第5章『フォルクス・ソレイユ』 4
ジェイド・カーティスの手により一気に駆逐された魔物たち。
残った魔物は数少なく、全滅させるのには時間はかからなかった。
幸いにも街は大きな被害は受けることはなかったが、それでも荒らされている場所も多く、復旧の作業が行われた。
レイノス達、特にリンは復旧の作業を手伝おうと申し出たが、ガイによって止められた。
「お前たちは魔物の退治に充分貢献してくれた。戦闘の疲れもあるだろうし、復旧作業は街の人たちに任せて、明日に備えて休め」
ガイのその言葉に従い、レイノス達はガイラルディア邸に戻ることとなった。
既に夕方だし、この疲労状態で今から賊を追うため街に出るなど自殺行為であった。
ガイラルディア邸に戻ったレイノス達は、とりあえず執事の案内により応接間で待機することとなった。
「よお、待たせたな」
「お父さん、おかえりなさい」
数十分ほどして、ガイが戻ってきた。
「お邪魔します」
と、ガイに続いて彼の後ろからひょっこりと現れた人物。
それは……
「ジェイドさん!」
「レイノス、しばらくぶりですね」
既に六十が近い年齢となり、立派なひげを生やした飄々とした初老の男性。
そう、ガイの後ろから現れたのは、先ほど共に魔物の討伐を行ったマルクト軍元帥、ジェイド・カーティスその人であった。
「ジェイドさん、さっきはありがとうございました!」
「なに、大したことはしていませんよ」
レイノスは、先ほど危ない所を助けてもらったことに礼を言う。
レイノスの礼に対しジェイドは涼しげな表情で大したことはなかったと返す。
「デ?おっさんはボクたちにナンの用なわけ?」
「く、クノンさん!仮にも大英雄の方に、そんな言い方は…」
遠慮のない物言いで用件を尋ねるクノンを、アルセリアが慌てて制止する。
「そうですね、用件は二つあります」
一方のジェイドはクノンの物言いを気に留めることなく話を進める。
「まずは、突然襲ってきた魔物の討伐、ありがとうございました。マルクト軍を代表して、お礼を申し上げます」
そういってジェイドは、深々と頭を下げた。
「そ、そんな…ジェイドさん、頭を上げてください」
「リン、あなたの譜術の扱いも、かなり上達しているようですね」
「あ、ありがとうございます!」
リンが恐縮した様子でジェイドに頭を上げるように言う。
それに対してジェイドは、リンが強くなったことに祝福の言葉を送り、ジェイドのその言葉にリンは嬉しそうにしながら礼を言った。
「そしてもう一つの用件ですが…」
ジェイドはチラッとセネリオの方を見る。
「…ガイから聞きました。私に聞きたいことがあるそうですね。“漆黒のセネリオ”」
「……………」
「お、俺は君の正体までは話してないぞ!」
ジェイドは既にセネリオの正体を看破していた。
セネリオは反射的にガイの方を睨むが、ガイはセネリオの正体までは話していないらしい。
「あの戦闘ぶりを見れば、フードをかぶってる程度では私の目はごまかせませんよ」
「ち…」
正体がばれたことに舌打ちするセネリオ。
「安心してください。このことは私以外知りませんし、まだ誰にも話してもいませんから」
「……まだだと?」
「ええ、あなたのことを軍に報告し、捕らえるかどうかは、あなたの話次第です」
「…分かった」
セネリオはジェイドに、クラノスがなにかとんでもない野望を果たそうとしていること、それを探るためにジェイドがクラノスと面会した時の話を聞きたい旨を話した。
「なるほど…確かに一時期、クラノスは私を訪ねて話を聞きにきたことがありますが…」
ジェイドはしばらく腕を組んでなにか考え込んだ様子を見せるが、しばらくして顔をあげた。
「彼からはできるだけ内密にしてほしいと言われています。スクルドの誘拐にクラノスが関与しているというのも、あなたの言葉だけでは信じるに足りません…」
「待ってくれよジェイドさん、俺達フォルクスに…」
「フォルクスの姿を実際に見たわけではないのでしょう?」
慌ててレイノスが反論しようとするが、ジェイドは表情を変えずにレイノスの反論を封じた。
「ちょっと待ってくれ」
