旅人探し 〜デスティニー編〜
ある昼下がりのこと。
長期の休みをいただいてしまったので、今後をどう過ごそうかと考えていた。
この屋敷の新しい旦那様と奥様がしばらくの間、旅行に行ってくるらしく、それまでの屋敷の管理を頼まれているだけである。
他の執事やメイド達も同様に休みをもらっており、それぞれの自宅や実家でのんびりとしているようだ。
しかし、メイド長であるマリアン・フュステルはこの屋敷に住まわせてもらっており、郵便物の受け取りやその他の雑用もこなさなければならない。
あらかた用事も済ませ、屋敷内で一人になったマリアンは少し休憩を取るため、紅茶を淹れる準備をしていた。
「えーっと、確かダージリンがこの辺りにあったはずよね・・・」
長い黒髪をたなびかせ、戸棚の中から茶葉の入った缶を探している。
紅茶をカップに注いで椅子に座り、ふぅ、と一呼吸すると、マリアンは今までの事を思い返していた。
「(私はヒューゴ様に人質として捕らえられ、そしてスタンさん達に助けていただいた・・・)」
あの時、スタンにリオンは今どうしているのかと尋ねたが、別の場所で上手くやっていると聞かされた。
だが、本当はリオンは・・・エミリオは、もうこの世にはいないのではないのかと、マリアンは気付いていた。
あれから月日が経ち、空を覆っていた黒い膜のようなものも晴れると、それがスタン達による功績であると知れ渡り、彼らは四英雄と呼ばれるようになった。
あれ以来、もう彼らに会う事は無く、エミリオもいつか帰ってくるのでは、と淡い期待を寄せていたが・・・。
「エミリオ・・・やっぱり、あなたはもう・・・」
スタン達に助けられてからはずっとこの屋敷に住み続け、新しい雇い主の世話をしながらも、彼の帰りを待ち続けている。
世界を救ったスタン達とは対照的に、世間ではリオンは‘裏切り者’と言われており、その噂を聞く度に、マリアンは心苦しい思いをしていた。
スタン達を裏切った。それも本心ではなく、自分が人質になっていたからに違いない。
何故、死してもなお彼は冒涜されなければいけないのか。
マリアンは、自責の念に囚われてばかりでいる。
「・・・そろそろ、お夕飯の買い出ししなくちゃ」
いつのまにか時刻は四時を過ぎていて、マリアンは今日の分の材料を買ってこようと席を立った。
食材屋まで足を運び、材料を次々と手に取っていくと、カゴの中に卵と牛乳と砂糖をいつのまにか入れてしまっていた。
「(あ・・・)」
これは、彼が大好物であったプリンの材料。
少し恥ずかしげな顔をしながらも、いつも‘おいしい’と言ってくれていた、エミリオの顔が浮かんできた。
(プリンなんて・・・もう子供じゃないんだ。やめてくれ、マリアン)
(あら、私だって子供の頃に好きだった食べ物は今も変わらないわよ?それに、あなたはいつもおいしそうに食べてくれるから、作りがいがあるんだもの♪)
(う・・・わ、分かったよマリアン。じゃあ、いただきます)
(はい、召し上がれ。おかわりもあるからね)
卵と、牛乳と、砂糖を元の棚に返し、夕飯の材料を買って屋敷に戻ると、マリアンはいつもよりも疲れを感じたような気がした。
かつてマリアンは人質にされた際に、一度自殺を図ろうとしたことがある。彼の足枷になるくらいならいっそ、と。
しかし、それも失敗に終わり、やはり自分はヒューゴに体よく利用されたようだった。
ふつふつと、エミリオとの記憶が蘇る。
彼は自分に亡き母の面影を重ねていたようで、よく自分を慕ってくれていた。
それが恋愛の感情であると知りながらも、立場の違いからマリアンはリオンを完全に受け入れることはできなかった。
そして、そのせいでリオンを苦しめていることも。
最早、待つことは無駄なのかもしれなかったが、それでもマリアンはここで待ち続ける。
もう一度だけ彼に会えるなら、ただ一言謝りたかった。
そして叶うなら、望めるなら、もう一度、あの楽しかった日々を。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい、エミリオ・・・!」
涙を流していると、突然、屋敷のベルが鳴った。
誰か来客が来たのだろうか?と思い、顔をハンカチで整え、気持ちを落ち着けてからドアを開ける。
「はい、どちら様──・・・?」
しかし屋敷の前には誰もおらず、辺りは夜になって暗かったが、やはり周りには誰もいなかった。
