CHAPTER64【永遠の偽り 紫音の正体】
「はぁ……はぁ……、」
その頃機関の城ではフィオを先頭に走る一同の姿があった。ソラは突然現れたサイクスを引き付けておくと言って離脱してしまった。だが、それでも進むしかない。後戻りなど出来ないのだから。
やがて、夜空がよく見える天上の無い場所にたどり着いた。よく見るとここから少し上がった所にディアともう一人、誰かいる。
「ディア!」
「フィオ、お前ら無事だったか。」
フィオ達四人とディアがやっと合流した。合流してすぐヒトミはディアの隣にいる人物を見た。
「あの、この人は?」
「賢者アンセム。レイディアントガーデンを納める賢者だ。」
「元だがな。」
ディアが簡単な紹介をすると、アンセム自らがさらに付け足す。そして、先程から手に持っていた謎の装置をスタンドさせ、ライフルで的を狙うかのように装置の突起部分をうまくこの世界の空に浮かぶキングダムハーツに向ける。
「賢者アンセム、何を?」
「これはキングダムハーツをデータ化する装置だ。」
「「!?」」
「もっとも、出来るという確証は無い。何せ相手は心だからな。」
アンセムの言う通り、心をデータ化すると言うのは前代未聞なので、成功するとも失敗するとも言えない状況にあった。いや、成功したとして、機関によって無理矢理キングダムハーツの一部にされた人々の心はどうなるのか。失敗するとしたら明らかに危険では無いだろうか。様々な不安が一同の心に芽生える中、紫音がようやく目を覚ました。
「ううっ……、」
「紫音、気が付いた?」
フィオがおぶっていた紫音を降ろし、とても心配そうに見つめる。
「大丈夫?」
「………。」
フィオが声をかけても、紫音はまるで何も言わない。いや、喋りたくないと言った方が正しいだろうか。俯いた紫音にヒトミは思わず声を掛けそうになったが、それはリアスに止められた。ヒトミがどうしてと聞くような目でリアスを見る。リアスは軽く首を振った事で、ヒトミは何となく理解し頷いた。
「ねぇ紫音!紫音ってば!」
「無駄だよ。そいつには何を言っても届きやしない。」
その言葉は更に上の方にある扉からだった。声の主はヘルツだった。ヘルツがこちらに向かって歩いてくる。
「今まで記憶を無くしてたとは言え、ずっとみんなに嘘をつき続けてきた、偽りの存在だからね。」
「偽りの存在?」
フィオはすぐその言葉に反応した。自分にとって大切な仲間である紫音の秘密を何か知っているであろうヘルツに向けてアローガンを構える。
「答えろ!偽りの存在ってなんだ!?」
「フッ、やっぱり知らなかったのね。良いよ。教えてあげる。」
「そもそもシオンと言うのは、]V機関のNo.14の事。だがその正体は機関員であるヴィクセンが作ったレプリカのNo.I。No.Iは機関の計画の為だけに作られ、機関員の一人であるロクサスの力をコピーする目的で、ロクサスに近づけさせた。だが、No.Iは強い自我を持ちすぎた。故にNo.Iを始末するという意見が出た。そして機関のリーダーゼムナスは、ロクサスとNo.I、どちらかを始末する事に決めたのだ。そして機関の目論みにより、二人は対峙し、No.Iは破れた。No.Iは元々はソラの記憶から出来ている存在、つまり消えればみんなの記憶からも完全に消える。よって、No.Iはこの世界から忘れられた。だが、一つだけNo.Iの存在を留めていた物があった。」
「一つだけ?」
「そう、機関のコンピュータには幸いNo.Iのデータが残っていて、城に偶然潜入した何処かの化学者がそのデータを持っていってしまった。化学者はそのデータを見て、可哀想だと思い、なんとかして彼女を世界に留めてやれないだろうかと必死に悩んだ。その結果、『人体移植』という方法を思い付いた。」
「「「人体移植だと!?」」」
フィオとディア、そしてヒトミもこれには流石に驚いた。人体移植と言えば、元となる人物のデータを元に、人の身体を改造して全く別の存在にする、言わば人体改造である。それを一人の化学者が思い付いたという事か。
