旅人探し 〜アビス編〜
昔の事は、よく覚えてない。
どうしてここにいるのか、どうやって生まれたのか、何のために僕は存在しているのか・・・全てが分からなくて、全てがどうでもよかった。
ただ、そんな僕の運命を、彼女はいとも簡単に変えてくれた。
──フローリアン。この子の名前は、フローリアン。
その瞬間から、僕は僕としての一歩を踏み出すことが出来たんだ。
☆ ★ ☆
「あっ・・・」
扉の外で、話し声が少年の耳に入り込んだ。
今か今かと待ち望んでいたその幼い少女の声に、少年は早く会いたいという気持ちを抑えきれず、読みかけの本を放り出して乱暴に扉を開けた。
「アニスっ!」
「はうあ!?」
アニスと呼ばれた少女は驚いた声を上げるが少年を確認すると、特徴のあるツインテールを揺らしながらすぐに柔和な表情を浮かべる。
「久しぶり、フローリアン!良い子にしてた?」
「うんっ!」
元気な返事をするフローリアンの傍で、先ほどまでアニスと会話をしていた長身の男性が跪きながら頭を垂れた。
「導師フローリアン様。この度、我がマルクト軍は預言の管理状況、及び街の安全確認のための視察へと参りました」
「あ、ジェイドも!話は聞いてるよ。それで、何日くらいここにいるの?」
「業務が済み次第ですから、4日間ほどを予定しております」
その言葉を聞くと、フローリアンは目をキラキラと輝かせてアニスの腕を引っ張った。
「じゃあアニス、それまで遊んで!ほら、こっち!」
「へっ?ちょ、フローリアン、私も少し仕事が・・・!」
「いいじゃないですか。行ってらっしゃい、アニス」
アニスはジェイドを見やると、いつもの口元だけの笑みを浮かべていた。
「こんな機会中々ないですからね、アニスの今日の分の仕事は私が──」
「大佐ぁ・・・!」
代わりにやっておいてくれるのかとジェイドの言葉に感動しかけたその直後、メガネの奥の瞳が怪しく光りだしたのをアニスは見逃さなかった。
「──明日に上乗せ出来るようスケジュールを組み直しといてあげますから♪」
「・・・大佐のばかぁぁぁ〜〜〜〜〜〜!!」
半ば引きずられるような形で涙目のアニスはフローリアンと共に消え、それをジェイドはハンカチを振りながら笑顔で見送る。
ヴァンの引き起こした事件から2年後。
世界は再生の道を進んでいたが、プラネットストームの停止による譜業機械の停止、譜術の弱体化などの問題があり、まだまだ時間を要するようであった。
その間にフローリアンは第七音素(セブンスフォニム)の素質を買われ導師の任に就き、トリトハイムのサポートもあって何とかやっていけているようである。
本来ならば、導師とは現職の者が後任にする惑星預言の読める人物を育成し、その上でダアト式譜術を受け継がせるのだが、前導師であったイオンが急死してしまったため今回は特例中の特例という事で第七音素能力が最も高かったフローリアンが選抜された。
初め、イオンと瓜二つの人物が登場した事によってダアトの市民は不信感を抱いていたが、レプリカの存在を知ってしまった人々はフローリアンの存在を容認するのにそれほど時間はかからなかったようである。
何よりフローリアンの市民に対する優しさと無邪気さから、不満なく受け入れられていったのが一番の要因だった。
そんなフローリアンは本日ダアトにマルクトの軍が視察に来るということを耳にし、久しぶりにアニスに会えると胸を躍らせていた。
彼にとって彼女は自分に名前を、意味を与えてくれた何にも代えがたい存在であり、随分と慕っているようだ。
そして現在、アニスはフローリアンに連れて行かれて気ままな一日を過ごしていた。
何だかんだで楽しんではいたが流石に一日中アニスを拘束するわけにはいかず、夕方になる頃には解放され、明日に回される分の仕事を少しでも減らそうと自室で職務に励んでいた。
一方フローリアンも、導師としてまだまだ未熟であるため、夕食を食べて入浴を終えた後は導師の部屋で勉学に取り組んでいる最中だった。
そうこうしている内に夜も更けた頃、本の中にどうしても読めない字があったのでアニスに聞きに行こうかと部屋を出た。
「えーっと、こっちの方だったよね」
道中出会う人たちに挨拶をしながら、フローリアンは廊下をぱたぱたと走る。
やがて一つのドアの前に辿り着き、ノックをしてからそーっと扉を押し開けた。
「アニスー・・・?」
