第1話 「静かな始まり」
いくつものプレートが足場となって並ぶ、不思議な空間。
宙に浮くそれらから下を覗くと、思わず吸い込まれてしまいそうな程の暗闇が広がっていて、誤って落ちてしまえばどうなるか分からなかった。
外界の光さえも届かぬはずのこの場所だが、何故か周りはハッキリ見えるくらいにここは照らされている。
「あら、お帰りなさい」
「おっと、これはこれは・・・」
艶やかな女性の声が響くと、今しがた扉から出てきたばかりのサイグローグは目の前にいる面々に向かっていつものお辞儀をした。
「わざわざお出迎え頂き、誠にありがとうございます。‘罪人’の皆様方」
サイグローグのその返答に、奥の方で腕を組んで立っていた男性は不満げに鼻を鳴らす。
「ふんっ、‘つみびと’か。随分な言われようではないか」
すると、瓦礫に腰かけていた別の男性がそれに反論するような形で重々しく口を開いた。
「そんな事はどうでもいい・・・それで、上手くいったのだろうな?」
「はい。無事に8人の旅人を揃え、先ほど集まった皆さんにこれからの指針について軽く説明を終えてきた所でございます」
それを聞いた瓦礫の男性は下卑た笑みを浮かべ、喉の奥で小さく笑う。
「くっくっく・・・!ならば構わん。そうでなくては俺の餓えも、渇きも!満たす事が出来んというものだ」
そう言い終えるやいなや、先ほどから3人の後ろに佇んでいる圧倒的な存在が、聞く者を戦慄させてしまいそうな低い唸り声を上げる。
「オオオオォォォ・・・」
「うふふ、この子ももう我慢できないみたいねぇ」
サイグローグはチラリと面々の様子を伺いながら、再度お辞儀をして頭を下げたまま言葉を発する。
「時期が来次第、罪人の皆様にもあちらの世界へと出張って頂きたいと存じ上げておりますので、もうしばらくお待ちを」
「ハッ、どうせ今の私達は貴様の指示なしでは動けん身だ。・・・せいぜい気長に待つとしよう」
腕組みをしていた男性は悪態をつきながら背を向けてその場から姿を消すと、それに続いて残りの3名もフッ、と消えるように立ち去った。
罪人の気配が消えたのを確認するとサイグローグは顔を上げ、‘やれやれ・・・’と一息つきながら呟く。
「クセのあるお方たちだ。旅人の皆様がいた世界の内から4名を選びましたが、どうにも扱いづらくていけない」
そしてサイグローグは現状を報告するため、今現在仕えている主人の下へと歩き出した。
「(しかし、全員実力は確かです。頑張ってくださいね、旅人の皆様・・・我らの願いのためにも)」
☆ ★ ☆
「皆、ただいま。あいつの言う通り、この先に小さな村があったわ」
偵察から戻ったリムルが、森にて待機していた7人に声をかける。
少し時は遡り、それぞれの世界にてサイグローグに誘われるままあの扉を潜ると意識が途絶えていき、目が覚めたらいつのまにかこの森で横たわっていたのであった。
事前に伝えられていた仲間というのが互いの事だというのを理解し、それぞれが自己紹介を終えた頃あのサイグローグが皆の前に姿を現し、説明を始めたのだ。
サイグローグが言うには集める宝石というのはムーンストーン、サファイア、オパール、ペリドット、カーネリアン、ターコイズ、ダイヤモンド、ガーネットの8種類らしい。
名前こそ聞いたことあるものばかりで、宝石商に行けば手に入りそうであったが恐らくそうはいかないだろう。
こんな大がかりな舞台を用意するくらいなので、きっとただの宝石たちではない。
とりあえず情報と寝床の確保のため、この先にある村に行くと良いともサイグローグから伝えられたが、どうにも信用ならないという事でリムルが先ほどまで偵察に行っていたのだった。
