旅人探し 〜ファンタジア編〜 PART2
(・・・良かった、子供たちもみんな嬉しそうで。そして何より、二人とも無事で・・・)
彼女の名は、リア=スカーレット。
クレスたちが初めて時空転移をした過去の世界で出会った、アーチェの降霊術によってアーチェ自身に憑依していた人物である。
その時には既にリアは死亡しており、両親が魔科学の研究を行っていたという理由で、ダオスに操られたデミテルに両親共々殺された。
(私は、クレスさん達のおかげで成仏できたはずなんだけど・・・どうして今ここにいるんだろう・・・?)
事の発端は10日ほど前のこと。
目が覚めたらこの時代の、この場所でまた霊体となっていて、アーチェの体を借りていないので当然だが、話すことはおろか、人からは自分が全く見えていない状態だった。
空腹になったりすることも無いし、どうしていいかも全く分からないので、とりあえず恩人たちの日々をじーっと眺めたりしていた。
そして、クレス達と旅をする中で、自分を助けてくれるきっかけを作ってくれたクレスにリアは恋心が芽生えていたのだ。
今でもハッキリとクレスの事が好きであり、こうして好きな人を眺められる毎日にどこか満足と、諦めの感情が渦巻いていた。
(・・・仕方ないよね。わたし、幽霊でみんなとお話することも出来ないし、クレスさんとミントさん、お似合いだもん・・・)
これまで三人を見続けていたので、クレスがミントを、そしてミントもクレスが好きなのだという事を、リアは思う存分に理解していた。
少し、視界がボヤける。
(・・・さて、今日もその辺りの原っぱでゆっくりしようかな)
リアは夜になると林の近くに座り込み、虫の鳴き声を楽しみながら夜空を見て星を数えたり、眠るという概念も無いので夜が朝に変わっていくのを見て暇を持て余していた。
「こんばんは、お嬢さん」
最初、自分が呼ばれた事に気付かなかったリアだが、肩に手を置かれた事で、誰が自分に触れたのか、という思いから自分が呼ばれたのだということを理解した。
驚いて振り向くと、白と黒であしらわれた服を身にまとい、片手には小さな杖を握っている紳士的そうな、だが、怪しげな道化師の恰好の人物がいた。
(えっ!?な、なんで、私に触れ・・・あ、あなたは・・・?)
「ふふ、あなたのために魔法使いがやって参りましたよ。シンデレラ姫」
と言いながら、目の前にいる人物がリアに向かって丁寧にお辞儀をした。
胸の奥にある本心を隠すように、その表情は上辺だけの笑顔で飾られている。
「私、サイグローグと申します。本日はリア様にステキな情報をお持ちいたしました」
(どうして、私の名前を・・・それに、ステキな情報・・・?)
「はい。単刀直入にお伺いしますが・・・ちゃんとした人間の体、欲しくはないですか?」
(っ!?)
欲しい。と一番に思ってしまった卑しい自分にリアは吐き気を覚えながらも、冷静になって恐る恐るサイグローグに問い質した。
(人間の、体・・・!?そ、それって、誰か他の人の体を奪うってことですか・・・?)
だとしたらそんな悪魔の誘いなんか受けない、と強く思ったが、そう尋ねるとサイグローグは仰々しく首と手を横に振った。
「いえいえ、とんでもございません!私、そういう物騒な事柄は苦手でございまして、はい。・・・言い方が良くありませんでしたね。あなたが生き返る・・・と、こう言えば、お分かり頂けますか?」
(私が生き返る・・・!?)
「左様でございます、ミス・ゴースト」
言い終えると、サイグローグはまたお辞儀をした。
もしこのサイグローグの言う事が本当だったならば、正に願った通りのことだった。
だが、こういう話には裏があったり、条件があったりするのが世の常である。
「ただ、リア様が生き返るには、ある試練を受けて頂く必要があるのです」
(試練、ですか?)