アニスは両親と同じ部屋に住んでいるが今は両親はおらず、アニスだけが一人で机に突っ伏している状態でいた。
「すーっ、すーっ・・・」
「(寝てる・・・のかな?)」
恐らく昼間に遊んでいたせいもあってか、業務の途中で疲れて眠ってしまったのだろう。
とりあえず起こさないように近くにある毛布でも掛けてあげようと近寄ると、フローリアンはアニスの目から涙が流れているのに気付いた。
「えっ、アニス・・・?」
「イオン様・・・ごめん、なさい・・・」
「・・・っ!」
何故だろうか、その‘イオン’という単語を耳にすると言いようのない不安を覚え、気が付くとフローリアンは夢中で走りだし、息を荒げながら自室へと戻っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・!」
力なくフローリアンはうな垂れ、扉の前に座りこむ。
「(イオンって、確か僕のひとつ前の導師だった人・・・だよね?それだけのはずなのに、どうして僕はこんなに・・・)」
イオンに関する情報は、あらかじめトリトハイムが全て削除していた。
世間一般にはイオンは病気で死んだということにされていて、真実を伝えてしまえば市民がそれをどう受け取るか分からなかったからであった。
そして同じレプリカであるフローリアンにも何も教えない方がいいだろうと、イオンとはただ前の導師だった人という情報しか与えなかった。
「イオンって人のこと、何か無いかな」
気になるという衝動に駆られてフローリアンは導師の部屋を片っ端から漁り始める。
しばらく探し続けるもそう簡単に見つかるはずがなく、この部屋は諦めようかという時に、フローリアンは床にある不自然な跡が目に付いた。
「ふぅ・・・あれ?何だろう、この切れ目・・・」
不思議に思って適当にスライドしていると、カチッという音がし、床の下から先端が音叉の形をした杖と、一冊の本が隠されていた。
フローリアンは心臓が早く脈打つのを感じながら、本の方を手に取ってペラリとページをめくると、そこにはこう書かれていた。
『ND2018・シルフデーカン・ルナ・15の日。ルークに触発されて日記というものを始めてみました。これからこの日記がどう綴られてゆくのか、凄く楽しみです。』
どうやら、これはそのイオンという人の日記のようである。
内容を見るとイオンはルークやアニス達と一緒に旅をしていたのかとフローリアンは知り、皆と一緒の毎日が本当に楽しそうに書かれていて、イオンをとても羨ましく思った。
順々にページをめくっていくと、日記の日付が大分飛んでいたページが多々あった。
イオンはよく連れ去られたり監禁される事が多かったようで、中々日記を書く機会が無さそうな感じも日記の中身から伺える。
そろそろ日記も終盤に差し掛かった所、驚くような内容がそこには書かれていた。
『ND2019・ノームリデーカン・レム・28の日。近々、僕は死ぬことになるでしょう。でも、それが一番いい。僕が死ぬ事でアニスも解放されるだろうし、ティアの体にたまった障気も受け取れる。・・・きっと、日記を書くのもこれが最後。だからせめてもの思い出として、旅をしていた時に使っていた杖と、この日記を残します。こんな事を書くと、またルークに怒られてしまうかもしれませんけど・・・それでも、皆さんと一緒にいられて本当に楽しかった。僕は、僕自身の望みで死を受け入れます。ルーク、ティア、ガイ、ジェイド、ナタリア・・・そして、アニス。今まで、ありがとうございました。皆さんの未来が良きものとなりますよう。』
日記は、そこで終わっていた。
「そっか・・・そう、だったんだね・・・」
日記の中にはフローリアンの知りたかった事が全て書かれていた。
「アニスは、謝りながら泣いてた・・・きっと、この人の事、大切に思ってるんだよね」
何故だかチクリと胸が痛む思いがすると同時に、フローリアンは思わず持っていた日記を落としてしまう。
慌てて拾おうとすると、視界の端からスラリと長い腕が伸びてきて日記を持っていかれてしまい、付着したホコリを軽く払ってからフローリアンへと返された。
「おやおや、大丈夫ですか?・・・はい、どうぞ」
目の前には、白と黒の衣服を身にまとった見知らぬ人物。
それに対しフローリアンは何の警戒も無しに渡された本を受け取る。
「ありがとう!・・・ところで、おじさん誰?」