その二つを伝えるとサイグローグはさっさと消えてしまったので、リムルも帰ってきたことだし日が暮れる前にその村へ向かおうと全員が腰を上げる。
「ねぇねぇマリアン!気になってたんだけど、マリアンってメイドさんなの?」
「あ、それ僕も気になってた!」
小走りで近寄ってきたハリエットとフローリアンに対し、優しく笑いながらマリアンは答える。
「ええ、そうよ」
「め、メイドさんって私、初めて見ました・・・!」
「でもその服装、旅をするには厳しいのではないかしら」
「そうかもね。でもこれが一番着慣れてるし、割とへっちゃらよ?」
リアとセレスも混ざり、和気あいあいと楽しそうに話している中でロエンは露骨に嫌な顔をしながら舌打ちをした。
「ちっ、緊張感のない奴らだ・・・この旅の目的が何なのか分かっているのか?」
「微笑ましい限りじゃないか。ああやって親睦を深めるのも大事なことだろう」
「お前は・・・」
怪訝な表情をするロエンに対し、ミルハウストは右手を差し出して握手を求める。
「ミルハウスト・セルカークだ。これから長い旅になるだろうが、改めてよろしく頼む」
「・・・馴れ馴れしくするな、庶民が。お前たちとはただ利害が一致しているから一緒にいるのだということを忘れるな」
パシッとミルハウストの手を払いのけると、ロエンはミルハウストから離れて行ってしまった。
そんな光景を見兼ねてか、リムルがミルハウストの隣へと寄り添う。
「なに、あの態度!」
「仕方ないさ。私達は初対面どうし・・・これから少しずつ馴染んでいけばいい」
表面では何とも無さそうには見えるが、憂いと悲しみを抱えたような雰囲気がミルハウストからは見られた。
それはロエンが応じなかっただけではなく、もっと別の何かを見据えていたのだろうとも思える。
「ふーん・・・そう、ね。じゃあ、はい」
「ん?」
リムルが右手を差し出す。
「握手」
「・・・ああ」
互いに笑いながら固く手を握り合い、また皆で森を歩きだし始めた。
森と言ってもそう深いものではなく、道も人の手が加えられていて、狩人などが頻繁によく利用するのだろうと思える。
リムルを先頭にしばらく進んでいくと、少し開けた場所に出ようとしていた。
「あと少しよ。ここを抜けたらもうすぐ村に──」
「うわああああああああああ!!」
言いかけた直後、すぐ傍で少年の叫び声が聞こえ、何事かと思いリムルとミルハウストがその場から素早く駆け出す。
「何だッ!?」
それに続く形で残りの6人も後を追い、現状を確認すると3人組らしき人影がウルフの集団に襲われているのが見えた。
「ねぇ、大丈夫!?」
「うっ・・・ああ、俺なら何とか・・・」
怪我をした箇所を抑えている少年を、少女は心配そうに見つめている。
「このっ!許さないぞ、お前たち!」
剣を向けるもう一人の少年に対し、ウルフは強靭な四肢を地面につけ、ギラギラと光る眼は涎を垂らしながら鋭く獲物を見つめている。
すると、集団の内の1匹がこちらに気付き、残りの何匹かもその牙を剥き出しにしてこちらを威嚇し始めた。
「グルルルル・・・!」
「っ!みんな、戦闘準備!」
リムルの号令によってそれぞれが武器を構える。
しかし、8人の内のほとんどが魔物と対峙した事のない者ばかりであり、その表情にはどうしても恐怖や不安が写る。
「覚悟はしてたわ。でも・・・」
「本当に、戦うんですね・・・」
「も、もう!情けないわね!ハティが付いてるんだから、しっかりしなさい!」
何の根拠にもならない檄をマリアンとリアに飛ばすものの、確かに強がってでもないと緊張でどうにかなってしまいそうだった。
幸いウルフは魔物の中でも下級の方で、例え一般人であっても武器さえあれば何とか戦えないこともない。