「ええ。今から異世界に続く時空の扉を開きます。それをくぐり、異世界を旅し、全部で8つの特殊な宝石を集めて頂くのが試練の内容となっております」
滑らかな口調で、サイグローグは説明をしていく。
「異世界にも魔物はいますので、下手をすればそのまま帰らぬ人となってしまうでしょう」
(で、でも!・・・わたし、幽霊ですよ・・・?こんな状態で旅なんか──)
「ふふ、そこはご心配なく」
サイグローグは右手の中指と親指でパチン!と鳴らすと、リアの体がみるみる構成されていき、見たこともないような服装で、この世に舞い降りた。
「え、えぇっ!?これって、私の体・・・!?」
「そっくりそのまま、当時の体を再現しております。衣服までは再生できませんので、私があなた様に似合うような服を一生懸命見繕させて頂きました。流石に年端もいかぬ少女が丸裸では・・・ね。お気に召しましたでしょうか?」
「あ、ありがとうございます・・・///」
頬を赤く染めながら、リアは自分が今着ている衣服をまじまじと見つめた。
主に機能性を重視しているような服で、激しい運動をしても快適に動けるような作りとなっている。
ただ・・・。
「あのぅ・・・少し、大胆じゃないでしょうか?///」
「ふふ、そんな事ありません。とても可愛らしくてお似合いですよ?それに、男性のハートを射止めるにはそのくらいが丁度良いのです」
「ほ、本当ですか!?」
黒いタイツに、丈が短めなタイトスカート。上着の背中部分は大きく開いているので、比較的大人しめな服をよく着るリアにとってはありえない恰好であった。
確かに色々なポイントが可愛くて、リア自身もまんざらではない気持ちだった。
「試練を受けて頂けるのなら、その体はお貸ししましょう。そして、見事試練をクリアできれば、正真正銘その体はあなた様の物です!しかし、挑戦しないのでしたら・・・その体はお返し頂いて、あなた様は成仏もできず、永遠に霊体のまま過ごす事になります」
「・・・・・・・・」
ここまで話を聞く限り、これは神様が与えてくれたチャンスなのではないだろうか?とリアは思い始めていた。
初めに感じていた疑惑の念はすっかり無いし、ここまでは全て自分に好意的な行動であった。ただ、自分が頑張らなければいけないだけで。
しかし、これも当然の対価だろうと、リアはもうサイグローグがどんな目的で自分に言い寄ってきたのかを考える余裕など無かった。
自分の体が欲しかった。50年前のあの旅の日から、ずっと・・・。
「やり・・・ます。やらせて下さい・・・!」
「ふふ、賢明なご判断に感謝いたします」
そう言って、サイグローグはお辞儀をした。
このサイグローグの巧みな話術により、リアは不思議とそうさせるような魔力、魅力にどっぷりと浸かってしまっていた。
そして、サイグローグは時空の扉を開いたが、リアが通る前にある物を渡した。
「あ、これは・・・!」
「そう、リア様のご両親が研究していらした物の完成品、その名も‘魔導銃’。過去の世界で、デミテルに破壊される前にここへ運び込みました。マナのご心配は大丈夫ですよ、向こうの世界ではそれをどれだけ使った所で、影響は全くありませんから。それを使い、魔物を退けて下さいませ」
「あなたは、一体・・・」
実弾を必要とせず、マナを送り込んで弾丸を放つという二丁拳銃。
銃身が長く、銃の持ち手の所にはマナを通すための長い帯が付いている。しぼりを回す事で、弾丸の強弱と連射速度の調節も可能である。
使い方は一応教わってはいたので、実物を触るのは初めてだが実際に使用するのに問題は無いだろうと思えた。
両親の形見・・・まさか、こんな形で手に入れようとは。
「それとあと、こちらもどうぞ」
「これは・・・フードですか?」
「そのフードはただのフードではございません。汚れないし、破けたりもしないので紛失されない限りは失う心配はありません。リア様の体は今、完全な状態ではないのです。体を維持して頂くには再生能力を持つそのフードを被って頂く必要がございます。いいですね、絶対に失くしてはいけませんよ?」
「は、はい・・・」
サイグローグに念を押され、見るとフードにはヒモが付いており、首の所で結べる仕様となっている。
フードを被らなかったらどうなるのか、という質問をしたかったが、何だかそれを訊くのは憚(はばか)られる気がしたので、リアは言葉に詰まってしまった。
首にフードを装着したリアは、目の前に出現した扉を緊張した面持ちで見つめる。
「ここを、くぐればいいんですよね?」
「はい。・・・ああ、そうそう。リア様以外にも、あと七人、一緒に旅をして頂く方々がおりますので、是非とも皆様と協力して、試練をクリアして下さいませ」
てっきり一人旅だと思っていたが、あと七人、旅を共にする仲間がいる。
そう考えると、何とかこの試練とやらも乗り越えられそうな気がしてきた。
そして、リアは意を決して、開いた扉の中へと歩み始める。
「(ここから始まるんだ、わたしの物語が・・・。チェスターさん、ミントさん・・・そして、クレスさん。わたし、必ず・・・!)」
そう思いながら、リアは体が呑み込まれるような感触を味わい、扉の奥へと進んでいった。
今回の旅が、自分の想像していたものとは全くかけ離れていようとは知らずに。
「・・・そう、始まるんですよ。見事願いを叶えるか、絶望へと堕ちるかの旅が」
リアがいなくなった後、サイグローグは下卑た笑みを浮かべた。
彼女の名は、リア=スカーレット。
クレスたちが初めて時空転移をした過去の世界で出会った、アーチェの降霊術によってアーチェ自身に憑依していた人物である。
その時には既にリアは死亡しており、両親が魔科学の研究を行っていたという理由で、ダオスに操られたデミテルに両親共々殺された。
(私は、クレスさん達のおかげで成仏できたはずなんだけど・・・どうして今ここにいるんだろう・・・?)
