CROSS26【家族】
戦場に吹き抜けた一つの風、それはヘッドホンを首に掛けた何処かの制服姿の少年だった。
「ふぅ、あぶねぇ!」
「…お前は?」
「話は後だ、まずはこいつら何とかすっぞ!」
ヘッドホンの少年がそう言うとほぼ同時に空中から青いカードが飛来し、手に持っていたクナイでそれを叩き斬るようにして割った。すると少年の背後に以前に鳴冠が出していたような存在だった。
「まさかペルソナ!?」
「よく知ってんじゃねーか!」
ヘッドホンの少年が出したのは間違いなくペルソナだった。ただし彼のそれは鳴冠とは違い手に持っている手裏剣やその容姿も染まってまるで忍者のようだ。
「行くぜ、ジライヤ!!」
ジライヤと呼ばれたペルソナが先程と同じ竜巻を起こし、敵軍を吹っ飛ばした。その内の一体がキリト君の方に飛んでいくが、
「スターバースト……」
二刀流を駆使したあの技で超攻撃を仕掛ける。
「ストリームッ!!」
やけにしぶといシャドウでも流石にキリト君のスターバーストストリームには敵わなかったようだ。
「パパ、レイさん!ここにいる全ての敵は風属性が弱点のようです!」
「風属性だな?なら俺の出番だっ!」
そう言ってヘッドホンの少年が再びジライヤを呼び出し、風属性の弾丸を飛ばした。それによりハートレス達はその数を減らした。
「俺も行くよ!」
ヘッドホンの少年に遅れを取らないよう俺も風属性魔法であるエアロガを放った。それによりシャドウも数を減らしていき、隙が出来た。
「レイ、総攻撃で行くか?」
「OKキリト君!!」
「俺も行くぜ!」
敵全員が怯んだのを見計らって俺とキリト君、そしてヘッドホンの少年による総攻撃を仕掛けた。結果シャドウとハートレスは全滅し、後には何も残らなかった。
「ふぅ、お疲れさん!」
ヘッドホンの少年がペルソナを消滅させ、武器を仕舞うと俺達にそう言った。
「ねぇ、助けてくれてありがとう。君の名前は?」
「俺か?俺は花村 陽介。宜しくな」
「なぁ陽介、何故俺達を助けたんだ?」
「何故って言われても、仲間とはぐれてさ迷ってたらシャドウに襲われてるのが見えたからさ」
「仲間とはぐれたって事は……」
俺達はこの世界で起こっている事や漆黒の影の存在、そして自分達も仲間達と引き離された事を陽介に話した。
「つまり、お前らも漆黒の影とやらにこの時空に放り出されたと……」
「多分、いや、陽介達を襲ったのも漆黒の影のメンバーだろう。間違いない」
「陽介、俺達と一緒に来てくれないかな?一緒に戦おう」
「……わかってる。一緒に行こーぜ、断る理由もねーし」
こうして俺達の旅に陽介が同行する事になった。ペルソナ使いが味方となってくれるとなるとかなり心強いが、同時に歪んだ時空は俺とキリト君の時空だけではない事がわかった。
「よし、行こう」
「おう!」
「あ……はい…」
陽介は明るく返事をしたが、ユイちゃんだけは元気ではなかった。無理もない、突然この時空に呼び出されて、ここまで歩いてきた挙げ句戦いにまで顔を出した。いくらカーディナルシステムの存在でもこの時空では本当の身体同然になってしまっているので疲れているのだろう。
「ユイ、疲れてるのか?」
「……いえ、大丈夫です……」
「なんなら俺がおぶってやるけど……」
「でもパパは先程の戦いで疲れていますし……」
「なら俺がおぶってくよ。キリト君も陽介も疲れてるだろうし、それに一番疲労の無い俺が適任でしょ?」
「そうだな、レイ、頼む」
実際は二人と同じくらい疲労してるのだが、ここで弱音を吐いてはいけないと思い、自ら名乗りを挙げた。
その後暫く歩いていると、砂漠地帯に入り、すぐに小さな洞窟を見つけた。そろそろ日も暮れてきたので一旦そこで休む事にした。
「はーいみんな出来たよ!男子二人のリクエストでお作りしました!カラシたっぷりサンドイッチですっ!」
