CHAPTER72【紅蓮の鎌】
「……みなさん、間も無くやつらがやって来ます。配置についてください。」
謎の人物の号令で6皇帝のメンバー達は部屋を出て、それぞれ闇の回廊を開き何処かへ移動した。そのメンバーの一人、クラクションも回廊を通ろうとしたとき、謎の人物がクラクションを呼び止めた。
「クラクションさん。」
「何だよ?」
クラクションが謎の人物を睨みつつ振り向く。謎の人物の見た目があのレイとほぼ同じな為か、クラクションは無性に腹が立ってくる。
「貴方には別の任務を頼みます。良いですか?貴方は――――――――――――――――――。わかりましたね?」
「………フッ、良かろう。」
――――――――――
突如アースの空に巨大な光の柱が現れ、その柱は暗黒島ダークエンドに激突した。そしてその光の中から、俺達が放り出され、暗黒島ダークエンドの入り口へと着地した。
「……これが……暗黒島ダークエンド…。」
目の前に広がるのは何もかも真っ黒の風景、中に浮かぶ黒い岩、この島の周りをグルグルと回っている謎の巨大なリング。そして何より目の前にどっしりと構える黒い門。
「……なんて不気味な場所なんだ……!」
今までに無い恐怖が一同に降りかかる。しかし、それでも歩みを止めてはならない。ここで止まれば世界はこの暗黒島ダークエンドに隠された大量の兵器でたちまち滅ぼされてしまうだろう。
先に進もうと門の前に並んで立つ俺とソラ。よく見ると門には鍵穴が二つあった。それを見た二人は頷き合い、二人同時にキーブレードを使って門の鍵を開いた。
鍵が開く音と共に扉が開かれ、道が開かれた。一同は先に進む。
何処までも長く続く黒い道、一体何時になったら奥が見えてくるのかわからない現状に不安を感じる一同。
「…みんな!あれ見て!」
フィオが空の方を、もっともここも空なのだが、それより高い場所を指差す。その方向には不気味な雲に包まれた謎の浮遊島があった。
「あれは……なんだ?」
「浮遊島の中にさらに浮遊島か……。」
「どうやって彼処に行くんでしょう?」
「考えても仕方無い、取り合えず先に進もう!」
俺の号令でメンバー達は一斉に走り出した。だがその時、何処からともなくアンチネス達が現れ、俺達の前に立ちはだかった。
「邪魔をするな!!」
俺の叫び声に合わせるようにみんなそれぞれの武器を構える。
先に攻撃を仕掛けてきたのはアンチネス軍団。アンチネスの一体が空中から鋭い爪で攻撃を仕掛けてくるが、それは白凰の使った守りの魔法、リフレガによって弾き飛ばされ、そこをフィオがアローガンで正確に撃ち抜いた。
だがアンチネス達はその数の多さを生かしてあらゆる方向から襲いかかり、俺達に攻撃を仕掛ける。だがその攻撃はライガの使った守りの力を得た霧魔法、シルドミストによって阻まれ、ドナルドが放った隕石を大量に落とす魔法、メテオによってそのほとんどの数を消滅させた。
しかしアンチネス達は倒しても倒してもどんどん沸いてくる。
「くっ、こうなったらこいつらを倒しながら行こう!」
「レイ、それは幾らなんでも無茶すぎる!!」
俺がこの状況を見て、みんなを指揮しようとするが、シュージはそれを否定する。シュージの言う通り、この数を相手にしながら進むのはあまりにも無茶すぎる。だが、俺は先程の提案を実行する気のようだ。シュージは俺の真剣な眼差しを見て、頷いた。
「わかった、お前の考えに掛けてみる!」
そう言うとシュージは振り向き、みんなの顔を見る。みんな笑顔で頷いてくれた。
「行くぞみんな!!」
シュージの号令で俺達はアンチネスの大群を相手にしながらこの長い道を走り抜く事になった。この道を進むことやく一時間、ついに奥地と呼べる場所にたどり着いた。
そこには何かの入り口のような門が構えられていた。よく見るとその門は壁と一体になっているようで、壁の中には真っ黒の摩天楼が見える。
