CHAPTER35【アンセムの真実】
「え……………!?」
リクの話にソラは驚くしかなかった。あまりにも衝撃的な内容の連続であり、理解するのも精一杯で、頭の中がこんがらがっている。
「ゼアノートは賢者アンセムから名前を奪い、ハートレスとなってお前達の前に現れた。」
「じ、じゃあ………俺達が今までアンセムと思っていたあいつは…………、」
「あぁ。ゼアノートだ。」
今までずっとアンセムだと思い込んでいたあの男がアンセムではなく、アンセムを名乗ったゼアノートのハートレスだった真実。つまりゼアノートは賢者アンセムから名前だけでなく、その存在さえも奪ったという事だろうか。賢者アンセムは今頃何処で何をしているのか、そもそも無事なのだろうか。
「だが、ゼアノートのハートレスはお前達の活躍で、この世界から消え去った。だが、まだだ。まだゼアノートは、この世界にいる。」
「どういう事だよ!?」
「お前はイエン・シッド様からノーバディの事は聞いてるだろ?」
リクの問いかけにもちろんだと言わんばかりに頷く。ハートレスが生まれる際に残った脱け殻に意思が宿り、動き出す事がある。所謂幽霊のような心の無い存在、ノーバディ。あんな衝撃的な事を聞いておいて、覚えていないという方がまずおかしい。ソラはそのノーバディがどうかしたのかという顔をしてリクを見上げる。するとリクの口から信じられない言葉が発された。
「ХV機関のリーダーゼムナスは、アンセムを名乗ったハートレスが生まれた時に同時に生まれた、ゼアノートのノーバディだ。」
この瞬間、ソラは驚きのあまり、防塵状態となった。信じられない真実の連続で、ソラも頭の整理が出来なくなっている。今思えばアンセムを名乗ったハートレスはキングダムハーツを狙っていた。10年前の事件の時も、また今のゼムナスも、姿は変われど、目的は変わらないという事か。
「そのゼアノートが、DEDと何か関係ありそうな気がするんだ。」
「本当に!?」
「いや、あくまで俺の勘さ。でも、機関とDED…………この2つには、何か関係があるようにしか見えない。」
「確かに、機関と出現した時期が近いしな。」
「いや、実はDEDが出現し始めたのは、アンチネスが出現し始めた頃なんだ。」
「えぇっ!?」
「機関とDEDだけでなく、DEDとアンチネスにも何か関係があると思う………。」
なんとDEDが世界に現れるようになったのはアンチネスと同時期、半年前だと言うのだ。つまり機関とほぼ同じ時に活動を開始したという事になる。これは偶然とは言い難い。リクの言う通り、何か関係があるのだろうか。アンチネスも同時に出現したとなると、DEDとは何らかの繋がりがあるのだろう。
「さて、俺はまだ調べる事があるから、そろそろ行くよ。」
そう言うとリクは再びフードを被り、機関達と同様に闇の回廊を開き、去っていった。ソラはリクが回廊に入っていくのを静かに見届ける。やがて回廊が完全に消えると、ソラはこの思い出の島の三人の秘密の場所である洞窟の中に足を踏み入れた。ここはいつ見ても変わらない。一年の年月が経ったとしても、相変わらず落書きだらけだ。これを自分とカイリの二人だけでやった事を思い出し、何故か可笑しくなってフッと笑うソラ。この洞窟内の落書きを懐かしんでいると、何時もと変わらない落書きの中に、1つだけ変わった所を見つけた。それはずっと前にカイリと二人でお互いに似顔絵を描いた物だった。1年前にソラが、この世界ではそれを食べさせあった二人はどれだけ離れていても、必ずまた巡り会えるという言い伝えがある木の実、【パオプの実】を自分がカイリに食べさせている絵に勝手に書き換えたのだが、なんとカイリもソラに同様の物を食べさせている、つまり、言い伝え通りの絵になっているのだ。これは他人のいたずらなどではなく、本当にカイリが描いてくれた事にすぐに気が付き、ソラは一筋の涙を流した。
ソラは絵がよく見えるように地面に腰を下ろし、その絵を間近でしっかりと目に焼き付ける。この絵を見るたびにずっと待っていてくれたカイリの寂しさや苦しさが強く伝わってくる。早く帰ってきて欲しいからこそ、この絵を描いたのかもしれない。だが、今となってはカイリは何故かDEDに力を貸しており、敵対関係にある。ソラはその事を想い、涙がとうとう止まらなくなった。
「カイリ……俺は、決めたよ……!」
ソラは静かに立ち上がり、二人の思い出の絵を見下ろし、涙を流しながら叫んだ。
「俺は……お前が好きだ……だから、大好きなお前を絶対に救ってみせるっ!!」
そう。1年前に書き加えたあのパオプの実は遊び半分でもいたずら心でもなく、純粋にカイリが好きだから描いたのだ。だからこそ、DEDという名の闇に落ちてしまったカイリを絶対に救ってみせると誓った。ソラはズボンのポケットからとあるものを取り出した。それは1年前にカイリから預かった【約束のお守り】だった。約束のお守りにソラの涙がこぼれ落ちる。ソラはお守りを見て、呟いた
「絶対に、助けてやるからな……!」