第5章『フォルクス・ソレイユ』 6
辻馬車は軽快に進んでいく。
目指すは食料の村エンゲーブだ。
「なあリン、エンゲーブってどんなとこだ?」
辻馬車に乗るレイノスは、隣にいるリンにエンゲーブの事について訊ねる。
「その名の通り、食料の生産が盛んな村ね。エンゲーブで作られた食べ物は、マルクトだけでなく、キムラスカやダアトにも盛んに輸出されているわ」
「そういや、前に母さんから聞いたことがあるような…」
ルークやティアからは旅をしていたころの話をよく聞くが、その時にエンゲーブの話も聞いたことがあった。
ただ、その話になるとルークはいつも苦い顔となるのだが。
『ルークったら、売り物のリンゴを勝手に食べちゃって…そのせいで食料泥棒扱いを受けて、あの時は大変だったわ』
『そ、その時の話はもういいだろ、ティア』
『泥棒の犯人がチーグルだって分かった後も、犯人扱いされたことを根に持って、チーグルの巣に向かうっていいだして…』
『や、やめてくれ〜…』
…なんというか、父であるルークにとってはかなりの黒歴史のようだ。
まあ、売り物を無断で食べた挙句、逆ギレのような態度をとったとなれば、無知ゆえとはいえ相当恥ずかしいだろう。
「お坊ちゃん、狭いからもうちょっとよってヨ〜♪」
クノンが笑顔でそういう。
現在この辻馬車には運転手のアランも含めて7人が乗っている。
そのため、かなりのぎゅうぎゅう詰め状態であった。
「お、おいクノン、狭いんだからあんま寄ってくんなよ」
「イイジャン〜♪隣の仮面さんがおっきいから、狭いんだヨ〜♪」
「いや〜悪いな、場所とっちまって」
ちなみに辻馬車には現在、左からアルセリア、リン、レイノス、クノン、ミステリアス、セネリオの順で並んで乗っている。
そのためクノンがレイノスの方によると、自然とリンとくっつくこととなり…
「わ、悪いリン、狭くないか?」
「う、ううん、大丈夫、大丈夫だから…///」
「そ、そっか…///」
密着した状態の二人は、話をしながらもお互い恥ずかしいのか、顔を合わせない。
「おいおいどうしたんだレイノス、リン?顔真っ赤だぜ」
そんな二人の様子を、ここぞとばかりにからかうミステリアス。
仮面で表情は見えないが、きっと仮面の下ではニヤニヤしているに違いない。
「「あ、赤くなんてなってない(ません)!!」」
ミステリアスの言葉に、レイノスとリンは同時に叫んだ。
「うはあ、ハモった♪さっすが幼馴染カップルだネ。息ピッタリだヨ♪」
「「だ、誰がカップルだ(よ)!!」」
クノンにカップルと言われてさらに顔を真っ赤にしたレイノスとリンは、またもや同時に叫んだのであった。
「全く、お前等少しは静かに乗ることができないのか…」
「というかクノンさん、あなたが左によるせいで、私が一番窮屈なんですが…」
4人の様子に、呆れた様子のセネリオと、窮屈なことに抗議の声をあげるアルセリア。
アルセリアは辻馬車の一番左にいる為、クノンが左に寄ったことにより馬車の壁と密着している状態だ。
「ゴメンゴメン、この二人をからかうのが楽しくてさ」
「もう、あんまりレイノスさんとリンさんを困らせたらだめですよ?」
「ハーイ♪」
アルセリアの窘めに対して二十七歳とは思えない可愛らしさで返事をするクノンだったが、彼とミステリアスによるレイノスいびりは、その後もしばらく続くのであった。
そうしてさらに時間が経ち。
昼食をはさんでさらに数時間が経過しようとしていた。
「おいアラン、まだ着かねえのかよ!?」
「はっはっは、お客さん、そう焦らないで、のんびり行きやしょうよ」
「俺達は、のんびりしてる暇はないんだよ!」
なかなかエンゲーブに着かないことに、苛立ちを見せるレイノス。
昨日アランが話していた到着予定の時間はとっくに過ぎていた。