「人体移植を行えば、No.Iはこの世界に生かしてやれると思ったが、化学者の近くには肝心の実験体がいなかった。そんな時だ。化学者のたった一人の娘であるミカが自ら申し出たのは。化学者は世間からは圧倒的に嫌われており、ミカだけが唯一の味方であった分、化学者にとっては嬉しいかぎりだった。化学者は早速ミカを実験体とし、ミカをNo.Iとして生まれ変わらせる実験を開始した。開始数ヵ月で実験は終了、見事にミカの身体はNo.Iその物になっていた。No.Iとして世界を生きてもらう為に、回収したデータを元にNo.Iとしての記憶も作ってミカの中に送った。これで万全だと思ったとき、襲撃者が現れた。ノーバディだ。奪われたデータを取り返しに来たんだろう。ノーバディの集団によって研究所は崩壊し、化学者はノーバディ達に始末された。だが、ミカだけは事前に化学者が開いた裂け目に落とされ、異空をさ迷い、やがてアースにある洞穴に流れ着いた。それ以降は、バンダナのチビスケさんのお世話になってるよ。」
「じゃあ、まさか紫音は………!?」
「そう、そこにいる紫音…………いやミカこそが改造人間だという事よ!」
ヘルツが紫音を指差して言った。先程のヘルツの話を聞いていた紫音は俯いたまま立ち上がり、一筋の涙を流した。いや、一筋だけでなく、幾つも流れてくる。紫音はそれを右手で押さえようとするが、その右手が震えたまま動かない。恐らく怖いのだろう。偽りの手で自分に触れるのが。手だけでなく、足、肩、頭、全てが偽りの身体なのだ。
「フィオさん…………みなさん………ごめんなさい………私、たった今全て思い出しました………!私は、普通の人間じゃない上に、本当の存在でもありません!今までみなさんを騙していたんです!どれだけ謝っても許されないかもしれないけど、申し訳なくて申し訳なくて仕方ありませんっ!!私はっ………どうすれば良いんですかぁ!!!!」
紫音……ミカが自らの悲しみをアラワにするかのように泣き叫ぶ。それを見たフィオが紫音の両手を取り、強く握った。
「フィオさん………?」
突然、掴まれた紫音の手が引かれ、フィオはそのまま紫音を抱き締めて見せた。
「っ!!」
紫音は思わず動揺し、抵抗しそうになったが、フィオの言葉で抵抗する気が無くなった。
「言ったろ?僕は何度でも、君を守る盾になるって。だからどんなに騙されていたとしても………僕は君を信じ続ける!僕が信じたものが偽りでもいい!!それが大いなる間違いだったとしても良い!!だって紫音は紫音じゃないか。僕の大切な紫音じゃないか!だから……………、」
そう言うと、フィオは紫音を離し、しっかりと正面から目を見て笑顔で言った。
「いつも通り笑ってよ。」
フィオのその一言が、紫音の心の不安を全て取り除き、紫音は今までで最高の笑顔をフィオに見せた。フィオはそれを見て、幸せそうな表情をしている。そしてそれを見ていたヒトミやディアは感動したのか、ヒトミはハンカチで目元を拭いており、ディアは黙って後ろを向いている。
「おい………。」
フィオと紫音のやり取りですっかり忘れられていたヘルツがようやく口を開き、キーブレードを出現させた。そしてフィオに攻撃を仕掛けようとするが、何かに防がれた。紫音だった。紫音はあのときと同じ約束のお守りを出現させていたのだ。
「!!」
「私は決めた………これからずっとフィオさんを支え続けると!!」
そう言って紫音もヘルツに攻撃をする。ヘルツのデスフェンリルと紫音の約束のお守り、二人のキーブレードのぶつかり合う音が響く。
「カイリさん!!貴女にも、絶対に守りたいと思った人がいたはずです!!なのに、まだ闇の力を使うんですか!?」
攻撃を決して緩めることなく、続けるヘルツ。まるで紫音の言葉などどうでもいいと言う感じだ。
「答えてください!!」
紫音が渾身の一撃を繰り出すと共に叫ぶ。今の攻撃の反動で後ろに少しではあるが吹っ飛ばされたヘルツは見事着地し、口を開いた。
「あるよ……!でも、彼は私を裏切った!!彼は私よりもリクやレイ達友達の方が大事なんだ!!あのとき彼は言ってくれた!!『俺は何時でも傍にいる』って………なのに、結局帰ってこない上に友達と楽しそうに馴れ合って………最初は彼だから仕方無いと思った。でもね、ベクセスさんに言われて初めて気づいた。彼は……ソラは始めから私の事なんかどうでもよかったって事……。」
「それは違います!!ソラさんは、ずっと貴女の身を案じていました!!絶対に闇の力からも救い出すって………それなのに貴女がそのままだとしたら…………貴女の心が泣いてるよ!!」
紫音がヘルツに向かって全力で叫ぶ。その言葉にヘルツの心の何処かが反応し、ヘルツの右目から一筋の涙が流れ、そをみ右手で拭き取って見ると、ヘルツはビックリした。
「紫音、よく言った!!」
何処からか声がする。少なくともこの場所の何処かだ。その声の正体を、フィオ達はわかっていた