戦線離脱の後
俺――ダーク・デストは今日、夢の世界での戦いから離脱した。別に怖くなったとかじゃない。理由は一つ、フィオの事だ。
フィオは俺の親友で、正直相棒であるレイやクロナよりも付き合いは長い。それこそ本当の兄弟みたいに一心同体以心伝心だった。自分自身の半身とも呼べるその親友がある日、戦線から逃げ出してしまった。
俺達は必死に探した。だがフィオは見つからなかった。クロナによれば紫音に任せたらしいが親友である俺の心にはやはり迷いが生まれていた。だが逃げてしまったフィオの分までクロナ達を支えよう、そう決めていたはずなのに……どうしてかな、心配になって、ふとあいつの顔思い浮かべちまった
俺は何時も誰かに助けられてばかりだった。それが悔しかった、あのときもそうだ、闇の力に溺れた相棒を説得して、みんなの所に戻したけどその時は救えた気でいただけで、実際は何にもしてやれなかった。誰でも良い、助けたかった。誰かのヒーローになりたかった。相棒に、憧れた
でも、所詮は“憧れ”。憧れと現実は程遠い。だから俺はせめて親友の為に戦線から離脱しフィオの傷ついた心を支えると言う選択肢を選んだ。
その決意を固めたのは夢の世界でオリンポスコロシアムに行く前の事。そこで七星座の一人を倒したら伝えようと決めていた。みんなには悪いと思ってる、でも自分の親友を放っておけねぇだろ。罪悪感も半端ねぇが親友を支えたい気持ちも同じくらい強いんだ
だから俺は今のチームのリーダーであるクロナにこの事を告げた。そして“告白”もした。だがクロナは笑顔で去っていった。そう、俺はとっくにわかっていたんだ。
始めの頃は俺の方が何もかも上回っていた。勉強も、運動も、歳も。何時も相棒を見下ろしてばっかで憂鬱の毎日を送っていた。だが上回っていたのはあいつの方だった。初めの方こそ弱かったのに、日に日に成長していってついには俺を越えてしまい逆にあいつを見上げるようになっていった
クロナに言った通り俺はクロナが好きだった。でも恥ずかしくて中々口に出せなくて、強い所ばっかり見せようとしたが全て無意味だった。何故なら幼い頃から彼女の瞳は一途に相棒を見つめていたからだ。
何が違うのだろう、何が足りないのだろう、歳上なのに何故負けるんだ。そう今まで悩んできたがやっとわかった気がする。それは“素直な心”を持つ事。俺は何時も他人に気を使って時には本心を隠す事もあった。だが相棒は常に素直な心で他人と接していた。だが相棒は闇の力に魅せられ、昔のあいつは消えた。だからこそクロナは大好きだった昔の相棒に戻って欲しくて泣いた。俺も同様で、闇の力を手にしたあいつと戦った。あのときの相棒は確かに強かったが何とか元の自分を取り戻してくれて、素直に笑った事を覚えている
なぁ相棒、お前今何してんだ?腹減ってねぇか?またみんなでアイス食おうぜ……あの場所でさ。みんな待ってるからよ……特にお前の正妻さんなんか死に物狂いで仲間と一緒にお前を探してる。もちろん楽なんかじゃない、けどあいつは笑ってる。それだけで俺は幸せだぜ。お前はどうだ?今更こんなこと言うのもあれだけど、やっぱお前には敵わねーわ。いつの間にか俺を越して、あんな美人に好かれるだけじゃなくたくさんの仲間に囲まれて。何時かまたお前に会いたいよ。でも俺はお前を探す事から離脱しちまった。許してくれとは言わないけど、それをクロナは許してくれた。本当、あいつも成長したよな。昔って何処にでもいるような普通の女の子だったのに、今じゃお前と重なって見えるぜ。もう一人のお前見てーな……
「相棒……また会おうぜ」
今の俺に出来る事は、親友の心を支える事だ