CHAPTER37【謎の研究者キルアント】
その頃、アースのとある住宅街では、クロナがただ一人で俯き、歩いている。その表情はとても深刻であり、何かを悩んでいるようだった。
「……。」
クロナは今から10年ほど前の事を思い返していた。幼かったあの頃、なにもかも楽しかったあの頃。当時四歳のクロナと俺は、その日も仲良く遊んでいた。
『まてーっ!』
『わわっ、追い付かれる!』
この日二人は浜辺で鬼ごっこをしており、レイが鬼でクロナはその鬼に追いかけられている。
『はぁ………はぁ………。』
もう体力も限界になり、クロナはいとも簡単にタッチされ、鬼にされてしまった。
『次クロナが鬼だよ!10数えてから俺達を探してね!』
そう言って俺は走り出した。俺達と言うのは自分やクロナの他にもフィオやダーク、ヒトミがこの遊びに参加しているという事。10秒経ったのでクロナは早速行動を開始する。だがクロナは、逃げるなら慣れているが、追いかけるのは得意では無かったので、他の四人を探すのは容易では無かった。例え見つけてもすぐ逃げられ、そうしてあっという間に日が暮れ、結局クロナは最後まで鬼のままだった。
あの頃もまた良い思い出だった。クロナは当時の事を思い返し、高いあの大空を見上げた。
(あのときは君が私を追いかけていたけど、今度は、私が君を追いかける番だ!)
あの何処までも広がる大空に強く誓った。もうあの頃とは違う、新しい自分で彼を追いかけていく事を決めたクロナ。決意を硬め、歩き出す。すると、突然声が聞こえた。
「君、少し良いかね?」
それは背後からだった。振り替えると、そこには若干ソラっぽいが何処と無く違うツンツンした赤髪で、かなりの長身の青年が立っていた。何処かの科学者のような白衣に身を包んでおり、その表情は少なくとも怪しくは無かった
「な、何ですか?」
クロナはその青年を少しばかり警戒する。何故なら明らかにアースの住民とは思えない見ず知らずの存在だからだ。
「そんなに身構えないでくれたまえ。私の名は【キル・アントシャーロックス・オヴェイラリスト】。長いので、【キルアント】と呼んでくれ。」
「私は……クロナと言います」
この青年、キル・アントシャーロックス・オヴェイラリストはクロナの警戒を解くべく、簡単に自己紹介をした。
「私は、この世界に生きる人々の心理について調べていてね。」
「そうなんですか」
「あぁ。人間は常に強くなろうとする。常に何かを越えようとする。だが、それに意味はあるのか?何か明確な目的がそこにあるのか?あったとしてそれは何なのか?その様な力は何処から湧いてくるか?私はそんなことが疑問で疑問で仕方ないのだ。」
キルアントはどうやら人の心理について調べているらしく、人の可能性はどうすれば引き出されるのかという事をテーマに、日々研究しているらしい。
「ところで、君はクロナ・アクアスさんだろう?」
「えっ?そうですけど………。」
何故か自分の名前を知っていたキルアントに少し警戒心を抱きながらも、クロナは頷いた。
「ならば聞きたいのだが、人は何を求めていると思う?」
突然の意味不明な質問に戸惑うクロナ。この青年はどうやら年齢不相応な程の天才のようだ。どうしても答えられそうにないクロナを見て、キルアントは自分の出した問いに自分で答える。
「答えは、命だよ。人とは、常に死ぬ事を恐れる。いつ終わるかわからない恐怖感故に、今を全力で生きようとする。だが、その際にどうしても自分さえ良ければ他人などどうでもいいという『冷えきった』感情が生まれる。どうせならずっと生きていたい。生きてずっと楽しい事をしていたい。そんな考えを持った人間は、次第に命を求めるようになる。だから、私は今とある研究をしている。」
キルアントが住宅街を囲む木々を一通り見渡してから、言った。
「どうすれば人は不老不死になれるのか?私はそれが興味深くて仕方がない。」
「…………。」
キルアントの研究テーマに、言葉が出なくなった。だが、勇気を持ってクロナはキルアントを見上げ、言った。
「あの、水を指すようで悪いんですが、人間と言うのは、『限られた時間の中で懸命に生きる』からこそ、人間なのではないのでしょうか?」
やっとキルアントの意見に反論した。クロナの意見を聞いたキルアントはフッと笑い、言った。
「その様に考える人間もいるだろう。だが、今の世界は『冷えきっている』。その事はわかるだろう?」
「確かに今の世の中は悪いかもしれないけど、何時か光で満たされます!」
またも反論したクロナ。するとキルアントは突然高笑いを始めた
「そうか、光で満たされるか。そう上手く行くかな?」
そう言って去っていった。クロナは去っていくキルアントの後ろ姿を見つめて、呟いた。
「キル・アントシャーロックス・オヴェイラリスト……一体何者なんだろう……?」