「おおっ、美味そー!」
そう言って陽介が一つを口にすると、その辛さに火を吐いていた。それに対しキリト君は何事もなかったかのようにごく平然と食べている。
「それにしてもレイ、よく携帯料理セットなんか持ってたな」
「あの日みんなで一日遊ぶ予定だったから、みんなで食べようと思ってね」
「でも、昼食前に漆黒の影のメンバーが襲ってきたって事か……」
「うん……」
備えあれば憂い無しとは言うが、なんだか少し悲しくなってきた。そもそもみんなで楽しく過ごそうとしたら突然みんなと切り離されるなんて誰が想像するだろうか。
「そう言えばユイちゃんは何が良い?リクエストあるならそれ作るよ?」
「みなさんと同じが良いです!」
「うおっ……それ本気?」
「本気です!」
みなさんと同じ、つまりカラシたっぷりサンドイッチの事。キリト君はともかく陽介でさえ火を吐くほどの辛さに挑戦すると言っているのか。それを聞いていた陽介は冷や汗をかいていたが、キリト君は黙って頷いていた。
「はい……どうぞ」
「いただきまーす!」
笑顔でサンドイッチに噛みつくユイちゃんがとても心配になってきたが、意外な返答が帰ってきた。
「美味しいです!」
「嘘だろ!?ユイちゃん食べれるのかよ!!」
「陽介、一応言っとくとユイはこれ以前に辛い物食って平気だったんだからな」
「マジかよ!!」
衝撃の真実がカミングアウトされた所で丁度全員が食事を終え、明日に備えて休む事にした。だがその夜、
「あれ?」
目を開けるとユイちゃんだけが寝ていない事に気がついた。
「あれ?ユイちゃん、眠れないの?」
「レイさんもですか?」
「まあ、そんなところかな」
お互いに眠れない状態らしい、せっかくなので少し話をする事にした。
「レイさんって何でも出来るんですね。戦いも出来て、料理も出来て、凄いです!」
「……よく姉にしごかれたからね、大体の事は出来るよ」
「姉……って事はパパとママはいないんですか?」
「あぁ、俺が五才の頃に両親は他界した」
両親のいない孤独は流石にもう慣れたが、やっぱり寂しいかもしれない。ふと両親の事を思うと何時も切なくなる。
「家族は、俺と妹と姉だけなんだ……」
姉であるヒナタ、妹であるヒトミ。二人は俺にとって大切な家族だからこそもう失いたくない。
「……あの、お兄さんって呼んで良いですか?」
「へ?」
「家族がいないなら、これからは私が家族です!私だけじゃなく、パパや陽介さんも!」
「……ユイちゃん、ありがとう」
ユイちゃんの頭を優しく撫で、彼女を寝かしてやると今度はキリト君が起きている事に気がついた。恐らく先程の話を聞かれていたのだろう。
「ねぇキリト君、俺って過保護かな?」
「突然どうした?」
「俺、自分の両親が五才の頃に亡くなったって言ったでしょ?だからユイちゃんみたく幼い子を見ると、放っておけないと言うか、守りたくなるんだ……」
過去の自分のように両親とは悲しい別れをしてほしくないからこそ子供を守りたいと言う考え方に繋がっていたのかもしれない。だがこれは自分では少々過保護かもしれないと最近考えている。
「そんなことないさ」
「え?」
「あのとき自分も同じくらい疲労してるってわかってるのにユイをおぶってく辺り、お前は良いやつだよ。道理でユイもあっさり心を開いてた訳だ」
「……ありがとう、キリト君」
「頑張れよ…お兄さん」
そうして一夜が明け、俺達は砂漠地帯を歩いていた。すると奥の方に謎の軍事基地のような物を発見した。
「パパ、お兄さん、陽介さん、あそこから謎の気配を感じます!」
「まさか、漆黒の影のやつらか?」
「可能性は高いね……行くよみんな!」
「おう!」
あの軍事基地に漆黒の影のメンバーがいると予測してそこへ向かっていった。