第5章『フォルクス・ソレイユ』 5
翌日。
ガイに別れの挨拶を済ませた一行は、グランコクマを発った。
「なあリン、本当にいいのか?ガイさんのとこに残らなくて」
出発前、レイノスはリンにそう訊ねた。
ここはリンの故郷で、帰るべき場所だ。
せっかく戻ってきたのだし、そのまま残ってもいいのではという、レイノスなりの気づかいだった。
「何言ってるのよ、ここまで来たら最後まで付き合うわよ」
「で、でもよ、フォルクスとか、主席総長とかやばそうな奴が関わってるかもしれないんだぜ?これからもっと危険な目にあうかもしれねえし…」
これまでに何度かあった不自然な魔物の襲撃。
セネリオによれば、それらは第三師団師団長フォルクス・ソレイユの仕業である可能性が高いのだという。
「危険だっていうなら、なおさら後には退けないでしょ」
「まあ、そうだけどよお…」
なおも煮え切らない様子のレイノスに、リンはしゅんとした表情となる。
「…ついてきたの、迷惑だった?」
「ち、違う!それは絶対ない!ただ…」
「ただ?」
「な、何でもない!とにかく、ついてくるっていうなら、早く出発しようぜ!」
そういうとレイノスは、そそくさと逃げるように街の入り口で待つ仲間たちのもとへ向かった。
「あ、もう…待ちなさいよ!」
「それでドコに向かうわけ?」
グランコクマを出ると、クノンが次の目的地について訊ねる。
「そうだな…ここから次の街へ向かうとすれば、エンゲーブだ。やや遠いが、そちらを目指して進むとしよう」
クノンの問いに、セネリオは次の目的地を定める。
こうしてエンゲーブに向かうことになった一行だったが、セネリオの言うようにグランコクマからエンゲーブまでは遠い。
一日歩き通しにもかかわらず、まだまだ道のりは遠かった。
「なあセネリオ、今どの辺なんだ?」
「地図でいうとこの辺りだな。エンゲーブまではまだもう数日はかかるだろう」
間もなく日が暮れようという頃、レイノスはセネリオに現在地を尋ねる。
しかしセネリオによればエンゲーブまではまだかかるようで、それを聞いたレイノスはげんなりとした表情となった。
「はあ、ふう…」
「大丈夫か?セリア」
一日中歩き続けて疲労困憊な様子のアルセリア。
そんな彼女にミステリアスが心配げに声をかける。
セリアだけでなく、レイノスとリンもかなり疲れた様子であった。
「今日はもう限界そうだな…明日に疲れを残さないためにも、今日はもう休んだ方がいいんじゃねえか?」
「さんせ〜い♪ボクもうクタクタ〜」
ミステリアスの提案に真っ先に賛成の意を示したのはクノンだった。
クタクタといいつつ、レイノスやセリア達より余裕がありそうな様子だった
が…
他の一同も了承し、その日は野宿することとなった。
「そういえば、こうやってみんなで野宿するのって、初めてじゃない?」
うきうきした様子でクノンが言う。
「俺とリンとセネリオは旅の初日に一回野営してるけどな」
「あの時は無理に先を急ごうとするお前に手を焼かされたな」
「わ、悪かったな!」
「それで、料理は誰が作るんだ?」
ミステリアスが訊ねる。
ちなみに3人だったときはレイノスもリンも料理をしたことがないということで消去法でセネリオが作った。
「あ、それじゃあ私が作りましょうか?一人暮らしをしてましたし、それなりのものは作れますよ」
アルセリアが料理を作ることを申し出る。
特に断る理由もないため、彼女に任せることとなった。
「どうですか?お口に合うといいんですが…」
アルセリアが心配そうな様子で料理を食べる一同を見る。
「おう、うまいぜ!」
「うん、美味しいわ」
「そうですか…良かった」
おいしそうに食べているレイノスとリンの様子にホッと胸を撫で下ろす。
「ウンウン、これならいつおヨメに出しても問題ないネ♪」
「や、やだ、クノンさんったら、そんな…」