「何だろう……この町?」
「町と言うか……城みたいですね……。」
「……迷ってる暇は無いぞ、相棒、ソラ。」
ダークの一言は全くその通りで、メンバー全員の動揺を一瞬にしてかき消した。門の前に並んで立つ二人。今度は鍵穴が三つあった。これでは二人だけだと鍵が開かない。その時だった。突然後ろから声が聞こえたのだ。
「なんだ、鍵穴に手間取ってんのか?」
「ディア!!」
ディアがキーブレードを持ってそこに立っていた。ディアが俺とソラの間に入るようにして並び、キーブレードの剣先を鍵穴に向ける。それを見た二人もディアと同様、キーブレードを鍵穴に向ける。
三つのキーブレードから放たれる七色の光に門が反応し、扉が開かれた。その時、とてつもない緊張感が一同を襲った。
「………いよいよ……なんだな。」
「あぁ……!」
「みんな、気を抜くなよ!」
「わかってるっての。」
門を潜り抜けると、空に向かって延び続ける柱の如く聳え立つ真っ黒のビルが幾つも広がっていた。どうやら本当に摩天楼のようだ。しかし、明かりになるものは一切なく、この町自体も色が白黒のみという事も染まってかなり不気味な雰囲気を漂わせている。
「うわぁ………。」
思わずこの世界の闇に圧倒されそうになったが、なんとか立ち直り、一同は慎重に歩き出した。
その時だった。謎の音が鳴ると共にビルの中から大量の砲台が飛び出し、全てのビルの砲台は俺達に狙いを定めた。
「みんな危ない!!」
俺の呼び掛けで一同は走り出し、砲弾を辛うじて避ける事が出来た。だが砲弾はどんどん打ち込まれ、止まぬ砲弾の雨という状態になった。
「まさかこれが兵器の一つ!?」
「だろうね。」
ドナルドが慌てて走るその隣で平然と普通に走っている黒凰が言う。ドナルドはもちろん、他のメンバーもその様子には流石に驚き、みんな走りながらでも黒凰を見た。
「何でそんなに落ち着いてんだよ!?」
「これは元々の性格だからね。」
「いやここは慌てるだろ普通!?」
「さぁ?君達が恐がりなだけなんじゃないの?」
その黒凰の発言に口答えする者は誰一人としていなかった。そもそもここで口答えしようとあっさりと返されて空しくなるだけだと思ったメンバーがほとんどである。
砲弾の雨に襲われつつも俺達はなんとか町の中心部に当たる場所にやって来た。相変わらず並ぶ黒いビルの中でも、特に大きい物があるのが特徴的であり、その左隣には抜け道がある。
俺達が中心部のもっとも大きいビルを過ぎ去ろうとしたとき、突如として真っ黒な炎が現れ、行く手を遮った。
「ヘイヘイヘーイ!!」
謎の掛け声と共に空から降りてきたのはアレクセイだった。アレクセイは相変わらずの根拠の無い笑顔でこちらを見ている。
「よぉ勇者ども!お前らが来るってわかってたぜ!ヘイヘイ!!」
「アレクセイ……お前そんなに明るい癖に何故DEDなんだ?」
それを聞いたのはライガだった。以前クラクションが話していた事によると、6皇帝はみんな何かしらの辛い経験、および強い憎悪を持ってアンチネスになっているとのことだが、アレクセイからはそれらを全く感じられない。それを疑問に思ったライガは聞かずにはいられなかった。
「俺?俺はな、約束をしていたんだ。」
「約束?」
「そう、両親からいつ、どんな時でも笑顔でいろって。でもあるとき目の前で両親は殺された!鎌を使われてな!その後俺は空腹と寿命に追い詰められて死に、あのお方にアンチネスとして甦らせてもらったのさ!」
「てめぇ、ざけんな!!」
叫んだのはダークだった。ダークがアレクセイの前に立ちはだかり、持っていた太刀の刃先をアレクセイに向けた。
「お前……親が消えても約束を守ってたのか?」
「だったら?」
「なら、親がいなくて寂しい時も泣くことすら出来なかったって事なのかよ!?」
