旅人探し 〜エターニア編〜
ロエン・ラーモアはイラついていた。
今日の訓練で他の兵たちが不甲斐なかったから?いや、違う。
最近目立った功績をあげていないから?それも違う。
まだ今日は愛しのアレンデ姫を一度も見ていないから?それでもない。
原因は分かってるさ・・・‘あいつ’がいないからだ。
「貴様ら、たるんでいるぞ!それでもインフェリア王国軍の兵士か!」
「「も、申し訳ありません!!」」
謝りながら、兵士たちは剣の素振りの特訓を続ける。
午前に行われた魔物討伐訓練でロエンの軍だけが芳(かんば)しくない結果を残してしまい、衛兵長であるロエンは惨めな思いをしたのだ。
こうして兵士たちが叱咤されている訳だが、非はロエンにもあった。
「ったく、よく言うぜ。自分は戦わずに命令しかしなかったくせに」
兵士が小声で文句を言った通り、訓練中にロエンは偉そうに命令しかしていなかったのである。
上官としてはそういう事もあるのかもしれないが、今回は隊長も動く手筈となっていたにも関わらずに。
他の隊長たちは指揮を執りつつ、兵士たちと連携して魔物を倒していたのだが、ロエンはそれをしなかった。
だが、ロエンはしなかったというより、できなかったと言った方が正しいのかもしれない。
別の兵士が、先ほど文句を言った兵士に話しかける。
「なぁ、ロエン隊長って強いのか?入隊してから戦った所を見たことが無いんだが・・・」
「なんだ、お前知らないのか?あの人、訓練はしてるらしいが実戦経験はゼロで、練習用のワラしか斬ったこと無いんだよ」
「じゃあ何であんな人が隊長なんてやってるんだ?」
「高い地位の家柄の貴族だからだろ?コネで入って、後は適当に王様から信頼を得られるような事をしてれば、位も上がってくってもんさ」
「本当かよ・・・あーあ、何でそんな人の下に就いちまったんだか・・・」
「ぼやくなよ。また隊長にどやされるぞ」
かつてインフェリア軍がセレスティアへ進軍する時にロエンは軍団長や全権大使に任命されていたが、それも常日頃から王に媚を売っていたからである。
剣の腕前だけで見れば彼は並の兵士よりも下であるのに、横暴な態度を取られては兵士の不満が溜まっていくのも当然だろう。
「私はこれから街の復興作業の方に行ってくる。次は今回のような事がないようにしておけ!」
「「了解しました!!」」
訓練場を後にし、街へと歩くロエンだが何やら苦しそうに胸を抱えている。
「(くそっ!何だ?どうして今日はこんなに気分が悪いんだ!)」
言いようのない胸糞の悪さに、ロエンは不快感を覚えていた。
ロエンはある人物がいなくなって以来、ずっと不調が続いている。
しかし気にすることもなく、ロエンはグランドフォールの影響によって破壊された街の方へと歩いていく。
2週間ほど前、インフェリアとセレスティアの二つの世界を互いにぶつけ合うという、グランドフォールをシゼルによって引き起こされそうになった。
しかし、リッドとメルディがセイファートリングの核を破壊した事により二つの世界は完全に分断され、なんとか衝突の危険は免れた。
だがグランドフォールは起こりかけてしまっていたので、霊峰ファロース山が崩れたり、地形が変わってしまったりなどの被害があったので、色々と問題は山積みになっている。
城下町に到着したロエンはここでもまた作業中の兵士たちに指示だけをしており、自分から動こうとはしなかった。
復興作業を進めているとやがて天気が悪くなり、今日はもう続けれそうにないと見ると、ロエンと兵士たちは城へと帰って行く。
