だよ。ここの魔物、殺気というか雰囲気というか…それが他の魔物と違う気がする」
そうつぶやいたのはシノンだった。
彼女は、ここにいる魔物達の様子に、違和感を感じていた。
「ともかく、魔物に出会ったら適当に切り上げて、先に進むぞ」
セネリオがそう言って再び歩き出す。
他の一同も魔物に警戒しつつ、先へと進んだ。
やがて、彼らは少し広い空間へと足を踏み入れた。
といっても、まだまだ直線の一本道は続くようだが。
そして、その広い空間の中に…一人の男がいた。
「ふふ…ここまで来たという事は、グラシャラボラスも退けたというわけですね。全く…気に入りませんね!」
その男とは、初対面ではなかった。
目つきの悪い顔に、他人を小馬鹿にしたような嫌味な態度。
そして一度、交戦したことがある相手。
「フォルクス…てめえ」
レイノスが、怒りを込めた表情でその人物…フォルクス・ソレイユを睨む。
一方のフォルクスはそんなレイノスに怯む様子もなく、武器であるチャクラムを構える。
「あなた達に生きてもらっていては困ります…ここで、この【道化のフォルクス】に殺されなさい!」
レイノス達には、スクルド誘拐に関わっていることを知られてしまっている。
ゆえに、口封じのために彼らを殺さなければ…せっかくの六神将への出世の道が断たれてしまう。
「まだ私たちの邪魔をするっていうの!?いい加減しつこいわよ!」
リンが鬱陶しげに叫ぶ。
「黙らっしゃい!おとなしくチーグルの森で殺されておけば良かったものを、しつこく抵抗するあなた達が悪いのですよ!」
リンの言葉に対し、フォルクスは必死の形相で言い返す。
そう、彼は必死だった。
自らの栄光の障害を、倒すために。
「なるほどな、ここの魔物の様子がおかしかったのも、お前の仕業か」
セネリオは、フォルクスが立ちはだかったことで、このシュレーの丘で魔物とのエンカウントが妙に多かったこと、シノン曰く様子に違和感があった理由を察した。
「その通りですよセネリオ。ここにいる魔物には、私が催眠術をかけておきましたからね。私の配下の魔物達の襲撃で、そちらは相当消耗しているようです」
ニヤニヤしながらフォルクスは種明かしをする。
確かに彼の言う通り、ここに来るまでの戦闘で彼らはそれなりに消耗をしていた。
「あなたたちが疲労している今がチャンスです…レイトラスト!」
フォルクスのチャクラムが一直線に放たれる。
「レイトラスト!」
フォルクスがいるのとは反対側、つまりはレイノス達の側から、フォルクスが叫んだのと同じ技名が聞こえてくる。
その瞬間、フォルクスのとは別のチャクラムが飛び出してきて、二つのチャクラムはぶつかり合った。
ぶつかり合ったチャクラムはそれぞれ弾かれ、それぞれの持ち主のところへ戻ってきた。
「あなたが…フォルクスなんだね」
フォルクスのチャクラムを弾いた主…シノン・エルメスは、前に出た。
そして、フォルクスを睨む。
「新顔ですね…誰ですあなたは?」
「そんなのどうでもいいでしょ…それより、あなたが私たちの森を、チーグルの森にあの魔物を放ったの?」
「チーグルの森?ああ、確かにグラシャラボラスをあの場所に放ったのは私ですが」
「あなたのせいで、パパやママ、沢山のチーグルが大けがして、森はいっぱい傷ついたんだよ!?」
怒りをこめて、涙を溜めながらシノンは叫ぶ。
そばにいるハノンもフォルクスが許せないらしく、無言で怒っている。
「そんなの知りませんよ。仮に森がムチャクチャになったとして、それはグラシャラボラスの責任でしょう?私の知ったこっちゃないですよ」
「な…あなた、グランコクマを襲ったのも自分のせいじゃないとか言うの!?」
フォルクスの発言に、今度はリンが反応する。
シノンと同じく故郷が襲撃された身としては、今のフォルクスの発言には黙っていられなかった。
「当然でしょう?私は魔物を操っただけです。悪いのは私じゃない、街や森を襲った魔物達ですよ」
その言葉が引き金となった。
「あああああああああああああああああああああ!!!」
凄まじい雄叫びと共にシノンが駆け出した。
「はああああああああ!」
そして、フォルクスの身体をチャクラムで殴りつける。
