旅人探し 〜レジェンディア編〜
「さぁみんな、着いたわよ!」
ハリエットは両手をいっぱいに広げながら、皆の方へと振り返った。
今日は待ちに待ったピクニックの日だ。シュヴァルツの一件以来、仲間はそれぞれの為すべきことをするために散り散りになり、今日のように全員一緒に集まれる日はあまり無かったのである。
こんな風に集まれる日は決まって皆でピクニックをし、改めて親睦を深めあったり近況報告などをしたりしているのだ。
そして今日のピクニックの場所は、ここだけにしか咲かないと言われている特別な花が咲く丘の上だった。
そこはハリエットの父であるウィル・レイナードと、今は亡きハリエットの母アメリア・キャンベルの思い出の場所でもある。
「俺も久しぶりに来てみたけど、やっぱりここの景色は壮観だな」
「とっても綺麗だね、お兄ちゃん」
セネルは丘の端の方まで歩き、花だけでなくそこから見渡せる青々とした広大な海を眺め、それにシャーリィも付き添ってセネルの思いに共感している。
そんなロマンチックな風景を台無しにするかのように、一人の男性の腹からグゥ〜と大きな唸り声が上がった。
音の発信源である人物を横目で見ながら、小さな少年が口を開く。
「・・・モーゼスさん、風情って言葉知ってますか?」
「そ、そうは言ってものうジェー坊・・・もう昼時じゃし腹が減るのも仕方ないじゃろう?」
昔と変わらないやり取りをするジェイとモーゼスを見て、ウィルはため息を吐きながらクロエとノーマに声をかけた。
「全く、しょうのない奴だ・・・クロエ、ノーマ。すまんがマットを敷くのを手伝ってくれ」
「了解だ」
「あいよー」
3人で協力しながら大きめのマットを芝生の上に敷き、8人でぐるりと円になるように座ってバスケットの中から様々な種類のパンを取り出した。
これはシャーリィとクロエとハリエットが朝早くから用意してくれたもので、それに感謝しつつ皆それぞれ好きなパンを口に運ぶ。
「くぅぅ〜、うまっ!このメロンパン生地がサクサクだよぉ〜!」
「やっぱりあんパンは粒あんに限りますね・・・」
「ねぇ、おいしい?パパ」
「ああ・・・上手いぞ」
ノーマとジェイがおいしそうにパンをほおばっている中、ウィルはハリエットの作ったサンドイッチを難しい表情で食べ続けていた。
ハリエットは料理が下手なのだが、皆が気遣いからその事実を言わないので未だに自覚していない。
そして、実の父親の発言に満足したハリエットは、先ほどお腹を空かせた発言をしたモーゼスに自作のパンを数個手渡す。
「はい、モーゼス君。お腹すいてるんでしょ?ハティのパン、いっぱい食べていいからね!」
「お、おぉう・・・あ、ありがとのう・・・」
何とも形容しがたいパンを両手で持ち、モーゼスは頬をヒクつかせながら見つめている。
ハリエットのにこにことした笑顔を見ていると‘これ何パン?’とは聞きづらく、食べずに済むような言い訳を考えようとしたが、ウィルがこちらを凄い目つきで睨んでくるので、それも出来なかった。
「(えぇーい!なるようにならんかい!)」
とうとうモーゼスは観念し、バクッと大口でハリエットのパンを平らげてそのままゴクンと飲み込んだ。
すると、見る見るうちにモーゼスの顔が青ざめていき、たまらずモーゼスは立ち上がってその場を走り去っていってしまった。
「ヒョオオオォォォォォォオオオオオ!!」
「もー、慌てて食べなくてもいいのに」
「(哀れだ、モーゼス・・・)」
全員での食事を楽しんだ後はしばらく景色を眺めたり、そこらにある草花で冠を作ったり、ちょっとしたゲームや日なたでの読書をしながら過ごしていった。
そうして、いつのまにか辺りも暗くなり、それぞれの帰る場所へと別れていき、ウィルとハリエットも自分たちの家の帰路についていた。
