CROSS73【悩みを乗り越えて】
――私達は、信じられないものを見た。シャドウレイ――セラを初めとした漆黒の影のリーダーであり、今回の事件の黒幕。そんな敵の主将が1ヶ月後、キーブレード使いにとっては縁の深いキーブレード墓場で戦争を挑むと言っていた。まさかとは思ったがやはりキーブレード墓場もまたこの時空に巻き込まれており、彼はそこを約束の地と称した。約束の日――否、運命の日は1ヶ月後。その日までに出来るだけ多くの仲間を集めなければならない。しかしシャドウレイは全勢力で攻めてくると言っていた。その上私を驚愕させたのはシャドウレイが私の最愛の人――レイ君にそっくりな容姿をしていると言う事だった。今彼は何処で何をしているのか、一応シャドウレイの演説から存在は確認ので少なくとも彼が暗躍している訳ではないが、この言葉にならない不安が彼のいない孤独感を拡大していく。隣を歩くクラインも流石に不安を隠しきれていないようで、ロクサスとアクアさんはより一層戦いの決意を固める等比較的プラスだった。私――クロナは正直マイナスでもないしプラスでもない、迷っているのだ。もしあのシャドウレイがレイ君と何か繋がっているとしたら、もしそうだとしたらきっと自分は壊れてしまう。
こんな悩みはすぐに誰かに話せば良いと誰もが思うだろうが、私は今まで3人の誰にも悩みを打ち明けていない。頼りにならない訳ではないが、心配をかけたくはない。仮にも自分はこの人達のリーダーなのだから。そんな私の不安に刈られた心を知るのは――
『……クロナ、何を迷っている』
ペルソナ、タナトス。元の時間軸では“死の王”として君臨するペルソナであり、この世に死と言う概念をもたらしたものの化身たる存在。しかしタナトスは本来の宿主から無理矢理引き離され、漆黒の影の駒となっていたが、戦いの末に見事に洗脳を解き私達に力を貸してくれた。その為今は聖獣ファラフェニックスとはまた別に私のペルソナとして心に宿っている為、抱えている悩みなど彼には一目瞭然だった
「……タナトス」
『お前は、漆黒の影に操られた僕を受け入れてくれた。それは何故だ?』
「それは……」
途中で言葉が詰まる。しかしタナトスはそれを決して怒らず、静かに待っている。私はそんな彼の気遣いに応じ、先程された質問に答えた
「……信じているから」
『……そう、信じているから。ならば今抱えている不安など、簡単に消えるものだろう』
「……信じる?」
『そう、レイを信じるんだ。敵に操られていた僕を信じて受け入れてくれたように、レイの事を信じ続ければ……彼はきっと大丈夫』
アルカナ“死神”とは思えないほど優しい声がこの精神世界に轟いた。あのとき私はタナトスを信じたからこそ共に戦う事を提案し、そしてタナトスもまた私を認めていた
「……ありがとう、タナトス。お陰で元気が出た」
『信じてるよ、マスター』
この戦いの間だけであるにも関わらずタナトスは宿主である私をマスターと呼び、それは彼が私を信頼している事を示していた
「……クロナ?」
「……はっ!」
眠りに落ちるのとほぼ同じ感覚に襲われるのと同時にロクサスが私の名前を呼んだお陰で目が覚め、振り向くとそこには不思議そうな顔をしているロクサスの姿があった
「大丈夫か?ずっと、ボーッとしてたけど」
「えっ?あっ……そっか」
ロクサスの言葉を私はすぐに理解出来た。何故なら先程タナトスと話をしていたのは精神世界、故に私の中その物。ある意味自分との対話だ。私が悩んでいる間、仲間達には随分と心配をかけてしまったようだ
「大丈夫なのかよ、クロナよう」
「問題ないわ。私を、誰だと思ってるのよ」
「フフッ、“常識に囚われない天然探求者(シーカー)”クロナ・アクアスさんよね?」
「ちょっ、何よそのキャッチコピーは!?」
どれだけ人は不安を抱えても、まわりを見ればこんな風に他愛ない話で盛り上がれる仲間がいる。それを何時までも、忘れないようにしよう
「うし!じゃ行くか」
「えぇ」
「待て」
改めて旅路の一歩を歩み出そうとしたその時、瞬間的に目の前に現れた黒いブラックホールのような渦状のゲートからあの日、私達をこの時空へと人物こと鳴冠が現れた
「鳴冠 悠治……!」
「単当直中に言う。お前達の中にペルソナ使いがいると言うのは、本当か?」
この男、鳴冠はタナトスがこちら側についた事をすでに知っていた。私は言葉なく頷き、鳴冠はそれを鼻で笑った
「ッフハハハ!そうか、お前か。先程からお前から感じる“死神”の力、やはりタナトス……」
その瞬間に鳴冠は何処からともなく両手剣を引き抜き、その左手には私のタナトスの物とは似て非なる紫色のカードが握られていた
「約束の地へ行く前に、見せてもらおう……ペルソナ使いとしての力を。ただし!俺の進化した力に破れる事になるだろうがな!」
「進化した力……!?」
「伊邪那岐禍津神(イザナギノマガツカミ)!!」
鳴冠の背後に現れたのは、紫色と黒色に金色を主体とした立派な装備に身を包んだ鍍金の英雄だった