第一章《胎動》 その1
揺れる世界。
割れる窓ガラスの音。
軋む建物。
悲鳴。
混乱の中、一人の若い女は上を見上げ口をあんぐりとあけた。
彼女の名は青木優焚。何の変哲もない、どこにでもいそうな大学生。
大学へと向かう途中だった彼女を襲ったのは、震度6強の大地震。
身近にあるものをつかみ飛ばされないようにしながら、優焚は昨日みた夢を思い出していた。
若い少女の声で一言、
「"黒い雲"には気を付けて。世界を壊しにやってくる」
と。
その夢の通り、頭上に広がる広大な空には黒く稲光を放ち、もくもくと手を伸ばす巨大な雲があった。
周りの人も徐々に気が付いてきている。
と、突然、地震はぴたりと止まった。
急に静かになる世界。
皆がおびえ、涙を流し、一斉にケータイを取り出した。
大切な人の安否を確認するために。
優焚も例外なく、母へと連絡を取ろうとケータイを取り出す。
が、次の瞬間、目の前にあらわれたのは..黒い影。
悲鳴を上げるとなりのおばさん。その声を合図に何体もの黒い影が姿をあらわした。
徐々に形を成すそれに、優焚は身震いをして駆け出す。
そんな、ばかな..!?あれは..っ
ほどよく離れたところで角を曲がり、そこに身をひそめるようにして黒い影の方を向く。
丸い顔に触覚のようなものが2本飛び出ている。目は金色に怪しく光り、たえず身体を動かしている黒い影。
あれは..まるで...!
優焚はあれが何かを知っていた。優焚だけではない、ゲーム好きな人であるならば知っている者は少なくないはずだ。
「な、何..??なんで..?なんで"ハートレス"がここにいるのよ...っ!?」
優焚は恐怖におびえながらも高揚する。
ありえない光景が目の前に広がり、ゲームの中の話であるはずの存在が実際に動き、跳躍し、人を闇へと引きずり込んでいた。
「ひっ、人を襲ってる..っ。助けなきゃ!..それとも逃げなきゃ?」
じりじりと黒い影、"シャドウ"は距離を縮める。
優焚は身近にあった鉄の棒を拾うと、めちゃくちゃに振り回す。
ヤツらにはこんな攻撃は効かない。
鼓動が高まる。
息が乱れる。
壁際まで追い詰められて、優焚は逃げておくんだった、と後悔した。
無駄な正義感ほど役に立たないものはない。
実際、ほんとうに、彼女は普通の人間だったのだ。
何の力もなく、なす事も出来ぬままに覚悟を決めて、目をつぶった。
割れる窓ガラスの音。
軋む建物。
悲鳴。
混乱の中、一人の若い女は上を見上げ口をあんぐりとあけた。
彼女の名は青木優焚。何の変哲もない、どこにでもいそうな大学生。
大学へと向かう途中だった彼女を襲ったのは、震度6強の大地震。
身近にあるものをつかみ飛ばされないようにしながら、優焚は昨日みた夢を思い出していた。
若い少女の声で一言、
「"黒い雲"には気を付けて。世界を壊しにやってくる」
と。
その夢の通り、頭上に広がる広大な空には黒く稲光を放ち、もくもくと手を伸ばす巨大な雲があった。
周りの人も徐々に気が付いてきている。
と、突然、地震はぴたりと止まった。
急に静かになる世界。
皆がおびえ、涙を流し、一斉にケータイを取り出した。
大切な人の安否を確認するために。
優焚も例外なく、母へと連絡を取ろうとケータイを取り出す。
が、次の瞬間、目の前にあらわれたのは..黒い影。
悲鳴を上げるとなりのおばさん。その声を合図に何体もの黒い影が姿をあらわした。
徐々に形を成すそれに、優焚は身震いをして駆け出す。
そんな、ばかな..!?あれは..っ
ほどよく離れたところで角を曲がり、そこに身をひそめるようにして黒い影の方を向く。
丸い顔に触覚のようなものが2本飛び出ている。目は金色に怪しく光り、たえず身体を動かしている黒い影。
あれは..まるで...!
優焚はあれが何かを知っていた。優焚だけではない、ゲーム好きな人であるならば知っている者は少なくないはずだ。
「な、何..??なんで..?なんで"ハートレス"がここにいるのよ...っ!?」
優焚は恐怖におびえながらも高揚する。
ありえない光景が目の前に広がり、ゲームの中の話であるはずの存在が実際に動き、跳躍し、人を闇へと引きずり込んでいた。
「ひっ、人を襲ってる..っ。助けなきゃ!..それとも逃げなきゃ?」
じりじりと黒い影、"シャドウ"は距離を縮める。
優焚は身近にあった鉄の棒を拾うと、めちゃくちゃに振り回す。
ヤツらにはこんな攻撃は効かない。
鼓動が高まる。
息が乱れる。
壁際まで追い詰められて、優焚は逃げておくんだった、と後悔した。
無駄な正義感ほど役に立たないものはない。
実際、ほんとうに、彼女は普通の人間だったのだ。
何の力もなく、なす事も出来ぬままに覚悟を決めて、目をつぶった。