「パパ、今日は楽しかったね!」
「ああ、そうだな」
「あ、でも・・・」
笑顔で後ろ向きに歩いているハリエットだったが、急に何かを思い出したかのように顔をうつむかせると、不思議に思ったウィルは‘どうした?’と尋ねる。
「ママもいたら・・・もっと、楽しかったのかな・・・」
「ハリエット・・・」
はっ、とハリエットは顔を上げると、ウィルを困らせてしまった事に気付き、慌てて話題を変えようとした。
「あっ、そ、それよりもね、パパ。これ、見て見て!」
「な、なんだ・・・?」
ハリエットはウィルの手を引っ張って家の庭まで連れて行く。
そこには小さめの木の板が立てかけられており、それと向き合うようにハリエットは立ち、腰に手を当てながらウィルに顔だけ向けた。
「今からハティがすっごいの見せてあげる」
そう言うと、ハリエットは正面にある木の板に向けて手をかざし、目を閉じて神経を集中させると、突如ハリエットの爪が光りだした。
「なにっ!?それは・・・!」
「──ファイアボール!」
空中から3つの火炎弾が出現し、それらが次々と標的である木の板を襲い、火が止むころには黒焦げになっていた。
ウィルは目を見開き、驚きを隠せない表情でいる。威力こそ小さいものの、今のは間違いなくファイアボールだった。
「ハリエット、お前いつのまにブレス系の爪術を・・・!」
「うん、なんかね、空が真っ暗になって変な人が街中に出てきた時があって、その時に急にハティや街の人たちの爪が光りだしたの。それで変な人が消えて、それ以来皆の爪の光も消えちゃったんだけど、ハティだけこうやってたまに爪が光ったりする事があるんだ」
「あの時か・・・だが、まさかそれが原因で爪術に目覚めるとは・・・」
あの時、シュヴァルツとの最終決戦時に、シュヴァルツは自らの力を増幅させるため街の人たちを自分の分身に襲わせて恐怖を煽ろうという行動に出たが、先ほどハリエットが説明したようにそれは失敗に終わった。
今まで爪術を使えなかった者がふとしたきっかけで目覚めるという事例は過去にいくつかあるが、まさかこのような形で遭遇しようとは、とウィルは思った。
「はい、これでお終い。家の中に入ろ?」
「あ、ああ。そうだな」
とウィルが言うと、二人は家へと入り、夕食の準備へと取り掛かった。
ハリエットの作った夕食を食べ終えると、食休みとしてウィルはリビングで考古学の本を読み、ハリエットは自室のベッドの上でぬいぐるみを抱きながらボーっとしていた。
「(それにしても、今日はホントに楽しかったなぁ。クロエやジェイ君とも久しぶりにおしゃべり出来たし、パパには爪術を褒めてもらったし)」
そう思いながら、ハリエットはごろんと横になる。
そして、ぬいぐるみに顔をうずめながら、家の前でウィルに言ってしまった言葉を思い出していた。
‘ママもいたら・・・もっと、楽しかったのかな・・・’この言葉が、ハリエットの頭の中で反芻(はんすう)していた。
「(でもやっぱり・・・やっぱりね、ハティは・・・ハティは・・・!)」
無意識に涙が出てしまいそうになるが、ハリエットはぐっと堪える。こんな思い、実の父であるウィルが嫌というほど経験したはずだ。
父親と和解して今自分は十分なほど幸せな生活を送っているし、これ以上を望むのはぜいたくだと、そう自分に言い聞かせた。
だがそんな時、頭上からねばりつくような囁きがハリエットを襲う。
「子供が悩みを抱え込んでしまう世の中・・・いや、嘆かわしいことです」
「えっ?」
顔を上げると、そこには白と黒の衣装で飾られた道化師がにっこりとほほ笑みを浮かべながらハリエットを優しく見下ろしていた。
「あなた、だぁれ・・・?」
突然登場した人物にとまどいを隠せないでいると、サイグローグはすかさず深々とお辞儀をする。
