第四話 「写真」
辿り着いた先はトワイライトタウンでも有名な幽霊屋敷の錠門前だった。銀色の変な生き物は相変わらず奇妙な動きのままカメラを手放さず、それと対峙するような形でクローネが立っている。ロクサスはクローネへと駆け寄ると、先程サイファーと闘った際に使用していた木の棒を生き物向かって構えた。
「ロクサス!」
「大丈夫。クローネは下がってて。」
クローネを後ろに下げ、ロクサスは再び銀色の生き物と向き合う。そうして木剣を構えながらじりじりと詰め寄るが、ふと生き物がその奇妙な動きを止めた瞬間、ロクサスの脳に直接響くように声がした。
“―――――お迎えにまいりました、我らが主人よ。”
「―――――え?」
思わず聞き返したロクサスに、容赦ない攻撃がとんでくる。かろうじてそれをかわすと、ロクサスは木剣を振り回す。が、変な動きで当たり難い上、確実に当たっている筈の攻撃にもそれらしき手ごたえが感じられない。どういう事だ?
「うそ・・・全然効いてない・・・?」
「ダメだ・・・どうして・・・。」
ロクサスが剣を下ろしたその瞬間、いつもの場所を出た時と同じような感覚―――――視界が―――――世界が再び歪む。
「また――――!?」
しかし、鮮明に覚えている分、今度のは少し感じが違う。何だ?
手元に電子音がして視界を集中させると、右手に握り締めていた木剣が光に包まれる。それは数字の羅列が光を放ちながら木剣を取り囲んでいるようにも見えた。そうしてロクサスの目の前で木剣は大きな鍵の形へと姿を変える。
「何だ、これ・・・。」
大きな鍵はロクサスを誘導するかのように勝手に動いて生き物へと斬りかかる。クローネはそれを後ろから見ていたわけだが、彼女からしてみれば突然大きな鍵が現れたと思ったらそれにロクサスが振り回され始めたように見えるだろう。
「何・・・この異様な光景・・・。」
だが鍵が生き物に当たると今度は確実に手ごたえがあった。2度、3度と攻撃が当たり、生き物はまるでそこにいたのが嘘だったかのように消え去ってしまう。同じようにして鍵もロクサスの手の中でただの木剣へと戻っていた。一体何が起こったのかが理解できずにいる2人だったが、やがてクローネがロクサスのもとへと駆け寄ると、すぐさま右手を手にとってその掌をじっと凝視し始めた。
「ちょッ・・・クローネ!?」
「うー―――ん。やっぱり何も・・・ないよねぇ。」
どうやら彼女は手品の種明かしでも探すように、ロクサスの掌に何か秘密があるかどうか探しているらしい。何がどうなっているのかは彼女だけでなくロクサス本人にも分からない事であるが、掌を見たって何も分からないということくらいは分かる。
「クローネ、多分何にも分からないと思うんだけど・・・。」
「ロクサー―――――スッ!!」
頬をぽりぽり掻きながら困ったような表情でクローネに話しかけたロクサスの名を、森の向こう側から威勢のいい声が呼んだ。ハイネの声だ。クローネ、ロクサスが突然走り出したのに、彼らもその後を追って走って来たのであった。
「あ・・・。」
そうして視線を移動させた時、あの生き物が消え去った場所に何枚か紙切れのようなものが落ちているのに気が付いた。それに続き同じくクローネもその場所に視線を落とす。2人で歩み寄ってロクサスがその中の一枚を手に取ってみると、それはアイテム屋の青年と自分が一緒に並んで写っている写真だった。
「大丈夫だった!?」
ハイネの後ろからピンツの声も聞こえる。オレットも一番遅れてだが付いて来たようだ。
「うん―――――これ・・・。」
頷いた後にロクサスは手にしていた写真をハイネ達に見せる。ハイネは手渡された写真を見ながら、
「これが盗まれたものだったのか?」
と尋ねた。ピンツもオレットも、そうしてクローネもそれぞれ落ちている写真を手にとって内容を確認するが、どれにもロクサスが写っている。
「だから犯人はロクサスだって―――――・・・。」
成程、とクローネは納得したようだ。そして全員で写真を回収すると、ハイネがいつもの場所へ戻ろうと言って歩き出した。ピンツとオレットはその後ろに付いて行くが、何か腑に落ちない事があるらしく俯いているロクサスに、クローネは心配そうに声をかけた。何しろ先程の不可思議な現象を知っているのはロクサス以外には彼女しかいないからだ。