「俺は笑顔以外許されないのさ!!」
「なら俺と戦え。ここからは武器同士で語り合おうぜ。」
ダークがそう言うと、彼の両肩にそれぞれ白凰、黒凰の手が置かれた。
「なら我らも付き合うぞ。」
「まぁ、暇潰し程度にね。」
「お前ら………!」
ダークは二人の表情を見て、頷いた。二人ともやる気のようだ。白凰らもそれぞれの武器を構え、アレクセイが突然右手に邪悪な炎を宿し、三人をその中に吸い込んだ。その際、アレクセイの姿も無くなっていた。
「え?」
「消えた……?」
「………たぶん、三人は俺達に行ってほしくて、足止めを引き受けたんだ。」
「……そんな……!」
三人の行動は少しでも早くみんなに奥地に進んでもらう為の物。頭ではわかっていても、やはり認められない。しかし、一同は進むしかないのだ。
「………行こう。」
俺が口を開き言うと、みんな俯きながらも歩き出した。
一方その頃、ダーク達三人は謎の狭い空間の中にいた。この空間はまるで炎の中にいるかのように熱く、数秒もしないうちに額から汗が垂れてきた。
その空間の中心にアレクセイはいた。アレクセイは自らの武器、大鎌を構えた。だがその鎌は何時もと違った。なんと炎を纏っていたのだ。
「フッ、これぞ俺の紅蓮の鎌、『フレイムカスケード』だ。」
「フレイム………カスケード…!」
三人が動揺する暇もなく、アレクセイの攻撃が三人を襲う。普通鎌の攻撃と言えばリーチこそ大きい物の、その重量故に攻撃がやや遅い物だが、三人はそれを避けきれなかった。そもそもこの空間自体狭すぎるのだ。例えるならば一般の子供部屋二つ分くらいだろう。その中に四人もいるとなるととても狭く、アレクセイの鎌を避ける事が困難なのである。
「くっ……!」
「俺は今でも二人に会いたい、だけど、俺は何故か死ぬのを躊躇っている!何故だ!」
アレクセイがそう嘆きながら三人に攻撃を続ける。それらを受け止めるのがやっとの状態でどうしようもない三人。アレクセイの言った二人とは先程言っていた両親の事だろう。無理もない、大切な両親を目の前で鎌で殺害されたのだから。先程の言葉を聞いていた黒凰が初めて鎌による攻撃を弾き、アレクセイにダメージを与えた。
「なら……さっさと死ねよ。」
「何?」
黒凰が突然口から吐き出した言葉。それにアレクセイは反応せずにはいられなかった。
「さっきから言わせておけば、調子に乗りやがって……行きたいんだろ?だったらさっさと行けよ。でもさ……、こんな戦いをして、恥ずかしくないのか?」
「何だと?」
「こんな狭い空間に僕らを引き込んでまで何もできない相手を追い詰める。こんな卑怯者のやることを、両親が望むかい?」
「うっ………!」
アレクセイは黒凰に言われて初めて気がついた。自分は間違った行動をしていた事を。両親がこんなことを望む訳がないと。両親は、自分が良い子のまま笑ってほしいと願っていた事。
「確かに死にたいのなら死ねば良い、けど、そのままならお前は死ぬ価値も無い!どうせ死ぬなら、両親に恥ずかしくないように、全力で僕達と戦え!!きっと両親も天から見てくれてるから、僕達と戦って死ねよ!それからあの世で両親に頑張ったって事を伝えれば良い!!そうすれば、お前の大切な両親はきっと笑ってくれる!!」
「黒凰……!」
「………あぁ……!」
ダークと白凰はこんな黒凰をこれまで見たことがない。普段こそ毒舌な黒凰だが、こう言う熱い一面を見たのは、今回が初である。
「………わかった。」
アレクセイは黒凰の言葉を受け止めたのか、ここにいる全員を元の場所に戻し、本当の意味で初めて笑えた。黒凰に言われて気づいたのだ。大切なのは、約束を破ってでもその人の望みを叶えてあげる事だと。
「……行くぞ!!ダーク、白凰、黒凰!!!!」
アレクセイはこの時初めて、正々堂々と三人に突っ込んでいった。その様子を見た黒凰は、滅多に見せない笑顔でアレクセイを迎え撃った
