旅人探し 〜シンフォニア編〜
多くの人たちが賑わうここメルトキオの街は、いつもと何ら変わりなく暖かい日差しに包まれていた。
この街はテセアラの国王が住んでいるという事もあり、テセアラ中で一番大きな街だが、それ故に貧富の差も激しく、街の東側にはスラム街まで出来ている始末だ。
裕福な層は毎日豪華な服を身にまとい、他の貴族たちとパーティを開いたりする一方、貧しい層は今日の食事さえままならない程の劣悪さから、一つの社会問題にまで発展している。
そんな中、王の住む城を除いて一際目立つ大きな屋敷があった。
その屋敷の一室で、一人の少女が小鳥たちの鳴き声を聴きながら読書に耽(ふけ)っていた。
「・・・ふぅ」
彼女の名はセレス・ワイルダー。
ゼロス・ワイルダーの腹違いの妹で、とある事件を境に修道院に軟禁されていたが、今はゼロスの代わりにこの屋敷に住んでいる。
読み終えた本をパタン、と閉じて一息つくと、扉の外からコンコンとノックする音の後に聞きなれた声がした。
「セレス様、紅茶とお茶菓子をご用意しました」
「ああ、トクナガ・・・どうぞ、入って」
「失礼します」
セレスの専属の執事であるトクナガは扉を開け、一礼した後に部屋へと入った。
テーブルの上にココアとバニラであしらわれたチェック状のクッキーや、真ん中にフルーツのジャムが添えられているハート形のクッキーなどが並び、トクナガは慣れた手付きでポットからカップへ紅茶を注ぐ。
「この頃、体の調子などはいかがですか?」
「大丈夫よトクナガ。神子になってから色々する事は増えたけれど、体の方は特に何もありませんわ」
「それを聞いて安心しました。今の生活がセレス様にとって負担になってはいないかと心配で・・・」
「もう、トクナガは心配性なんだから」
セレスは生まれつき体が弱く、よく咳き込んだり体調を悪くする事があるので、激しい運動や無理な行動は医者から禁止されている。
「お兄様がいなくなった今、わたくしがしっかりしないと」
「セレス様・・・」
ふと、トクナガがテーブルの上に置いてあった本に目をやると、世界の情勢や政治の事について書かれたものばかりであり、トクナガは何とも言えない気持ちになった。
そしてセレスは綺麗な皿に乗せられている色とりどりのクッキーの中からチェック状のものを一つつまみ、香ばしい匂いを放つそれを、セレスはサクッという小気味良い音と共に一かじりする。
修道院にいた頃も食べた物だが、あの時よりも確実にトクナガの腕は上がっているとセレスは思った。
ココア部分のほろ苦さとバニラの所の独特な甘さが口の中でからみ合い、甘すぎず苦すぎずの絶妙なバランスを生み出していた。
やがて、セレスはクッキーをいくつか平らげ、紅茶も飲み終えるとトクナガは手早く皿とカップを片づける。
「ごちそうさま、トクナガ。とても美味しかったですわ」
「喜んでいただけたようで何よりでございます・・・では、何かありましたらお申し付け下さい」
そう言うと、トクナガはテーブルにある小柄なスイッチに手を向ける。
これはセレスに何かあった時のために作られたもので、1回押すとトクナガのバッジに青いランプが点灯し、2回以上連続で押すと緊急の事態と言う事で赤いランプがバッジに点灯して激しい音が鳴る仕組みとなっている。
トクナガは入ってきた時と同じように一礼し、部屋を出て静かに扉を閉めた。
皿やカップなどを洗おうと屋敷の台所へ向かう途中、トクナガはこの屋敷に住んでいたゼロスの専属の執事であった初老の男性、セバスチャンと出会う。
「これはトクナガさん。セレス様の具合はいかがでしたか?」
「おお、セバスチャンさん・・・やはり、相当参っておられるように見えました」
「うーむ・・・ゼロス様がお亡くなりになられ、その上いまは神子として祭り上げられていては・・・」
「何ともないとは仰っていましたが、セレス様は強がりな方ですから・・・きっとお悩みになっていられると思います」
ロイドたちの世界再生の旅の途中でゼロスはコレットをプロネーマに渡し、ロイドたちを裏切った。
ゼロスは最後の最後でロイドは自分を信じてくれなかった、マナの神子という肩書から解放されたかったと話し、ゼロスはロイドたちと戦う。
そして戦いに敗北したゼロスは最後にセレスのためを思った発言を残し、そのまま帰らぬ人となったのだ。
その後、ロイドはユグドラシルを倒し、シルヴァラントとテセアラの両方に平和が戻ると、風の噂か誰かデマを流したか、いつしかゼロスは死んだと言われるようになった。
するとセレスが本格的に神子として見られるようになり、修道院での軟禁されていた暮らしから解放されてこのメルトキオの街に移り住み、色々な行事にも参加する事となる。