子供のイタズラだろうと、気にせずドアを閉め、リビングに戻ろうとした瞬間、目の前に白黒の衣装を着た道化師のような人物が立っていた事に気付いた。
「きゃあっ!?」
「これはこれは・・・驚かせてしまったようで申し訳ございません。私、サイグローグという者です。以後、お見知りおきを──」
と言いながら、サイグローグと名乗る人物はお辞儀をした。
現状が理解できていないマリアンは泥棒が入り込んだと思い込み、誰か人を呼ぼうとドアの取っ手に手をかけたが、一向に開く気配はしなかった。
「ど、ドアが開かない・・・!?」
「お、落ち着いてくださいませ、マリアン様。私は泥棒でも何でもありません。ただ、今日はあなたに耳寄りな情報をお届けに参っただけでございます」
ドアを開けるのを諦めたマリアンは、大人しくサイグローグの話を聞くことにした。
確かに泥棒ならば問答無用で自分を縛り付けているはずだし、こんなに悠長に話しかけてはこないだろうと少し冷静な気持ちになってきた。
落ち着いたマリアンを見るとサイグローグは胸を撫で下ろし、なるべく優しげな口調で問いかけた。
「マリアン様、あなたはいま苦しんでおられますね?自分のせいで、誰か人を失ってしまったことに」
「どうしてそれを・・・」
「私には分かるのです。ちょっと普通ではないもので・・・私がこのお屋敷に入った事から、もうお分かりでしょう?」
「・・・・・・・・」
戸締りは全てしてあったし、仮に何らかの方法で侵入したとしても先ほど鳴らされたベルの説明がつかない。
自分に気付かれずに背後に回ることから、少なくとも人ではないと思えた。
「・・・それで、どういうご用件でしょうか?」
「いえ、そんなに難しいお話ではないのです。あなた様の苦しみとなっている元凶・・・リオン=マグナスを生き返らせてあげようと思いまして」
「っ!エミリオを!?」
やはり、リオンは死亡していた。それはショックではあったが、サイグローグの発言にはもっと驚くものがあった。
人を生き返らせる・・・そんな事が可能なのかと考えたが、相手は得体のしれない存在であり、できはしないとは言い切れなかった。
「ですが、それには私が今から開く時空の扉をくぐり、異世界を旅して8つの特殊な宝石を集めるという試練を受ける必要があるのです。当然、魔物はいますので、危険な旅路となるでしょう」
「そ、それで本当にエミリオは戻ってくるんですか?」
「そこはマリアン様が私を信じて頂くしかありません」
深々と、サイグローグはお辞儀をする。
マリアンはまだ半信半疑だったが、サイグローグはまるで証拠を見せつけるかのように、マリアンにある物を見せた。
「もしも了承して頂けるのでしたら、これをお渡しします」
「これは・・・ヒューゴ様が持っていらした剣?」
「お察しの通りでございます。名はソーディアン・ベルセリオス。魔物と戦う際には、この剣をお使いになって下さい」
「ソーディアン・ベルセリオス・・・」
マリアンは復唱しながら、確かエミリオの持っていた剣もソーディアンという名前が付いていたはず、と思い出していた。
なんでも人格の宿った剣だとかで、素質の無い者にはその声が聞こえないと昔聞いた覚えがある。
「その剣にはヒューゴ様が使っていた時の物とは別でございまして・・・正確にはその剣が造られた時代のもので、宿っている人格もヒューゴ様の時とは違う人物が入っております」
それが何を意味するのかはマリアンには分からなかったが、とりあえずヒューゴが持っていた物とは似ているが、違う物だという事は理解できた。
実際に剣を持ってみると、ヒューゴが使用していた時のような禍々しさは無く、むしろ持っていると温もりさえ感じた。
マリアンは生まれてこの方、戦闘など経験したことも無く、剣の扱い方さえ全く分からなかった。
「私、戦ったことはないのですが・・・」
「それも含めての試練でございます。受ける、受けないは自由ですが・・・このような機会、二度はありませんよ?ずっと、この生活が続いても宜しいのですか?」
「そ、それは・・・」
サイグローグの目的が何かも分からないし、もしかしたら全て嘘である可能性もある。
だが、この剣が今ここに存在していることと、恐ろしいほど詳しく内情を知っていることから、少なくとも信じる余地はあった。