だが、魔物と戦うという事は下手をすれば一瞬で死に繋がりかねないものであり、戦闘とは無縁の生活をしてきた彼らにとっては怯えるなというのが無茶であった。
「おい、あんな奴ら放っておけばいいだろう!」
「そういう訳にもいかないでしょ。それに、魔物たちが見逃しちゃくれないわ」
ロエンが意義を唱えるも、戦闘はやはり避けられないのだという事実を突き付けられ、観念して剣を抜く。
「(くそっ、私自ら実戦をする事になるのか・・!)」
リムルとミルハウストを除いてパーティの中で唯一武器の心得があるロエンだが、彼も実際に魔物と戦うのはこれが初となり、その額には汗が浮かんでいた。
「ロエン、汗すごい。平気?」
「う、うるさい!私に構うな!」
「ちょっとあなた!何もこんな時にまで──!」
心配するフローリアンを無下にしたロエンに対して、セレスは注意をしようとする。
しかし、痺れを切らしたのかウルフが‘ガァウ!’と吠えながらセレスに飛び掛かって押し倒し、そのか細い腕に噛みついた。
「きゃっ!」
「ウゥ〜・・・!」
ウルフはぎりぎりと顎に力を加えていく。
すると遂に噛まれた箇所から血が滲みだし始め、目の前の光景と初めて感じるその痛みに恐怖して、セレスは涙声を上げた。
「い、いやぁぁぁ!」
「ひぃっ・・・!」
傍にいたロエンはあまりの唐突さに足がすくんでしまったが、同じく傍にいたフローリアンが勇気を出して杖を振りかぶり、そのまま思い切りウルフの横っ腹に叩きつける。
「こ、このぉ!」
「ギャインッ!?」
悲鳴を上げながらウルフは吹っ飛び、その隙にセレスの腕の治療をしようとフローリアンはファーストエイドの準備に取り掛かった。
あと少し遅ければ大事な神経を傷つけていたかもしれないが、傷口を見る限りまだそこまで深くはなく、それを見たフローリアンは少し胸を撫で下ろす。
「大丈夫!?いま、治すね」
「あ、ありがとう・・・」
そんな出来事を皮切りに他のウルフたちも一斉に行動を起こし始め、それまで静寂を保っていた森は一気に喧噪の中へと包まれていく。
「よく、よく狙って・・・!」
少し離れた所で、リア、マリアン、ハリエットの3人はセレス達と同じようにウルフの相手に苦戦していた。
リアはこちらを睨み付けているウルフに対して銃口を向けているが、その手はがたがたと震えている。
遂にトリガーを引いてダァン!という大きな音と共に発砲するも、どうやら威力が最大の状態になっていたようで、その余りの反動で狙いを外してしまう。
「あぐっ!?い、たい・・・!」
更にはその反動にリアの体が耐え切れずに肩を痛め、思わず尻餅をついてしまった。
肩の痛みに呻いている所をウルフが襲いかかろうとしたが、すかさずマリアンがベルセリオスを振り回しながら割って入る。
「は、離れなさい!」
当たりはしなかったが、それと同時に、ハリエットが水晶玉に爪術を送り込んで出現させたビットを向かわせた。
「行って、ビット君!」
「ガウッ!?」
ビットから発射される光線によりウルフの眼と前足が焼かれ、たまらずそいつは傷ついた足を庇いながら森の奥へと逃げ出していった。
「や、やった!やっつけた!」
「立てる、リアさん?」
「・・・はい、何とか」
喜びに打ち震えるハリエットと倒れているリアに手を貸すマリアンを余所に、リムルとミルハウストの2人は着々と魔物の数を減らしていく。
「はぁっ!」
「ギャウ!」
リムルは牙を突き立ててきたウルフをひらりとかわしながら斬り抜け、致命傷を負ったウルフは大量の血で地面を汚しながら絶命する。
その隙にミルハウストは走り、突然の乱入者に茫然としている3人組に加勢するべく駆け寄った。
「あんた達は・・・?」