そんな和やかな時間を過ごしつつ、夜は更けていった。
二日目も一行はエンゲーブ目指して進んだが、やはり着くことはなかった。
やがて夕暮れが近づきつつある頃、レイノス達は一人の青年と出会った。
「本当か、アラン!?」
「ああ、オイラの辻馬車に乗れば、明日の昼頃にはエンゲーブに着くぜ」
青年、アランは辻馬車屋であった。
馬を休ませている所をレイノス達と出会い、話を聞いて辻馬車に乗せてくれるというのだ。
その話を聞き、思わず身を乗り出して聞き返すレイノスに対し、アランは明日の昼頃にはエンゲーブに着くだろうと返した。
普通に歩けば着くのは明日の深夜か明後日になるだろうという見通しだったため、アランの申し出は非常にありがたいものであった。
「お代は…6人だし、3000ガルドでいいぜ」
「げ、金とるのかよ」
「当たり前だろ、これでも安くしてるんですぜ」
「まあ、しゃあねえか…」
代金の話になり苦い顔となるレイノスだったが、アランも商売としてやっているので仕方がないだろう。
「……………」
移動時間の短縮が出来ることに喜ぶレイノスに対し、セネリオはアランのことをじっと睨みつけていた。
このタイミングで辻馬車屋と出会う…罠の可能性を考えていたのだ。
「アラン」
「はい、なんでしょう」
「これを受け取れ!」
そういってセネリオは、アランに向けて袋を投げつけた。
アランはそれを、【右手】でキャッチした。
「お、これ、お代か?確かに受け取ったぜ」
(右手で受け取ったか…フォルクスは左利きだ。奴が化けていないというのなら、信用は出来そうだな)
こうしてその日は、アランも交えて再び野宿となった。
「今日は俺が作ろう」
そういって料理を申し出たのは、ミステリアスだった。
「ミステリアス、あんた…料理できるのか?」
「任せろよ、朝飯前だ」
料理が出来るのかと心配するレイノスに対し、ミステリアスは自信満々で答えた。
「なあレイノスの旦那、あの仮面男、いったい何者なんです?」
料理ができるのを待っている時、アランがレイノスに訊ねた。
「俺も詳しくは知らねえけど…本人がいうには導師ロストロの付き人らしいけど」
「へえ、導師様の!?あんな仮面してて、偉い人なんだなあ」
(そういえば、ねえセネリオ)
アランに聞こえないようにしながら、リンがセネリオに耳打ちする。
(セネリオって、神託の盾にいたんでしょ?ミステリアスのこと、知ってたの?)
(いや…導師の関係者とはいえ、ただの付き人だからな)
(でも、あんな仮面かぶって目立ってるのに…)
(少なくとも公の場で姿を見たことはないな…おそらく、プライベートの世話役といったところだろうな)
「おう、出来たぜ〜」
そうこうしているうちに、ミステリアスの料理が完成したようだ。
「おお、すげえ!」
ミステリアスの料理を見て、レイノスは思わず叫ぶ。
彼の料理は、見た目からして非常においしそうであった。
そして味の方も…
「うわあ…おいしいです!」
「ウン、これならお店に出しても恥ずかしくないくらいだヨ」
完璧といっていい出来栄えだった。
そのおいしさに、アルセリアとクノンもミステリアスの料理を褒める。
「まさかこんなうまい料理にありつけるとはな…へへ、あんた達を客に選んで正解だったな!」
辻馬車屋のアランも、満足そうに料理を頬張っていた。
完璧な料理に満足しつつ、やがて再び夜は更けた。
次の朝、珍しく朝早くに起きたレイノスは、リンゴをかじりながら歩いていた。
すると、辻馬車の用意をしているアランと出会った。
「アラン、今日は頼むぜ」
「おう、任せときな」
「あ、そうだアラン。これ食えよ」
そう言うとレイノスは、持っていた袋から別のリンゴを取り出し、アランに向けて投げつけた。
「おお、サンキュー」
アランはリンゴを【左手】でキャッチした。
昨日、セネリオの代金袋を受け取った時とは逆の手で…
