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魔女の子守唄

クラウン

INDEX

  • あらすじ
  • 01 chapter1: 異変
  • 02 chapter2: 回想-1
  • 03 chapter3: 回想-2
  • 04 chapter4: 謎
  • 05 chapter5: 回想-3
  • chapter1: 異変



     生涯、貴女を守る事を誓う。




    「しかし、すごい量だよねぇ」

    「確かにな。世界中の書物を集める勢いだからな。まあ、『この世界においての』世界中ではあるが」

     捨てられた要塞の図書室――レイディアント・ガーデン生まれの四人はこの場所の書物を街へと運ぶ作業をしていた。
     ユフィとクラウドがハートレスの退治係兼運搬を担い、レオンとエアリスが必要な物の分別を進めている。力と知識のバランスにより、必然的に決定された役割分担だ。

    「本当、大切な本なのはわかるとしても、どうして街の方に運ばなきゃいけないかなぁ」

    「ご老体に無茶をさせる訳にもいかないだろうが」

     ユフィのぼやきにそう突っ込みながら、レオンは次々と本に目を通して行く。
     パラパラとページをめくり、視線を斜めに走らせていく。速読で次々と確認していくレオンのスピードに、クラウドもユフィを呆れ、エアリスは苦笑していた。実はこの男、戦闘よりも事務処理の方が強い。
     ある程度量がたまった本を、クラウドは一気に担いで街へと向かった。そうなると二人の警護はユフィの担当となる。クラウドが二往復したらユフィが一往復する、そういう風にこなして移動させた本の数、もうすぐ千冊になる。
     そうして、淀みなく動き続けていたレオンが、ある時点でピタリと止まった。

    「レオン……?」

     異変に気付いたエアリスがレオンに問う。彼の視線はある一点で釘づけになっており、あまり動かない表情の中で、瞳が動揺しているのにエアリスは気付く。
     レオンが追い詰められるとかえって表情を無くし、そしてある時点でプッツリ切れてしまう事を、エアリスは一人だけよくわかっていた。それ故に、心配から彼の様子を観察する。

    「嘘だ……」

    「え?」

     良く聞こえなかった呟きに問い返すのと、レオンが本を捨てて走り出したのは同時だった。

    「レオン!」

     ユフィも呆然とし、エアリスが彼を呼びながらレオンが走り去ったドアをくぐる。すると、エントランスに帰ってきたクラウドが彼女の視界に入った。

    「クラウド、レオンが!」

    「わかった」

     尋常じゃない恋人の様子に、クラウドは彼女の指す方向を見上げる。そこへ礼拝堂の方へと走っていく黒い人影を見て、クラウドは彼女を落ち着かせるように頷いた。

     走っていくレオンを追いかけ、クラウドは違和感に気づく。

     ――ハートレスが出ない。

     クラウドが前に進めば、それを阻むように現れる影の化け物どもが、レオンの足止めを一切していない。

     ――どういう、事だ?

     思いながらも影を切り伏せ、彼はレオンの向かった方へと走る。そして、一つの扉に辿りついた。
     そこしか、人の気配が無い部屋。扉を開けようとして、クラウドは思わず顔をしかめた。

     ――鍵?

     内から閉められたのだと気付き、クラウドは思わず舌打ちする。そして、大剣を両手で握り集中するために息を深く吐く。次いで息を大きく吸いながら剣を持ち上げ、そして勢いをつけて思いっきり叩き割る。
     扉はもろくも破れ去り、クラウドにその先の光景を見せた。

     眼の前にある光景は、クラウドにとって信じられない物だった。
     レオンは短銃を口の中に入れている。そして、クラウドが扉を破ったのはその引き金を引いた瞬間だった。
     銃による自殺を図る場合、こめかみに銃をあてて引き金を引くのでは成功率が下がる。しかし、口の中に銃口を入れて顎で固定し、少し上方へと向けて頭蓋を撃ち抜く――これで生きていられる人間はほぼいない。
     戦士としてのクラウドが生きていないと結論をつけていたのだが、仲間としての彼がレオンの近くへと走らせる。
     そしてせめてと銃をレオンの口から引き抜くが、彼の頭に広がる血痕に絶望がクラウドの背後より迫った。

    「あ……」

     言葉にならない声をかけ、クラウドはレオンの体を起こした。頭蓋を貫通した銃弾により空いた穴から、血液がぼたぼたと流れ落ちる。

    「うぁ……」

     回復の魔法を知らないクラウドにはなす術がない。彼の持っているポーションを飲ませようにも、レオンはどう考えても嚥下[えんげ]できるだけの力もない。

     ――ダメだ……。

     クラウドが諦めそうになった時に、奇跡は起こった。

     逆再生をするかのように血がレオンの元に集まっていく。赤黒くなっていたカーペットの色まで元に戻っていった。そして、レオンの喉に見えていた空洞が塞がっていく。
     後に残るのは床に残る弾痕。

    「クラウド! レオンは!?」

     エアリスとユフィが到着した時には、眠るレオンとそれを抱えているクラウドがあった。
     そのため、二人はほっとしたように息をつく。しかし、異変にエアリスが気付いた。

    「クラウド? どうしたの?」

     もう一度声を掛けられて、ようやくクラウドはエアリスを見た。その顔には驚愕の色が濃かった。



    11/09/06 23:16 クラウン   

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