謎の人物の号令で6皇帝のメンバー達は部屋を出て、それぞれ闇の回廊を開き何処かへ移動した。そのメンバーの一人、クラクションも回廊を通ろうとしたとき、謎の人物がクラクションを呼び止めた。
「クラクションさん。」
「何だよ?」
クラクションが謎の人物を睨みつつ振り向く。謎の人物の見た目があのレイとほぼ同じな為か、クラクションは無性に腹が立ってくる。
「貴方には別の任務を頼みます。良いですか?貴方は――――――――――――――――――。わかりましたね?」
「………フッ、良かろう。」
――――――――――
突如アースの空に巨大な光の柱が現れ、その柱は暗黒島ダークエンドに激突した。そしてその光の中から、俺達が放り出され、暗黒島ダークエンドの入り口へと着地した。
「……これが……暗黒島ダークエンド…。」
目の前に広がるのは何もかも真っ黒の風景、中に浮かぶ黒い岩、この島の周りをグルグルと回っている謎の巨大なリング。そして何より目の前にどっしりと構える黒い門。
「……なんて不気味な場所なんだ……!」
今までに無い恐怖が一同に降りかかる。しかし、それでも歩みを止めてはならない。ここで止まれば世界はこの暗黒島ダークエンドに隠された大量の兵器でたちまち滅ぼされてしまうだろう。
先に進もうと門の前に並んで立つ俺とソラ。よく見ると門には鍵穴が二つあった。それを見た二人は頷き合い、二人同時にキーブレードを使って門の鍵を開いた。
鍵が開く音と共に扉が開かれ、道が開かれた。一同は先に進む。
何処までも長く続く黒い道、一体何時になったら奥が見えてくるのかわからない現状に不安を感じる一同。
「…みんな!あれ見て!」
フィオが空の方を、もっともここも空なのだが、それより高い場所を指差す。その方向には不気味な雲に包まれた謎の浮遊島があった。
「あれは……なんだ?」
「浮遊島の中にさらに浮遊島か……。」
「どうやって彼処に行くんでしょう?」
「考えても仕方無い、取り合えず先に進もう!」
俺の号令でメンバー達は一斉に走り出した。だがその時、何処からともなくアンチネス達が現れ、俺達の前に立ちはだかった。
「邪魔をするな!!」
俺の叫び声に合わせるようにみんなそれぞれの武器を構える。
先に攻撃を仕掛けてきたのはアンチネス軍団。アンチネスの一体が空中から鋭い爪で攻撃を仕掛けてくるが、それは白凰の使った守りの魔法、リフレガによって弾き飛ばされ、そこをフィオがアローガンで正確に撃ち抜いた。
だがアンチネス達はその数の多さを生かしてあらゆる方向から襲いかかり、俺達に攻撃を仕掛ける。だがその攻撃はライガの使った守りの力を得た霧魔法、シルドミストによって阻まれ、ドナルドが放った隕石を大量に落とす魔法、メテオによってそのほとんどの数を消滅させた。
しかしアンチネス達は倒しても倒してもどんどん沸いてくる。
「くっ、こうなったらこいつらを倒しながら行こう!」
「レイ、それは幾らなんでも無茶すぎる!!」
俺がこの状況を見て、みんなを指揮しようとするが、シュージはそれを否定する。シュージの言う通り、この数を相手にしながら進むのはあまりにも無茶すぎる。だが、俺は先程の提案を実行する気のようだ。シュージは俺の真剣な眼差しを見て、頷いた。
「わかった、お前の考えに掛けてみる!」
そう言うとシュージは振り向き、みんなの顔を見る。みんな笑顔で頷いてくれた。
「行くぞみんな!!」
シュージの号令で俺達はアンチネスの大群を相手にしながらこの長い道を走り抜く事になった。この道を進むことやく一時間、ついに奥地と呼べる場所にたどり着いた。
そこには何かの入り口のような門が構えられていた。よく見るとその門は壁と一体になっているようで、壁の中には真っ黒の摩天楼が見える。
「何だろう……この町?」