「話は後だ!今はこの状況を何とかするぞ!」
「う、うん!そうだね!」
ミルハウストの掛け声により少年たちは剣を構え直し、少女を背に守りながら応戦していく。
そうして、時には傷つきながらも何とか一同は魔物の群れを撃退する事に成功し、戦闘を初めて経験した者たちはその場に座り込んでへばっていた。
「はぁ、はぁ・・・!」
「何とか、なりましたわ・・・」
そんな惨状を見て、リムルは剣を鞘に納めながら考える。
「(たった一戦でこの消耗・・・最低でもここらの魔物を相手に簡単に勝てるくらいじゃないと、この先厳しいわね)」
すると、先ほどまで魔物の集団に襲われていた3人組が近寄り、リムル達に対してお礼の言葉を口にした。
「ありがとう、助かったよ!君たち旅の人?」
「え?ええ、まぁそんなところ・・・あなた達は?」
そう言われた少年は自分の胸をどんっと叩きながら元気よく返事をした。
「俺は、シング・メテオライト!この先にある村に住んでるんだ!」
つられて、残りの少女と少年も自己紹介をする。
「あたしはルビア・ナトウィックよ。さっきは危ないところをありがとね」
「カイウス・クオールズだ。あんた達、良かったら村でお礼させてくれよ」
宙に浮くそれらから下を覗くと、思わず吸い込まれてしまいそうな程の暗闇が広がっていて、誤って落ちてしまえばどうなるか分からなかった。
外界の光さえも届かぬはずのこの場所だが、何故か周りはハッキリ見えるくらいにここは照らされている。
「あら、お帰りなさい」
「おっと、これはこれは・・・」
艶やかな女性の声が響くと、今しがた扉から出てきたばかりのサイグローグは目の前にいる面々に向かっていつものお辞儀をした。
「わざわざお出迎え頂き、誠にありがとうございます。‘罪人’の皆様方」
サイグローグのその返答に、奥の方で腕を組んで立っていた男性は不満げに鼻を鳴らす。
「ふんっ、‘つみびと’か。随分な言われようではないか」
すると、瓦礫に腰かけていた別の男性がそれに反論するような形で重々しく口を開いた。
「そんな事はどうでもいい・・・それで、上手くいったのだろうな?」
「はい。無事に8人の旅人を揃え、先ほど集まった皆さんにこれからの指針について軽く説明を終えてきた所でございます」
それを聞いた瓦礫の男性は下卑た笑みを浮かべ、喉の奥で小さく笑う。
「くっくっく・・・!ならば構わん。そうでなくては俺の餓えも、渇きも!満たす事が出来んというものだ」
そう言い終えるやいなや、先ほどから3人の後ろに佇んでいる圧倒的な存在が、聞く者を戦慄させてしまいそうな低い唸り声を上げる。
「オオオオォォォ・・・」
「うふふ、この子ももう我慢できないみたいねぇ」
サイグローグはチラリと面々の様子を伺いながら、再度お辞儀をして頭を下げたまま言葉を発する。
「時期が来次第、罪人の皆様にもあちらの世界へと出張って頂きたいと存じ上げておりますので、もうしばらくお待ちを」
「ハッ、どうせ今の私達は貴様の指示なしでは動けん身だ。・・・せいぜい気長に待つとしよう」
腕組みをしていた男性は悪態をつきながら背を向けてその場から姿を消すと、それに続いて残りの3名もフッ、と消えるように立ち去った。
罪人の気配が消えたのを確認するとサイグローグは顔を上げ、‘やれやれ・・・’と一息つきながら呟く。
「クセのあるお方たちだ。旅人の皆様がいた世界の内から4名を選びましたが、どうにも扱いづらくていけない」
そしてサイグローグは現状を報告するため、今現在仕えている主人の下へと歩き出した。
「(しかし、全員実力は確かです。頑張ってくださいね、旅人の皆様・・・我らの願いのためにも)」
☆ ★ ☆
「皆、ただいま。あいつの言う通り、この先に小さな村があったわ」
