第6章『森を駆ける少女』 1
その場所には、ごく数人の研究員姿の男と、赤い髪の少女、六神将の一人シンシアと、一人の男――まだ二十代の半ばながら強い威厳とカリスマを放つその男、クラノス・グラディウスがいるのみであった。
「始めてくれ」
クラノスの言葉とともに、研究員の一人が周囲にある機械をいじくる。
機械には、一人の少女が何本ものチューブでつながれており、カプセルの中で眠らされている。
やがて、少女の隣にある何もないカプセルから光が放たれ、光は徐々に人の姿を取り、そして…
「……成功です」
研究員が告げる。
彼らの行った実験は、成功したのだ。
「これで、私の目的にまたひとつ近づいた…」
「おめでとうございます、クラノス様」
「シンシア、君には『彼女』の教育係を任せたい。一般常識やこの世界の歴史など、教養を身につけさせてほしい」
「わかりました」
「戦闘の指導は…そうだな。グレイシアに任せるとしよう。彼女の教えがあれば、すぐにでも一流の戦士へとなるだろう」
男の計画は、まだ始まったばかりだった
エンゲーブで一泊したレイノス達は、翌朝出発…しようとした。
だが村を出ようとした瞬間、目の前に現れたのは意外な人物であった。
「アラン!」
思わず、レイノスはその名を叫ぶ。
そう、そこにいたのは今まさに助けに行こうとしていた辻馬車屋のアランであった。
「み、みなさん、ご無沙汰してます!」
「またニセモノってことはないよネ?」
突然現れたアランに、クノンが訝しげな視線をぶつける。
「偽者っていったいなんのことです?…って、そんなことより!助けてほしいんです!」
アランはなにやら必死の形相であり、懸命に何かを伝えようとしていた。
「落ち着け、ゆっくりで構わないから何があったか話せ」
「は、はい実は…」
セネリオに諭され、多少落ち着きを取り戻したアランは、話を始めた。
昨日フォルクスが言っていたように、アランはチーグルの森に置き去りにされていた。
ただし、巨大な魔物の監視つきでだ。
どうやらフォルクスは、その魔物と自分たちを戦わせるつもりだったようだ。
しばらくアランは、その魔物におびえながら時を過ごしていたのだが…
「夫婦に、助けられたんです」
「夫婦?」
「ええ、知らないですか?この辺じゃ少し有名な、チーグルの森に住む魔獣使いの夫婦ですよ」
「チーグルの森に人が住んでるのか!?」
アランの話に、レイノスは目を丸くする。
「レイノスの旦那、声が大きいです!…あの夫婦、この村ではあまり良く思われてないですから、下手なことは言わないほうがいいっすよ」
「それで、その夫婦が助けたって言うのは…?」
微妙に本題からずれた話題をリンが軌道修正する。
「ああえっと…その夫婦は、捕まってた自分を助けてくれたんです。そしたら、魔物が暴れだして…夫婦が戦ったんすけど、敵わなくて。命からがらなんとか逃げることには成功したんすけど、お二人とも重傷で…」
「その魔物は今も暴れているんですか?」
「そうなんです…」
アルセリアの言葉にしゅんとした顔で言った。
「二人は、重傷の中言ったんです。あんただけでも逃げろ、森のことは自分たちで始末をつけるからって…」
「それで逃げてきたってわけか」
「くう…情けないです」
ミステリアスの言葉に、心底悔しそうな表情となるアラン。
その瞳には、涙が浮かんでいた。
「エンゲーブの人の中には、魔物を使役してるあの夫婦のことを悪く言う人もいます。だけどあの人たちは自分を身体を張って助けてくれました!絶対悪い人なんかじゃないんです!」
「…話は分かった、アラン」
レイノスはそうつぶやくと、ちらっとセネリオの方を見る。
レイノスの言いたいことを察したセネリオは、フッと皮肉まじりな笑みを浮かべると、言った。
「夫婦を助けるのだろ?さっさと行くぞ」