レイノスに続いて口を開いたのは、仮面の戦士ミステリアスだった。
「俺はダアトで導師に仕える身だが、クラノスがあなたと面会をしたという話は聞いていない。それは少し前までオラクルにいたそこのセネリオも同様だ」
「まあ、内密にということですから、向こうもそちらには漏らさなかったでしょうね」
「わざわざ非公式に内密にしてまであなたに話を聞こうとしてたんだ。なにかあると考えても、おかしくはないんじゃないか?」
「………はあ」
ミステリアスの言葉に、ジェイドはやれやれといった感じのポーズをとると、観念したように言った。
「分かりました。私も彼の訪問に対して思う事があったのも確かです。話しますよ」
「クラノスが私に相談を持ち掛けてきたのは、主に二つの内容ですね」
「一つは音素について。もう一つはフォミクリーの技術について」
「他にもまあ雑談のような形でいろいろと話はしましたが、話題としてよく上がったのはその二つですね」
「音素、そしてフォミクリーか…」
ジェイドの話を聞き、セネリオは腕を組む。
話を聞いた限りではなんということはないように聞こえる。
「あの、質問なのですが、音素の話というのは、具体的にどのようなことを?」
アルセリアが挙手をして質問する。
「そうですね…意識集合体についての話が多かったですかね?」
「意識集合体って…ウンディーネとか、イフリートとかって奴だっけ?」
「へえ、坊ちゃんでもそれくらいのことは知ってるんだ」
「いや、俺もよくは分かってねえんだけど…」
レイノスが意識集合体についての知識があることに感心するクノン。
しかし、レイノスはおぼろげになら聞いたことがあるものの、よくは分かっていないようだ。
「意識集合体っていうのは、音素が一定数集まって自我を持った存在の事よ。第一音素はレム、第二音素はノーム、第三音素はシルフ、第四音素はウンディーネ、第五音素はイフリート、第六音素はシャドウ…分かったレイノス?」
「お、おう…」
リンの説明に、一応は返事をしたレイノスだったが、ちゃんと理解できているのかは怪しい様子であった。
「とりあえず、私も忙しいですからね。今日のところは失礼させていただきますよ」
そういって、応接間から立ち去ろうとして、
「ああ、セネリオ。あなたのことについてはとりあえず保留とします。外部に漏らすつもりはありませんので、ご安心を」
そういうと、今度こそ応接間から出て行き帰って行った。
「意識集合体か…」
セネリオは、先ほどジェイドから聞いた言葉について考える。
「自我を持った音素…クラノスの狙いは、その意識集合体なのかしら?」
リンがクラノスの目的について推測を立てる。
「だけどよ、それとスクルドの誘拐に、いったい何の関係があるんだよ!?」
レイノスの指摘はもっともだった。
クラノスの狙いが意識集合体だとして、それがスクルドの誘拐とどう関わっていくのか、未だ不明瞭だ。
「まあ、アレだよ。考えても分からないことなら、ムリに考えることないよ。それよりボク、お腹へったヨ〜」
「まあ、クノンの言う事ももっともだな。とりあえず今すべきことは、明日の出発に向けて休むことだ」
「オオ、さすが仮面さん!話が分かるネ♪」
まもなく執事が食事の準備ができたことを伝えにやってきて、レイノス達は豪華なディナーを堪能し、明日に備えて疲れを取るべく眠りについた。
スキット「豪華なディナー」
クノン「おいしかった〜♪あんな豪華な料理、はじめて食べたよ」
アルセリア「私もです…あんな料理、食べたことがありません」
ミステリアス「お貴族様ってのは、いつもあんなのを食ってるのか?」
リン「そんなことないわよ。今日はお客様がいるからってことでコックを雇って作らせたみたいだけど、普段は割と一般家庭にあるような料理をお父さんが作ってるわ」
レイノス「ああ、俺のとこも親父か母さんが作ることが多いな」
セネリオ「ほう、貴族の家というのは、専属のコックを雇っているものと思っていたが」
レイノス「なんか親父も母さんも、ガイさんも、自分で作るのが好きみたいなんだよな」
リン「そうそう」
セネリオ「さすがは歴戦の英雄といったところだな」
