CROSS20【不気味な城】
漆黒の影の所有する城の中層辺りのある部屋にリズは囚われていた。そこは黒以外の色が見当たらず、まさに暗黒の牢獄だった。
「ここ……何処なのよ……?」
彼女が目を覚ましたのはほんの三十分前、いつの間にかこの牢獄に閉じ込められており、出る方法も見当たらず途方に暮れていた。
「レイ……キリト……」
あのときリズはレイやキリトと共にそれぞれの仲間を探す決意をした。だがその時キリスに襲撃され、自分はこのように囚われてしまった。
「確かあいつ……私の事“器”って言ってた。何なんだろ……その器って?」
キリスだけではなく、漆黒の影のメンバーのほとんどが自分の事を“器”と呼ぶ。当然その意味はわからず、ずっと疑問に思っていた。
「とにかく、ここから出ないと」
だが、牢獄の鍵はどうあっても開く気配が無い。どれだけ叩いても、揺らしてもビクともしない。その時、檻の扉の外側にダイヤルのようなものが見えた。
「あれって……!」
檻の中から手を伸ばし、何とかダイヤルを回して脱出する事に成功したリズは鍵が開く音と共に扉を開けた。
「早くしないと見つかっちゃう……」
今の自分では戦う事は出来ない。何故なら例の首輪――黄泉をつけられている上に自分の防具や武器は全て奪われてしまっているからだ。このままでは見つかった時すぐ捕まるのがオチなので上手く見つからずに進むしかない。
「それにしても、ここは一体……何のために作られたのかしら?」
よく見れば現代科学では不可能な構造で作られており、恐らくSAO内でもこのような城は無いだろう。一体誰が何のために作ったのか全くの謎である。
「相当……広いわね」
アインクラッドほどではないがその広さに参っていた。ちなみにリズはまだ一本道の廊下を歩いているだけだが、その廊下でさえ長すぎる――と言うか広すぎるのである。この広さだと巨人も普通に歩けるかもしれない。
「それにしてもこの城、ほんと黒しか無いわよね……キリトだったら喜びそうだけど……」
そう冗談混じりに言った。キリトは基本的に黒色の装備しかしないため黒色と言う印象が強く定着してしまっている。この黒以外の色が見受けられない城に彼がいたらどう思うだろうか。
「……ヤバッ!」
そんなとき、前方から漆黒の影の下っ派らしき兵士二人がやって来たので、とっさにリズは物影に隠れた。兵士二人はリズに気づかず通りすぎようとしたが、その途中立ち止まって何かを話し始めた。
「なぁ、次はもう一つの器を落とすんだって?」
「あぁ、らしいな。リーダーもかなり地味な所から行くよな」
「(もう一つ?と言う事は器は私以外にもう一人いる?)」
「確か……ヒトミだっけ?レイってやつの妹の」
「今セラ様がそのヒトミを鳴上 悠の所へ転送しようとしてるらしいぜ」
「(レイの妹!?確かあのときは……)」
レイやクロナ達と初めて会った時、ヒトミだけは何故か来なかった。その時レイが携帯で連絡してはいたが、一回も出ず、メールすら無かった。
「(あのときはヒトミが出なかったんじゃない……囚われてて“出られなかった”んだ……)」
「おい、お前達」
二人の兵士がそんな雑談をしていると、兵士達が来た方向から漆黒の影の一人であるセラがやって来た。セラに声を掛けられた二人は敬礼をし、セラは軽く頷く
「「セラ様!」」
「たった今器の解放が終了した、計画は順調に進んでいる」
「(じゃあ、もうヒトミはここにはいないって事?)」
ただ脱出するだけではなく、ヒトミも助け出して一緒に逃げようと考えていたのだが、すでにセラは彼女を何処かへ転送してしまっていた。
「ふぅ……何時までそこで盗み聞きしてるつもりだ?」
「っ!?」
なんとセラはとっくにリズがここにいる事に気がついていた。完全に隠れたつもりだったが、漆黒の影の目は誤魔化せなかった。仕方無く両手を挙げ降参の意を見せてセラの前に現れた。
「お前、どうやって牢屋を出た?」
「………」
「その様子じゃ答えてくれそうに無いな、悪いけどもう一度眠ってもらおう」
そう言ってセラは何処からともなくキーブレードを取り出し、相手を眠りに誘う魔法、スリプルでリズを眠らせた。睡魔に襲われ倒れたリズを見て、セラはある事を思い付いた。
「どうせならこの器の偽者を作っとくか」
セラの右手から闇色の光が放たれ、それは一旦リズを包み込むとやがて離れ、そしてなんとリズの姿となった。ただし目に光が差しておらず、紫色のオーラを纏っていると言う違いがある
「お前達、器を牢屋に運んでおけ。後パスワードも変えておいて」
「「はっ!」」
兵士二人はリズを持ち上げ、牢獄のある部屋まで運んでいった。それを見送ったセラは先程作ったリズの偽者を連れて何処かへ消えていった。