「ねえ、お坊ちゃん」
「なんだ、クノン?」
「なんか…変だよ」
そういってクノンは、窓から見える風景を覗き込んだ。
「ボク、この辺に何度か来たことあるから、この辺りの地形、見覚えがあるヨ。この辺りまで着いてるなら…もうとっくにエンゲーブに着いてなきゃおかしいはずだヨ」
「なんだって!?」
クノンの言葉に驚きの声をあげるレイノス。
「おいアラン、どういうことだよ!」
「……………」
「なんとか言えよ!」
「待て、レイノス」
アランを問い詰めようとするレイノスに、セネリオが制止をかける。
そしてアランに詰め寄ると…拳を振るう。
アランはセネリオの方へ顔を向けると、咄嗟に手を出して彼の拳を受け止める。
「せ、セネリオさん、そんなに怒らなくてもいいじゃないですか〜。エンゲーブにはもうすぐ…」
「…やはりそうか」
「へ?」
「正体を現せ、フォルクス」
セネリオの言葉に、アランは一瞬驚いた様子になったが、すぐに真顔に戻って言った。
「フォルクスって誰です?あっしはアランですよ」
「…知ってるかフォルクス?アランは右利きなんだ」
「へ?」
「にも関わらず、今のお前は【左手】で俺の拳を受け止めた」
「あ…」
「それだけじゃない。今おまえは俺のことをセネリオと言ったな。俺はお前と出会ってから一度も名乗っていないし仲間が名前を口に出したこともない。それなのに何故知っている?」
「…………ち、思ったよりも早くばれてしまいましたね」
そういうとアランは、辻馬車から飛び降りると、その姿を変えた。
そこにいたのは、先ほどまでの好青年とは全く人相の違う、目つきの悪い男だった。
「だ、誰だお前!?」
突然姿の変わった男に、レイノスは声をあげる。
それに対し男は、フッと不敵な笑みを浮かべると、言った。
「私はフォルクス・ソレイユ…そこにいるセネリオに代わって次の六神将となる男ですよ」
目指すは食料の村エンゲーブだ。
「なあリン、エンゲーブってどんなとこだ?」
辻馬車に乗るレイノスは、隣にいるリンにエンゲーブの事について訊ねる。
「その名の通り、食料の生産が盛んな村ね。エンゲーブで作られた食べ物は、マルクトだけでなく、キムラスカやダアトにも盛んに輸出されているわ」
「そういや、前に母さんから聞いたことがあるような…」
ルークやティアからは旅をしていたころの話をよく聞くが、その時にエンゲーブの話も聞いたことがあった。
ただ、その話になるとルークはいつも苦い顔となるのだが。
『ルークったら、売り物のリンゴを勝手に食べちゃって…そのせいで食料泥棒扱いを受けて、あの時は大変だったわ』
『そ、その時の話はもういいだろ、ティア』
『泥棒の犯人がチーグルだって分かった後も、犯人扱いされたことを根に持って、チーグルの巣に向かうっていいだして…』
『や、やめてくれ〜…』
…なんというか、父であるルークにとってはかなりの黒歴史のようだ。
まあ、売り物を無断で食べた挙句、逆ギレのような態度をとったとなれば、無知ゆえとはいえ相当恥ずかしいだろう。
「お坊ちゃん、狭いからもうちょっとよってヨ〜♪」
クノンが笑顔でそういう。
現在この辻馬車には運転手のアランも含めて7人が乗っている。
そのため、かなりのぎゅうぎゅう詰め状態であった。
「お、おいクノン、狭いんだからあんま寄ってくんなよ」
「イイジャン〜♪隣の仮面さんがおっきいから、狭いんだヨ〜♪」
「いや〜悪いな、場所とっちまって」
ちなみに辻馬車には現在、左からアルセリア、リン、レイノス、クノン、ミステリアス、セネリオの順で並んで乗っている。
そのためクノンがレイノスの方によると、自然とリンとくっつくこととなり…
「わ、悪いリン、狭くないか?」
「う、ううん、大丈夫、大丈夫だから…///」
