「はあ、はあ、はあ…」

シノンは息を切らしつつも、立ち上がる。

「ノクターナルライト！」

数本のナイフがフォルクスに向かうが、フォルクスはそれを難なく回避する。

「くっ…」
「ふふ、辛そうですね」

戦況は、フォルクスに傾いていた。
シノンの疲労と、フォルクスがシノンの攻撃に慣れてきたためだ。

「リミュエレイヤー！」
「きゃああああ！」

お返しとばかりに、フォルクスが３つのチャクラムを投げつけ、シノンに命中させる。

「く…ぐ……！」

シノンはその場に倒れて、動けない。
大ピンチであった。



「漆黒」

魔物を倒しながら、クノンはセネリオに声をかける。

「おチビちゃん…シノンがヤバそうだヨ。ボクも向こうにいくヨ」
「そうだな…お前のスピードなら先ほどよりも増えたこの魔物の包囲網を抜けられるかもしれないな」

シノンがフォルクスのもとに迎えたのは、彼女がクノンやセネリオほどではないが俊敏で、なおかつハノンのカモフラージュがあったからだ。
アルセリアとミステリアス、スクルドのスピードではあそこまで向かえないだろうし、セネリオは魔物の襲撃がもっとも激しく身動きができない。
ここはクノンが適任だろう。

「ジャ、行ってくる！」

そうしてクノンは、フォルクスとシノンのもとへ向かっていった。
だがしかし、魔物の襲撃をかわしながらのあの状況では、クノンといえどたどり着くのには少し時間がかかりそうだ。
それまでにシノンがもってくれればいいが…

「ん？」

セネリオは辺りを見回してあることに気づく。
ハノンが…シノンのパートナーであるチーグルがいないのだ。

（あいつ…どこに？まさか…）




「ふふふ、もう立ち上がることもできないようですね。これでとどめです！」

フォルクスが詠唱を開始する。
その詠唱は、今までよりもずっと長い。

（立た、なきゃ…パパやママ、の、森のみんなの…ハノンの仇、とらなきゃ…）

しかし、疲労とダメージは限界。
立ち上がることができない。


「大地の咆哮 其は怒れる地竜の爪牙。…食らいなさい！グランドダッシャー！！」


フォルクスの上級譜術が発動し、地面から現れた岩石郡がシノンに向けて…


「みゅみゅーーーーー！！」


命中することはなかった。


「え……！？」


シノンは目を丸くして目の前の状況を見る。
自分の身体は、ハノンのアタックにより弾き飛ばされ。
譜術の発生地点には…


「ハノンーーーーーーー！！」




「ち…外れましたか。チビのチーグルが余計な真似を…」
「ハノン…ハノン！」

強力な譜術をくらい倒れたハノンをシノンが揺り起こそうとする。
しばらくして、ハノンは目を覚ました。

「良かった…ハノン」
「みゅみゅ…」

ハノンは抱きかかえるシノンの手から離れると、立ち上がり、フォルクスと対峙する。

「ほう？今度はあなたが戦うと？一度操られた身だというのに、懲りませんね！」

フォルクスはそういってハノンの目を見つける。
催眠術で、再びハノンを操ろうとしたのだ。
しかし…

「な…！？」

催眠術をかけても、ハノンの反抗的な表情は変わらなかった。
フォルクスの催眠術は、効かなかったのだ。

「ばかな…私の術が魔物に効かないなどと…そんな」



「ハノン…やめて」

一方、シノンはフォルクスと戦おうとするハノンを止めようとしていた。

「さっきの術でボロボロな身体なのに…無理しないで」

シノンの言葉に、ハノンは振り向かず、フォルクスを睨んだまま首を横に振った。

「っ！」

シノンは、ハノンを抱きしめ、涙ながらに言った。

「お願いだよ…ハノン、やめてよ！私のために、ハノンがボロボロに傷つくのなんて、もう見たくないのに…」

思い出すのは、いつだったか父と喧嘩して家を飛び出し、闇夜の中魔物に襲われた時の事。
あの時も、ハノンは自分を守るためにこんな風にボロボロになってしまった。
もう、あんなのは嫌で、だから魔獣使いになったのに…


（それは僕も同じだよ）


「え！？」

どこからか声が聞こえてきた。
辺りを見るが、誰もいない。
いや、一人…一匹だけいる。

「もしかして…ハノン！？」

（ねえシノン、覚えてるかな？君が五歳の時、君は僕を助けるためにボロボロになっても果敢に魔物に立ち向かっていった）

「そんなことあったっけ…？」

幼い頃の話だったし、魔物を退けた後気絶してしまったのでシノンはその時のことをよく覚えていなかった。

（あの時に誓ったんだよ。シノンを守るために強くなろうって）

「ハノンも…そうだったんだ」

（うん。だから僕は――君を守るためだったらいくらでもボロボロになるよ。君に傷ついてほしくないから）

「そんなの…私だってそうだよ！ハノンに傷ついてほしくない…」

（それなら、シノンは僕の事を守ってよ。その代わりに僕は君を守るから）

「ハノン…」

（お互いがお互いを守りあえば、僕の願いもシノンの願いも叶えられる。そうでしょ？」

「そう、だね…うん！ハノンの言う通りだよ」

（だからさ、シノン。僕と一緒に、森を襲ったあいつを…）

「うん、倒そう！」




「なっ！？」

フォルクスは目の前の光景に驚愕する。
シノンの身体が蒼白い闘気に包まれる。
オーバーリミッツの光だ。
いや、ただのオーバーリミッツならそこまで驚くに値しない。
光っているのは、シノンだけではなく…