次第に辺りは夜になり、ロエンは今度は自室で事務仕事をしていた。
休憩がてらコーヒーでも飲みに行こうかと部屋を出ると、アレンデを見かけたロエンは颯爽と声をかける。
「おお、姫様!」
「あら、ロエン・・・今日もお仕事は大変そうね」
「いえ、そんな事はございません!・・・ところで、こんな時間にどうされたのですか?」
城の中といえど、付き人も無しで姫が夜中に歩いているのを不審に思ったロエンはアレンデに問いかける。
すると、アレンデは顔を夜空の見える窓の方へ向け、悲しげな表情をさせながら呟いた。
「レイシスの事を・・・考えていたのです」
「・・・あいつの事、ですか」
レイシス・フォーマルハウト。25歳という若さにしてインフェリア軍の元老騎士だった男である。
というのも、レイシスは現在のインフェリア王の隠し子であり、レイシスの母は王の正妻に服毒自殺に追い込まれて死亡していて、それに負い目を感じてか、王は元老騎士という位を与えているが、ロエンとは違ってレイシスは兵士の信頼も剣の実力も十分見合うものを持っている。
彼は極光術の素質があり、レイスという偽名を用いてセイファートキーに導かれるまま旅をしていた所、同じく素質を持ったリッドたちと出会い、共に旅をするが王の命令によって一時は敵対することになる。
しかし、セレスティアでリッドたちに放たれたシゼルの闇の極光術を未完成の極光壁で庇い、セイファートキーを託した後に命を落としてしまう。
レイスの死は以前リッドたちの口から語られており、レイスに想いを寄せていたアレンデは一時期ふさぎ込んでしまうことがあった。
しかし、ペースを乱したのはなにもアレンデだけではなかった。
「ロエンは・・・彼のことは気に留めないのですか?」
「はは、何を仰いますか姫。私は奴のことなど気にしてはおりませんし、むしろいなくなってせいせいしております。それに──」
「ロエン」
ビクッ、とロエンは身を震わせた。
「強がりはよして下さい・・・あなたとレイシスは、良き仲だったではありませんか・・・」
「・・・・・・・・」
話しかけるアレンデに対し、ロエンはただ黙ってうつむいている。
「あなたの方はどう思っているかは分かりませんが、レイシスはよく私に話してくれていましたよ?彼は良き友人だと・・・。最近あなたは不調が続いているようですが・・・やはり、原因は──」
「姫!・・・し、失礼します!」
急にロエンは頭を下げると、振り返って早歩きでアレンデの元から去っていった。
これ以上、アレンデの言葉は聞きたくなかった。それより先を聞いてしまうと、何だか認めてしまうような気がして。
「はぁ、はぁ!・・・ちくしょう!」
自室へと帰ったロエンは息を荒げ、勢いよく壁を殴りつけた。
(ウ──タス───は──君に──ね───)
「認めないぞ、レイシス!・・・あんな言葉、絶対に私は認めんからな!」
何とか呼吸を整えると、椅子に座って砂糖無しのコーヒーを一口含む。
上手い、と思ったが、ここでロエンはある異変に気付いた。
確か、自分は先ほどコーヒーを飲もうと部屋を出たはずだが、どうしてここに出来たてのコーヒーが用意されているのだろう?
疑問に思っていると、背後から聞き覚えのない声が、ロエンの耳にぬるりと入り込む。
「私のコーヒーはお口に合いましたか、ロエン様?」
「なっ!?・・・何者だ、貴様!」
椅子を大きな音をたてながら立つと、ロエンは声の主に対して腰に挿していた剣を抜いた。
相手は、白黒の異形な服を身にまとった道化師のような人物である。
すると、その道化師はロエンに向かってお辞儀をした。