実際、今のセレスには荷が重かったが、それでも周りを不安にさせまいと、セレスは気丈に振る舞っていた。
トクナガが部屋から去ると、セレスは先程までとは違う本を手に取って1ページ目をゆっくりと開いた。
目次を適当に流し読み、本文を頭に入れながら次々とページをめくってゆく。
「(わたくしは神子という存在に憧れていた・・・ですが神子の称号はお兄様に渡り、わたくしは突如軟禁され、自由なお兄様に嫉妬していた時もありましたわ。それでも・・・)」
読みかけていた本をしおりに挟んで閉じ、セレスは窓越しに夕暮れがかった空を見つめる。
「(こんな結果、わたくしは望んではいなかった!別に神子になれなくとも、軟禁されようとも、ただお兄様がいてくれれば・・・それだけで良かったのに・・・!)」
素直な気持ちになれず、今までゼロスに会う度に反発したような態度をとってはいたものの、セレスは本心ではゼロスの事をとても慕っていた。
実の母は神子の地位争いのためにゼロスの母を殺したとして国に処刑され、残った肉親は兄であるゼロスただ一人である。
子供の頃はよく遊んでくれた事もあったし、自分が転んだりして泣いてしまった時には‘泣くな’と言いながらぶっきらぼうに頭を撫でてくれた。
決して上手な撫で方ではなかったが、不思議と、とても安らかな気持ちになれた。
それがセレスにとって一番の思い出であり、離れてからも毎年ゼロスから送られてくる誕生日プレゼントは全て大事にしまっておいてある。
だが、そのゼロスも今はいなくなり、セレスは一人ぼっちになってしまっていた。
「お兄様に・・・もう一度、会いたい・・・」
ポツリ、とつぶやくと、またもや扉がノックされた。外からトクナガの声が聞こえる。
「セレス様、お夕食はいかがなさいますか?」
「・・・ごめんなさい、今日はいいですわ。あまり気分じゃありませんの」
「・・・かしこまりました」
もうそんな時間だったか、とセレスは思いながら再度外を見ると、先ほどまで夕焼け空だったのが既に辺りは暗くなっていた。
「水の一杯でも貰っておけば良かったかしら・・・」
と、いま追い返したばかりのトクナガをスイッチで呼びつけるのもどうかと思ったので、自分の足で水を貰いに行こうと席を立った。
この街はテセアラの国王が住んでいるという事もあり、テセアラ中で一番大きな街だが、それ故に貧富の差も激しく、街の東側にはスラム街まで出来ている始末だ。
裕福な層は毎日豪華な服を身にまとい、他の貴族たちとパーティを開いたりする一方、貧しい層は今日の食事さえままならない程の劣悪さから、一つの社会問題にまで発展している。
そんな中、王の住む城を除いて一際目立つ大きな屋敷があった。
その屋敷の一室で、一人の少女が小鳥たちの鳴き声を聴きながら読書に耽(ふけ)っていた。
「・・・ふぅ」
彼女の名はセレス・ワイルダー。
ゼロス・ワイルダーの腹違いの妹で、とある事件を境に修道院に軟禁されていたが、今はゼロスの代わりにこの屋敷に住んでいる。
読み終えた本をパタン、と閉じて一息つくと、扉の外からコンコンとノックする音の後に聞きなれた声がした。
「セレス様、紅茶とお茶菓子をご用意しました」
「ああ、トクナガ・・・どうぞ、入って」
「失礼します」
セレスの専属の執事であるトクナガは扉を開け、一礼した後に部屋へと入った。
テーブルの上にココアとバニラであしらわれたチェック状のクッキーや、真ん中にフルーツのジャムが添えられているハート形のクッキーなどが並び、トクナガは慣れた手付きでポットからカップへ紅茶を注ぐ。
「この頃、体の調子などはいかがですか?」
「大丈夫よトクナガ。神子になってから色々する事は増えたけれど、体の方は特に何もありませんわ」
「それを聞いて安心しました。今の生活がセレス様にとって負担になってはいないかと心配で・・・」
「もう、トクナガは心配性なんだから」
セレスは生まれつき体が弱く、よく咳き込んだり体調を悪くする事があるので、激しい運動や無理な行動は医者から禁止されている。
「お兄様がいなくなった今、わたくしがしっかりしないと」
「セレス様・・・」
ふと、トクナガがテーブルの上に置いてあった本に目をやると、世界の情勢や政治の事について書かれたものばかりであり、トクナガは何とも言えない気持ちになった。
そしてセレスは綺麗な皿に乗せられている色とりどりのクッキーの中からチェック状のものを一つつまみ、香ばしい匂いを放つそれを、セレスはサクッという小気味良い音と共に一かじりする。
修道院にいた頃も食べた物だが、あの時よりも確実にトクナガの腕は上がっているとセレスは思った。
