CROSS11【不思議な仲間】
「ううっ……」
腰の辺りに激しい痛みを覚え、目を開けたらそこは何処か知らない洞窟だった。
「ここは何処だ?レイ!クロナ!みんな!!」
どれだけ彼らを呼ぼうと誰も出てくる気配が無い。俺――ディアの声が空しく響くだけだ。
「ちっ、俺一人か……」
この洞窟には俺一人だけだと気づいた時、ふと自分の着ている白く赤いラインの入ったロングコートに違和感を覚えた。見てみると裾の部分が黒く汚れており、袖も少し汚れてしまっている。
「参ったな……」
どうすれば良いのかわからないので、俺はとりあえずこの洞窟を出る事にした。出口を目指して歩いていると、何処からかモンスターが出現した。
「っ!何だこいつらは?」
だがそれは俺が見たこともないやつらばかりだった。ハートレスと言う訳でもなく、寧ろデータの存在と言う感じだった。
「邪魔だ!」
赤と黒を基調とした俺の気に入りの長剣を取り出し、モンスター達を蹴散らした。するとモンスター達は機械的な効果音を立てて消えていった。どうやらプログラムだったようだ。
「……どうなってる?」
俺はその後、三十分ほど歩き回り洞窟を出た。出てすぐに見えたのは見たこともない大きな町で、歩いて十分程の距離だったので行ってみる事にした。その途中先程のようなモンスターが現れたが、それらはすぐにかたずけた。
そしてたどり着いた町。そこは現実ではあり得ないような物ばかりで、まさに仮想世界に入っているような気分だった。
「ここ、アークソフィアって言うみたいだな」
見たことも聞いたことも無い不思議な町、アークソフィアに足を踏み入れ、情報を集める為に暫く町をウロウロしていると、今時珍しい防具に身を包んだ男達の噂話が聞こえた。
「なぁ、聞いたか?黒の剣士キリトが行方不明だって事」
「マジかよそれ!何処行ったんだ?」
「何でも、超難しいクエストに行ってるらしいけど……にしては戻ってこないよな」
「あれから半月?それとも一ヶ月?わかんねぇ」
この町では有名人なのだろうか、キリトと言う人物が行方を眩ましているようだ。より詳しい事を知るため彼らに話を聞こうとしたとき、誰かに声を掛けられた。
「ねぇ」
「ん?」
振り替えるとそこには薄い茶髪――若干オレンジにも見えなくもない――のハーフアップで、またも今時珍しい格好の少女だった。
「ちょっとキリト君?今まで何処にいたの?」
「はぁ!?」
「もう、心配したんだよ?さぁ、早く行こう!」
「お、おい!!」
その少女に無理矢理引っ張られ、俺は何処かに連れていかれそうになるが、間一髪その場で振り払った。
「どうしたの、キリト君?」
「俺はキリトなんて知らないぞ、よく見ろ」
「えーと、あっ……ごめんなさい!!あまりにも雰囲気が似てたから!!」
「俺と似てるって……」
正直俺と雰囲気が同じだとか似てる人など想像出来ない。こんな無愛想で冷静沈着なやつなど他にいるだろうか。
その後俺は彼女に連れられ、彼女が現在宿泊していると言う宿にやって来た。
「はいこれ、さっきのお詫びに」
「……クリームパスタか」
先程キリトと言う人物に間違えてしまった少女はそのお詫びとして俺にこの料理を奢ってくれた。その料理を見て俺はゆっくりとそれを口に運んだ。
「…どう?」
「……美味い、それに隙が無い。しかも隠し味が絶妙だ!」
「だよね!貴方もしかして料理とかするの?」
「あぁ、大好きだ」
「何か気が合うね、私も料理好きなんだ」
なんと彼女は意外な事に俺と共通の趣味を持っていた。暫く料理に関する情熱を語り合った後、自己紹介をする事になった。
「俺はディア。宜しくな」
「私はアスナ。こちらこそ宜しくね」
アークソフィアで出会った少女、アスナと握手し、先程言っていたキリトについて聞いてみる事にした。
「そう言えばアスナ、さっき言ってたキリトって誰なんだ?」
「キリト君って言うのはこのSAOでもトップレベルのプレイヤーで、私の大切な人だよ」
「プレイヤー?SAO?」
「どうしたの?」
「……いや、何でもない。続けてくれ」
「うん、キリト君はSAOの中でも特異なスキルである二刀流を持ってて、知名度はそれなりにあるんだけど、何故かここ最近姿を見ないの」
「さっきのやつらが噂してたやつか」
「うん、一人でクエストに行って……それっきり。そんなに難しいクエストじゃなかったはずだけど……」
「何……?」
その言葉は先程の男達の話と矛盾していた。男達はとても難しいクエストに挑んで行方を眩ましたと言っていたが、アスナは難しくないと言っている。それに鳴冠に襲撃され、見知らぬ場所にたどり着いた後すぐにキリトが消えた。これは明らかに出来すぎている。とここでふと鈴神の話を思い出した。幾つかある次元が交わり、歪んでいると。
「もしかしたら、キリトは時空の歪みに巻き込まれたのかもしれない」
「えっ?それどういう……」
「アスナ、リズベットと言う名前に心当たりはあるか?」
「え?うん……」
意を決して俺はアスナにこれまでの事を話した。久しぶりのみんなで過ごす休日を楽しんでいたらリズが空から落ちてきた事、一緒にボウリングしたこと、鈴神の話によりリズが別の次元から来たと発覚したこと、その後鳴冠と名乗る少年が現れ、襲撃された事、気がついたらここにいた事。
「つまり、キリト君は別の次元に飛んでしまったかもしれないって事……?」
「あぁ、アスナ…キリトはどれくらい行方不明なんだ?」
「えっと……一週間ちょっと」
「やはりな……キリトは間違いなく時空の歪みに巻き込まれて行方不明となった」
だがただ時空の歪みに巻き込まれたとは考えにくい。何せ俺達の所には鳴冠が襲撃しに来た。ならばキリトも誰かに襲撃された恐れがある。少し考え事を始めたとき、アスナが衝撃的な事を口にした。
「決めた、私…貴方についてく」
「はぁ!?」
「貴方どうせ離れた仲間達を探しに行くつもりなんでしょ?だったら私も同行させなさい」
「あのな……この旅は女性には……」
女性には危険だと言おうとした時、物凄いスピードでレイピアを突きつけられた。
「良いよね?」
「……戦えるのか。フッ、まさに外道だな……!」
俺はアスナの同行を了承した。よく考えれば大切な人と別れているのはお互いに同じ。戦えるのなら断る理由など無いだろう。これは頼もしい仲間が出来た物だ。