残った魔物は数少なく、全滅させるのには時間はかからなかった。
幸いにも街は大きな被害は受けることはなかったが、それでも荒らされている場所も多く、復旧の作業が行われた。
レイノス達、特にリンは復旧の作業を手伝おうと申し出たが、ガイによって止められた。
「お前たちは魔物の退治に充分貢献してくれた。戦闘の疲れもあるだろうし、復旧作業は街の人たちに任せて、明日に備えて休め」
ガイのその言葉に従い、レイノス達はガイラルディア邸に戻ることとなった。
既に夕方だし、この疲労状態で今から賊を追うため街に出るなど自殺行為であった。
ガイラルディア邸に戻ったレイノス達は、とりあえず執事の案内により応接間で待機することとなった。
「よお、待たせたな」
「お父さん、おかえりなさい」
数十分ほどして、ガイが戻ってきた。
「お邪魔します」
と、ガイに続いて彼の後ろからひょっこりと現れた人物。
それは……
「ジェイドさん!」
「レイノス、しばらくぶりですね」
既に六十が近い年齢となり、立派なひげを生やした飄々とした初老の男性。
そう、ガイの後ろから現れたのは、先ほど共に魔物の討伐を行ったマルクト軍元帥、ジェイド・カーティスその人であった。
「ジェイドさん、さっきはありがとうございました!」
「なに、大したことはしていませんよ」
レイノスは、先ほど危ない所を助けてもらったことに礼を言う。
レイノスの礼に対しジェイドは涼しげな表情で大したことはなかったと返す。
「デ?おっさんはボクたちにナンの用なわけ?」
「く、クノンさん!仮にも大英雄の方に、そんな言い方は…」
遠慮のない物言いで用件を尋ねるクノンを、アルセリアが慌てて制止する。
「そうですね、用件は二つあります」
一方のジェイドはクノンの物言いを気に留めることなく話を進める。
「まずは、突然襲ってきた魔物の討伐、ありがとうございました。マルクト軍を代表して、お礼を申し上げます」
そういってジェイドは、深々と頭を下げた。
「そ、そんな…ジェイドさん、頭を上げてください」
「リン、あなたの譜術の扱いも、かなり上達しているようですね」
「あ、ありがとうございます!」
リンが恐縮した様子でジェイドに頭を上げるように言う。
それに対してジェイドは、リンが強くなったことに祝福の言葉を送り、ジェイドのその言葉にリンは嬉しそうにしながら礼を言った。
「そしてもう一つの用件ですが…」
ジェイドはチラッとセネリオの方を見る。
「…ガイから聞きました。私に聞きたいことがあるそうですね。“漆黒のセネリオ”」
「……………」
「お、俺は君の正体までは話してないぞ!」
ジェイドは既にセネリオの正体を看破していた。
セネリオは反射的にガイの方を睨むが、ガイはセネリオの正体までは話していないらしい。
「あの戦闘ぶりを見れば、フードをかぶってる程度では私の目はごまかせませんよ」
「ち…」
正体がばれたことに舌打ちするセネリオ。
「安心してください。このことは私以外知りませんし、まだ誰にも話してもいませんから」
「……まだだと?」
「ええ、あなたのことを軍に報告し、捕らえるかどうかは、あなたの話次第です」
「…分かった」
セネリオはジェイドに、クラノスがなにかとんでもない野望を果たそうとしていること、それを探るためにジェイドがクラノスと面会した時の話を聞きたい旨を話した。
「なるほど…確かに一時期、クラノスは私を訪ねて話を聞きにきたことがありますが…」
ジェイドはしばらく腕を組んでなにか考え込んだ様子を見せるが、しばらくして顔をあげた。
「彼からはできるだけ内密にしてほしいと言われています。スクルドの誘拐にクラノスが関与しているというのも、あなたの言葉だけでは信じるに足りません…」
「待ってくれよジェイドさん、俺達フォルクスに…」
「フォルクスの姿を実際に見たわけではないのでしょう?」
慌ててレイノスが反論しようとするが、ジェイドは表情を変えずにレイノスの反論を封じた。
「ちょっと待ってくれ」
レイノスに続いて口を開いたのは、仮面の戦士ミステリアスだった。
「俺はダアトで導師に仕える身だが、クラノスがあなたと面会をしたという話は聞いていない。それは少し前までオラクルにいたそこのセネリオも同様だ」