それに、これはきっと自分への罪滅ぼしなのだろうと、マリアンは思っていた。
どれだけ、自分の非力さに悔んだことか。どれだけ、後悔を重ねてきたことか。
答えはもう、最初から決まっていたのかもしれない。
「分かりました。その試練、受けさせて下さい」
真っ直ぐ、とても強い瞳でマリアンはサイグローグを見上げた。
「ふふ、勇気ある行動に感謝いたします」
サイグローグは三度目のお辞儀を終えると、目の前に重そうな扉を出現させた。
すると、サイグローグはにっこりと柔らかそうな笑みを浮かべながらこちらを向く。
「それに、そんなに不安がることはありません。マリアン様以外にもあと七人いらっしゃいますので、なにも一人で全てをこなす必要はないのです」
「(私と同じ境遇の方が、七人・・・)」
そう思っていると、サイグローグは付け足すように‘それと・・・’と言い始めた。
「マリアン様、一つアドバイスがございます」
「アドバイス?」
「今はまだ、その剣の声が聞こえないことでしょう。しかし、いつの日か心の底から何かを思う出来事があれば、その剣はきっとあなた様の力となります。そのことを、どうか忘れぬよう」
「この剣が・・・」
聞き終えると、マリアンは手に持ったベルセリオスを見つめた。
何も聞こえないという事は自分に素質が無いからだろうが、サイグローグは修練を積めばこのベルセリオスは使いこなせると言いたかったのだろう。
そういえば、エミリオはよくシャルティエという剣の話をしてくれて、正直、そんな仲の良い関係がうらやましいと思ったこともあった。
自分に彼のような力があるとは思えないが、今は目の前の扉へ向かって歩こうと誓った。
「(待っててね、エミリオ。今度は、私が辛い思いをする番だから)」
そして、マリアンの体が全て扉の奥へつつまれると、扉はゆっくりと閉じられた。
「ふむ・・・もしかしたら、彼女が八人の中で一番残酷なのかもしれませんねぇ」
‘ま、その辺は私には関係の無いことですが’と切り捨て、サイグローグは次の場所へと向かった。
長期の休みをいただいてしまったので、今後をどう過ごそうかと考えていた。
この屋敷の新しい旦那様と奥様がしばらくの間、旅行に行ってくるらしく、それまでの屋敷の管理を頼まれているだけである。
他の執事やメイド達も同様に休みをもらっており、それぞれの自宅や実家でのんびりとしているようだ。
しかし、メイド長であるマリアン・フュステルはこの屋敷に住まわせてもらっており、郵便物の受け取りやその他の雑用もこなさなければならない。
あらかた用事も済ませ、屋敷内で一人になったマリアンは少し休憩を取るため、紅茶を淹れる準備をしていた。
「えーっと、確かダージリンがこの辺りにあったはずよね・・・」
長い黒髪をたなびかせ、戸棚の中から茶葉の入った缶を探している。
紅茶をカップに注いで椅子に座り、ふぅ、と一呼吸すると、マリアンは今までの事を思い返していた。
「(私はヒューゴ様に人質として捕らえられ、そしてスタンさん達に助けていただいた・・・)」
あの時、スタンにリオンは今どうしているのかと尋ねたが、別の場所で上手くやっていると聞かされた。
だが、本当はリオンは・・・エミリオは、もうこの世にはいないのではないのかと、マリアンは気付いていた。
あれから月日が経ち、空を覆っていた黒い膜のようなものも晴れると、それがスタン達による功績であると知れ渡り、彼らは四英雄と呼ばれるようになった。
あれ以来、もう彼らに会う事は無く、エミリオもいつか帰ってくるのでは、と淡い期待を寄せていたが・・・。
「エミリオ・・・やっぱり、あなたはもう・・・」
スタン達に助けられてからはずっとこの屋敷に住み続け、新しい雇い主の世話をしながらも、彼の帰りを待ち続けている。
世界を救ったスタン達とは対照的に、世間ではリオンは‘裏切り者’と言われており、その噂を聞く度に、マリアンは心苦しい思いをしていた。
スタン達を裏切った。それも本心ではなく、自分が人質になっていたからに違いない。
何故、死してもなお彼は冒涜されなければいけないのか。
マリアンは、自責の念に囚われてばかりでいる。
「・・・そろそろ、お夕飯の買い出ししなくちゃ」
いつのまにか時刻は四時を過ぎていて、マリアンは今日の分の材料を買ってこようと席を立った。
食材屋まで足を運び、材料を次々と手に取っていくと、カゴの中に卵と牛乳と砂糖をいつのまにか入れてしまっていた。
