CROSS53【穏やかな日々】
色々とカオスな出来事が起こったが結局ゲームは続行する事になり、次に当たりを引いたのは意外にも陽介だった
「お、俺か」
「な、なるべく……マシなの御願いしますね?」
先程からのぶっ飛んだ命令や王様ゲームではマイナーな命令などを恐れた様子のリーファが陽介に恐る恐る忠告した。だがそんなことを言わずとも彼はすでに了承しているようで、こればかりはみんな納得するだろうと言う顔で言った
「わーってるよ。そうだな……みんなで自分達の時空の事話し合うってのはどうだ?俺達実際お互いの事何にも知らない訳だしさ」
「なるほど……ヨースケにしては考えたクマね」
「誉めてるのか嘗めてるのかわからない言い方だな」
クマの煽りを軽くあしらい、提案者である陽介が先に自分達の時空について話始めた
「俺達が住んでるのは八十稲羽って言う田舎町で、何もない所だけどそれが良いっつーか。それにもし八十稲羽に来なかったら、こんな充実した日々は無かっただろーな」
陽介やクマの時空はごく普通の田舎町のようで、一見何もない場所だがその町を訪れた陽介の相棒“鳴上 悠”やその仲間達が次々とペルソナ使いへと覚醒していき、テレビの世界を経由して発生する殺人事件を追っていったと言う。ちなみにクマはそのテレビの中の住人だったらしい
「じゃあ次は俺かな」
陽介の解説が一通り終わった所で今度はキリト君が自身のいた時空の解説を始めた
「俺達の時空ではソードアート・オンライン――通称SAOと言うVRMMOが流行っていて、俺達はそのゲームの中にいた。この身体も元はと言うとそのアバターなんだ。
ただ、他のゲームと違うのはこれはデスゲームだと言う事」
「デスゲーム?」
「そう、そのゲームにログインしていた約10000人のプレイヤーはログアウト機能を消される事で監禁され、外部からのそれも通用せず、唯一ログアウトする方法はゲームクリアのみ。ゲーム内でHPが0になったその時には……現実でも死ぬ」
「そんな過酷な世界を、生き抜いてきたんだね……」
茅場と言う人物により作られたSAOに監禁された約10000人のプレイヤー達の中でも郡を抜いて強いのがキリト君であり、そのキリト君らは攻略組みと呼ばれるプレイヤーらしい。ゲームで死ねば現実でも死ぬと言うデスゲームはもはやもう1つの現実、つまりキリト君達が生きている世界。仮に漆黒の影を倒して全ての時空が元に戻ったとしても、彼らにはまだゲームクリアと言う命懸けの課題が残っている
「じゃあ最後は俺か」
陽介達の時空、キリト君達の時空と続けて話してきたので最後は俺達の時空について話す番だ。ここまでみんなの話を聞いてどれも凄い時空だと思い、自分達の住む時空とは違う事を思い知ったがここで話さなくてはフェアではない
「俺達の時空には様々な世界があって、それらは世界の心やその巫女、純粋な七つの光の心によって支えられている。だけどそれを狙う闇が存在していて、俺達キーブレード使いがその闇から世界の均衡を守ってる。なんて説明したら良いかわからないけど、みんな揃ったら改めて紹介したいな」
「お兄さんの時空、いつか行ってみたいです!」
「うん、私もなんか興味沸いたかも」
自分を慕うユイちゃんやリーファが自身の時空に興味を持ったのも束の間、ディアがこちらに戻って来た
「お前達、そろそろこっちへ来てくれないか?」
「まあそれもそうだな。そろそろお開きか」
「そうしてくれ。それに審査員もいるしな」
「審査員……ってまさか!」
「あぁ、料理対決の審査員だ」
今何気にさらっと言ったがディアは俺達に審査員をやらせるつもりのようだ。料理対決をする二人を除くとメンバーは六人、つまり引き分けの可能性すらあるこの状況の中ディアは勇敢にも全員に審査員を頼んだのだ。
まあそろそろ晩飯時なので当然断る訳もなくいつの間にか全員何時でも食べられるようにスタンバイしていた
「全力で行くよ、ディア君!」
「行くぞアスっ!」
もはや完全に料理のライバルと化してしまっている二人はそれぞれ別々に料理を始めた。何故こんな平地でそんな事が出来るのかと言うと何時か俺がキリト君や陽介とユイちゃんに料理を振る舞ったアレが幸い二つあったお陰である。共に美味しそうな香りが漂う両者の料理は順調に進んでいく。これなら特に何事もなく平和に事が進むだろう
ディアが空中に食材を投げつつそれを聖獣の剣で華麗に切り理想の形にすると言う謎のパフォーマンスさえ無ければ
「はぁぁっ!」
聖獣ブラックソードの剣が見事過ぎるほどに華麗に食材を切り、ディア自身のキャッチも完璧であった。その上食材の方も絶妙に切られており、それこそプロ顔負けであった
「フッ、完璧だ」
「完璧じゃねーよ何だよその料理方法!?」
「と言うか本気すぎだろ……?」
陽介とキリト君と言った二人の常識人のツッコミが炸裂し、ディアの衝撃的かつ鮮やかで繊細な調理方法は止まる事を知らなかった。これ以上事態を悪化させない為にも全員アスナさんがそのような事にならない事を願ったが、その期待は呆気なく砕かれた
「はぁーーっ!」
なんと食材を切る為の包丁でスタースプラッシュを放っており、こちらもまた完璧過ぎるほどに繊細だった。その後もその早すぎる包丁捌きによって順調に事が進んでいく
「ってかどんだけ本気なんだよお前ら!?料理って何なのか全国の子供達疑うよ!?」
陽介のごもっともなツッコミがこの平地に響き渡り、二人同時に彼の方を向いて料理好きの二人はこのただでさえカオスな状況を悪化させる発言をした
「アホか陽介……料理と言うのは戦いだ」
「絶対に負けられない戦いだからこそ、掛ける物がある!」
かなり情熱的に語っているが余計に混沌が広まるばかりである。と言うか王様ゲームでのディアの命令以降どういう訳かアスナさんが激しく悪ノリしている気がする。それかディアがそのように命令したのだろうか。いやそれはない、考えれば考えるほど謎である
「あ、そ……そうなの……」
「クマ、何か思い出した気がするクマ……」
二人の熱意に押し負けてしまった陽介と何か料理に関して苦い思い出を思い出したような表情をしているクマを他所に、本気を通り越した二人の手は進んでいく