「まあ、内密にということですから、向こうもそちらには漏らさなかったでしょうね」
「わざわざ非公式に内密にしてまであなたに話を聞こうとしてたんだ。なにかあると考えても、おかしくはないんじゃないか?」
「………はあ」
ミステリアスの言葉に、ジェイドはやれやれといった感じのポーズをとると、観念したように言った。
「分かりました。私も彼の訪問に対して思う事があったのも確かです。話しますよ」
「クラノスが私に相談を持ち掛けてきたのは、主に二つの内容ですね」
「一つは音素について。もう一つはフォミクリーの技術について」
「他にもまあ雑談のような形でいろいろと話はしましたが、話題としてよく上がったのはその二つですね」
「音素、そしてフォミクリーか…」
ジェイドの話を聞き、セネリオは腕を組む。
話を聞いた限りではなんということはないように聞こえる。
「あの、質問なのですが、音素の話というのは、具体的にどのようなことを?」
アルセリアが挙手をして質問する。
「そうですね…意識集合体についての話が多かったですかね?」
「意識集合体って…ウンディーネとか、イフリートとかって奴だっけ?」
「へえ、坊ちゃんでもそれくらいのことは知ってるんだ」
「いや、俺もよくは分かってねえんだけど…」
レイノスが意識集合体についての知識があることに感心するクノン。
しかし、レイノスはおぼろげになら聞いたことがあるものの、よくは分かっていないようだ。
「意識集合体っていうのは、音素が一定数集まって自我を持った存在の事よ。第一音素はレム、第二音素はノーム、第三音素はシルフ、第四音素はウンディーネ、第五音素はイフリート、第六音素はシャドウ…分かったレイノス?」
「お、おう…」
リンの説明に、一応は返事をしたレイノスだったが、ちゃんと理解できているのかは怪しい様子であった。
「とりあえず、私も忙しいですからね。今日のところは失礼させていただきますよ」
そういって、応接間から立ち去ろうとして、
「ああ、セネリオ。あなたのことについてはとりあえず保留とします。外部に漏らすつもりはありませんので、ご安心を」
そういうと、今度こそ応接間から出て行き帰って行った。
「意識集合体か…」
セネリオは、先ほどジェイドから聞いた言葉について考える。
「自我を持った音素…クラノスの狙いは、その意識集合体なのかしら?」
リンがクラノスの目的について推測を立てる。
「だけどよ、それとスクルドの誘拐に、いったい何の関係があるんだよ!?」
レイノスの指摘はもっともだった。
クラノスの狙いが意識集合体だとして、それがスクルドの誘拐とどう関わっていくのか、未だ不明瞭だ。
「まあ、アレだよ。考えても分からないことなら、ムリに考えることないよ。それよりボク、お腹へったヨ〜」
「まあ、クノンの言う事ももっともだな。とりあえず今すべきことは、明日の出発に向けて休むことだ」
「オオ、さすが仮面さん!話が分かるネ♪」
まもなく執事が食事の準備ができたことを伝えにやってきて、レイノス達は豪華なディナーを堪能し、明日に備えて疲れを取るべく眠りについた。
スキット「豪華なディナー」
クノン「おいしかった〜♪あんな豪華な料理、はじめて食べたよ」
アルセリア「私もです…あんな料理、食べたことがありません」
ミステリアス「お貴族様ってのは、いつもあんなのを食ってるのか?」
リン「そんなことないわよ。今日はお客様がいるからってことでコックを雇って作らせたみたいだけど、普段は割と一般家庭にあるような料理をお父さんが作ってるわ」
レイノス「ああ、俺のとこも親父か母さんが作ることが多いな」
セネリオ「ほう、貴族の家というのは、専属のコックを雇っているものと思っていたが」
レイノス「なんか親父も母さんも、ガイさんも、自分で作るのが好きみたいなんだよな」
リン「そうそう」
セネリオ「さすがは歴戦の英雄といったところだな」
■作者メッセージ
御無沙汰してました
最近忙しくて、ちょっと投下ができませんでした
最近忙しくて、ちょっと投下ができませんでした