「・・・大丈夫?やっぱりさっきの事・・・。」
そこでクローネは言葉を飲み込んだ。動揺を隠せないでいるのは自分も同じだが、先程の事といい写真の事といい、何故ロクサスにしか関係のない事ばかりなのだろう。腑に落ちないのは当然である。彼女はそれに対し何と声を掛けていいか、適切な言葉が見つからなかった。だがロクサスの態度は彼女が思っているほど甚大ではなく、逆に困ったような表情のクローネに向かって今度はロクサスが明るく声をかけた。それにはクローネも驚いたのであろう、空のように澄んだ青い瞳を埋め込んだ目がぱっちりと大きく見開いた。
「大丈夫だよ!クローネこそそんな暗い顔してないで、いつもの場所に来いよ!みんな喜ぶって!・・・特にハイネが。」
「・・・・・・何か元気だね。ちょっと心配損かも・・。」
その後クローネはあはは、と苦笑いをすると、自分向かって手を差し伸べるロクサスの手を取り森を抜けた。夕日が2人の背中を赤く染める。
隅々まで磨き上げられた白い大理石で作られた大きな広間には、黒いコートを身にまとった男たちが集っていた。その数、全部で7人。顔を覆うように被られたフードのせいで中の表情を読み取ることはできない。
「ようやく見つかったようだ。」
1番目の席にいた男が真っ先に口を開いた。どうやら男たちは何かの順番で座っているようだ。因みに広間と同じ大理石製の椅子は円形の広間同様に円形に並べられ、それぞれ高さが異なっている。
「ロクサスか?それとも勇者?―――――か、裏切り者?」
「どれもだ。」
2番目の席に付いている男の問いかけに1番目の男が答えると、末席に近い8番目の椅子に腰かける男が上座から視線を外しながらその肩をすくめる。
「全員同時に?」
「何者かの意志が働いているとしか思えん。」
次々と男達が口を開く中、再び1番目の席の男が小さな声で呟いた。
「・・・あの人の匂いがする。」
それに対し9番目の男は首を傾げるが、3番目の男は何かに気付いたらしく初めて口を開いた。が、何が何かさっぱり分からないらしく、9番目の男は徐々に声を上げて騒ぎ始め、とうとう隣にいる10番目の男にさえちょっかいを出し始める。だがやはりどこの世界においてもはしゃぎすぎる輩は冷静に抑えられるらしく、彼のはしゃぎようには2番目の男が対処した。その間に10番目、8番目の男に彼が無視されたのは皆敢えて無視だ。
「我々が動き出す時が来たようだな。」
3番目の男の言葉に8番目の男―――――アクセルはフードの下でその眉をひそめる。
「“奴”に邪魔されるんじゃないか?“奴”を倒すにゃあちっとやそっとの無理じゃ済まねえぞ?」
2番目の男が声を上げた。様々な言葉が空間内を飛び交ったが、一番の問題は“奴”という人物らしい。彼らは何かを目的に動き出す瞬間を狙っているようだが、どうやらそれには“奴”と呼ばれる人物がどうしても邪魔になるようだ。
「うう・・・リーダーくらいしか倒せるのいないんじゃん?」
「バカ!俺だって倒せるってハナシ!」
また9番目の男は押さえつけられたがアクセルの耳にはそんなどうでもいい会話は一切入ってこなかった。彼の心配事はただ一つ。ロクサスの身である。
「・・・ロクサス。」
そうして彼の思いなど知る由もなく、ロクサスは仲間と共にトワイライトタウンで笑っているのだった。
「ロクサス!」
「大丈夫。クローネは下がってて。」
クローネを後ろに下げ、ロクサスは再び銀色の生き物と向き合う。そうして木剣を構えながらじりじりと詰め寄るが、ふと生き物がその奇妙な動きを止めた瞬間、ロクサスの脳に直接響くように声がした。
“―――――お迎えにまいりました、我らが主人よ。”
「―――――え?」
思わず聞き返したロクサスに、容赦ない攻撃がとんでくる。かろうじてそれをかわすと、ロクサスは木剣を振り回す。が、変な動きで当たり難い上、確実に当たっている筈の攻撃にもそれらしき手ごたえが感じられない。どういう事だ?