「ふふ、初めましてフローリアン様。私、名をサイグローグと申します」
サイグローグと名乗った人物が深々とお辞儀をすると、まるで品定めをするかのような瞳でフローリアンを見つめた。
「・・・何やら浮かない顔つきですね、一体どうなされましたか?宜しければ相談に乗りますよ」
「うん、実はね──」
フローリアンは今日知った出来事をつらつらと述べていき、そして最後にため息交じりに思いの丈を伝える。
「だから、そのイオンって人とアニスをもう一度会わしてあげたいんだけど・・・どうすればいいかな?」
「ふむ、なるほど・・・そういう事でしたら、私が何とかしてあげられるかもしれませんよ」
悪魔のような本性を隠しながら、サイグローグはフローリアンに微笑みかけていた。
「ホントにっ!?」
「ええ、もちろん。ただ、それにはフローリアン様のご助力が必要となってしまいますが・・・それも、少々危険な・・・ね」
サイグローグの先ほどまでとは打って変わったような真剣な表情に、フローリアンは息を呑んだ。
そのお手伝いが本当に危険なものだという事がサイグローグから発せられる雰囲気からひしひしと感じ取られたが、負けじとその幼い眼で見つめ返す。
「だい、じょうぶだよ・・・僕は、生きる力をくれたアニスに恩返しがしたいから!」
「ふふ、その屈託のない純潔さに感謝いたします」
お辞儀をし終えた後、サイグローグは指を鳴らして禍々しい見た目の扉を部屋の中に出現させた。
「フローリアン様は今からこの扉をくぐり、その先にある別世界から8つの宝石を、イオン様を復活させるため集めていただきます」
「宝石って、あのキラキラした石のこと?」
「はい。それも特別な宝石です。その世界には魔物もたくさん蔓延(はびこ)っておりますので、フローリアン様はそこにある杖を使って戦うのが良いかと思われます」
そう言われ、フローリアンはイオンの遺品である音叉の杖を持ち上げた。
すると、何だかこの杖を初めて手にしたような感じがせず、とても懐かしく、自分の手に馴染むような感覚があった。
「(何だろう、この杖。すごく温かいや・・・)」
感傷に浸っているフローリアンはハッと我に返り、サイグローグを見上げる。
「そういえば、僕、術は使ったことあるけど戦ったことはないよ?」
「ふふ、その点につきましてはご安心を。宝石を集めるにあたって、フローリアン様には同じ目的を持った七人のお仲間がおります。その方達と協力をし、戦い方も少しずつ学んで行くと良いでしょう。それも、一つの試練ですよ」
「うーん、そっか・・・うん!ぼく頑張る!」
勇気凛々といったような目をさせたフローリアンを尻目に、サイグローグはゆっくりと扉を開けてその先へと誘った。
「では、フローリアン様。この先へと、どうぞお進み下さいませ」
お辞儀をするサイグローグに向かってフローリアンはうなずき、意を決して目の前にある闇の空間へと一歩を踏み出す。
その様子は、どこか落ち着いているようであった。
「(待っててね、アニス。アニスの不安なものは、僕が全部追い払ってあげるから!)」
フローリアンが渡り切ったのを確認すると、サイグローグは扉を閉じ、先ほどとは違う扉を出現させる。
「・・・無垢というのは怖いものですね。彼を復活させるという事がどういうことなのかを全く理解していない」
今後の展開がどうなるのかを頭の中で予想しつつ、サイグローグは含み笑いをし、扉の中へと歩み出した。
「まぁ何にせよ、これで旅人集めもようやく終わりましたね・・・さぁ、始めましょうか。小さな小さな、一つの物語を」
どうしてここにいるのか、どうやって生まれたのか、何のために僕は存在しているのか・・・全てが分からなくて、全てがどうでもよかった。
ただ、そんな僕の運命を、彼女はいとも簡単に変えてくれた。
──フローリアン。この子の名前は、フローリアン。
その瞬間から、僕は僕としての一歩を踏み出すことが出来たんだ。
☆ ★ ☆
「あっ・・・」
扉の外で、話し声が少年の耳に入り込んだ。
今か今かと待ち望んでいたその幼い少女の声に、少年は早く会いたいという気持ちを抑えきれず、読みかけの本を放り出して乱暴に扉を開けた。
「アニスっ!」
「はうあ!?」
アニスと呼ばれた少女は驚いた声を上げるが少年を確認すると、特徴のあるツインテールを揺らしながらすぐに柔和な表情を浮かべる。
「久しぶり、フローリアン!良い子にしてた?」