事の発端は10日ほど前のこと。
目が覚めたらこの時代の、この場所でまた霊体となっていて、アーチェの体を借りていないので当然だが、話すことはおろか、人からは自分が全く見えていない状態だった。
空腹になったりすることも無いし、どうしていいかも全く分からないので、とりあえず恩人たちの日々をじーっと眺めたりしていた。
そして、クレス達と旅をする中で、自分を助けてくれるきっかけを作ってくれたクレスにリアは恋心が芽生えていたのだ。
今でもハッキリとクレスの事が好きであり、こうして好きな人を眺められる毎日にどこか満足と、諦めの感情が渦巻いていた。
(・・・仕方ないよね。わたし、幽霊でみんなとお話することも出来ないし、クレスさんとミントさん、お似合いだもん・・・)
これまで三人を見続けていたので、クレスがミントを、そしてミントもクレスが好きなのだという事を、リアは思う存分に理解していた。
少し、視界がボヤける。
(・・・さて、今日もその辺りの原っぱでゆっくりしようかな)
リアは夜になると林の近くに座り込み、虫の鳴き声を楽しみながら夜空を見て星を数えたり、眠るという概念も無いので夜が朝に変わっていくのを見て暇を持て余していた。
「こんばんは、お嬢さん」
最初、自分が呼ばれた事に気付かなかったリアだが、肩に手を置かれた事で、誰が自分に触れたのか、という思いから自分が呼ばれたのだということを理解した。
驚いて振り向くと、白と黒であしらわれた服を身にまとい、片手には小さな杖を握っている紳士的そうな、だが、怪しげな道化師の恰好の人物がいた。
(えっ!?な、なんで、私に触れ・・・あ、あなたは・・・?)
「ふふ、あなたのために魔法使いがやって参りましたよ。シンデレラ姫」
と言いながら、目の前にいる人物がリアに向かって丁寧にお辞儀をした。
胸の奥にある本心を隠すように、その表情は上辺だけの笑顔で飾られている。
「私、サイグローグと申します。本日はリア様にステキな情報をお持ちいたしました」
(どうして、私の名前を・・・それに、ステキな情報・・・?)
「はい。単刀直入にお伺いしますが・・・ちゃんとした人間の体、欲しくはないですか?」
(っ!?)
欲しい。と一番に思ってしまった卑しい自分にリアは吐き気を覚えながらも、冷静になって恐る恐るサイグローグに問い質した。
(人間の、体・・・!?そ、それって、誰か他の人の体を奪うってことですか・・・?)
だとしたらそんな悪魔の誘いなんか受けない、と強く思ったが、そう尋ねるとサイグローグは仰々しく首と手を横に振った。
「いえいえ、とんでもございません!私、そういう物騒な事柄は苦手でございまして、はい。・・・言い方が良くありませんでしたね。あなたが生き返る・・・と、こう言えば、お分かり頂けますか?」
(私が生き返る・・・!?)
「左様でございます、ミス・ゴースト」
言い終えると、サイグローグはまたお辞儀をした。
もしこのサイグローグの言う事が本当だったならば、正に願った通りのことだった。
だが、こういう話には裏があったり、条件があったりするのが世の常である。
「ただ、リア様が生き返るには、ある試練を受けて頂く必要があるのです」
(試練、ですか?)
