CHAPTER46【ベクセスとヘルツ】
ソラ達がブラックパラデスの事について話を進めている一方、辺り一面真っ黒で、光や聖火の色さえも黒というなんとも不気味なとある城では、
ノックの音がこの静かな城に響き渡る。ノックしたのはヘルツだった。たった今任務から帰還したのだ。暗闇の城の門が少しずつ開かれ、ヘルツは城の中へと入っていった。城に入ると、なんとベクセスがいた。
「何よ?」
漆黒とも呼べるほど真っ黒い壁にもたれてこちらを見るベクセスに対して反抗的になるヘルツ。闇に心が支配されすぎて、とうとう高いプライドまで持ってしまったという事だろう。
「ちょっとね。『御疲れ』を言いに来たの。」
「余計なお世話よ!」
そう言ってヘルツは立ち去ろうとするが、ベクセスの放った言葉に引き止められる事になる。
「次の貴女の任務、ソラを葬り去る事ですって。」
「えっ!?本当に!?」
ベクセスの発言に一瞬で振り向き、興味津々な目でベクセスを見つめて聞く。ベクセスにはヘルツが幼い子供のような無邪気な部分を出しているように見えた。だが、今のヘルツは無邪気と言うよりも、むしろ残虐になっている。その証拠に今にでもキーブレードを構えそうだ。
「本当よ。ソラは]V機関の本拠地、【存在しなかった世界】にやってくる。だから貴女はそれを待ち伏せして始末するのよ。」
「言われなくてもわかってるよ!」
ベクセスが大体の任務詳細を説明し終わると、ヘルツはベクセスに笑顔を見せながら自分の部屋へと向かっていった。しかし、その笑顔は狂気に満ち溢れていた。
「ソラ……必ず倒す!」
そう呟き、薄気味笑いをして自分の部屋の扉を開き、入っていった。その様子をベクセスは見届けると、ベクセスもまた何処かに向かう。
ベクセスの向かった先は地下牢だった。ここには数多くの人々が監禁されており、日夜囚人達の心が少しずつアンチネスに変えられていく。ベクセスは地下牢の奥へ奥へと進んでいく。
「おい!早くここから出してくれぇ!!」
「頼むぅ!死ぬのはイヤだぁ!!」
ベクセスの移動中にたくさんの人々の嘆きが飛び交う。ベクセスはそれを心無しか簡単に、平然な顔をして通りすぎていった。
地下牢の奥の部屋にベクセスは入った。そこには一人の少女が手足を拘束され、監禁されていた。その少女を見て、ベクセスは見下したような声でその少女に話しかける。
「調子はよろしくて?―――ナミネ。」
そう、ここに囚われているのは一年前に機関の命令でソラの記憶を書き換えかけたあのナミネだった。しかし、何故ナミネがここに囚われているのかはここの他の囚人達にもわからない。いつの間にかいたと言っている囚人も中にはいるらしいが、定かではない。
「………!」
ナミネはベクセスを強く睨んでいる。だが、手足を縛られ、何も出来ない状態ではどうすることも出来ない。ベクセスは睨まれているにも関わらず、高笑いをし、ナミネを蹴った。
「!!」
思わず地面に倒れる。ベクセスの足がナミネの頭に確かに当たった。
「何も出来ない癖に、睨むんじゃ無いわよ!」
ナミネを嘲笑うかのようなベクセスの目。囚人達もそれを黙って見ている訳には行かず、鉄格子を破ろうとするが、その度に地下牢を管理しているアンチネス兵に心を奪われていく。
もはやこの城には、絶望という文字しか無かった