「おう!」
こうしてレイノス達は、重傷を負ったという夫婦を助けるため、チーグルの森へ向かうのであった。
「始めてくれ」
クラノスの言葉とともに、研究員の一人が周囲にある機械をいじくる。
機械には、一人の少女が何本ものチューブでつながれており、カプセルの中で眠らされている。
やがて、少女の隣にある何もないカプセルから光が放たれ、光は徐々に人の姿を取り、そして…
「……成功です」
研究員が告げる。
彼らの行った実験は、成功したのだ。
「これで、私の目的にまたひとつ近づいた…」
「おめでとうございます、クラノス様」
「シンシア、君には『彼女』の教育係を任せたい。一般常識やこの世界の歴史など、教養を身につけさせてほしい」
「わかりました」
「戦闘の指導は…そうだな。グレイシアに任せるとしよう。彼女の教えがあれば、すぐにでも一流の戦士へとなるだろう」
男の計画は、まだ始まったばかりだった
エンゲーブで一泊したレイノス達は、翌朝出発…しようとした。
だが村を出ようとした瞬間、目の前に現れたのは意外な人物であった。
「アラン!」
思わず、レイノスはその名を叫ぶ。
そう、そこにいたのは今まさに助けに行こうとしていた辻馬車屋のアランであった。
「み、みなさん、ご無沙汰してます!」
「またニセモノってことはないよネ?」
突然現れたアランに、クノンが訝しげな視線をぶつける。
「偽者っていったいなんのことです?…って、そんなことより!助けてほしいんです!」
アランはなにやら必死の形相であり、懸命に何かを伝えようとしていた。
「落ち着け、ゆっくりで構わないから何があったか話せ」
「は、はい実は…」
セネリオに諭され、多少落ち着きを取り戻したアランは、話を始めた。
昨日フォルクスが言っていたように、アランはチーグルの森に置き去りにされていた。
ただし、巨大な魔物の監視つきでだ。
どうやらフォルクスは、その魔物と自分たちを戦わせるつもりだったようだ。
しばらくアランは、その魔物におびえながら時を過ごしていたのだが…
「夫婦に、助けられたんです」
「夫婦?」
「ええ、知らないですか?この辺じゃ少し有名な、チーグルの森に住む魔獣使いの夫婦ですよ」
「チーグルの森に人が住んでるのか!?」
アランの話に、レイノスは目を丸くする。
「レイノスの旦那、声が大きいです!…あの夫婦、この村ではあまり良く思われてないですから、下手なことは言わないほうがいいっすよ」
「それで、その夫婦が助けたって言うのは…?」
微妙に本題からずれた話題をリンが軌道修正する。
「ああえっと…その夫婦は、捕まってた自分を助けてくれたんです。そしたら、魔物が暴れだして…夫婦が戦ったんすけど、敵わなくて。命からがらなんとか逃げることには成功したんすけど、お二人とも重傷で…」
「その魔物は今も暴れているんですか?」
「そうなんです…」
アルセリアの言葉にしゅんとした顔で言った。
「二人は、重傷の中言ったんです。あんただけでも逃げろ、森のことは自分たちで始末をつけるからって…」
「それで逃げてきたってわけか」
「くう…情けないです」
ミステリアスの言葉に、心底悔しそうな表情となるアラン。
その瞳には、涙が浮かんでいた。
「エンゲーブの人の中には、魔物を使役してるあの夫婦のことを悪く言う人もいます。だけどあの人たちは自分を身体を張って助けてくれました!絶対悪い人なんかじゃないんです!」
「…話は分かった、アラン」
レイノスはそうつぶやくと、ちらっとセネリオの方を見る。
レイノスの言いたいことを察したセネリオは、フッと皮肉まじりな笑みを浮かべると、言った。
「夫婦を助けるのだろ?さっさと行くぞ」
「おう!」
こうしてレイノス達は、重傷を負ったという夫婦を助けるため、チーグルの森へ向かうのであった。