ココア部分のほろ苦さとバニラの所の独特な甘さが口の中でからみ合い、甘すぎず苦すぎずの絶妙なバランスを生み出していた。
やがて、セレスはクッキーをいくつか平らげ、紅茶も飲み終えるとトクナガは手早く皿とカップを片づける。
「ごちそうさま、トクナガ。とても美味しかったですわ」
「喜んでいただけたようで何よりでございます・・・では、何かありましたらお申し付け下さい」
そう言うと、トクナガはテーブルにある小柄なスイッチに手を向ける。
これはセレスに何かあった時のために作られたもので、1回押すとトクナガのバッジに青いランプが点灯し、2回以上連続で押すと緊急の事態と言う事で赤いランプがバッジに点灯して激しい音が鳴る仕組みとなっている。
トクナガは入ってきた時と同じように一礼し、部屋を出て静かに扉を閉めた。
皿やカップなどを洗おうと屋敷の台所へ向かう途中、トクナガはこの屋敷に住んでいたゼロスの専属の執事であった初老の男性、セバスチャンと出会う。
「これはトクナガさん。セレス様の具合はいかがでしたか?」
「おお、セバスチャンさん・・・やはり、相当参っておられるように見えました」
「うーむ・・・ゼロス様がお亡くなりになられ、その上いまは神子として祭り上げられていては・・・」
「何ともないとは仰っていましたが、セレス様は強がりな方ですから・・・きっとお悩みになっていられると思います」
ロイドたちの世界再生の旅の途中でゼロスはコレットをプロネーマに渡し、ロイドたちを裏切った。
ゼロスは最後の最後でロイドは自分を信じてくれなかった、マナの神子という肩書から解放されたかったと話し、ゼロスはロイドたちと戦う。
そして戦いに敗北したゼロスは最後にセレスのためを思った発言を残し、そのまま帰らぬ人となったのだ。
その後、ロイドはユグドラシルを倒し、シルヴァラントとテセアラの両方に平和が戻ると、風の噂か誰かデマを流したか、いつしかゼロスは死んだと言われるようになった。
するとセレスが本格的に神子として見られるようになり、修道院での軟禁されていた暮らしから解放されてこのメルトキオの街に移り住み、色々な行事にも参加する事となる。
実際、今のセレスには荷が重かったが、それでも周りを不安にさせまいと、セレスは気丈に振る舞っていた。
トクナガが部屋から去ると、セレスは先程までとは違う本を手に取って1ページ目をゆっくりと開いた。
目次を適当に流し読み、本文を頭に入れながら次々とページをめくってゆく。
「(わたくしは神子という存在に憧れていた・・・ですが神子の称号はお兄様に渡り、わたくしは突如軟禁され、自由なお兄様に嫉妬していた時もありましたわ。それでも・・・)」
読みかけていた本をしおりに挟んで閉じ、セレスは窓越しに夕暮れがかった空を見つめる。
「(こんな結果、わたくしは望んではいなかった!別に神子になれなくとも、軟禁されようとも、ただお兄様がいてくれれば・・・それだけで良かったのに・・・!)」
素直な気持ちになれず、今までゼロスに会う度に反発したような態度をとってはいたものの、セレスは本心ではゼロスの事をとても慕っていた。
実の母は神子の地位争いのためにゼロスの母を殺したとして国に処刑され、残った肉親は兄であるゼロスただ一人である。
子供の頃はよく遊んでくれた事もあったし、自分が転んだりして泣いてしまった時には‘泣くな’と言いながらぶっきらぼうに頭を撫でてくれた。
決して上手な撫で方ではなかったが、不思議と、とても安らかな気持ちになれた。
それがセレスにとって一番の思い出であり、離れてからも毎年ゼロスから送られてくる誕生日プレゼントは全て大事にしまっておいてある。
だが、そのゼロスも今はいなくなり、セレスは一人ぼっちになってしまっていた。
「お兄様に・・・もう一度、会いたい・・・」
ポツリ、とつぶやくと、またもや扉がノックされた。外からトクナガの声が聞こえる。
「セレス様、お夕食はいかがなさいますか?」
「・・・ごめんなさい、今日はいいですわ。あまり気分じゃありませんの」
「・・・かしこまりました」
もうそんな時間だったか、とセレスは思いながら再度外を見ると、先ほどまで夕焼け空だったのが既に辺りは暗くなっていた。
「水の一杯でも貰っておけば良かったかしら・・・」
と、いま追い返したばかりのトクナガをスイッチで呼びつけるのもどうかと思ったので、自分の足で水を貰いに行こうと席を立った。
■作者メッセージ
・・・よし!5000字超えちゃうのは諦めようOTL
いいさ、その分内容が濃いと思えばいいんだ・・・。
えー、PART2へと続きます・・・。
いいさ、その分内容が濃いと思えばいいんだ・・・。
えー、PART2へと続きます・・・。