「な、何故あのチーグルまで！？」

そう、オーバーリミッツの光に包まれているのは、シノンだけでなく、ハノンも輝いているのだ。


「ハノンがいれば…あなたなんかに負ける気はしない」
「みゅみゅみゅみゅみゅー！（森を襲ったお前は僕達が倒す！）」


「ふ、ふん！そんなボロボロで何ができるというのですか！レイシレーゼ！」

二つのチャクラムがシノンとハノンに向けて放たれる。
それに対してシノンとハノンは――

「なに！？」

シノンとハノンは、こちらに向けて走ってきていた。
それもものすごい速さで走りながらも、チャクラムはしっかりとかわして。
その速さは、オーバーリミッツで底上げされたからか、先ほどまでの比ではない。

「ブランディス！」
「がああっ！？」

そして一撃の重さも先ほどよりも上がっている。
オーバーリミッツ状態とはいえ、これだけボロボロの状態でこれほどまでに戦うとは…

「ハノンアタック！」
「みゅみゅうー！」

続けて放たれるハノンの体当たりに、フォルクスは…わざと大きく吹っ飛ばされた。
そう、譜術の詠唱時間を確保するために。


「この距離ならばいけます…グレイｂ「掌底破！」ぶべらっ！？」


しかし、フォルクスの詠唱は新たな乱入者により阻止された。

「フイ〜、やっと着いたよ。全く魔物の妨害がウザったらしいことこの上なかったよ」


「クノン、ナイスフォロー！」
「みゅみゅみゅー！」（ありがとうー！）
「ハハ、ドウモ。…っていっても、もうボクが手伝うまでもなさそうな感じ？」
「うん、後は…」
「みゅみゅみゅみゅ！（僕達が決める！）


「いっくよー！焔！氷樹！雷電！土乱！」

「がっ！？ぐ！？げぼ！？ごほっ！？」

４色のナイフは全てフォルクスに命中する。

「いっけーハノン！アタック！」
「みゅっみゅみゅう！」

そしてハノンがフォルクスに向けて体当たりを…


「え！？」


ハノンの姿にシノンは驚愕する。
体当たりを仕掛けるハノンの身体が、燃えている。
ハノンは、火を噴いて自分の身体を炎で包みながらフォルクスのもとへ向かっているのだ。


「みゅっみゅー！」（これでとどめだー！）
「ぐがああああああああああああ！！」


ハノンの一撃に、フォルクスはついに動かなくなった。


「す、すごいよハノン！」
「身体を炎で包みながらの体当たり攻撃…『バーニングハノンアタック』って感ジ？」
「あ、クノン、それいいね！採用！」



「フォルクスは倒れたか」

魔物の残党を片付けた他のメンバーが、こちらにやってくる。
セネリオは、倒れたフォルクスを見つめ、撃退された事を確認した。

「息はあるな。クラノスの事について知っていることを…」


ボワン！


セネリオがフォルクスに話を聞こうとしたその時。
突然何かが爆発した音がしたかと思えば、辺りは煙に包まれた。

「く、煙幕弾か！？」

やがて煙幕が晴れた時、そこには既にフォルクスの姿はなかった。



「やれやれ、世話の焼ける奴だ」

グレイシアはフォルクスを抱えながらシュレーの丘からの脱出を目指す。
フォルクスの口から下手なことをしゃべられるわけにはいかないので、煙幕弾を使用してフォルクスを脱出させたのだ。
ちなみに当のフォルクスは相変わらず気絶したままだ。

「ファブレの長男の調査はルージェに任せればいいだろう…私はダアトに戻るとするか」

恐らく、彼らはセネリオと共に自分達と対峙する時が来る。
その時の為に、今日見てきた戦闘のデータをしっかりと見聞する必要がある。

「ではまたな、セネリオ…次に出会う時にはこちら側に戻ってきてくれていることを祈っているよ」



「ち…逃げられたか」

セネリオはフォルクスを逃がしてしまったことに舌打ちする。
彼の口から、なにか分かると期待したのだが、近くに神託の盾の関係者が紛れていたらしい。

「あの…セネリオさん。その、お兄ちゃんとリンさんを…」
「分かっている。今から奴を追っても時間の無駄だろう。レイノスとリンを追うぞ！」
「はい！」


こうしてフォルクスを退けた一同は、捕らわれたリンとそれを追っていったレイノスのもとへ向かうため歩き出した。



スキット「男の視線」
ハノン「みゅみゅみゅみゅ〜」
シノン「う〜ん、やっぱり分からないや」
アルセリア「なにしてるんですか？」
シノン「うん、戦闘中ハノンの喋ってることが分かった気がしたんだけど…今は全然わからなくて」
セネリオ「お互いが極限状態の緊張状態だったからこそ起こりえた奇跡だったのだろう」
シノン「そっかあ…もっとハノンと色々お話ししたかったな」
ハノン「みゅう…」（ｼｮﾝﾎﾞﾘ）
スクルド「……………」
アルセリア「どうしたんですか、スクルドさん？ボーっとハノンさんを見つめて」
スクルド「あ、うん…そのハノンって子、可愛いなって…」
シノン「ぎゅうって抱きしめてみる？気持ちいいよ」
スクルド「本当！？じゃあ、お言葉に甘えて…ぎゅ〜〜♪」


ムニュ


クノン「ワオ！胸が潰れて…いい眺めだね」（小声）
ミステリアス「眼福だな。目の保養だぜ」（小声）

アルセリア「小声で話してますけど…聞こえてますからね」
クノン「いいっ！？」
アルセリア「全く、男の人ってすぐ視線がそっちにいっちゃうんだから…」
ミステリアス「はは、まあ男の性ってやつだ！な、セネリオ」
セネリオ「お前達と同類と思われるのはごめんだ」