「私、サイグローグと申します。本日はロエン様にとびっきりの情報を持って馳せ参じました」
「なんだと・・・?おい、誰か!誰かいないのか!」
扉の外へとロエンは問いかけるが、誰もやっては来なかった。
普通ならば警護の兵がすぐにかけつける筈なのだが、まるで城の中には最初から誰もいないかのように静まり返っていた。
「ふふ、無駄ですよ。今この空間には、私とロエン様しかおりません」
「訳のわからない事を!・・・貴様、この私に何の用だ」
そう尋ねると、サイグローグはまるで待っていましたと言わんばかりにほくそ笑む。
「ロエン様、レイシス様を・・・生き返らしてみたくはありませんか?」
「レイシスだと・・・!?」
何故、このサイグローグとかいう奴からあいつの名前が出てくるのか、とロエンは疑問に思った。
だが、そんなロエンを無視するかのようにサイグローグは話を進める。
「私にはできるのですよ、それが。・・・ただ、それには条件がありまして・・・ロエン様には今から異世界へと続く時空の扉をくぐり、特殊な宝石を8つ集めて頂きたいのです。もちろん、魔物などのいくつかの危険はありますが」
「異世界?宝石?・・・勝手に話を進めているようだがな、私はそんなもの受けんぞ」
すると、サイグローグは驚いた顔をした。
「おや、なぜ?」
「あいつには死んでもらってた方が都合がいいんだ。あいつがいない事で元老騎士のポストが一つ空くから出世しやすいし、何よりアレンデ姫を振り向かすチャンスがあるからな!」
馬鹿馬鹿しい、と言うようにロエンはあざけ笑う。
「さぁ、用はそれだけか?とっとと帰れ。私は忙しいんだ」
ロエンは先ほどまで飲んでいたコーヒーを排水溝に捨て、事務仕事に取り掛かろうとしていた。
そんなロエンの姿を見て、サイグローグはニヤリと口元で笑い、一言だけつぶやく。
「ウルタス・ブイは君に委ねる」
「!?」
ウルタス・ブイ、という舞台劇のお話がある。
貴族令嬢連続誘拐事件を、仮面のヒーローであるウルタス・ブイという人物が解決するというストーリーである。
劇中でウルタス・ブイが一人の令嬢と知り合い、守り、付き添いながらも外の世界に連れ出したことから、令嬢をアレンデに、ウルタス・ブイをロエンに見立てて、‘姫を頼む’というメッセージをレイシスは残していった。
これはレイシス本人と、託されたロエン、そしてこの言葉をロエンに伝えたガレノスという人物しか知りえないことだった。
「どうしてそれを知っている!」
「今まで、何もかもロエン様はレイシス様に負け続け、いつか自力でレイシス様の上をいってやると思っていたのに・・・」
「・・・黙れ」
「レイシス様は死んでしまい、後は‘姫を頼む’という言葉が残されただけ。この言葉を認めてしまえば、レイシス様は完全に死んでしまうことになる。しかも、これでは勝ち逃げのようではありませんか?剣技も信頼も姫様の気持ちも、もう彼を上回ることは無い」
「黙れと言っているだろう!!」
ガシャン!とコーヒーカップの割れる音がする。
そして、まるで怪我人を労るかのように、穏やかな口調でサイグローグは口を開いた。
「・・・素直になってはいかがですか、ロエン様」
「っ・・・!」
ああ、そうさ。私はいつか奴の上をいくと意気込んでいた。
なのに奴は死に、あまつさえ姫を頼む・・・だと?
ふざけるなよレイシス!姫を守りたいのなら自分で守れ!それが姫からの気持ちを得たお前の責任だろうが!
私はいつだってお前を目標としていた!だが目標とする人物がいなくなり、何もかも張り合いが無い!剣技も、信頼も、姫の気持ちも全部!