偵察から戻ったリムルが、森にて待機していた7人に声をかける。
少し時は遡り、それぞれの世界にてサイグローグに誘われるままあの扉を潜ると意識が途絶えていき、目が覚めたらいつのまにかこの森で横たわっていたのであった。
事前に伝えられていた仲間というのが互いの事だというのを理解し、それぞれが自己紹介を終えた頃あのサイグローグが皆の前に姿を現し、説明を始めたのだ。
サイグローグが言うには集める宝石というのはムーンストーン、サファイア、オパール、ペリドット、カーネリアン、ターコイズ、ダイヤモンド、ガーネットの8種類らしい。
名前こそ聞いたことあるものばかりで、宝石商に行けば手に入りそうであったが恐らくそうはいかないだろう。
こんな大がかりな舞台を用意するくらいなので、きっとただの宝石たちではない。
とりあえず情報と寝床の確保のため、この先にある村に行くと良いともサイグローグから伝えられたが、どうにも信用ならないという事でリムルが先ほどまで偵察に行っていたのだった。
その二つを伝えるとサイグローグはさっさと消えてしまったので、リムルも帰ってきたことだし日が暮れる前にその村へ向かおうと全員が腰を上げる。
「ねぇねぇマリアン!気になってたんだけど、マリアンってメイドさんなの?」
「あ、それ僕も気になってた!」
小走りで近寄ってきたハリエットとフローリアンに対し、優しく笑いながらマリアンは答える。
「ええ、そうよ」
「め、メイドさんって私、初めて見ました・・・!」
「でもその服装、旅をするには厳しいのではないかしら」
「そうかもね。でもこれが一番着慣れてるし、割とへっちゃらよ?」
リアとセレスも混ざり、和気あいあいと楽しそうに話している中でロエンは露骨に嫌な顔をしながら舌打ちをした。
「ちっ、緊張感のない奴らだ・・・この旅の目的が何なのか分かっているのか?」
「微笑ましい限りじゃないか。ああやって親睦を深めるのも大事なことだろう」
「お前は・・・」
怪訝な表情をするロエンに対し、ミルハウストは右手を差し出して握手を求める。
「ミルハウスト・セルカークだ。これから長い旅になるだろうが、改めてよろしく頼む」
「・・・馴れ馴れしくするな、庶民が。お前たちとはただ利害が一致しているから一緒にいるのだということを忘れるな」
パシッとミルハウストの手を払いのけると、ロエンはミルハウストから離れて行ってしまった。
そんな光景を見兼ねてか、リムルがミルハウストの隣へと寄り添う。
「なに、あの態度!」
「仕方ないさ。私達は初対面どうし・・・これから少しずつ馴染んでいけばいい」
表面では何とも無さそうには見えるが、憂いと悲しみを抱えたような雰囲気がミルハウストからは見られた。
それはロエンが応じなかっただけではなく、もっと別の何かを見据えていたのだろうとも思える。
「ふーん・・・そう、ね。じゃあ、はい」
「ん?」
リムルが右手を差し出す。
「握手」
「・・・ああ」
互いに笑いながら固く手を握り合い、また皆で森を歩きだし始めた。
森と言ってもそう深いものではなく、道も人の手が加えられていて、狩人などが頻繁によく利用するのだろうと思える。
リムルを先頭にしばらく進んでいくと、少し開けた場所に出ようとしていた。
「あと少しよ。ここを抜けたらもうすぐ村に──」
「うわああああああああああ!!」
言いかけた直後、すぐ傍で少年の叫び声が聞こえ、何事かと思いリムルとミルハウストがその場から素早く駆け出す。
「何だッ!?」
それに続く形で残りの6人も後を追い、現状を確認すると3人組らしき人影がウルフの集団に襲われているのが見えた。
「ねぇ、大丈夫!?」