「Bonsoir、ハリエット様。私、サイグローグと申します・・・お悩みのあなた様のためにやってきた不思議な不思議な魔法使いですよ」
「魔法使い?」
思わずハリエットが尋ねると、サイグローグは満足げにうなずいた。
「たとえば・・・ほらっ」
「わっ!」
片手に持っていた杖で右の握りこぶしを二回ほど小突き、それから手を開くとポンッと可愛らしい小さなぬいぐるみが飛び出した。
そのぬいぐるみを大事そうに両手で抱えると、サイグローグは驚きの眼で見つめているハリエットに差し出した。
「くれるの?」
「私は人形が大好きでしてね、私の館には同じようなのがたくさん飾ってあるのですよ。それはお近づきの印です」
「わぁ、ありがとう!ねぇねぇ、他には何ができるの?」
「ふふ、そうですね・・・では──」
と、好奇心に満ち満ちたハリエットにサイグローグは次々と奇術を見せつける。
部屋の端から端まで瞬間移動したり、先ほど手渡したぬいぐるみを違う種類のものに変えてみせたり、はたまたわざと失敗して笑わせてみたりと、ハリエットはサイグローグの織り成すおかしな光景にすっかり虜となっていた。
一通り披露すると、不意にハリエットがサイグローグに話しかけてきた。
「・・・ねぇ、魔法使いくんは何でもできるの?」
「限界はありますが、ある程度でしたら・・・急にどうされたのですか」
サイグローグが奇術のために出した小道具を片っ端から片づけていると、ハリエットはうつむきながら答える。
「じゃあさ・・・死んじゃったハティのママに会うことって、できる?」
「ほう、死んでしまわれたお母様に・・・ね。ええ、可能ではありますよ」
「ほ、ホントに!?」
ハリエットの瞳がこれまでの中で一番強く輝くと、サイグローグは‘ただ・・・’と希望の言葉に付け加えた。
「ハリエット様、私からも一つお願いです。これから私の開く扉で異世界へと旅立ち、そこで特別な宝石を8つ集めては頂けませんか?私はどうしてもそれが欲しいのです」
「宝石?それを集めてくれば、ママと会わせてくれるの?」
「ですが、その世界にも魔物ははびこっています。とても危険な旅路となりますよ・・・?」
「う・・・」
サイグローグは脅し気味でハリエットに問いかけると、それにハリエットは少々身を強張らせた。
爪術を手にしたとはいえ、実際に魔物と対峙した経験はハリエットにはまだ無かったので、サイグローグの提案には正直怖いという気持ちを感じていた。
だがハリエットは本能的にこの機会を逃したらもう二度と無いと思っていたし、そして何より、ウィルのあんな顔はもう見たくはなかった。
一体どれだけ妻の事でウィルは思い悩んだだろうか。そんな父の助けになりたいと願うも、何もできない自分に歯がゆい思いをしたこともある。
ママに会いたい、ママに会わせたいという日々の記憶と共に、また親子三人で笑いあえたら・・・という感情がハリエットの頭の中で渦巻く。
「それでも、ハティはママに会いたい。それでいっぱいいっぱい褒めてもらうんだから!」
「ふふ、その純真無垢な自己顕示に感謝いたします」
お辞儀をし終えたサイグローグは懐からバスケットボールより少し小さめなくらいの大きさの水晶を取り出し、それをハリエットに渡した。
「なぁに、これ?」
「それはささやきの水晶と似たようなものでして・・・試しに爪術をその水晶に注ぎ込んでみて下さい」
「こ、こう?・・・きゃっ!」
ハリエットが爪術を送ると水晶が淡く輝きだし、そこから一つの球体が出現した。
それは宙に浮いていて、機械で出来ていそうな見た目に丸い核みたいな物が取り付けられているという至ってシンプルなものだった。
その球体の端っこに書かれているロゴのようなものに、思わずハリエットの目がいった。
