CHAPTER73【凍てつく女王】
突如地響きのような音が響き渡り、この浮遊島全体が大きく揺れた。しかし摩天楼の建物はおろか、俺達にも特に影響は無く、全て無傷だ。
「な、なんだ!?」
俺達が驚くのも束の間、はっと我に帰り、先程アレクセイを食い止める為に戦いを挑んだ三人の事を思い出し、振りかえる。アレクセイ達がいる町の中心部への道はいつ現れたのかわからない謎の真っ黒いバリアによって閉鎖されていた。
「ダーク、白凰、黒凰……!」
「くっ……!」
俺達一同は三人の様子が気になるようだが、心配している暇は一秒たりとも無く、ただ進むしか無かった。
「………行こう。」
やがて俺達がたどり着いたのは、中心部から少し北西に行った所にある広間。この広間は六つのビルに囲まれており、向かい側にある道から先に進めそうだ。
その時だった。突然六つのビルの中から大量のアンチネスが現れ、一同を取り囲んだ。
「くっ、罠か!」
「ここは任せろシュージ!」
そう言ってライガはたった一人でアンチネス達に突っ込んでいった。それをシュージは止めようとするが、その前にライガは行動を起こした。
「ザ・アイスミスト!!」
ライガの右手から冷気をおびた水色の霧が大量に発生し、アンチネス達を包み込んだ。霧の中にいるアンチネス達の身体はどんどん凍り付いていき、身動きが取れなくなった所をライガが更に仕掛ける。
「ハンマーミスト!!」
今度は左手からこの真っ黒な世界では少々見辛い黒い霧が発生し、巨大なハンマーの姿に変化した。ライガはそれを両手でしっかりと握り、アンチネス達に向かって降り下ろした。
物凄い音が鳴ると共に此処等一体が大きく揺れた。ハンマーはすでに他の霧と共に消えており、アンチネスの姿は跡形もなく無くなっていた。
だが俺達の前には消えたアンチネス達と入れ替わるようにしてヘルツがそこに立っていた。操られている状態は前のままで、もはや彼女は完全に操り人形の状態になっていた。
「《ついにここまで来たか。》」
「お前!!」
ソラが突然前に飛び出し、キーブレードを一瞬のうちに出現させ構えた。
「カイリを………カイリ返せ!!」
ソラは思いきりヘルツに向かって叫んだ。その表情に以前のような迷いは無く、ただ純粋にカイリを救うのみだった。ソラのその青く輝く光に満ちた瞳はヘルツの邪悪な瞳を必死に睨んでいる。
「《!!》」
突如謎の苦痛がヘルツを襲う。ソラのあの目を見ていると、何故か自分の中の闇が追い出されていく気がする。その為かこの傷みがヘルツを襲っているのだろう。
「《何故だ……何故お前はそこまでして…この女を……!》」
ゼェゼェと息を切らしながらヘルツは言う。するとヘルツの目の色、及び白黒部分の反転が元に戻り、一時的に元の姿に戻った。
「ソラは……私の事を信じてくれてるから……私を助けようとしてくれるの。」
「カイリ!?」
ソラが一時的に元に戻ったカイリに駆け寄ろうとするが、カイリはそれを拒否した。無論他のメンバーもカイリの拒否を理解出来ず、驚いている。
「ぐわぁぁ!!」
突然のカイリの悲鳴。身体全体に酷い激痛が走り、再び先程の邪悪な姿、ヘルツとなった。
「《そんなもの……幻想に過ぎぬわ…!》」
元に戻った状態では何ともないが、何故か操られている状態の時の彼女の声は彼女本来の声と同時に不気味な声も重なって聞こえてくる。恐らくカイリを操っている人物の声だろう。そしてまたも元に戻った。
「幻想でも良いよ!大事なのは、信じることだから……!」
「《違う、お前は自分に嘘をついているだけだ。信じる事で自分は彼の為に生きられると騙しているだけだ。言っただろう、そんなもの……幻想に過ぎないと。」