「うんっ!」
元気な返事をするフローリアンの傍で、先ほどまでアニスと会話をしていた長身の男性が跪きながら頭を垂れた。
「導師フローリアン様。この度、我がマルクト軍は預言の管理状況、及び街の安全確認のための視察へと参りました」
「あ、ジェイドも!話は聞いてるよ。それで、何日くらいここにいるの?」
「業務が済み次第ですから、4日間ほどを予定しております」
その言葉を聞くと、フローリアンは目をキラキラと輝かせてアニスの腕を引っ張った。
「じゃあアニス、それまで遊んで!ほら、こっち!」
「へっ?ちょ、フローリアン、私も少し仕事が・・・!」
「いいじゃないですか。行ってらっしゃい、アニス」
アニスはジェイドを見やると、いつもの口元だけの笑みを浮かべていた。
「こんな機会中々ないですからね、アニスの今日の分の仕事は私が──」
「大佐ぁ・・・!」
代わりにやっておいてくれるのかとジェイドの言葉に感動しかけたその直後、メガネの奥の瞳が怪しく光りだしたのをアニスは見逃さなかった。
「──明日に上乗せ出来るようスケジュールを組み直しといてあげますから♪」
「・・・大佐のばかぁぁぁ〜〜〜〜〜〜!!」
半ば引きずられるような形で涙目のアニスはフローリアンと共に消え、それをジェイドはハンカチを振りながら笑顔で見送る。
ヴァンの引き起こした事件から2年後。
世界は再生の道を進んでいたが、プラネットストームの停止による譜業機械の停止、譜術の弱体化などの問題があり、まだまだ時間を要するようであった。
その間にフローリアンは第七音素(セブンスフォニム)の素質を買われ導師の任に就き、トリトハイムのサポートもあって何とかやっていけているようである。
本来ならば、導師とは現職の者が後任にする惑星預言の読める人物を育成し、その上でダアト式譜術を受け継がせるのだが、前導師であったイオンが急死してしまったため今回は特例中の特例という事で第七音素能力が最も高かったフローリアンが選抜された。
初め、イオンと瓜二つの人物が登場した事によってダアトの市民は不信感を抱いていたが、レプリカの存在を知ってしまった人々はフローリアンの存在を容認するのにそれほど時間はかからなかったようである。
何よりフローリアンの市民に対する優しさと無邪気さから、不満なく受け入れられていったのが一番の要因だった。
そんなフローリアンは本日ダアトにマルクトの軍が視察に来るということを耳にし、久しぶりにアニスに会えると胸を躍らせていた。
彼にとって彼女は自分に名前を、意味を与えてくれた何にも代えがたい存在であり、随分と慕っているようだ。
そして現在、アニスはフローリアンに連れて行かれて気ままな一日を過ごしていた。
何だかんだで楽しんではいたが流石に一日中アニスを拘束するわけにはいかず、夕方になる頃には解放され、明日に回される分の仕事を少しでも減らそうと自室で職務に励んでいた。
一方フローリアンも、導師としてまだまだ未熟であるため、夕食を食べて入浴を終えた後は導師の部屋で勉学に取り組んでいる最中だった。
そうこうしている内に夜も更けた頃、本の中にどうしても読めない字があったのでアニスに聞きに行こうかと部屋を出た。
「えーっと、こっちの方だったよね」
道中出会う人たちに挨拶をしながら、フローリアンは廊下をぱたぱたと走る。
やがて一つのドアの前に辿り着き、ノックをしてからそーっと扉を押し開けた。
「アニスー・・・?」
アニスは両親と同じ部屋に住んでいるが今は両親はおらず、アニスだけが一人で机に突っ伏している状態でいた。
「すーっ、すーっ・・・」
「(寝てる・・・のかな?)」
恐らく昼間に遊んでいたせいもあってか、業務の途中で疲れて眠ってしまったのだろう。
とりあえず起こさないように近くにある毛布でも掛けてあげようと近寄ると、フローリアンはアニスの目から涙が流れているのに気付いた。
「えっ、アニス・・・?」
「イオン様・・・ごめん、なさい・・・」
「・・・っ!」
何故だろうか、その‘イオン’という単語を耳にすると言いようのない不安を覚え、気が付くとフローリアンは夢中で走りだし、息を荒げながら自室へと戻っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・!」
力なくフローリアンはうな垂れ、扉の前に座りこむ。