「(あ・・・)」
これは、彼が大好物であったプリンの材料。
少し恥ずかしげな顔をしながらも、いつも‘おいしい’と言ってくれていた、エミリオの顔が浮かんできた。
(プリンなんて・・・もう子供じゃないんだ。やめてくれ、マリアン)
(あら、私だって子供の頃に好きだった食べ物は今も変わらないわよ?それに、あなたはいつもおいしそうに食べてくれるから、作りがいがあるんだもの♪)
(う・・・わ、分かったよマリアン。じゃあ、いただきます)
(はい、召し上がれ。おかわりもあるからね)
卵と、牛乳と、砂糖を元の棚に返し、夕飯の材料を買って屋敷に戻ると、マリアンはいつもよりも疲れを感じたような気がした。
かつてマリアンは人質にされた際に、一度自殺を図ろうとしたことがある。彼の足枷になるくらいならいっそ、と。
しかし、それも失敗に終わり、やはり自分はヒューゴに体よく利用されたようだった。
ふつふつと、エミリオとの記憶が蘇る。
彼は自分に亡き母の面影を重ねていたようで、よく自分を慕ってくれていた。
それが恋愛の感情であると知りながらも、立場の違いからマリアンはリオンを完全に受け入れることはできなかった。
そして、そのせいでリオンを苦しめていることも。
最早、待つことは無駄なのかもしれなかったが、それでもマリアンはここで待ち続ける。
もう一度だけ彼に会えるなら、ただ一言謝りたかった。
そして叶うなら、望めるなら、もう一度、あの楽しかった日々を。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい、エミリオ・・・!」
涙を流していると、突然、屋敷のベルが鳴った。
誰か来客が来たのだろうか?と思い、顔をハンカチで整え、気持ちを落ち着けてからドアを開ける。
「はい、どちら様──・・・?」
しかし屋敷の前には誰もおらず、辺りは夜になって暗かったが、やはり周りには誰もいなかった。
子供のイタズラだろうと、気にせずドアを閉め、リビングに戻ろうとした瞬間、目の前に白黒の衣装を着た道化師のような人物が立っていた事に気付いた。
「きゃあっ!?」
「これはこれは・・・驚かせてしまったようで申し訳ございません。私、サイグローグという者です。以後、お見知りおきを──」
と言いながら、サイグローグと名乗る人物はお辞儀をした。
現状が理解できていないマリアンは泥棒が入り込んだと思い込み、誰か人を呼ぼうとドアの取っ手に手をかけたが、一向に開く気配はしなかった。
「ど、ドアが開かない・・・!?」
「お、落ち着いてくださいませ、マリアン様。私は泥棒でも何でもありません。ただ、今日はあなたに耳寄りな情報をお届けに参っただけでございます」
ドアを開けるのを諦めたマリアンは、大人しくサイグローグの話を聞くことにした。
確かに泥棒ならば問答無用で自分を縛り付けているはずだし、こんなに悠長に話しかけてはこないだろうと少し冷静な気持ちになってきた。
落ち着いたマリアンを見るとサイグローグは胸を撫で下ろし、なるべく優しげな口調で問いかけた。
「マリアン様、あなたはいま苦しんでおられますね?自分のせいで、誰か人を失ってしまったことに」
「どうしてそれを・・・」
「私には分かるのです。ちょっと普通ではないもので・・・私がこのお屋敷に入った事から、もうお分かりでしょう?」
「・・・・・・・・」
戸締りは全てしてあったし、仮に何らかの方法で侵入したとしても先ほど鳴らされたベルの説明がつかない。
自分に気付かれずに背後に回ることから、少なくとも人ではないと思えた。
「・・・それで、どういうご用件でしょうか?」
「いえ、そんなに難しいお話ではないのです。あなた様の苦しみとなっている元凶・・・リオン=マグナスを生き返らせてあげようと思いまして」
「っ!エミリオを!?」
やはり、リオンは死亡していた。それはショックではあったが、サイグローグの発言にはもっと驚くものがあった。
人を生き返らせる・・・そんな事が可能なのかと考えたが、相手は得体のしれない存在であり、できはしないとは言い切れなかった。
「ですが、それには私が今から開く時空の扉をくぐり、異世界を旅して8つの特殊な宝石を集めるという試練を受ける必要があるのです。当然、魔物はいますので、危険な旅路となるでしょう」
