CHAPTER65【悲哀】
その声の主はリクだった。だがフィオ達は決して驚きはしない。何故なら昨日、ソラやクロナから聞いていたからである。
「紫音、よく言った!カイリ、紫音の言う通りだぜ。お前の心が今にも泣きそうだ。だから早く戻ってこい!」
「うるさい!!どうせリクも、みんな私の事なんて見捨てるんだ………孤独なんだよ………私は……!」
「違う!!」
また何処からか声が聞こえる。ナミネだ。何時からここにいたんだよとは突っ込んでは行けない。
「カイリ、貴女は私とは違う!!だからみんながいてくれるんだよ!?それがわからない!?」
「カイリさん!!今ならまだ間に合います!!一緒に戻りましょう!!」
三人の必死の訴え。それにフィオ達は口出しする事が出来ない。いや、そもそもしては行けないのかもしれない。特に、リクとカイリは友達同士、彼らの間に割って入る事など出来る訳がない。
「……うるさい!!うるさいうるさい!!だまれぇ!!」
三人の訴えもヘルツには全く通じず、ヘルツは右手に持っているキーブレードをナミネに向かって投げた。それは見事に命中し、ナミネは倒れた。
「しまった!!」
リクがそう叫んだのも束の間、ナミネの身体がどんどん消えかかっていた。本体とノーバディが近づいたからだろうか。やがて完全に身体が消滅し、ヘルツの中に取り込まれた。
「やっと戻ってきた。私の半分が…………っ!?」
自分の半分であるナミネを自らに取り込んだ時、ヘルツの頭の中にかつての記憶が甦ってきた。
『脅かすなよカイリ。』
『そっちが勝手に驚いたんじゃない!』
一年前、三人で楽しく過ごし、外の世界を夢見ていたあの日々、ヘルツはやっと思い出す事が出来た。楽しかったあの頃の記憶が蘇り、震えるヘルツを見てディアが言った。
「確かに辛い事があったかもしれない、でも……楽しかった記憶だってあるはずだ。それが偽りだったとしても、人はそれを信じた時、本当の自分を見つめる事が出来る……」
「ディア……。」
ディアの言葉が何故か異常に心に深く刻まれた。
「大事なのは、偽りか本当かじゃなくて、それを信じれるか信じられないかだ。」
ディアの言葉にヘルツ以外のここにいる全員が頷いた。どれだけ苦しくても、辛くても、信じる事が何よりも大事なのだ。それをディアは彼から教わっていたからこそ今口に出来たのだ。
「現に、信頼がなければ、俺達はここにいないぞ?なぁ?」
ディアがみんなの顔を一通り見る。いずれも笑顔で頷いてくれた。そしてディアはヘルツの闇に支配された邪悪な目を見て言った。
「ずっとみんな、お前の事を信じている………!」
「………!!」
「その通り!!」
下の方からソラが上がってきた。ソラはヘルツの元に駆け寄り、彼女の手を取り、正面から目を見つめて言った。
「俺は何時でも、お前を信じてるから……だから、戻ってきてくれ………カイリ………!」
「ソラ………!」
その時、ヘルツの目から不意に涙が流れ、目の白黒部分の反転が元に戻った。闇が消えたのだろうか。誰もがその様子を見て喜んだその時、突如としてヘルツの頭に直接謎の声が響く。
《駄目だ…………その者は、お前を信じてなどいない……もしそれでも信ずるのなら、お前の精神を操るまで!!》
ヘルツの目が再び白黒反転し、しかも青色だったのが邪悪な金色に変化し、目の前にいるソラのを腹目掛けて攻撃した。
「ぐはっ……!」
「ソラ!!」
ソラの口から多少の血が飛び出した。ソラは腹を抱え、壁に倒れた。今の一撃で相当ダメージを負ってしまい、息切れまでしている事からかなり疲労している事がわかる。