私はお前が大嫌いだ・・・これ以上、お前のわがままに付き合ってなどいられるか。
「いいだろう・・・その試練とやら、受けてやる!」
「ふふ、豪快なご決断に感謝いたします」
サイグローグはお辞儀をすると、すぐ傍に時空の扉を出現させた。
それがゆっくりと開くと、ロエンは思わずゴクリと唾を飲み込む。
「おっと、言い忘れておりましたが、この旅にはロエン様以外にも七人同行される方々がいらっしゃいますので」
「七人?・・・ふん、利用できるものは利用してやるか・・・」
言いながら、ロエンは扉の中へと一歩踏み出した。
「あと、サイグローグとやら」
「なんでございましょう?」
振り向き、サイグローグへ向けてロエンは指をさした。
「この貴族である私を本気にさせた事、いつか後悔させてやる!」
ロエンの姿が消え、扉が閉まると、サイグローグも自分が移動するための扉を開いた。
「・・・ま、やれるものならやってみて下さい。そうでないと、我らの願いが叶いませんからね」
今日の訓練で他の兵たちが不甲斐なかったから?いや、違う。
最近目立った功績をあげていないから?それも違う。
まだ今日は愛しのアレンデ姫を一度も見ていないから?それでもない。
原因は分かってるさ・・・‘あいつ’がいないからだ。
「貴様ら、たるんでいるぞ!それでもインフェリア王国軍の兵士か!」
「「も、申し訳ありません!!」」
謝りながら、兵士たちは剣の素振りの特訓を続ける。
午前に行われた魔物討伐訓練でロエンの軍だけが芳(かんば)しくない結果を残してしまい、衛兵長であるロエンは惨めな思いをしたのだ。
こうして兵士たちが叱咤されている訳だが、非はロエンにもあった。
「ったく、よく言うぜ。自分は戦わずに命令しかしなかったくせに」
兵士が小声で文句を言った通り、訓練中にロエンは偉そうに命令しかしていなかったのである。
上官としてはそういう事もあるのかもしれないが、今回は隊長も動く手筈となっていたにも関わらずに。
他の隊長たちは指揮を執りつつ、兵士たちと連携して魔物を倒していたのだが、ロエンはそれをしなかった。
だが、ロエンはしなかったというより、できなかったと言った方が正しいのかもしれない。
別の兵士が、先ほど文句を言った兵士に話しかける。
「なぁ、ロエン隊長って強いのか?入隊してから戦った所を見たことが無いんだが・・・」
「なんだ、お前知らないのか?あの人、訓練はしてるらしいが実戦経験はゼロで、練習用のワラしか斬ったこと無いんだよ」
「じゃあ何であんな人が隊長なんてやってるんだ?」
「高い地位の家柄の貴族だからだろ?コネで入って、後は適当に王様から信頼を得られるような事をしてれば、位も上がってくってもんさ」
「本当かよ・・・あーあ、何でそんな人の下に就いちまったんだか・・・」
「ぼやくなよ。また隊長にどやされるぞ」
かつてインフェリア軍がセレスティアへ進軍する時にロエンは軍団長や全権大使に任命されていたが、それも常日頃から王に媚を売っていたからである。
剣の腕前だけで見れば彼は並の兵士よりも下であるのに、横暴な態度を取られては兵士の不満が溜まっていくのも当然だろう。
「私はこれから街の復興作業の方に行ってくる。次は今回のような事がないようにしておけ!」
「「了解しました!!」」
訓練場を後にし、街へと歩くロエンだが何やら苦しそうに胸を抱えている。
「(くそっ!何だ?どうして今日はこんなに気分が悪いんだ!)」
言いようのない胸糞の悪さに、ロエンは不快感を覚えていた。
ロエンはある人物がいなくなって以来、ずっと不調が続いている。
しかし気にすることもなく、ロエンはグランドフォールの影響によって破壊された街の方へと歩いていく。
2週間ほど前、インフェリアとセレスティアの二つの世界を互いにぶつけ合うという、グランドフォールをシゼルによって引き起こされそうになった。
しかし、リッドとメルディがセイファートリングの核を破壊した事により二つの世界は完全に分断され、なんとか衝突の危険は免れた。
だがグランドフォールは起こりかけてしまっていたので、霊峰ファロース山が崩れたり、地形が変わってしまったりなどの被害があったので、色々と問題は山積みになっている。
城下町に到着したロエンはここでもまた作業中の兵士たちに指示だけをしており、自分から動こうとはしなかった。