「があああ!…いきなり襲ってくるとは、失礼なガキですね!」
「あなたは…あなただけは、許せない!」
「お、おいシノン」
突然飛び出していったシノンに困惑しつつ、加勢しようと前に出ようとしたレイノスの肩をクノンが掴む。
「おチビちゃんとフォルクスはボクがなんとかするから、お坊ちゃんとみんなは先に進んでヨ」
「クノン、お前…」
「お坊ちゃんは妹ちゃんを助けるンだロ?だったらこんなところで足止め食らってる場合じゃないでしょ」
「…サンキューな、クノン。みんなもそれでいいか?」
確認を取るレイノスに対し、他のメンバーも肯定の意を示した。
「クノンさん、フォルクスの事、よろしく頼みますね。私も内心、シノンちゃんと同じで腸が煮えくり返りそうだから」
「ハハ、了解だよお嬢様♪」
リンの言葉にいつもの軽い調子で了承の意を示す。
リンも、グランコクマの襲撃を自分の操った魔物に責任転嫁するフォルクスの態度は許しがたかったのだろう。
レイノス・リン・セネリオ・アルセリア・ミステリアスの5人は、先へ続く道に向かって走り出した。
先頭をレイノス・セネリオ・アルセリアが走り、その後ろをリンとミステリアスが走る陣形だ。
「先には行かせませんよ!」
シノンと交戦していたフォルクスがそう叫ぶと、どこからか数体の魔物がレイノス達の前に立ちはだかる。
「邪魔なんだよ!」
「どけ……!」
「どいて下さい!」
しかし、レイノス・セネリオの剣とアルセリアの斧の前に一瞬のうちに切り伏せられ、5人は先へと進んだ。
「ち!彼らには逃げられてしまいましたか…」
「よそ見してる暇なんて与えないよ!ブランディス!」
両手にチャクラムを持ったシノンが、回転する。
フォルクスはその攻撃をバックステップでかわすと、こちらもチャクラムを投げつける。
シノンは攻撃モーション後の膠着で動けないが…
「ハノン!」
「みゅううううう!」
すかさず、ハノンが炎を噴いてチャクラムを撃ち落とす。
「全く、あなたもしつこいですね。そんなに私が憎いのですか?」
「当たり前だよ…私は、私は……!」
「掌底破!」
「な…!?ぐはああああ!」
突然現れたクノンの攻撃に、フォルクスは吹っ飛ばされる。
「ふう、やれやれ、戦闘と子守りを、同時にこなさなきゃいけないとはネ」
「クノン…!」
クノンは、真顔でシノン近づくと、じっと彼女を見つめる。
その表情は、いつもの明るくふざけた感じはなく、真剣な表情だった。
「ど、どうしたの?なんか顔が怖いよ」
クノンは、シノンをしばらくじっと見つめた後、
パチン
頬を叩いた。
「う…痛……」
「…悪いことしたガキをしつけるのが大人の責任ってもんだからな。これは一人で勝手に突っ走ったことへの罰だ」
「…ごめんなさい」
クノンの言葉に、シノンは素直に謝罪する。
シノンの謝罪の言葉を聞くと、クノンはニッと笑って、シノンの頬をびよ〜んと横に引っ張ってやった。
「フフェ!?はひふるのフノン!(訳:ふえ!?なにするのクノン!)」
「ほらほら、辛気臭い顔してないで、スマイルスマイル♪」
「グレイブ!」
「うおお!?」
突然唱えられた譜術に、慌ててクノンはシノンを抱えて横に跳んで回避する。
「あっぶな…大丈夫、おチビちゃん?」
「う、うん…」
返事をするシノンの顔は、少し紅い。
回避の際、クノンはシノンを腕に抱えながらうつぶせで地面に倒れ込んだため、はからずも押し倒される格好となってしまったのだ。
恥ずかしさで、間近に迫るクノンの顔を直視できない。
「どしたの?ほんとにダイジョブ?」
「う、うん、大丈夫だから…早く起きてよ」
ともかく二人は起き上がり、譜術を放った主・フォルクスの方へ顔を向ける。
「よくもやってくれましたねガキどもが…もう、絶対に許しませんからね!」
「誰がガキだっての!ボクは二十七歳だってのに…」
「あなたは、私とハノンとクノンで倒す!」
こうして、スクルドをめぐる戦いの第一幕が、今まさに開かれようとしていた。
■作者メッセージ
今回は4000文字越えで結構気合入れて書きましたねね
シュレーの丘での戦い、第一ラウンドのスタートです!
シュレーの丘での戦い、第一ラウンドのスタートです!