「カイリ!!何故!?」
リクがヘルツに駆け寄り、問いかけるが、リクもヘルツの攻撃を受け、賢者アンセムのいる場所まで吹っ飛ばされた。
「ぐわぁ!!」
「リクさん!!っ!」
続けて紫音もヘルツの攻撃を受け、その場に倒れた。更に追い討ちを仕掛けるようにして攻撃を仕掛けるヘルツ。しかしその二度目の攻撃はフィオによって阻まれた。
「紫音は……僕が守る……!」
ほぼギリギリの所でヘルツの攻撃を弾き飛ばした。更にヒトミが双剣に闇のオーラを浴びせて攻撃する技、ダークブレイクを使って追い詰めようとするが、全て受け止められた。
「そんな!!っあ!!」
「ヒトミ!!」
ヒトミがヘルツの攻撃によって吹っ飛ばされた所をディアが受け止める。ディアがヒトミの顔を覗き込むようにして見てみると、ヒトミは気絶していた。
「くっ!」
「ヘルツ!一体どうしたのさ!?」
フィオがヘルツに向かって叫ぶと、ヘルツはその邪悪な金色くハイライトの無い目でフィオ達を見て言った。
「《私はもうすでにヘルツではない。》」
「「!?」」
「《この女の身体は乗っ取らせてもらった。》」
明らかにヘルツが喋っているように見えるが、ヘルツの声だけでなく、別の邪悪な闇の声のような物も同時に聞こえる。ヘルツの中に残っていた人工的な闇がヘルツを乗っ取ったのだろうか。
「カイリさんを返してください!!」
「《それは出来ない。こいつはセブンプリンセスだからな。我らの手中に納めておいたほうが何かと都合が良いのだ。》」
乗っ取られたヘルツの目はもはやカイリの物では無くなっていた。身体を乗っ取っている膨大な闇の力がカイリの身体を蝕み始めている証拠だ。と、その時だった。賢者アンセムの装置から何か狂ったような音が聞こえた。
「いかん、爆発するぞ!!」
「どういう事だディズ!?」
リクが前までアンセムが名乗っていた名前、ディズでアンセムを呼ぶ。アンセムはリクの方を向いて言った。
「やはり心には敵わなかった。心は何よりも強いからな。心がシステムを越えたのだ。」
最後にアンセムはなんとか立ち上がったソラの方を向き、
「ソラ、後は頼んだぞ。」
賢者アンセムが最後に残したその言葉をソラはしっかりと受け取った。そして装置はどんどん崩壊していき、爆発まで後10秒も無い。流石に爆発に巻き込まれて乗っ取っている身体が滅びては危ういと感じたのか、ヘルツを乗っ取った闇はその場から姿を消した。
大爆発が機関の城の上の方で起こった。それには大量のノーバディが巻き込まれ、消滅していった。
ソラ達は幸い無事だった。リアスがみんなを守ってくれたのだ。しかし、残念ながらリクとアンセムだけは間に合わなかった。現に辺りを見渡してもアンセムの姿は無い。だが、リクの姿はあった。だが、どういう訳か姿が元に戻っている。
「大丈夫か!?」
「あぁ……なんとかな。」
リクがそう言って立ち上がると目隠しを外し、ソラがよく知る緑色に近い水色の瞳がその姿を現した。その瞳は何処を見ている訳でもなく、ただボーッとしている。
「どうした?」
ソラがリクに聞くと、リクの代わりにリアスが答える。
「目は嘘をつけないのさ。」
「でも、誰を……?」
「自分を。」
ソラが誰を騙したのか気になった時、リクは速答だった。今まで自分を騙していたリクだったが、今ここにいる仲間達の顔を改めて見て思った。
(そうだ……俺には仲間達がいる………!)
「ひとまず戻ろう、カイリが闇に完全に乗っ取られた事くらいは報告出来るだろうし。」
リアスの提案に頷く一同。一同は急いで城を脱出し、グミシップに乗り込んだ