「(イオンって、確か僕のひとつ前の導師だった人・・・だよね?それだけのはずなのに、どうして僕はこんなに・・・)」
イオンに関する情報は、あらかじめトリトハイムが全て削除していた。
世間一般にはイオンは病気で死んだということにされていて、真実を伝えてしまえば市民がそれをどう受け取るか分からなかったからであった。
そして同じレプリカであるフローリアンにも何も教えない方がいいだろうと、イオンとはただ前の導師だった人という情報しか与えなかった。
「イオンって人のこと、何か無いかな」
気になるという衝動に駆られてフローリアンは導師の部屋を片っ端から漁り始める。
しばらく探し続けるもそう簡単に見つかるはずがなく、この部屋は諦めようかという時に、フローリアンは床にある不自然な跡が目に付いた。
「ふぅ・・・あれ?何だろう、この切れ目・・・」
不思議に思って適当にスライドしていると、カチッという音がし、床の下から先端が音叉の形をした杖と、一冊の本が隠されていた。
フローリアンは心臓が早く脈打つのを感じながら、本の方を手に取ってペラリとページをめくると、そこにはこう書かれていた。
『ND2018・シルフデーカン・ルナ・15の日。ルークに触発されて日記というものを始めてみました。これからこの日記がどう綴られてゆくのか、凄く楽しみです。』
どうやら、これはそのイオンという人の日記のようである。
内容を見るとイオンはルークやアニス達と一緒に旅をしていたのかとフローリアンは知り、皆と一緒の毎日が本当に楽しそうに書かれていて、イオンをとても羨ましく思った。
順々にページをめくっていくと、日記の日付が大分飛んでいたページが多々あった。
イオンはよく連れ去られたり監禁される事が多かったようで、中々日記を書く機会が無さそうな感じも日記の中身から伺える。
そろそろ日記も終盤に差し掛かった所、驚くような内容がそこには書かれていた。
『ND2019・ノームリデーカン・レム・28の日。近々、僕は死ぬことになるでしょう。でも、それが一番いい。僕が死ぬ事でアニスも解放されるだろうし、ティアの体にたまった障気も受け取れる。・・・きっと、日記を書くのもこれが最後。だからせめてもの思い出として、旅をしていた時に使っていた杖と、この日記を残します。こんな事を書くと、またルークに怒られてしまうかもしれませんけど・・・それでも、皆さんと一緒にいられて本当に楽しかった。僕は、僕自身の望みで死を受け入れます。ルーク、ティア、ガイ、ジェイド、ナタリア・・・そして、アニス。今まで、ありがとうございました。皆さんの未来が良きものとなりますよう。』
日記は、そこで終わっていた。
「そっか・・・そう、だったんだね・・・」
日記の中にはフローリアンの知りたかった事が全て書かれていた。
「アニスは、謝りながら泣いてた・・・きっと、この人の事、大切に思ってるんだよね」
何故だかチクリと胸が痛む思いがすると同時に、フローリアンは思わず持っていた日記を落としてしまう。
慌てて拾おうとすると、視界の端からスラリと長い腕が伸びてきて日記を持っていかれてしまい、付着したホコリを軽く払ってからフローリアンへと返された。
「おやおや、大丈夫ですか?・・・はい、どうぞ」
目の前には、白と黒の衣服を身にまとった見知らぬ人物。
それに対しフローリアンは何の警戒も無しに渡された本を受け取る。
「ありがとう!・・・ところで、おじさん誰?」
「ふふ、初めましてフローリアン様。私、名をサイグローグと申します」
サイグローグと名乗った人物が深々とお辞儀をすると、まるで品定めをするかのような瞳でフローリアンを見つめた。
「・・・何やら浮かない顔つきですね、一体どうなされましたか?宜しければ相談に乗りますよ」
「うん、実はね──」
フローリアンは今日知った出来事をつらつらと述べていき、そして最後にため息交じりに思いの丈を伝える。
「だから、そのイオンって人とアニスをもう一度会わしてあげたいんだけど・・・どうすればいいかな?」
「ふむ、なるほど・・・そういう事でしたら、私が何とかしてあげられるかもしれませんよ」
悪魔のような本性を隠しながら、サイグローグはフローリアンに微笑みかけていた。
「ホントにっ!?」
「ええ、もちろん。ただ、それにはフローリアン様のご助力が必要となってしまいますが・・・それも、少々危険な・・・ね」