「B,i,t・・・?この子、ビット君っていうの?」
「はい。ビットはあなた様が念じたままに動き、指令を送れば威力は低めですがその核から光線が発射されます。旅の仲間はハリエット様以外にも七人おりますが、そのビットも必ずやあなた様の助けとなるでしょう」
「ふーん・・・よろしくね、ビット君!」
しばらくするとビットは消えてしまい、それを確認したサイグローグは時空の扉をハリエットの目の前に出現させ、重苦しい取っ手を手前に引いて少女を奥へと誘った。
「さぁ、どうぞハリエット様・・・」
「(パパ・・・ハティ行ってくるね。必ず、ママを連れて帰ってくるから・・・)」
その光景に圧巻されてしまいそうだったが、ハリエットはごくりと息を呑み、勇気を振り絞って始めの一歩を踏み出した。
そして、ハリエットが通り終わると扉は独りでに動きだし、重い音を響かせながら堅く閉ざされる。
「さて、これで後一人・・・ふふ、全ては我らの願いのために・・・」
ハリエットは両手をいっぱいに広げながら、皆の方へと振り返った。
今日は待ちに待ったピクニックの日だ。シュヴァルツの一件以来、仲間はそれぞれの為すべきことをするために散り散りになり、今日のように全員一緒に集まれる日はあまり無かったのである。
こんな風に集まれる日は決まって皆でピクニックをし、改めて親睦を深めあったり近況報告などをしたりしているのだ。
そして今日のピクニックの場所は、ここだけにしか咲かないと言われている特別な花が咲く丘の上だった。
そこはハリエットの父であるウィル・レイナードと、今は亡きハリエットの母アメリア・キャンベルの思い出の場所でもある。
「俺も久しぶりに来てみたけど、やっぱりここの景色は壮観だな」
「とっても綺麗だね、お兄ちゃん」
セネルは丘の端の方まで歩き、花だけでなくそこから見渡せる青々とした広大な海を眺め、それにシャーリィも付き添ってセネルの思いに共感している。
そんなロマンチックな風景を台無しにするかのように、一人の男性の腹からグゥ〜と大きな唸り声が上がった。
音の発信源である人物を横目で見ながら、小さな少年が口を開く。
「・・・モーゼスさん、風情って言葉知ってますか?」
「そ、そうは言ってものうジェー坊・・・もう昼時じゃし腹が減るのも仕方ないじゃろう?」
昔と変わらないやり取りをするジェイとモーゼスを見て、ウィルはため息を吐きながらクロエとノーマに声をかけた。
「全く、しょうのない奴だ・・・クロエ、ノーマ。すまんがマットを敷くのを手伝ってくれ」
「了解だ」
「あいよー」
3人で協力しながら大きめのマットを芝生の上に敷き、8人でぐるりと円になるように座ってバスケットの中から様々な種類のパンを取り出した。
これはシャーリィとクロエとハリエットが朝早くから用意してくれたもので、それに感謝しつつ皆それぞれ好きなパンを口に運ぶ。
「くぅぅ〜、うまっ!このメロンパン生地がサクサクだよぉ〜!」
「やっぱりあんパンは粒あんに限りますね・・・」
「ねぇ、おいしい?パパ」
「ああ・・・上手いぞ」
ノーマとジェイがおいしそうにパンをほおばっている中、ウィルはハリエットの作ったサンドイッチを難しい表情で食べ続けていた。
ハリエットは料理が下手なのだが、皆が気遣いからその事実を言わないので未だに自覚していない。
そして、実の父親の発言に満足したハリエットは、先ほどお腹を空かせた発言をしたモーゼスに自作のパンを数個手渡す。
「はい、モーゼス君。お腹すいてるんでしょ?ハティのパン、いっぱい食べていいからね!」
「お、おぉう・・・あ、ありがとのう・・・」
何とも形容しがたいパンを両手で持ち、モーゼスは頬をヒクつかせながら見つめている。
