深夜だけあって、街の見通しは暗い。
いくらバチカルでも、真夜中なので電気は消え、ほとんど明かりがない。
しかしバチカルで生まれ育ったレイノスは迷うことなく街の出口へ向かうことができた。
街の出口は思った以上に静かだった。
スクルドの捜索で兵士達が出入りしていると思い込んでいたレイノスとリンは逆に驚いてしまう。

「本当にスクルドを探してくれてるのか？」
「きっと大丈夫よ、みんな言ってたじゃない」
「それはそうだけど…」

（ファブレ公爵家の娘が誘拐されたのにこんなに静かなんだもの、無理はないか）

レイノスを励ましながら、リンは密かにそう思った。
ずっと一緒にいた妹が誘拐されて心配じゃないはずがない。
言葉には出さないがきっと心配しているはずだった。
そんなことを考えながらレイノスと共に街の出口を目指すリンだったが…


「お前達」
「「！！？？」」


突然の後ろからの声に、レイノスとリンは驚きつつも振り返る。
そこにいたのは、白い肌に漆黒の髪、漆黒の服をまとった男であった。

（ん？こいつどこかで…）

レイノスにはその男に見覚えがあった。
そう、それは確か数日前のことで…

「！その姿……漆黒のセネリオね？」

レイノスよりも先に、その人物の正体に気づいたリンがその名を呼ぶ。

「セネリオって確か……」

そうだ、思い出した。
セネリオとは多くの兵士を惨殺したとして現在指名手配されている人物だ。
そんな彼が何故こんなところにいるのか。

（まあ、そんなことは今はどうでもいいか。それより、捕まえないと…！）

こんな殺人犯を相手に足止めを食らうわけにはいかないし、なによりレイノスの中にある正義感が彼を放っておくことなどできなかった。
レイノスは武器を構えてセネリオを睨みつけると…一気に駆けた。


「いけぇ！！」


レイノスは双牙斬を放つ。
しかし……

「なっ……！」

セネリオはレイノスの技を受け止めると剣を突き飛ばす。
一瞬の出来事だった。
自分とセネリオでは実力が違いすぎたのだ。

（強い……）

その瞬間、死の恐怖が湧き上がる。
ふとリンの表情をうかがう。
彼女もまた、怯えているようだった。

「おい」

セネリオが口を開く。
その言葉にびくりと体を震わせるレイノスとリンであったが、続いて放たれた彼の言葉、それは意外なものであった。


「お前等と俺の目的は一緒だ。俺はスクルドをさらった黒幕の正体を知っている。力を貸してやろう」
「「え！？」」


セネリオのその言葉に、レイノスとリンは目を丸くする。

「目的が一緒？黒幕を知ってる？どういう意味だ！？」
「…この事件の黒幕は現在の神託の盾（オラクル）騎士団主席総長、クラノスだ。俺はクラノスの計画を阻止するために行動している。最終的にお前等と俺は同じ敵に辿り着く」

呆気にとられながらもどういうことなのかと尋ねるレイノスに対し、セネリオは自分が力を貸すといった理由を語った。
それを受けてレイノスは考える。

神託の盾騎士団主席総長であるクラノスは、２２年前の大戦の後なかなかいい後釜が見つからなかった主席総長の座に着き、その強いカリスマで総長の座を確固なものとし、今もなお世界中の人々から絶大な信頼を集めている人物だ。
そしてセネリオは大量殺人犯として指名手配されている身。
普通に考えればどちらを信じるかなど考えるまでもない。

「クラノスがスクルドの誘拐に関わってるって…本当なのか？」
「ああ、その可能性が高い」

レイノスはセネリオの表情を窺う。
無愛想で、冷たさを感じさせる表情だが…不思議と嘘をついているような印象は感じない。

「…分かった。一緒に行こう」
「レイノス！いいの！？」
「ああ、今はこいつの言う事を信じることにする」

セネリオの同行を了承したレイノスに、リンは驚き、本当にいいのかと尋ねる。
それに対してレイノスは、ひとまずセネリオを信じると答えた。

「…はあ、どうなっても知らないから」



「それでお前達、これからどこへ向かうつもりなんだ？」

セネリオが二人に対して今後の目的地を尋ねる。
が、考えてみればバチカルを出た後のプランなど考えていなかった。
返答に窮しているレイノスに代わり、リンが答えた。

「そうね…まずはシェリダンを目指すのはどうかしら？あそこにはアルビオールって乗り物があるってお父さんが言ってたわ。徒歩だとスクルドに追いつくのも大変だし」
「シェリダンか…よし！じゃあそこに行こう！」

リンの提案にレイノスは賛成する。
セネリオは何も反応を示さなかったが、特に異論はないようである。

こうしてセネリオを仲間に加え、３人はバチカルを後にした。



スキット「戦力外？」
セネリオ「レイノス、今のお前の戦い方は隙だらけだ」
レイノス「な……っ！？なんだと！？」
リン「でも確かにセネリオの方が一枚上手ね。今の私達ではスクルドを奪還出来るのかどうか……」
レイノス「絶対奪還してみせるさ！」
セネリオ「威勢だけが取り柄だな」