サイグローグの先ほどまでとは打って変わったような真剣な表情に、フローリアンは息を呑んだ。
そのお手伝いが本当に危険なものだという事がサイグローグから発せられる雰囲気からひしひしと感じ取られたが、負けじとその幼い眼で見つめ返す。
「だい、じょうぶだよ・・・僕は、生きる力をくれたアニスに恩返しがしたいから!」
「ふふ、その屈託のない純潔さに感謝いたします」
お辞儀をし終えた後、サイグローグは指を鳴らして禍々しい見た目の扉を部屋の中に出現させた。
「フローリアン様は今からこの扉をくぐり、その先にある別世界から8つの宝石を、イオン様を復活させるため集めていただきます」
「宝石って、あのキラキラした石のこと?」
「はい。それも特別な宝石です。その世界には魔物もたくさん蔓延(はびこ)っておりますので、フローリアン様はそこにある杖を使って戦うのが良いかと思われます」
そう言われ、フローリアンはイオンの遺品である音叉の杖を持ち上げた。
すると、何だかこの杖を初めて手にしたような感じがせず、とても懐かしく、自分の手に馴染むような感覚があった。
「(何だろう、この杖。すごく温かいや・・・)」
感傷に浸っているフローリアンはハッと我に返り、サイグローグを見上げる。
「そういえば、僕、術は使ったことあるけど戦ったことはないよ?」
「ふふ、その点につきましてはご安心を。宝石を集めるにあたって、フローリアン様には同じ目的を持った七人のお仲間がおります。その方達と協力をし、戦い方も少しずつ学んで行くと良いでしょう。それも、一つの試練ですよ」
「うーん、そっか・・・うん!ぼく頑張る!」
勇気凛々といったような目をさせたフローリアンを尻目に、サイグローグはゆっくりと扉を開けてその先へと誘った。
「では、フローリアン様。この先へと、どうぞお進み下さいませ」
お辞儀をするサイグローグに向かってフローリアンはうなずき、意を決して目の前にある闇の空間へと一歩を踏み出す。
その様子は、どこか落ち着いているようであった。
「(待っててね、アニス。アニスの不安なものは、僕が全部追い払ってあげるから!)」
フローリアンが渡り切ったのを確認すると、サイグローグは扉を閉じ、先ほどとは違う扉を出現させる。
「・・・無垢というのは怖いものですね。彼を復活させるという事がどういうことなのかを全く理解していない」
今後の展開がどうなるのかを頭の中で予想しつつ、サイグローグは含み笑いをし、扉の中へと歩み出した。
「まぁ何にせよ、これで旅人集めもようやく終わりましたね・・・さぁ、始めましょうか。小さな小さな、一つの物語を」
■作者メッセージ
2年の歳月を経て、ようやく帰ってきましたペッパーです・・・。
いやはや、最早何の申し開きもございませんね(泣
しかしこれだけ長い間この小説を放置してしまって本当にすみませんでした;
お待たせしてしまいましたが、この小説の8人目の主人公フローリアン君。ようやくお目見えです!
今後からは8人のプロフィールと共にようやく本編へと入っていけます!
そして何やら私が失踪している間に感想の欄にコメントされた方がいらっしゃるではないですか!
ライズさん、評価ありがとうございます!
こんないつ終わるのかも分からない小説ですが何卒長い目で見てやってください;;
次からはなるべくなら早い更新を心掛けたいなぁ・・・週一ぐらいとか。
今は夏休み中だからいいけどそれが終わったら難しいかなぁ・・・。
でも、とにかく頑張ってみます!
ではでは、ペッパーでした!
いやはや、最早何の申し開きもございませんね(泣
しかしこれだけ長い間この小説を放置してしまって本当にすみませんでした;
お待たせしてしまいましたが、この小説の8人目の主人公フローリアン君。ようやくお目見えです!
今後からは8人のプロフィールと共にようやく本編へと入っていけます!
そして何やら私が失踪している間に感想の欄にコメントされた方がいらっしゃるではないですか!
ライズさん、評価ありがとうございます!
こんないつ終わるのかも分からない小説ですが何卒長い目で見てやってください;;
次からはなるべくなら早い更新を心掛けたいなぁ・・・週一ぐらいとか。
今は夏休み中だからいいけどそれが終わったら難しいかなぁ・・・。
でも、とにかく頑張ってみます!
ではでは、ペッパーでした!