ハリエットのにこにことした笑顔を見ていると‘これ何パン?’とは聞きづらく、食べずに済むような言い訳を考えようとしたが、ウィルがこちらを凄い目つきで睨んでくるので、それも出来なかった。
「(えぇーい!なるようにならんかい!)」
とうとうモーゼスは観念し、バクッと大口でハリエットのパンを平らげてそのままゴクンと飲み込んだ。
すると、見る見るうちにモーゼスの顔が青ざめていき、たまらずモーゼスは立ち上がってその場を走り去っていってしまった。
「ヒョオオオォォォォォォオオオオオ!!」
「もー、慌てて食べなくてもいいのに」
「(哀れだ、モーゼス・・・)」
全員での食事を楽しんだ後はしばらく景色を眺めたり、そこらにある草花で冠を作ったり、ちょっとしたゲームや日なたでの読書をしながら過ごしていった。
そうして、いつのまにか辺りも暗くなり、それぞれの帰る場所へと別れていき、ウィルとハリエットも自分たちの家の帰路についていた。
「パパ、今日は楽しかったね!」
「ああ、そうだな」
「あ、でも・・・」
笑顔で後ろ向きに歩いているハリエットだったが、急に何かを思い出したかのように顔をうつむかせると、不思議に思ったウィルは‘どうした?’と尋ねる。
「ママもいたら・・・もっと、楽しかったのかな・・・」
「ハリエット・・・」
はっ、とハリエットは顔を上げると、ウィルを困らせてしまった事に気付き、慌てて話題を変えようとした。
「あっ、そ、それよりもね、パパ。これ、見て見て!」
「な、なんだ・・・?」
ハリエットはウィルの手を引っ張って家の庭まで連れて行く。
そこには小さめの木の板が立てかけられており、それと向き合うようにハリエットは立ち、腰に手を当てながらウィルに顔だけ向けた。
「今からハティがすっごいの見せてあげる」
そう言うと、ハリエットは正面にある木の板に向けて手をかざし、目を閉じて神経を集中させると、突如ハリエットの爪が光りだした。
「なにっ!?それは・・・!」
「──ファイアボール!」
空中から3つの火炎弾が出現し、それらが次々と標的である木の板を襲い、火が止むころには黒焦げになっていた。
ウィルは目を見開き、驚きを隠せない表情でいる。威力こそ小さいものの、今のは間違いなくファイアボールだった。
「ハリエット、お前いつのまにブレス系の爪術を・・・!」
「うん、なんかね、空が真っ暗になって変な人が街中に出てきた時があって、その時に急にハティや街の人たちの爪が光りだしたの。それで変な人が消えて、それ以来皆の爪の光も消えちゃったんだけど、ハティだけこうやってたまに爪が光ったりする事があるんだ」
「あの時か・・・だが、まさかそれが原因で爪術に目覚めるとは・・・」
あの時、シュヴァルツとの最終決戦時に、シュヴァルツは自らの力を増幅させるため街の人たちを自分の分身に襲わせて恐怖を煽ろうという行動に出たが、先ほどハリエットが説明したようにそれは失敗に終わった。
今まで爪術を使えなかった者がふとしたきっかけで目覚めるという事例は過去にいくつかあるが、まさかこのような形で遭遇しようとは、とウィルは思った。
「はい、これでお終い。家の中に入ろ?」
「あ、ああ。そうだな」
とウィルが言うと、二人は家へと入り、夕食の準備へと取り掛かった。
ハリエットの作った夕食を食べ終えると、食休みとしてウィルはリビングで考古学の本を読み、ハリエットは自室のベッドの上でぬいぐるみを抱きながらボーっとしていた。
「(それにしても、今日はホントに楽しかったなぁ。クロエやジェイ君とも久しぶりにおしゃべり出来たし、パパには爪術を褒めてもらったし)」
そう思いながら、ハリエットはごろんと横になる。
そして、ぬいぐるみに顔をうずめながら、家の前でウィルに言ってしまった言葉を思い出していた。