「うっ・・・ああ、俺なら何とか・・・」
怪我をした箇所を抑えている少年を、少女は心配そうに見つめている。
「このっ!許さないぞ、お前たち!」
剣を向けるもう一人の少年に対し、ウルフは強靭な四肢を地面につけ、ギラギラと光る眼は涎を垂らしながら鋭く獲物を見つめている。
すると、集団の内の1匹がこちらに気付き、残りの何匹かもその牙を剥き出しにしてこちらを威嚇し始めた。
「グルルルル・・・!」
「っ!みんな、戦闘準備!」
リムルの号令によってそれぞれが武器を構える。
しかし、8人の内のほとんどが魔物と対峙した事のない者ばかりであり、その表情にはどうしても恐怖や不安が写る。
「覚悟はしてたわ。でも・・・」
「本当に、戦うんですね・・・」
「も、もう!情けないわね!ハティが付いてるんだから、しっかりしなさい!」
何の根拠にもならない檄をマリアンとリアに飛ばすものの、確かに強がってでもないと緊張でどうにかなってしまいそうだった。
幸いウルフは魔物の中でも下級の方で、例え一般人であっても武器さえあれば何とか戦えないこともない。
だが、魔物と戦うという事は下手をすれば一瞬で死に繋がりかねないものであり、戦闘とは無縁の生活をしてきた彼らにとっては怯えるなというのが無茶であった。
「おい、あんな奴ら放っておけばいいだろう!」
「そういう訳にもいかないでしょ。それに、魔物たちが見逃しちゃくれないわ」
ロエンが意義を唱えるも、戦闘はやはり避けられないのだという事実を突き付けられ、観念して剣を抜く。
「(くそっ、私自ら実戦をする事になるのか・・!)」
リムルとミルハウストを除いてパーティの中で唯一武器の心得があるロエンだが、彼も実際に魔物と戦うのはこれが初となり、その額には汗が浮かんでいた。
「ロエン、汗すごい。平気?」
「う、うるさい!私に構うな!」
「ちょっとあなた!何もこんな時にまで──!」
心配するフローリアンを無下にしたロエンに対して、セレスは注意をしようとする。
しかし、痺れを切らしたのかウルフが‘ガァウ!’と吠えながらセレスに飛び掛かって押し倒し、そのか細い腕に噛みついた。
「きゃっ!」
「ウゥ〜・・・!」
ウルフはぎりぎりと顎に力を加えていく。
すると遂に噛まれた箇所から血が滲みだし始め、目の前の光景と初めて感じるその痛みに恐怖して、セレスは涙声を上げた。
「い、いやぁぁぁ!」
「ひぃっ・・・!」
傍にいたロエンはあまりの唐突さに足がすくんでしまったが、同じく傍にいたフローリアンが勇気を出して杖を振りかぶり、そのまま思い切りウルフの横っ腹に叩きつける。
「こ、このぉ!」
「ギャインッ!?」
悲鳴を上げながらウルフは吹っ飛び、その隙にセレスの腕の治療をしようとフローリアンはファーストエイドの準備に取り掛かった。
あと少し遅ければ大事な神経を傷つけていたかもしれないが、傷口を見る限りまだそこまで深くはなく、それを見たフローリアンは少し胸を撫で下ろす。
「大丈夫!?いま、治すね」
「あ、ありがとう・・・」
そんな出来事を皮切りに他のウルフたちも一斉に行動を起こし始め、それまで静寂を保っていた森は一気に喧噪の中へと包まれていく。
「よく、よく狙って・・・!」
少し離れた所で、リア、マリアン、ハリエットの3人はセレス達と同じようにウルフの相手に苦戦していた。
リアはこちらを睨み付けているウルフに対して銃口を向けているが、その手はがたがたと震えている。
遂にトリガーを引いてダァン!という大きな音と共に発砲するも、どうやら威力が最大の状態になっていたようで、その余りの反動で狙いを外してしまう。
「あぐっ!?い、たい・・・!」
更にはその反動にリアの体が耐え切れずに肩を痛め、思わず尻餅をついてしまった。
