CROSS37【アダ名なんて言われても……】
俺の名はディア。ある日時空の歪みと言う不可解な現象に巻き込まれ、仲間達とはぐれてしまった。
その先で出会った少女、アスナと共にそれぞれの仲間を探す旅に出た訳なのだが、彼女は強かった。
エキシビジョンマッチの時でさえ僅差で俺に勝ち、さらに旅先で遭遇した敵との戦いがかなりスムーズだった。
ちなみにアスナには旅の中でこちらの時空の事などを教えておいた為、ハートレスやキーブレードなどの用語については問題ない
そしてとある町にある一つの宿で俺達は休んでいた。もっとも、この不安定な時空では人など俺達やそのはぐれた仲間くらいしかおらず、殺風景極まりない状況だった。
「ふう……だいぶ歩いたね」
「旅立ってからほぼ一睡もしなかったからな……」
「それはディアだけでしょ?」
彼女の指摘した通りだった。確かにこれまで一睡もせずにずっと戦ってきたが、それは仮にも協力してくれているアスナに無理をさせない為に彼女のみを休ませ、俺は少し離れた場所で武器を構えて待機しているのだ。要するに守っていると言う事である
「俺はただ早くみんなを見つけたいだけだ」
「……焦りすぎじゃない?」
「……ん?」
「気持ちはわかるけど、その前に貴方が倒れたら元も子も無いじゃない。少しは休みなさい」
「だが、それだと…」
その瞬間、いつかのようにレイピアを突きつけられた。それも高速かつ当たる寸前に止めて
「次から交代ね」
「あ……はい」
不本意だが、彼女の言うとおりにする事にした。何故アスナは俺にここまでの気を使ってくれるのか理解出来なかった。自分だって大切な人を早く見つけたいだろうに
「そう言えばディアって目的遂行の為ならそれ以外は要らないって感じだよね」
「は?」
「コミュニケーションとか大丈夫?もしかしたらその仲間達とも上手くやれてないとか?」
「……まあ、実を言うとその通りだ」
世間ではこう言う事をコミュニティ障害と言うんだろう、俺は仲間を大切に想っている故に彼らの助けになろうと奮闘しているがどれも空回りばかり。その為か仲間達との友情に不安を持ってしまっている。
「なら、これから少しずつ直していこうよ。まずは私から!」
「はぁ?」
「私と友達になれって言ってるの!それともただの旅の仲間ってだけかな……?」
「アホか、そんなわけ無いだろ」
「じゃあ友達って事だね?」
「いや何故そうなる……」
「じゃあまずはアダ名で呼び合おう!うん、そうしよう!」
どういう訳か俺とアスナが友達と言う事で話が進んでしまった。それにしても共に旅をして僅か数日と言うだけで“友達”と言えるのだろうか
「私はそろそろ休むから。明日までにアダ名考えておいてね」
「あ、あぁ………」
そうしてアスナは宿の一室に入っていった。アダ名を考えておけと言われてもどうすれば良いのかわからない。そもそもたった数日で大した絆があるわけでもないのにいきなりアダ名で呼べと言われても、正直どうすれば良いのかわからない
優しさと強さを持ち合わせ、あのような明るい性格の彼女に、俺はクロナの姿を思い浮かべた。
「よく考えたら……似てるな」
そうして一夜が明けていく。ちなみに俺は結局寝る事はなくそのまま夜が明けるのを待った
次の日の朝、暫く歩いていると俺達は砂漠地帯にたどり着いた。砂漠らしくかなり暑く、いまにも溶けそうだ。
「うぅ……暑いね……」
「だが弱音を吐いている暇は無い。一気に突破するぞ」
そう言って俺は先に歩き出した。するとすぐ先にあるものが見えた。
「……あれ、オアシスじゃないか?」
「あ…本当だ!」
そこにあったのは間違いなくオアシスだった。よほど厚さにやられていたのかアスナは凄まじい早さで向かっていった。
「ふう……涼しい…」
しかもその場で涼んでいた。軽く手を水に浸からせているので蜃気楼と言う訳では無さそうだ
「ねぇディア、ちょっと水浴びとかしちゃ駄目かな?」
「駄目に決まってるだろ?そんな時間無いし、なによりこんなとこで防具を外したらいざと言う所で戦えない」
オアシスに向かいながら彼女にそう伝えた。何が起こるかわからないこの時空では、常に警戒を怠ってはいけないのだ
「やっぱり焦ってない?」
「まだ昨日の事を言うか」
「もしかしてあのあと結局寝てないの?」
「当然だろ。もし敵が来たら危険だからな」
「もう、真面目すぎるよ……」
真面目と言うか当然の事を言ったまでだと思ったのだが、今の状況を考えれば仕方ない事だ。
ふとオアシスに目をやった時、水上に何かが浮かんでいるのが見えた。
「?」
それは少し変わった形の青い熊のような着ぐるみだった。