「そんなこと……無い……!」
「《流石は、セブンプリンセスと言った所か。》」
言葉を発する度に元の状態に戻ったり、また操られたりと、洗脳の効き目が弱くなっているようだ。少しずつだがカイリの心が自分を支配していた闇に打ち勝ち、洗脳を弱めたのだろう。
「ぐっ……ソラ……お願い……私を、倒して!」
自分を支配しようとする闇と戦い苦しみつつも、カイリはソラに自分を倒せと訴える。ソラは無論、迷わず頷き、改めてキーブレードを構える。
「レイ、みんな。先に行け。俺はこいつを引き付けておく。俺は……こいつの闇を倒さなくちゃ行けないから!!」
「なら私も協力しますよ。」
言い出したのは紫音だった。紫音はなんと自分の意思のみでキーブレード――約束のお守りを出現させた。どうしてかはわからないが、考えている暇はすでに無い。
「ありがとう、紫音!」
こうしてソラと紫音の二人はヘルツと戦う事となり、残ったメンバーは二人を置いて先に進む事となった。特にフィオは紫音が残るというだけで不安だった。自分が一生掛けてでも守ると決めた人なのだから。
「《貴様……本気で言っているのか……!?》」
ヘルツは何とかカイリの意思を押さえ込み、闇のキーブレード――デスフェンリルを出現させ、ソラ達を攻撃するが、それは紫音の雷の魔法、サンダガに弾かれた。
「《なっ!?》」
「ナイス紫音!!」
「ありがとうソラさん!!」
紫音を褒め称えた後、ソラはキーブレードを何回もヘルツに向かって振るが、どれも避けられている。やはり闇の力を手にした事で、非力なカイリの身体でもここまで強くなっているのだろう。だがソラは決して諦めず攻撃を続ける。それに紫音も加勢し、二人がかりでヘルツを追い詰める。
「《くっ………!》」
やがてヘルツは足を踏み外し、二人の攻撃をダイレクトに喰らってしまった。ヘルツはビルの扉まで吹っ飛ばされ、その場に倒れた。
「《(まさか……この女、抵抗している!!)》」
ヘルツは起き上がろうとしたが、何故か身体が動かない。やはりカイリの意思が闇の力と戦い、身体が言うことを効かなくなっているのだろう。
「止めだ、ヘルツ。」
ソラがキーブレードを天に掲げ、光の力を集める。どんどん集まるその優しき光はこの暗黒の世界ではより輝きを増し、やがて強大な力となった。
「ソラさん、私の力も!!」
紫音は自分のキーブレードをソラのキーブレードに向かって槍投げのように放り投げ、二つのキーブレードがぶつかり、より大きな力となった。
「「行けぇぇえ!!」」
二人の叫びと共に強大な光の力を纏った二つのキーブレードはヘルツに向かって飛んでいき、見事にヒットした。その際ヘルツの周辺のビルは吹き飛び、カイリの身体の中から闇が消えていくのが見えた。
「カイリ!!」
先程の攻撃によって吹き飛ばされたカイリをソラは急いで受け止めた。ソラも紫音も心配そうにカイリの顔を見つめている。
「……ううっ……。」
カイリが目を覚ますとほぼ同時にソラの涙がカイリの頬に溢れた。
「良かった………本当に良かった………!」
「ソラ………。」
やっと再会する事の出来た二人はお互いを見つめ合い、抱き締めあった。
「カイリ……ごめん、俺……お前の気持ちに全然気づいてやれなかった!お前が寂しかったんだって事を………!」
「ううん、良いの。だって……これからは一緒にいられるからね。」
その言葉に強く頷いた。二人が抱き合っている様を紫音は涙ぐみながらも見守っている。そして、あのときフィオが自分に言ってくれた事を思い出した。
(僕は君を守る盾になる)
「フィオさん……私は自分のやるべき事を見つけました!」
「私はみんなを守る盾になる………!」