‘ママもいたら・・・もっと、楽しかったのかな・・・’この言葉が、ハリエットの頭の中で反芻(はんすう)していた。
「(でもやっぱり・・・やっぱりね、ハティは・・・ハティは・・・!)」
無意識に涙が出てしまいそうになるが、ハリエットはぐっと堪える。こんな思い、実の父であるウィルが嫌というほど経験したはずだ。
父親と和解して今自分は十分なほど幸せな生活を送っているし、これ以上を望むのはぜいたくだと、そう自分に言い聞かせた。
だがそんな時、頭上からねばりつくような囁きがハリエットを襲う。
「子供が悩みを抱え込んでしまう世の中・・・いや、嘆かわしいことです」
「えっ?」
顔を上げると、そこには白と黒の衣装で飾られた道化師がにっこりとほほ笑みを浮かべながらハリエットを優しく見下ろしていた。
「あなた、だぁれ・・・?」
突然登場した人物にとまどいを隠せないでいると、サイグローグはすかさず深々とお辞儀をする。
「Bonsoir、ハリエット様。私、サイグローグと申します・・・お悩みのあなた様のためにやってきた不思議な不思議な魔法使いですよ」
「魔法使い?」
思わずハリエットが尋ねると、サイグローグは満足げにうなずいた。
「たとえば・・・ほらっ」
「わっ!」
片手に持っていた杖で右の握りこぶしを二回ほど小突き、それから手を開くとポンッと可愛らしい小さなぬいぐるみが飛び出した。
そのぬいぐるみを大事そうに両手で抱えると、サイグローグは驚きの眼で見つめているハリエットに差し出した。
「くれるの?」
「私は人形が大好きでしてね、私の館には同じようなのがたくさん飾ってあるのですよ。それはお近づきの印です」
「わぁ、ありがとう!ねぇねぇ、他には何ができるの?」
「ふふ、そうですね・・・では──」
と、好奇心に満ち満ちたハリエットにサイグローグは次々と奇術を見せつける。
部屋の端から端まで瞬間移動したり、先ほど手渡したぬいぐるみを違う種類のものに変えてみせたり、はたまたわざと失敗して笑わせてみたりと、ハリエットはサイグローグの織り成すおかしな光景にすっかり虜となっていた。
一通り披露すると、不意にハリエットがサイグローグに話しかけてきた。
「・・・ねぇ、魔法使いくんは何でもできるの?」
「限界はありますが、ある程度でしたら・・・急にどうされたのですか」
サイグローグが奇術のために出した小道具を片っ端から片づけていると、ハリエットはうつむきながら答える。
「じゃあさ・・・死んじゃったハティのママに会うことって、できる?」
「ほう、死んでしまわれたお母様に・・・ね。ええ、可能ではありますよ」
「ほ、ホントに!?」
ハリエットの瞳がこれまでの中で一番強く輝くと、サイグローグは‘ただ・・・’と希望の言葉に付け加えた。
「ハリエット様、私からも一つお願いです。これから私の開く扉で異世界へと旅立ち、そこで特別な宝石を8つ集めては頂けませんか?私はどうしてもそれが欲しいのです」
「宝石?それを集めてくれば、ママと会わせてくれるの?」
「ですが、その世界にも魔物ははびこっています。とても危険な旅路となりますよ・・・?」
「う・・・」
サイグローグは脅し気味でハリエットに問いかけると、それにハリエットは少々身を強張らせた。
爪術を手にしたとはいえ、実際に魔物と対峙した経験はハリエットにはまだ無かったので、サイグローグの提案には正直怖いという気持ちを感じていた。
だがハリエットは本能的にこの機会を逃したらもう二度と無いと思っていたし、そして何より、ウィルのあんな顔はもう見たくはなかった。
一体どれだけ妻の事でウィルは思い悩んだだろうか。そんな父の助けになりたいと願うも、何もできない自分に歯がゆい思いをしたこともある。