復興作業を進めているとやがて天気が悪くなり、今日はもう続けれそうにないと見ると、ロエンと兵士たちは城へと帰って行く。
次第に辺りは夜になり、ロエンは今度は自室で事務仕事をしていた。
休憩がてらコーヒーでも飲みに行こうかと部屋を出ると、アレンデを見かけたロエンは颯爽と声をかける。
「おお、姫様!」
「あら、ロエン・・・今日もお仕事は大変そうね」
「いえ、そんな事はございません!・・・ところで、こんな時間にどうされたのですか?」
城の中といえど、付き人も無しで姫が夜中に歩いているのを不審に思ったロエンはアレンデに問いかける。
すると、アレンデは顔を夜空の見える窓の方へ向け、悲しげな表情をさせながら呟いた。
「レイシスの事を・・・考えていたのです」
「・・・あいつの事、ですか」
レイシス・フォーマルハウト。25歳という若さにしてインフェリア軍の元老騎士だった男である。
というのも、レイシスは現在のインフェリア王の隠し子であり、レイシスの母は王の正妻に服毒自殺に追い込まれて死亡していて、それに負い目を感じてか、王は元老騎士という位を与えているが、ロエンとは違ってレイシスは兵士の信頼も剣の実力も十分見合うものを持っている。
彼は極光術の素質があり、レイスという偽名を用いてセイファートキーに導かれるまま旅をしていた所、同じく素質を持ったリッドたちと出会い、共に旅をするが王の命令によって一時は敵対することになる。
しかし、セレスティアでリッドたちに放たれたシゼルの闇の極光術を未完成の極光壁で庇い、セイファートキーを託した後に命を落としてしまう。
レイスの死は以前リッドたちの口から語られており、レイスに想いを寄せていたアレンデは一時期ふさぎ込んでしまうことがあった。
しかし、ペースを乱したのはなにもアレンデだけではなかった。
「ロエンは・・・彼のことは気に留めないのですか?」
「はは、何を仰いますか姫。私は奴のことなど気にしてはおりませんし、むしろいなくなってせいせいしております。それに──」
「ロエン」
ビクッ、とロエンは身を震わせた。
「強がりはよして下さい・・・あなたとレイシスは、良き仲だったではありませんか・・・」
「・・・・・・・・」
話しかけるアレンデに対し、ロエンはただ黙ってうつむいている。
「あなたの方はどう思っているかは分かりませんが、レイシスはよく私に話してくれていましたよ?彼は良き友人だと・・・。最近あなたは不調が続いているようですが・・・やはり、原因は──」
「姫!・・・し、失礼します!」
急にロエンは頭を下げると、振り返って早歩きでアレンデの元から去っていった。
これ以上、アレンデの言葉は聞きたくなかった。それより先を聞いてしまうと、何だか認めてしまうような気がして。
「はぁ、はぁ!・・・ちくしょう!」
自室へと帰ったロエンは息を荒げ、勢いよく壁を殴りつけた。
(ウ──タス───は──君に──ね───)
「認めないぞ、レイシス!・・・あんな言葉、絶対に私は認めんからな!」
何とか呼吸を整えると、椅子に座って砂糖無しのコーヒーを一口含む。
上手い、と思ったが、ここでロエンはある異変に気付いた。
確か、自分は先ほどコーヒーを飲もうと部屋を出たはずだが、どうしてここに出来たてのコーヒーが用意されているのだろう?
疑問に思っていると、背後から聞き覚えのない声が、ロエンの耳にぬるりと入り込む。
「私のコーヒーはお口に合いましたか、ロエン様?」
「なっ!?・・・何者だ、貴様!」
椅子を大きな音をたてながら立つと、ロエンは声の主に対して腰に挿していた剣を抜いた。
相手は、白黒の異形な服を身にまとった道化師のような人物である。
すると、その道化師はロエンに向かってお辞儀をした。
「私、サイグローグと申します。本日はロエン様にとびっきりの情報を持って馳せ参じました」
「なんだと・・・?おい、誰か!誰かいないのか!」
扉の外へとロエンは問いかけるが、誰もやっては来なかった。
普通ならば警護の兵がすぐにかけつける筈なのだが、まるで城の中には最初から誰もいないかのように静まり返っていた。
「ふふ、無駄ですよ。今この空間には、私とロエン様しかおりません」
「訳のわからない事を!・・・貴様、この私に何の用だ」
そう尋ねると、サイグローグはまるで待っていましたと言わんばかりにほくそ笑む。
「ロエン様、レイシス様を・・・生き返らしてみたくはありませんか?」