「うそ・・・全然効いてない・・・?」
「ダメだ・・・どうして・・・。」
ロクサスが剣を下ろしたその瞬間、いつもの場所を出た時と同じような感覚―――――視界が―――――世界が再び歪む。
「また――――!?」
しかし、鮮明に覚えている分、今度のは少し感じが違う。何だ?
手元に電子音がして視界を集中させると、右手に握り締めていた木剣が光に包まれる。それは数字の羅列が光を放ちながら木剣を取り囲んでいるようにも見えた。そうしてロクサスの目の前で木剣は大きな鍵の形へと姿を変える。
「何だ、これ・・・。」
大きな鍵はロクサスを誘導するかのように勝手に動いて生き物へと斬りかかる。クローネはそれを後ろから見ていたわけだが、彼女からしてみれば突然大きな鍵が現れたと思ったらそれにロクサスが振り回され始めたように見えるだろう。
「何・・・この異様な光景・・・。」
だが鍵が生き物に当たると今度は確実に手ごたえがあった。2度、3度と攻撃が当たり、生き物はまるでそこにいたのが嘘だったかのように消え去ってしまう。同じようにして鍵もロクサスの手の中でただの木剣へと戻っていた。一体何が起こったのかが理解できずにいる2人だったが、やがてクローネがロクサスのもとへと駆け寄ると、すぐさま右手を手にとってその掌をじっと凝視し始めた。
「ちょッ・・・クローネ!?」
「うー―――ん。やっぱり何も・・・ないよねぇ。」
どうやら彼女は手品の種明かしでも探すように、ロクサスの掌に何か秘密があるかどうか探しているらしい。何がどうなっているのかは彼女だけでなくロクサス本人にも分からない事であるが、掌を見たって何も分からないということくらいは分かる。
「クローネ、多分何にも分からないと思うんだけど・・・。」
「ロクサー―――――スッ!!」
頬をぽりぽり掻きながら困ったような表情でクローネに話しかけたロクサスの名を、森の向こう側から威勢のいい声が呼んだ。ハイネの声だ。クローネ、ロクサスが突然走り出したのに、彼らもその後を追って走って来たのであった。
「あ・・・。」
そうして視線を移動させた時、あの生き物が消え去った場所に何枚か紙切れのようなものが落ちているのに気が付いた。それに続き同じくクローネもその場所に視線を落とす。2人で歩み寄ってロクサスがその中の一枚を手に取ってみると、それはアイテム屋の青年と自分が一緒に並んで写っている写真だった。
「大丈夫だった!?」
ハイネの後ろからピンツの声も聞こえる。オレットも一番遅れてだが付いて来たようだ。
「うん―――――これ・・・。」
頷いた後にロクサスは手にしていた写真をハイネ達に見せる。ハイネは手渡された写真を見ながら、
「これが盗まれたものだったのか?」
と尋ねた。ピンツもオレットも、そうしてクローネもそれぞれ落ちている写真を手にとって内容を確認するが、どれにもロクサスが写っている。
「だから犯人はロクサスだって―――――・・・。」
成程、とクローネは納得したようだ。そして全員で写真を回収すると、ハイネがいつもの場所へ戻ろうと言って歩き出した。ピンツとオレットはその後ろに付いて行くが、何か腑に落ちない事があるらしく俯いているロクサスに、クローネは心配そうに声をかけた。何しろ先程の不可思議な現象を知っているのはロクサス以外には彼女しかいないからだ。
