CROSS68【氷の迷宮】
数時間前、漆黒と虚無の城の司令室に居座るシャドウレイはキリスと鳴冠とこれからの作戦について話し合っていた
「リーダー、あの二人に説得を試みたそうだな?」
「うん。我らの計画の成功には、器の協力は必要不可欠だからね」
「それで、どうだったんですか?」
「両者とも、盛大に断られましたよはい」
シャドウレイは幼い子供のように拗ねた様子を見せると、一つ溜め息を吐いた。計画を成功させる為にはリズやヒトミの協力が必要と言う事実は全員承知の上であるようで、二人が協力しないと聞いたキリスは一つ思い浮かんだ事があった
「なら、器をコントロールする方法がある」
「なんだキリス、随分自信ありありな言い方だな?」
「事実さ鳴冠。二人と親しい人物を捕らえ、抵抗出来ないようにすれば良い」
「駄目だ」
人質を取り二人をコントロールすると言う作戦にシャドウレイは反対の一言を放ち、何時も座っている椅子から立ち上がった
「キリス、確かに君の作戦を実行すれば成功するかもしれない。けど、それはいけない事だと言ったはずだ。確かに計画には犠牲は出るが、かと言って人の命を弄んでと言う訳じゃない」
シャドウレイに叱られたキリスは司令室を後にし、それを鳴冠が追い掛けるようにして部屋を出た
そして時は現在に戻り、キリスは鳴冠の助力を得てシャドウレイに反対されているにも関わらず人質として8人の内の誰かを捕らえようとしていた
「見事な物だな、この氷の迷宮は」
「これならやつらも簡単には出られないだろう。やつらが迷って途方に暮れている所を見計らい、倒して捕らえる」
キリスと鳴冠は出口で待ち構えており、完全に脱出する事は困難となった
一方その頃、俺とユイちゃんはこの氷の迷宮に現れたハートレスやシャドウを倒しつつみんなを探していた
「みんな!何処だ!?」
「パパ、ママ、陽介さん!」
「クマ!ディア!リーファ!」
出口を探せばみんないるかもしれないと踏み、出口があるであろう最下層を目指す事にした
一方キリト君はみんなを捜索中にクマと合流し、クマの嗅覚を使ってみんなの匂いを探っていた
「どうだ、クマ?」
「むーん、ここは氷の中だけど闇の匂いが強すぎて他の匂いが掴めんクマ!」
「あぁ、俺も感じる。キリスの闇の力をな……」
氷の壁に触れながら言い放ったキリト君の言葉通りここの氷はただの氷ではなく、闇の力で発生している物のようだ
上層部の方では陽介とリーファと言う珍しいとしか言い様のないコンビが敵を蹴散らしながらもみんなと合流出来ると信じ、最下層を目指していた
「大丈夫そうか、リーファちゃん?」
「はい、何とか行けそうです」
そして第2層のとある一室ではアスナさんが一人気を失っており、氷の壁が砕かれる音でやっと目が覚めた
「アス、無事か!?」
氷の壁を突き破ってやって来たのはディアだった。すぐに駆け寄って手を引き、二人は状況を確認した
「うん、ありがとう」
「あぁ。どうやらここは、キリスの産み出した迷宮のようだな」
「うん……みんな無事だと良いけど……」
「……なぁ、アス」
ディアは少し儚げに普段使っているアダ名で彼女を呼ぶと、その内に秘める想いを素直に告げた
「……俺は、お前を守りたい。それが親友としての、相棒としての役目だから」
「ディア君……」
「背中は任せるぞ、相棒」
みんなと離れ離れになった不安感はディアのその言葉によってかき消され、アスナさんは笑顔を取り戻した
「フッ、いい顔になったな」
こうして俺達は4つのグループに分けられてしまった。第3層に俺とユイちゃんが、第4層にキリト君とクマが、第5層には陽介とリーファが、そして第2層にはアスナさんとディアがそれぞれ出口を探して動き始めていた
それぞれが動き出している中やはりと言うべきか一番最下層に近いアスナさんとディアが先に出口前に辿り着き、そこに待ち構える二人に遭遇した
「ここまでたどり着いたか」
「キリス!それにお前は鳴冠!」
俺達を引き離した張本人である鳴冠はやはりキリスらと繋がっているようで、そのキリスは早速その2本の剣を引き抜いた
「やる気か!」
その刹那キリスが物凄い早さでディアに斬り掛かってきた。その攻撃速度は相当な物で、軽く音速は越えそうである。さらにそれが何度も降り注いでくる為、ディアはそれを防ぐので精一杯だった
「くっ……」
「ディア君!」
「アス、お前は下がってろ!」
「でも……」
ディアは1度決めたらどうしても通したいタイプである都合上、1度アスナさんを守りたいと決めた為に一人でキリスの相手をするようだ
「ブラックソード!」
「ノーブルディモン!」
双方の聖獣がぶつかり合い、その使用者もまた刃を交じらせる。凄まじい攻防がこの氷の世界の出口で繰り広げられており、それはこの迷宮その物を揺るがした
「今だ、鳴冠!」
「なっ!?」
その瞬間ディアはキリスが実は囮である事に気が付き、鳴冠の姿が無くなっている事を確認するとキリスの攻撃を掻い潜り急いでアスナさんの方へ向かおうとするが、その時には遅かった。鳴冠が彼女を気絶させ、捕らえていた
「アスっ!!」
「悪いな……この娘に用がある」
「おい待てっ!!」
ディアの叫びも空しく、アスナさんは鳴冠に連れ去られてしまった。後には静寂が残り、丁度その時に全員が出口前に集まった物のその様を目撃してみんな驚愕していた
「アスナっ!!」
「フッ……実に哀れだな、黒の剣士キリト」
「テメェ、アスナを浚ってどうするつもりなんだ!?」
「それを教えるやつがいると思うか?俺はこう見えても忙しいのでな、失礼させてもらおうか」
「待てっ!!」
そしてキリスもまた行方を眩まし、氷の迷宮を出るまで誰も一言も発さなかった。その中でもユイちゃんは泣きじゃくり、キリト君は何時になく暗い表情を浮かべ、リーファはその手が無意識に震えていた。そしてディアもまた、己の無力に泣いていた。その様子を俺や陽介とクマは黙って見守る事しか出来なくて悔しかった