ママに会いたい、ママに会わせたいという日々の記憶と共に、また親子三人で笑いあえたら・・・という感情がハリエットの頭の中で渦巻く。
「それでも、ハティはママに会いたい。それでいっぱいいっぱい褒めてもらうんだから!」
「ふふ、その純真無垢な自己顕示に感謝いたします」
お辞儀をし終えたサイグローグは懐からバスケットボールより少し小さめなくらいの大きさの水晶を取り出し、それをハリエットに渡した。
「なぁに、これ?」
「それはささやきの水晶と似たようなものでして・・・試しに爪術をその水晶に注ぎ込んでみて下さい」
「こ、こう?・・・きゃっ!」
ハリエットが爪術を送ると水晶が淡く輝きだし、そこから一つの球体が出現した。
それは宙に浮いていて、機械で出来ていそうな見た目に丸い核みたいな物が取り付けられているという至ってシンプルなものだった。
その球体の端っこに書かれているロゴのようなものに、思わずハリエットの目がいった。
「B,i,t・・・?この子、ビット君っていうの?」
「はい。ビットはあなた様が念じたままに動き、指令を送れば威力は低めですがその核から光線が発射されます。旅の仲間はハリエット様以外にも七人おりますが、そのビットも必ずやあなた様の助けとなるでしょう」
「ふーん・・・よろしくね、ビット君!」
しばらくするとビットは消えてしまい、それを確認したサイグローグは時空の扉をハリエットの目の前に出現させ、重苦しい取っ手を手前に引いて少女を奥へと誘った。
「さぁ、どうぞハリエット様・・・」
「(パパ・・・ハティ行ってくるね。必ず、ママを連れて帰ってくるから・・・)」
その光景に圧巻されてしまいそうだったが、ハリエットはごくりと息を呑み、勇気を振り絞って始めの一歩を踏み出した。
そして、ハリエットが通り終わると扉は独りでに動きだし、重い音を響かせながら堅く閉ざされる。
「さて、これで後一人・・・ふふ、全ては我らの願いのために・・・」
■作者メッセージ
どうもー・・・ペッパーでーす・・・。
まさか2か月近くも間が空いてしまうとは;;
もうホントにバイト先の店長に文句言ってやりたいですよ!週6も働かせますか普通!?
takeshiさんの所にもお邪魔したいのですが、あまりにも時間が・・・本当にすいません。この場でお詫びいたします;
えー、さて、私が更新にもたついている間になんと感想の欄にどなたかが評価して下さっているではありませんか!
名無しさん、でいいのかな?いやーありがとうございます!
御覧のように更新スピードが遅れておりますが、休みに入ったらペースアップさせますので、どうか生暖かく見守ってやって下さい(泣
そして、ようやく次が最後の主人公となるわけですが・・・果たして作者自身も含めてどうなることやら・・・。
バイトのシフト数も今週に入ってからようやく減ったし、早めに更新したいな!
それでわ、ペッパーでした。
まさか2か月近くも間が空いてしまうとは;;
もうホントにバイト先の店長に文句言ってやりたいですよ!週6も働かせますか普通!?
takeshiさんの所にもお邪魔したいのですが、あまりにも時間が・・・本当にすいません。この場でお詫びいたします;
えー、さて、私が更新にもたついている間になんと感想の欄にどなたかが評価して下さっているではありませんか!
名無しさん、でいいのかな?いやーありがとうございます!
御覧のように更新スピードが遅れておりますが、休みに入ったらペースアップさせますので、どうか生暖かく見守ってやって下さい(泣
そして、ようやく次が最後の主人公となるわけですが・・・果たして作者自身も含めてどうなることやら・・・。
バイトのシフト数も今週に入ってからようやく減ったし、早めに更新したいな!
それでわ、ペッパーでした。