「・・・大丈夫?やっぱりさっきの事・・・。」
そこでクローネは言葉を飲み込んだ。動揺を隠せないでいるのは自分も同じだが、先程の事といい写真の事といい、何故ロクサスにしか関係のない事ばかりなのだろう。腑に落ちないのは当然である。彼女はそれに対し何と声を掛けていいか、適切な言葉が見つからなかった。だがロクサスの態度は彼女が思っているほど甚大ではなく、逆に困ったような表情のクローネに向かって今度はロクサスが明るく声をかけた。それにはクローネも驚いたのであろう、空のように澄んだ青い瞳を埋め込んだ目がぱっちりと大きく見開いた。
「大丈夫だよ!クローネこそそんな暗い顔してないで、いつもの場所に来いよ!みんな喜ぶって!・・・特にハイネが。」
「・・・・・・何か元気だね。ちょっと心配損かも・・。」
その後クローネはあはは、と苦笑いをすると、自分向かって手を差し伸べるロクサスの手を取り森を抜けた。夕日が2人の背中を赤く染める。
隅々まで磨き上げられた白い大理石で作られた大きな広間には、黒いコートを身にまとった男たちが集っていた。その数、全部で7人。顔を覆うように被られたフードのせいで中の表情を読み取ることはできない。
「ようやく見つかったようだ。」
1番目の席にいた男が真っ先に口を開いた。どうやら男たちは何かの順番で座っているようだ。因みに広間と同じ大理石製の椅子は円形の広間同様に円形に並べられ、それぞれ高さが異なっている。
「ロクサスか?それとも勇者?―――――か、裏切り者?」
「どれもだ。」
2番目の席に付いている男の問いかけに1番目の男が答えると、末席に近い8番目の椅子に腰かける男が上座から視線を外しながらその肩をすくめる。
「全員同時に?」
「何者かの意志が働いているとしか思えん。」
次々と男達が口を開く中、再び1番目の席の男が小さな声で呟いた。
「・・・あの人の匂いがする。」
それに対し9番目の男は首を傾げるが、3番目の男は何かに気付いたらしく初めて口を開いた。が、何が何かさっぱり分からないらしく、9番目の男は徐々に声を上げて騒ぎ始め、とうとう隣にいる10番目の男にさえちょっかいを出し始める。だがやはりどこの世界においてもはしゃぎすぎる輩は冷静に抑えられるらしく、彼のはしゃぎようには2番目の男が対処した。その間に10番目、8番目の男に彼が無視されたのは皆敢えて無視だ。
「我々が動き出す時が来たようだな。」
3番目の男の言葉に8番目の男―――――アクセルはフードの下でその眉をひそめる。
「“奴”に邪魔されるんじゃないか?“奴”を倒すにゃあちっとやそっとの無理じゃ済まねえぞ?」
2番目の男が声を上げた。様々な言葉が空間内を飛び交ったが、一番の問題は“奴”という人物らしい。彼らは何かを目的に動き出す瞬間を狙っているようだが、どうやらそれには“奴”と呼ばれる人物がどうしても邪魔になるようだ。
「うう・・・リーダーくらいしか倒せるのいないんじゃん?」
「バカ!俺だって倒せるってハナシ!」
また9番目の男は押さえつけられたがアクセルの耳にはそんなどうでもいい会話は一切入ってこなかった。彼の心配事はただ一つ。ロクサスの身である。
「・・・ロクサス。」
そうして彼の思いなど知る由もなく、ロクサスは仲間と共にトワイライトタウンで笑っているのだった。