お楽しみは取っておくもの
「ねぇ、レイ君ってしたことあるの?」
それはあまりにも突然の事だった。デスティニーアイランドの波打ち際でクロナと話していたら彼女が突然言い出したのだ。
「……何を?」
「いや……そこは察する所でしょ普通?」
「あ、ごめん……で、何をしたことあるって?」
「だ、だから………キ…」
「キ?」
「……ス……だよ」
クロナの顔が何処か赤い。それに彼女の台詞を総合すると、クロナが何を言いたいのかすぐにわかった。
「あぁキスか!」
その瞬間、いきなりクロナに打たれた
「率直に言わないでよ!!恥ずかしいじゃないっ!!」
「っ……ごめん。で何でそんな話になった訳?」
「実は昨日の事なんだけど……」
昨日、つまり俺とダークが定食屋で恐ろしい戦いを繰り広げた日だ。あのときは確かにクロナはいなかったが、ある意味呼ばなくて正解だったと思う。何せあれはラスボス以上のラスボスなのだから。詳しくは【相棒と過ごす日】を参照。
「久しぶりにヒトミちゃんと話してね」
ヒトミとは俺の一つ下の妹の事で、重度のブラコンである。多分兄妹じゃ無かったらクロナを突き飛ばしてでも告白しに来ると思うほどに彼女は俺の事を好かっている。その上性格も無駄に明るく活発なので例えるなら『ブラコン爆走特急』である
「やっぱり私達が恋人になった事わかってたようでね、色々話してたんだ」
流石ヒトミ、俺の事は何一つ抜かりが無い。いや、この時点で抜かりがあったらヒトミではない。別にヒトミの事は嫌いではないがそこら辺は何時も警戒している。ちなみに断っておくが間違ってもヒトミは俗に言うヤンデレなどでは無い。
「それでヒトミちゃんが聞いてきたのよね、『キスとかもうしたの?』って。それでレイ君はどうなのかって気になって」
「そう言う事か……」
「それで、どうなの?」
「俺は……そうだな、特にしたことは無いかな」
「そう言えばレイ君、ヒトミちゃんとの会話で思い出したけど、付き合い始めてから私達って今までと特に変わってない気がするんだけど……」
「?」
「えっとつまり……その、恋人…らしい事を全然して来ないなぁって……」
彼女の顔が再び赤くなっている。そう言えば今思えば普段と何ら変わっていない日常を過ごしていた。それが彼女には不満足だったのだろうか。そう思った俺は正直に自分の意見を述べた。
「確かに、してないかもしれないね。でも……思うんだよね、キスとかそう言うのはまだしない方が良いって」
「どうしてそう思うの?」
「だって…………お楽しみは最高の瞬間にする物だよ……」
「……っ!!(さっ、最高の瞬間っ!?それってまさか………結婚式っ!?)」
「(レイ君ったら……もうそんなつもりで……フフっ)」
「どうした?」
「フフっ、何でもありません!」
彼女の笑顔は何処かスッキリしていたような表情だった。でも、いくらそう言っても抱き締めてやるくらいはしても良いかなと思考を巡らせつつ彼女の手を握った。