「そ、それで本当にエミリオは戻ってくるんですか?」
「そこはマリアン様が私を信じて頂くしかありません」
深々と、サイグローグはお辞儀をする。
マリアンはまだ半信半疑だったが、サイグローグはまるで証拠を見せつけるかのように、マリアンにある物を見せた。
「もしも了承して頂けるのでしたら、これをお渡しします」
「これは・・・ヒューゴ様が持っていらした剣?」
「お察しの通りでございます。名はソーディアン・ベルセリオス。魔物と戦う際には、この剣をお使いになって下さい」
「ソーディアン・ベルセリオス・・・」
マリアンは復唱しながら、確かエミリオの持っていた剣もソーディアンという名前が付いていたはず、と思い出していた。
なんでも人格の宿った剣だとかで、素質の無い者にはその声が聞こえないと昔聞いた覚えがある。
「その剣にはヒューゴ様が使っていた時の物とは別でございまして・・・正確にはその剣が造られた時代のもので、宿っている人格もヒューゴ様の時とは違う人物が入っております」
それが何を意味するのかはマリアンには分からなかったが、とりあえずヒューゴが持っていた物とは似ているが、違う物だという事は理解できた。
実際に剣を持ってみると、ヒューゴが使用していた時のような禍々しさは無く、むしろ持っていると温もりさえ感じた。
マリアンは生まれてこの方、戦闘など経験したことも無く、剣の扱い方さえ全く分からなかった。
「私、戦ったことはないのですが・・・」
「それも含めての試練でございます。受ける、受けないは自由ですが・・・このような機会、二度はありませんよ?ずっと、この生活が続いても宜しいのですか?」
「そ、それは・・・」
サイグローグの目的が何かも分からないし、もしかしたら全て嘘である可能性もある。
だが、この剣が今ここに存在していることと、恐ろしいほど詳しく内情を知っていることから、少なくとも信じる余地はあった。
それに、これはきっと自分への罪滅ぼしなのだろうと、マリアンは思っていた。
どれだけ、自分の非力さに悔んだことか。どれだけ、後悔を重ねてきたことか。
答えはもう、最初から決まっていたのかもしれない。
「分かりました。その試練、受けさせて下さい」
真っ直ぐ、とても強い瞳でマリアンはサイグローグを見上げた。
「ふふ、勇気ある行動に感謝いたします」
サイグローグは三度目のお辞儀を終えると、目の前に重そうな扉を出現させた。
すると、サイグローグはにっこりと柔らかそうな笑みを浮かべながらこちらを向く。
「それに、そんなに不安がることはありません。マリアン様以外にもあと七人いらっしゃいますので、なにも一人で全てをこなす必要はないのです」
「(私と同じ境遇の方が、七人・・・)」
そう思っていると、サイグローグは付け足すように‘それと・・・’と言い始めた。
「マリアン様、一つアドバイスがございます」
「アドバイス?」
「今はまだ、その剣の声が聞こえないことでしょう。しかし、いつの日か心の底から何かを思う出来事があれば、その剣はきっとあなた様の力となります。そのことを、どうか忘れぬよう」
「この剣が・・・」
聞き終えると、マリアンは手に持ったベルセリオスを見つめた。
何も聞こえないという事は自分に素質が無いからだろうが、サイグローグは修練を積めばこのベルセリオスは使いこなせると言いたかったのだろう。
そういえば、エミリオはよくシャルティエという剣の話をしてくれて、正直、そんな仲の良い関係がうらやましいと思ったこともあった。
自分に彼のような力があるとは思えないが、今は目の前の扉へ向かって歩こうと誓った。
「(待っててね、エミリオ。今度は、私が辛い思いをする番だから)」
そして、マリアンの体が全て扉の奥へつつまれると、扉はゆっくりと閉じられた。
「ふむ・・・もしかしたら、彼女が八人の中で一番残酷なのかもしれませんねぇ」
‘ま、その辺は私には関係の無いことですが’と切り捨て、サイグローグは次の場所へと向かった。
■作者メッセージ
おお、今回は5000字以内で収まった・・・。
ファンタジアに続いてデスティニーもこれで終了し、次はエターニア編です。
エターニアでは、あの人物に関係の深い人の登場となります!
ファンタジアに続いてデスティニーもこれで終了し、次はエターニア編です。
エターニアでは、あの人物に関係の深い人の登場となります!