「そ、そっか…///」
密着した状態の二人は、話をしながらもお互い恥ずかしいのか、顔を合わせない。
「おいおいどうしたんだレイノス、リン?顔真っ赤だぜ」
そんな二人の様子を、ここぞとばかりにからかうミステリアス。
仮面で表情は見えないが、きっと仮面の下ではニヤニヤしているに違いない。
「「あ、赤くなんてなってない(ません)!!」」
ミステリアスの言葉に、レイノスとリンは同時に叫んだ。
「うはあ、ハモった♪さっすが幼馴染カップルだネ。息ピッタリだヨ♪」
「「だ、誰がカップルだ(よ)!!」」
クノンにカップルと言われてさらに顔を真っ赤にしたレイノスとリンは、またもや同時に叫んだのであった。
「全く、お前等少しは静かに乗ることができないのか…」
「というかクノンさん、あなたが左によるせいで、私が一番窮屈なんですが…」
4人の様子に、呆れた様子のセネリオと、窮屈なことに抗議の声をあげるアルセリア。
アルセリアは辻馬車の一番左にいる為、クノンが左に寄ったことにより馬車の壁と密着している状態だ。
「ゴメンゴメン、この二人をからかうのが楽しくてさ」
「もう、あんまりレイノスさんとリンさんを困らせたらだめですよ?」
「ハーイ♪」
アルセリアの窘めに対して二十七歳とは思えない可愛らしさで返事をするクノンだったが、彼とミステリアスによるレイノスいびりは、その後もしばらく続くのであった。
そうしてさらに時間が経ち。
昼食をはさんでさらに数時間が経過しようとしていた。
「おいアラン、まだ着かねえのかよ!?」
「はっはっは、お客さん、そう焦らないで、のんびり行きやしょうよ」
「俺達は、のんびりしてる暇はないんだよ!」
なかなかエンゲーブに着かないことに、苛立ちを見せるレイノス。
昨日アランが話していた到着予定の時間はとっくに過ぎていた。
「ねえ、お坊ちゃん」
「なんだ、クノン?」
「なんか…変だよ」
そういってクノンは、窓から見える風景を覗き込んだ。
「ボク、この辺に何度か来たことあるから、この辺りの地形、見覚えがあるヨ。この辺りまで着いてるなら…もうとっくにエンゲーブに着いてなきゃおかしいはずだヨ」
「なんだって!?」
クノンの言葉に驚きの声をあげるレイノス。
「おいアラン、どういうことだよ!」
「……………」
「なんとか言えよ!」
「待て、レイノス」
アランを問い詰めようとするレイノスに、セネリオが制止をかける。
そしてアランに詰め寄ると…拳を振るう。
アランはセネリオの方へ顔を向けると、咄嗟に手を出して彼の拳を受け止める。
「せ、セネリオさん、そんなに怒らなくてもいいじゃないですか〜。エンゲーブにはもうすぐ…」
「…やはりそうか」
「へ?」
「正体を現せ、フォルクス」
セネリオの言葉に、アランは一瞬驚いた様子になったが、すぐに真顔に戻って言った。
「フォルクスって誰です?あっしはアランですよ」
「…知ってるかフォルクス?アランは右利きなんだ」
「へ?」
「にも関わらず、今のお前は【左手】で俺の拳を受け止めた」
「あ…」
「それだけじゃない。今おまえは俺のことをセネリオと言ったな。俺はお前と出会ってから一度も名乗っていないし仲間が名前を口に出したこともない。それなのに何故知っている?」
「…………ち、思ったよりも早くばれてしまいましたね」
そういうとアランは、辻馬車から飛び降りると、その姿を変えた。
そこにいたのは、先ほどまでの好青年とは全く人相の違う、目つきの悪い男だった。
「だ、誰だお前!?」
突然姿の変わった男に、レイノスは声をあげる。
それに対し男は、フッと不敵な笑みを浮かべると、言った。
「私はフォルクス・ソレイユ…そこにいるセネリオに代わって次の六神将となる男ですよ」