「町と言うか……城みたいですね……。」
「……迷ってる暇は無いぞ、相棒、ソラ。」
ダークの一言は全くその通りで、メンバー全員の動揺を一瞬にしてかき消した。門の前に並んで立つ二人。今度は鍵穴が三つあった。これでは二人だけだと鍵が開かない。その時だった。突然後ろから声が聞こえたのだ。
「なんだ、鍵穴に手間取ってんのか?」
「ディア!!」
ディアがキーブレードを持ってそこに立っていた。ディアが俺とソラの間に入るようにして並び、キーブレードの剣先を鍵穴に向ける。それを見た二人もディアと同様、キーブレードを鍵穴に向ける。
三つのキーブレードから放たれる七色の光に門が反応し、扉が開かれた。その時、とてつもない緊張感が一同を襲った。
「………いよいよ……なんだな。」
「あぁ……!」
「みんな、気を抜くなよ!」
「わかってるっての。」
門を潜り抜けると、空に向かって延び続ける柱の如く聳え立つ真っ黒のビルが幾つも広がっていた。どうやら本当に摩天楼のようだ。しかし、明かりになるものは一切なく、この町自体も色が白黒のみという事も染まってかなり不気味な雰囲気を漂わせている。
「うわぁ………。」
思わずこの世界の闇に圧倒されそうになったが、なんとか立ち直り、一同は慎重に歩き出した。
その時だった。謎の音が鳴ると共にビルの中から大量の砲台が飛び出し、全てのビルの砲台は俺達に狙いを定めた。
「みんな危ない!!」
俺の呼び掛けで一同は走り出し、砲弾を辛うじて避ける事が出来た。だが砲弾はどんどん打ち込まれ、止まぬ砲弾の雨という状態になった。
「まさかこれが兵器の一つ!?」
「だろうね。」
ドナルドが慌てて走るその隣で平然と普通に走っている黒凰が言う。ドナルドはもちろん、他のメンバーもその様子には流石に驚き、みんな走りながらでも黒凰を見た。
「何でそんなに落ち着いてんだよ!?」
「これは元々の性格だからね。」
「いやここは慌てるだろ普通!?」
「さぁ?君達が恐がりなだけなんじゃないの?」
その黒凰の発言に口答えする者は誰一人としていなかった。そもそもここで口答えしようとあっさりと返されて空しくなるだけだと思ったメンバーがほとんどである。
砲弾の雨に襲われつつも俺達はなんとか町の中心部に当たる場所にやって来た。相変わらず並ぶ黒いビルの中でも、特に大きい物があるのが特徴的であり、その左隣には抜け道がある。
俺達が中心部のもっとも大きいビルを過ぎ去ろうとしたとき、突如として真っ黒な炎が現れ、行く手を遮った。
「ヘイヘイヘーイ!!」
謎の掛け声と共に空から降りてきたのはアレクセイだった。アレクセイは相変わらずの根拠の無い笑顔でこちらを見ている。
「よぉ勇者ども!お前らが来るってわかってたぜ!ヘイヘイ!!」
「アレクセイ……お前そんなに明るい癖に何故DEDなんだ?」
それを聞いたのはライガだった。以前クラクションが話していた事によると、6皇帝はみんな何かしらの辛い経験、および強い憎悪を持ってアンチネスになっているとのことだが、アレクセイからはそれらを全く感じられない。それを疑問に思ったライガは聞かずにはいられなかった。
「俺?俺はな、約束をしていたんだ。」
「約束?」
「そう、両親からいつ、どんな時でも笑顔でいろって。でもあるとき目の前で両親は殺された!鎌を使われてな!その後俺は空腹と寿命に追い詰められて死に、あのお方にアンチネスとして甦らせてもらったのさ!」
「てめぇ、ざけんな!!」
叫んだのはダークだった。ダークがアレクセイの前に立ちはだかり、持っていた太刀の刃先をアレクセイに向けた。
「お前……親が消えても約束を守ってたのか?」
「だったら?」
「なら、親がいなくて寂しい時も泣くことすら出来なかったって事なのかよ!?」
「俺は笑顔以外許されないのさ!!」