「レイシスだと・・・!?」
何故、このサイグローグとかいう奴からあいつの名前が出てくるのか、とロエンは疑問に思った。
だが、そんなロエンを無視するかのようにサイグローグは話を進める。
「私にはできるのですよ、それが。・・・ただ、それには条件がありまして・・・ロエン様には今から異世界へと続く時空の扉をくぐり、特殊な宝石を8つ集めて頂きたいのです。もちろん、魔物などのいくつかの危険はありますが」
「異世界?宝石?・・・勝手に話を進めているようだがな、私はそんなもの受けんぞ」
すると、サイグローグは驚いた顔をした。
「おや、なぜ?」
「あいつには死んでもらってた方が都合がいいんだ。あいつがいない事で元老騎士のポストが一つ空くから出世しやすいし、何よりアレンデ姫を振り向かすチャンスがあるからな!」
馬鹿馬鹿しい、と言うようにロエンはあざけ笑う。
「さぁ、用はそれだけか?とっとと帰れ。私は忙しいんだ」
ロエンは先ほどまで飲んでいたコーヒーを排水溝に捨て、事務仕事に取り掛かろうとしていた。
そんなロエンの姿を見て、サイグローグはニヤリと口元で笑い、一言だけつぶやく。
「ウルタス・ブイは君に委ねる」
「!?」
ウルタス・ブイ、という舞台劇のお話がある。
貴族令嬢連続誘拐事件を、仮面のヒーローであるウルタス・ブイという人物が解決するというストーリーである。
劇中でウルタス・ブイが一人の令嬢と知り合い、守り、付き添いながらも外の世界に連れ出したことから、令嬢をアレンデに、ウルタス・ブイをロエンに見立てて、‘姫を頼む’というメッセージをレイシスは残していった。
これはレイシス本人と、託されたロエン、そしてこの言葉をロエンに伝えたガレノスという人物しか知りえないことだった。
「どうしてそれを知っている!」
「今まで、何もかもロエン様はレイシス様に負け続け、いつか自力でレイシス様の上をいってやると思っていたのに・・・」
「・・・黙れ」
「レイシス様は死んでしまい、後は‘姫を頼む’という言葉が残されただけ。この言葉を認めてしまえば、レイシス様は完全に死んでしまうことになる。しかも、これでは勝ち逃げのようではありませんか?剣技も信頼も姫様の気持ちも、もう彼を上回ることは無い」
「黙れと言っているだろう!!」
ガシャン!とコーヒーカップの割れる音がする。
そして、まるで怪我人を労るかのように、穏やかな口調でサイグローグは口を開いた。
「・・・素直になってはいかがですか、ロエン様」
「っ・・・!」
ああ、そうさ。私はいつか奴の上をいくと意気込んでいた。
なのに奴は死に、あまつさえ姫を頼む・・・だと?
ふざけるなよレイシス!姫を守りたいのなら自分で守れ!それが姫からの気持ちを得たお前の責任だろうが!
私はいつだってお前を目標としていた!だが目標とする人物がいなくなり、何もかも張り合いが無い!剣技も、信頼も、姫の気持ちも全部!
私はお前が大嫌いだ・・・これ以上、お前のわがままに付き合ってなどいられるか。
「いいだろう・・・その試練とやら、受けてやる!」
「ふふ、豪快なご決断に感謝いたします」
サイグローグはお辞儀をすると、すぐ傍に時空の扉を出現させた。
それがゆっくりと開くと、ロエンは思わずゴクリと唾を飲み込む。
「おっと、言い忘れておりましたが、この旅にはロエン様以外にも七人同行される方々がいらっしゃいますので」
「七人?・・・ふん、利用できるものは利用してやるか・・・」
言いながら、ロエンは扉の中へと一歩踏み出した。
「あと、サイグローグとやら」
「なんでございましょう?」
振り向き、サイグローグへ向けてロエンは指をさした。
「この貴族である私を本気にさせた事、いつか後悔させてやる!」
ロエンの姿が消え、扉が閉まると、サイグローグも自分が移動するための扉を開いた。
「・・・ま、やれるものならやってみて下さい。そうでないと、我らの願いが叶いませんからね」
■作者メッセージ
えー、エターニア編も終わりましたが・・・ちょっとこれから1週間くらい更新できない日々が続くと思います。
出来ればデスティニー2編もやりたかったですが・・・今から書き終えれるかな?(汗
それでわ、次はデスティニー2で!
出来ればデスティニー2編もやりたかったですが・・・今から書き終えれるかな?(汗
それでわ、次はデスティニー2で!