「ええ。今から異世界に続く時空の扉を開きます。それをくぐり、異世界を旅し、全部で8つの特殊な宝石を集めて頂くのが試練の内容となっております」
滑らかな口調で、サイグローグは説明をしていく。
「異世界にも魔物はいますので、下手をすればそのまま帰らぬ人となってしまうでしょう」
(で、でも!・・・わたし、幽霊ですよ・・・?こんな状態で旅なんか──)
「ふふ、そこはご心配なく」
サイグローグは右手の中指と親指でパチン!と鳴らすと、リアの体がみるみる構成されていき、見たこともないような服装で、この世に舞い降りた。
「え、えぇっ!?これって、私の体・・・!?」
「そっくりそのまま、当時の体を再現しております。衣服までは再生できませんので、私があなた様に似合うような服を一生懸命見繕させて頂きました。流石に年端もいかぬ少女が丸裸では・・・ね。お気に召しましたでしょうか?」
「あ、ありがとうございます・・・///」
頬を赤く染めながら、リアは自分が今着ている衣服をまじまじと見つめた。
主に機能性を重視しているような服で、激しい運動をしても快適に動けるような作りとなっている。
ただ・・・。
「あのぅ・・・少し、大胆じゃないでしょうか?///」
「ふふ、そんな事ありません。とても可愛らしくてお似合いですよ?それに、男性のハートを射止めるにはそのくらいが丁度良いのです」
「ほ、本当ですか!?」
黒いタイツに、丈が短めなタイトスカート。上着の背中部分は大きく開いているので、比較的大人しめな服をよく着るリアにとってはありえない恰好であった。
確かに色々なポイントが可愛くて、リア自身もまんざらではない気持ちだった。
「試練を受けて頂けるのなら、その体はお貸ししましょう。そして、見事試練をクリアできれば、正真正銘その体はあなた様の物です!しかし、挑戦しないのでしたら・・・その体はお返し頂いて、あなた様は成仏もできず、永遠に霊体のまま過ごす事になります」
「・・・・・・・・」
ここまで話を聞く限り、これは神様が与えてくれたチャンスなのではないだろうか?とリアは思い始めていた。
初めに感じていた疑惑の念はすっかり無いし、ここまでは全て自分に好意的な行動であった。ただ、自分が頑張らなければいけないだけで。
しかし、これも当然の対価だろうと、リアはもうサイグローグがどんな目的で自分に言い寄ってきたのかを考える余裕など無かった。
自分の体が欲しかった。50年前のあの旅の日から、ずっと・・・。
「やり・・・ます。やらせて下さい・・・!」
「ふふ、賢明なご判断に感謝いたします」
そう言って、サイグローグはお辞儀をした。
このサイグローグの巧みな話術により、リアは不思議とそうさせるような魔力、魅力にどっぷりと浸かってしまっていた。
そして、サイグローグは時空の扉を開いたが、リアが通る前にある物を渡した。
「あ、これは・・・!」
「そう、リア様のご両親が研究していらした物の完成品、その名も‘魔導銃’。過去の世界で、デミテルに破壊される前にここへ運び込みました。マナのご心配は大丈夫ですよ、向こうの世界ではそれをどれだけ使った所で、影響は全くありませんから。それを使い、魔物を退けて下さいませ」
「あなたは、一体・・・」
実弾を必要とせず、マナを送り込んで弾丸を放つという二丁拳銃。
銃身が長く、銃の持ち手の所にはマナを通すための長い帯が付いている。しぼりを回す事で、弾丸の強弱と連射速度の調節も可能である。
使い方は一応教わってはいたので、実物を触るのは初めてだが実際に使用するのに問題は無いだろうと思えた。
両親の形見・・・まさか、こんな形で手に入れようとは。
「それとあと、こちらもどうぞ」
「これは・・・フードですか?」
「そのフードはただのフードではございません。汚れないし、破けたりもしないので紛失されない限りは失う心配はありません。リア様の体は今、完全な状態ではないのです。体を維持して頂くには再生能力を持つそのフードを被って頂く必要がございます。いいですね、絶対に失くしてはいけませんよ?」
「は、はい・・・」
サイグローグに念を押され、見るとフードにはヒモが付いており、首の所で結べる仕様となっている。
フードを被らなかったらどうなるのか、という質問をしたかったが、何だかそれを訊くのは憚(はばか)られる気がしたので、リアは言葉に詰まってしまった。
首にフードを装着したリアは、目の前に出現した扉を緊張した面持ちで見つめる。
「ここを、くぐればいいんですよね?」
「はい。・・・ああ、そうそう。リア様以外にも、あと七人、一緒に旅をして頂く方々がおりますので、是非とも皆様と協力して、試練をクリアして下さいませ」
てっきり一人旅だと思っていたが、あと七人、旅を共にする仲間がいる。
そう考えると、何とかこの試練とやらも乗り越えられそうな気がしてきた。
そして、リアは意を決して、開いた扉の中へと歩み始める。
「(ここから始まるんだ、わたしの物語が・・・。チェスターさん、ミントさん・・・そして、クレスさん。わたし、必ず・・・!)」
そう思いながら、リアは体が呑み込まれるような感触を味わい、扉の奥へと進んでいった。
今回の旅が、自分の想像していたものとは全くかけ離れていようとは知らずに。
「・・・そう、始まるんですよ。見事願いを叶えるか、絶望へと堕ちるかの旅が」
リアがいなくなった後、サイグローグは下卑た笑みを浮かべた。
■作者メッセージ
はい、というわけでファンタジアから選ばれたのはリアちゃんでした。
各キャラのプロフィールは全員出し終わってから載せようと考えていますので、それまで少々お待ちください。
それでわ、また次回。
各キャラのプロフィールは全員出し終わってから載せようと考えていますので、それまで少々お待ちください。
それでわ、また次回。