CHAPTER51【夢の民】
その夜、クロナは深い眠りについていた。寝相は思ったより普通であり、仰向けで眠っているが、なにか魘されている様子だ。
そう、これは夢だ。クロナはとある夢を見ているのだ。
夢の中、クロナは何処だかわからない場所にいた。辺り一面虹色に煌めき、たまに見える白い光の中に自分が映る。クロナは辺りを見渡し、ここが何処だか調べようとしたとき、何処からか声がした。
《クロナ……さん?》
「誰!?」
クロナは後ろに誰かいるわけでもなく、つい振り向いた。当然人の姿は無い。先程の声は一定の場所から聞こえると言うより、クロナの頭に直接響いてくるようだった。
《そこにいるのは……クロナさんですか?》
「え、えぇ……」
何処にいるのかわからない相手の質問にどうしようもなく答える。すると辺り一面が神々しい光に包まれ、クロナの視界が遮られた。
やがて光が収まり、クロナが目を開けると、目の前に一人の少女がいた。身長こそクロナより小さいが、桜色の髪に、藍色の目。何処か切なさが感じられた。
『私は……ルプクス。夢の民の一人。』
「ルプクスって言うのね。ルプクス、ここは何処?」
『ここは貴女の夢の中。私達は直接貴女の夢に話しかけているのよ。』
「……?私達?」
ルプクスの言葉に1つの矛盾があった。ルプクスは今『私達は直接貴女の夢に話しかけている』と言ったが、明らかに一人だ。クロナがそう思った瞬間、光と共にルプクスよりも身長が高く、彼より少し高いくらいで目の色はルプクスと同様の水色の髪の青年が現れた。
『俺はローグ。ルプクスと同じく夢の民だ。』
「…………さっきから『夢の民』って言ってるけど……何なのそれ?」
夢の民という聞き慣れない言葉。それに対してやっぱりという顔をするルプクスとローグ。ルプクスは夢の民から説明せず、別の事を投げ掛けた。
『じゃあ、【ドリームイーター】って知ってる?』
「ドリームイーター?」
『あぁ。ドリームイーターって言うのは、現実世界には一切現れず、ハートレスやアンチネスが入れないとされる夢の世界に生息する闇の存在だ。』
『みんな可愛らしい見た目をしててね。なんか見てて面白いんだ。』
ルプクスがまるで自分の事でも語るかのように言った。声自体は明るい物の、その目はやはり何処か切ない。
『それで、そのドリームイーターの中でも特別な存在が、私達夢の民なの。』
『夢の民はドリームイーターの一種だが、ドリームイーター本来の姿と、今の人間の姿を使い分ける事が出来る。』
「なるほど………。」
ルプクスとローグの解説を半分理解したクロナ。だが、ドリームイーターの事に関しては簡単に説明されただけなのでより詳しい詳細はわからないままである。
『所でクロナさん、頼みがあるの。』
「?」
ルプクスが突然血相を変えてこちらを見つめてくる。クロナはとりあえず黙って頷く。
『今夢の世界には、とある危機が訪れようとしている。』
『現実世界は最近、冷めきった人間が増え始めたの。』
「冷めきった人間?」
『あぁ、〔自分が生きていれば他はどうでもいい〕、〔正直者なんて切り捨てる〕と言った具合に、自分勝手な人間が増えてきてるせいで、夢の世界が少しずつ崩壊しつつあるんだ。』
「えぇ!?それってどういう事!?」
『夢の世界は全世界に生きる全ての人間が見ている夢から出来ている。つまり、この世に生きる全ての人間達が夢の世界に影響を与えるの。』
『世界は欲望に充ち溢れた人間どもがウジャウジャいる。そいつらのせいで、夢の世界の光は少しずつ消えていき、やがて一つ一つ壊れていく。』
『しかも、心に不安を抱えた人間も例外ではない。心に芽生えた不安や欲望が、夢の世界から光を奪っているって事さ。』
「そんな………!」
クロナはこれまでの世界に生きる人間達をふと思い返した。確かに一般的な人間は欲望だらけで冷めきっている。しかも心に不安を抱えた人も例外ではない。そう言った負の感情が夢の世界を壊していると言うのか。クロナは一瞬『怖い』と恐怖を感じた。
『それで頼みって言うのは、ダークエンドドラゴンを倒して、世界から出来るだけ心の闇を取り除いてほしいの。』
『このままだと、ダークエンドドラゴンがいずれ復活する。』
「なんですって!?」
衝撃的すぎる一言だった。ダークエンドドラゴンが復活する?そんなこと信じられなかった。だが、最近のDEDの動きやレイの闇落ち、何かの前触れかと思いはしたが、こう言う事だったのだろうか?
『詳しいことはまだ言えないが、このままだと、ダークエンドが復活したとき、世界の人間達は絶望し、夢の世界からは完全に光が消えてしまう。つまり、夢の世界は消える。』
『お願い!』
ダークエンドが復活する。それだけで衝撃的なのにさらに衝撃的な言葉がクロナの耳に何度も響く。クロナは当然躊躇する暇もなく強く頷き、
「わかった!私に任せて!!私と、みんなに………!」
そう言った瞬間、視界が白い光に包まれ、夢が途切れる