君を守るから
次の日、俺とクロナは久しぶりにアースを訪れていた。アースとは俺やクロナ、フィオやダークなどのメンバーの故郷であり、全ての始まりの切っ掛けの場所でもある。
俺達二人は北の森を歩いていた。もちろんその手は繋がれており、共に寄り添っている。北の森はアースの北側に位置するからそう呼ばれており、小鳥の楽しそうな囀ずりの絶えない豊かな場所である。
「…レイ君とこうして手を繋いで歩くなんて夢みたい…」
「もしかして諦めてたの?」
クロナは少し挙動不審気味に頷く。
「十年以上レイ君と引き離されて、君が闇の力に魅せられたりして、不安だったの」
「……ごめん」
俺はクロナの手を握る左手の力を強めた。いくら強くなってみんなを守りたいと言う願いがあったとは言え、一番大事な人を不安にさせてしまった。だから俺はもう傍を離れないと誓うように彼女の手を強く握る。その時、俺の左頬に柔らかな物が触れる感触がした。
「大丈夫、これから二人は一緒だから……」
まるで物語を語るように楽しそうなクロナの語り口は俺の心を何時も安心させてくれる。それこそまるで女神のように。
「そう言えば、君はどうやって闇の力を?」
そう言えばクロナは俺が闇の力を手にいれた経由を知らなかった。今でこそ闇の力は手放しているが、とても話せる物ではない。しかし恋仲になった以上は隠し事は出来ないと悟った俺はクロナに真実を伝える事にした。
「リアスにブラックパラデスを手渡されて、それを取った途端に……」
「リアスって、あの黄緑の髪の人?」
俺は弱々しく頷いた。リアスとはかつてこの世界全てを壊そうとした暗黒竜ダークエンドドラゴンを奉る組織、DEDの六人の幹部六皇帝の一人『ヴィヴァード』の名乗った偽名であり、リアスとして俺に近づいた。最初から怪しさ全開で信用し難い所もあったが、俺の事を何度か助けてくれた。その為何時しか俺はあいつに心を許し、あのキーブレードを手に取ってしまい、闇の力を振るってしまった。
「でもそれは俺がやつらを倒せる可能性を確かめる為だったらしくて、最後まで敵なのか味方なのかわからないやつだったな……」
「そうね……」
今思うとリアスは俺のアンチネスだ。そもそもアンチネスとはハートレスがハートレスにならず、ダークエンドの力で無理矢理転生させられた姿。つまり素はハートレスと同じだが強さが大幅に違う。ハートレスとノーバディの法則であまりにも例外過ぎる俺はその身体を残したまま自身の闇の存在であるディア、アンチネスであるリアス、そして賢者アンセム曰くノーバディまで生み出している。つまりリアスは俺でもあるのだ。だから敵だったとしても俺のように正義感は強く、世界を救う手助けをしたかったのかもしれない。
「俺…今思えば“強さ”に踊らされ過ぎたな。みんなにはたくさん迷惑をかけた………」
「大丈夫だよレイ君」
不安に震える俺の手からいつの間にか彼女の手が消え、クロナは俺を正面から抱き締めていた。幸いこの森には現在人気は無いため、誰にも見られていない。
「っ!?」
「私が、君を守るから」
その時のクロナの声は自分に取っての救いに思えた。どれだけ不安だったとしても、一人では乗り越えられない事があったとしても、クロナとなら歩んでいける。そんな気がした。