ガイに別れの挨拶を済ませた一行は、グランコクマを発った。
「なあリン、本当にいいのか?ガイさんのとこに残らなくて」
出発前、レイノスはリンにそう訊ねた。
ここはリンの故郷で、帰るべき場所だ。
せっかく戻ってきたのだし、そのまま残ってもいいのではという、レイノスなりの気づかいだった。
「何言ってるのよ、ここまで来たら最後まで付き合うわよ」
「で、でもよ、フォルクスとか、主席総長とかやばそうな奴が関わってるかもしれないんだぜ?これからもっと危険な目にあうかもしれねえし…」
これまでに何度かあった不自然な魔物の襲撃。
セネリオによれば、それらは第三師団師団長フォルクス・ソレイユの仕業である可能性が高いのだという。
「危険だっていうなら、なおさら後には退けないでしょ」
「まあ、そうだけどよお…」
なおも煮え切らない様子のレイノスに、リンはしゅんとした表情となる。
「…ついてきたの、迷惑だった?」
「ち、違う!それは絶対ない!ただ…」
「ただ?」
「な、何でもない!とにかく、ついてくるっていうなら、早く出発しようぜ!」
そういうとレイノスは、そそくさと逃げるように街の入り口で待つ仲間たちのもとへ向かった。
「あ、もう…待ちなさいよ!」
「それでドコに向かうわけ?」
グランコクマを出ると、クノンが次の目的地について訊ねる。
「そうだな…ここから次の街へ向かうとすれば、エンゲーブだ。やや遠いが、そちらを目指して進むとしよう」
クノンの問いに、セネリオは次の目的地を定める。
こうしてエンゲーブに向かうことになった一行だったが、セネリオの言うようにグランコクマからエンゲーブまでは遠い。
一日歩き通しにもかかわらず、まだまだ道のりは遠かった。
「なあセネリオ、今どの辺なんだ?」
「地図でいうとこの辺りだな。エンゲーブまではまだもう数日はかかるだろう」
間もなく日が暮れようという頃、レイノスはセネリオに現在地を尋ねる。
しかしセネリオによればエンゲーブまではまだかかるようで、それを聞いたレイノスはげんなりとした表情となった。
「はあ、ふう…」
「大丈夫か?セリア」
一日中歩き続けて疲労困憊な様子のアルセリア。
そんな彼女にミステリアスが心配げに声をかける。
セリアだけでなく、レイノスとリンもかなり疲れた様子であった。
「今日はもう限界そうだな…明日に疲れを残さないためにも、今日はもう休んだ方がいいんじゃねえか?」
「さんせ〜い♪ボクもうクタクタ〜」
ミステリアスの提案に真っ先に賛成の意を示したのはクノンだった。
クタクタといいつつ、レイノスやセリア達より余裕がありそうな様子だった
が…
他の一同も了承し、その日は野宿することとなった。
「そういえば、こうやってみんなで野宿するのって、初めてじゃない?」
うきうきした様子でクノンが言う。
「俺とリンとセネリオは旅の初日に一回野営してるけどな」
「あの時は無理に先を急ごうとするお前に手を焼かされたな」
「わ、悪かったな!」
「それで、料理は誰が作るんだ?」
ミステリアスが訊ねる。
ちなみに3人だったときはレイノスもリンも料理をしたことがないということで消去法でセネリオが作った。
「あ、それじゃあ私が作りましょうか?一人暮らしをしてましたし、それなりのものは作れますよ」
アルセリアが料理を作ることを申し出る。
特に断る理由もないため、彼女に任せることとなった。
「どうですか?お口に合うといいんですが…」
アルセリアが心配そうな様子で料理を食べる一同を見る。
「おう、うまいぜ!」
「うん、美味しいわ」
「そうですか…良かった」
おいしそうに食べているレイノスとリンの様子にホッと胸を撫で下ろす。
「ウンウン、これならいつおヨメに出しても問題ないネ♪」
「や、やだ、クノンさんったら、そんな…」