「なら俺と戦え。ここからは武器同士で語り合おうぜ。」
ダークがそう言うと、彼の両肩にそれぞれ白凰、黒凰の手が置かれた。
「なら我らも付き合うぞ。」
「まぁ、暇潰し程度にね。」
「お前ら………!」
ダークは二人の表情を見て、頷いた。二人ともやる気のようだ。白凰らもそれぞれの武器を構え、アレクセイが突然右手に邪悪な炎を宿し、三人をその中に吸い込んだ。その際、アレクセイの姿も無くなっていた。
「え?」
「消えた……?」
「………たぶん、三人は俺達に行ってほしくて、足止めを引き受けたんだ。」
「……そんな……!」
三人の行動は少しでも早くみんなに奥地に進んでもらう為の物。頭ではわかっていても、やはり認められない。しかし、一同は進むしかないのだ。
「………行こう。」
俺が口を開き言うと、みんな俯きながらも歩き出した。
一方その頃、ダーク達三人は謎の狭い空間の中にいた。この空間はまるで炎の中にいるかのように熱く、数秒もしないうちに額から汗が垂れてきた。
その空間の中心にアレクセイはいた。アレクセイは自らの武器、大鎌を構えた。だがその鎌は何時もと違った。なんと炎を纏っていたのだ。
「フッ、これぞ俺の紅蓮の鎌、『フレイムカスケード』だ。」
「フレイム………カスケード…!」
三人が動揺する暇もなく、アレクセイの攻撃が三人を襲う。普通鎌の攻撃と言えばリーチこそ大きい物の、その重量故に攻撃がやや遅い物だが、三人はそれを避けきれなかった。そもそもこの空間自体狭すぎるのだ。例えるならば一般の子供部屋二つ分くらいだろう。その中に四人もいるとなるととても狭く、アレクセイの鎌を避ける事が困難なのである。
「くっ……!」
「俺は今でも二人に会いたい、だけど、俺は何故か死ぬのを躊躇っている!何故だ!」
アレクセイがそう嘆きながら三人に攻撃を続ける。それらを受け止めるのがやっとの状態でどうしようもない三人。アレクセイの言った二人とは先程言っていた両親の事だろう。無理もない、大切な両親を目の前で鎌で殺害されたのだから。先程の言葉を聞いていた黒凰が初めて鎌による攻撃を弾き、アレクセイにダメージを与えた。
「なら……さっさと死ねよ。」
「何?」
黒凰が突然口から吐き出した言葉。それにアレクセイは反応せずにはいられなかった。
「さっきから言わせておけば、調子に乗りやがって……行きたいんだろ?だったらさっさと行けよ。でもさ……、こんな戦いをして、恥ずかしくないのか?」
「何だと?」
「こんな狭い空間に僕らを引き込んでまで何もできない相手を追い詰める。こんな卑怯者のやることを、両親が望むかい?」
「うっ………!」
アレクセイは黒凰に言われて初めて気がついた。自分は間違った行動をしていた事を。両親がこんなことを望む訳がないと。両親は、自分が良い子のまま笑ってほしいと願っていた事。
「確かに死にたいのなら死ねば良い、けど、そのままならお前は死ぬ価値も無い!どうせ死ぬなら、両親に恥ずかしくないように、全力で僕達と戦え!!きっと両親も天から見てくれてるから、僕達と戦って死ねよ!それからあの世で両親に頑張ったって事を伝えれば良い!!そうすれば、お前の大切な両親はきっと笑ってくれる!!」
「黒凰……!」
「………あぁ……!」
ダークと白凰はこんな黒凰をこれまで見たことがない。普段こそ毒舌な黒凰だが、こう言う熱い一面を見たのは、今回が初である。
「………わかった。」
アレクセイは黒凰の言葉を受け止めたのか、ここにいる全員を元の場所に戻し、本当の意味で初めて笑えた。黒凰に言われて気づいたのだ。大切なのは、約束を破ってでもその人の望みを叶えてあげる事だと。
「……行くぞ!!ダーク、白凰、黒凰!!!!」
アレクセイはこの時初めて、正々堂々と三人に突っ込んでいった。その様子を見た黒凰は、滅多に見せない笑顔でアレクセイを迎え撃った