肩の痛みに呻いている所をウルフが襲いかかろうとしたが、すかさずマリアンがベルセリオスを振り回しながら割って入る。
「は、離れなさい!」
当たりはしなかったが、それと同時に、ハリエットが水晶玉に爪術を送り込んで出現させたビットを向かわせた。
「行って、ビット君!」
「ガウッ!?」
ビットから発射される光線によりウルフの眼と前足が焼かれ、たまらずそいつは傷ついた足を庇いながら森の奥へと逃げ出していった。
「や、やった!やっつけた!」
「立てる、リアさん?」
「・・・はい、何とか」
喜びに打ち震えるハリエットと倒れているリアに手を貸すマリアンを余所に、リムルとミルハウストの2人は着々と魔物の数を減らしていく。
「はぁっ!」
「ギャウ!」
リムルは牙を突き立ててきたウルフをひらりとかわしながら斬り抜け、致命傷を負ったウルフは大量の血で地面を汚しながら絶命する。
その隙にミルハウストは走り、突然の乱入者に茫然としている3人組に加勢するべく駆け寄った。
「あんた達は・・・?」
「話は後だ!今はこの状況を何とかするぞ!」
「う、うん!そうだね!」
ミルハウストの掛け声により少年たちは剣を構え直し、少女を背に守りながら応戦していく。
そうして、時には傷つきながらも何とか一同は魔物の群れを撃退する事に成功し、戦闘を初めて経験した者たちはその場に座り込んでへばっていた。
「はぁ、はぁ・・・!」
「何とか、なりましたわ・・・」
そんな惨状を見て、リムルは剣を鞘に納めながら考える。
「(たった一戦でこの消耗・・・最低でもここらの魔物を相手に簡単に勝てるくらいじゃないと、この先厳しいわね)」
すると、先ほどまで魔物の集団に襲われていた3人組が近寄り、リムル達に対してお礼の言葉を口にした。
「ありがとう、助かったよ!君たち旅の人?」
「え?ええ、まぁそんなところ・・・あなた達は?」
そう言われた少年は自分の胸をどんっと叩きながら元気よく返事をした。
「俺は、シング・メテオライト!この先にある村に住んでるんだ!」
つられて、残りの少女と少年も自己紹介をする。
「あたしはルビア・ナトウィックよ。さっきは危ないところをありがとね」
「カイウス・クオールズだ。あんた達、良かったら村でお礼させてくれよ」
■作者メッセージ
ハリエット「やった!討伐数1!」
・・・いえ、何でもないです。ペッパーです、はい。
いやーしかし、何とかちょっぴり早めに更新が出来てちょっと一安心しております;
さてさて、本編の方ではようやく罪人の面々も登場させる事ができましたね。
一人だけ凄い誰なのか分かりやすい人がいますが、きっと気のせいです!ええ!
その内、彼らも物語に深く関わってくることでしょう。
そして、次回では何とか初めての戦闘を終えた旅人たちはシングとカイウスとルビアに誘われ、村へ到着した所から始めようかなと思っています。
それでわ、次もなるべく早めの更新が出来る事を祈って・・・!
また次回にてお会いしましょうー。
・・・いえ、何でもないです。ペッパーです、はい。
いやーしかし、何とかちょっぴり早めに更新が出来てちょっと一安心しております;
さてさて、本編の方ではようやく罪人の面々も登場させる事ができましたね。
一人だけ凄い誰なのか分かりやすい人がいますが、きっと気のせいです!ええ!
その内、彼らも物語に深く関わってくることでしょう。
そして、次回では何とか初めての戦闘を終えた旅人たちはシングとカイウスとルビアに誘われ、村へ到着した所から始めようかなと思っています。
それでわ、次もなるべく早めの更新が出来る事を祈って・・・!
また次回にてお会いしましょうー。