そんな和やかな時間を過ごしつつ、夜は更けていった。
二日目も一行はエンゲーブ目指して進んだが、やはり着くことはなかった。
やがて夕暮れが近づきつつある頃、レイノス達は一人の青年と出会った。
「本当か、アラン!?」
「ああ、オイラの辻馬車に乗れば、明日の昼頃にはエンゲーブに着くぜ」
青年、アランは辻馬車屋であった。
馬を休ませている所をレイノス達と出会い、話を聞いて辻馬車に乗せてくれるというのだ。
その話を聞き、思わず身を乗り出して聞き返すレイノスに対し、アランは明日の昼頃にはエンゲーブに着くだろうと返した。
普通に歩けば着くのは明日の深夜か明後日になるだろうという見通しだったため、アランの申し出は非常にありがたいものであった。
「お代は…6人だし、3000ガルドでいいぜ」
「げ、金とるのかよ」
「当たり前だろ、これでも安くしてるんですぜ」
「まあ、しゃあねえか…」
代金の話になり苦い顔となるレイノスだったが、アランも商売としてやっているので仕方がないだろう。
「……………」
移動時間の短縮が出来ることに喜ぶレイノスに対し、セネリオはアランのことをじっと睨みつけていた。
このタイミングで辻馬車屋と出会う…罠の可能性を考えていたのだ。
「アラン」
「はい、なんでしょう」
「これを受け取れ!」
そういってセネリオは、アランに向けて袋を投げつけた。
アランはそれを、【右手】でキャッチした。
「お、これ、お代か?確かに受け取ったぜ」
(右手で受け取ったか…フォルクスは左利きだ。奴が化けていないというのなら、信用は出来そうだな)
こうしてその日は、アランも交えて再び野宿となった。
「今日は俺が作ろう」
そういって料理を申し出たのは、ミステリアスだった。
「ミステリアス、あんた…料理できるのか?」
「任せろよ、朝飯前だ」
料理が出来るのかと心配するレイノスに対し、ミステリアスは自信満々で答えた。
「なあレイノスの旦那、あの仮面男、いったい何者なんです?」
料理ができるのを待っている時、アランがレイノスに訊ねた。
「俺も詳しくは知らねえけど…本人がいうには導師ロストロの付き人らしいけど」
「へえ、導師様の!?あんな仮面してて、偉い人なんだなあ」
(そういえば、ねえセネリオ)
アランに聞こえないようにしながら、リンがセネリオに耳打ちする。
(セネリオって、神託の盾にいたんでしょ?ミステリアスのこと、知ってたの?)
(いや…導師の関係者とはいえ、ただの付き人だからな)
(でも、あんな仮面かぶって目立ってるのに…)
(少なくとも公の場で姿を見たことはないな…おそらく、プライベートの世話役といったところだろうな)
「おう、出来たぜ〜」
そうこうしているうちに、ミステリアスの料理が完成したようだ。
「おお、すげえ!」
ミステリアスの料理を見て、レイノスは思わず叫ぶ。
彼の料理は、見た目からして非常においしそうであった。
そして味の方も…
「うわあ…おいしいです!」
「ウン、これならお店に出しても恥ずかしくないくらいだヨ」
完璧といっていい出来栄えだった。
そのおいしさに、アルセリアとクノンもミステリアスの料理を褒める。
「まさかこんなうまい料理にありつけるとはな…へへ、あんた達を客に選んで正解だったな!」
辻馬車屋のアランも、満足そうに料理を頬張っていた。
完璧な料理に満足しつつ、やがて再び夜は更けた。
次の朝、珍しく朝早くに起きたレイノスは、リンゴをかじりながら歩いていた。
すると、辻馬車の用意をしているアランと出会った。
「アラン、今日は頼むぜ」
「おう、任せときな」
「あ、そうだアラン。これ食えよ」
そう言うとレイノスは、持っていた袋から別のリンゴを取り出し、アランに向けて投げつけた。
「おお、サンキュー」
アランはリンゴを【左手】でキャッチした。
昨日、セネリオの代金袋を受け取った時とは逆の手で…