CHAPTER79【混沌の竜】
暗黒に包まれた空に現れたのはダークエンドドラゴンであってダークエンドドラゴンではなかった。あれはまるで光と闇、天使と悪魔、聖騎士と魔王、二つの力を取り込み、左右両方に四本の首と羽を持っており、合計八つの首と羽で、さらに前の姿よりも巨大化している。あの巨大な竜からは光の力も闇の力も感じる。
「あれは………ダークエンドドラゴン!?」
「いや………あれは………、」
俺はこの時、リアスが言っていた言葉を瞬間的に思い出した。ダークエンドドラゴンには隠された姿があると。あの言葉の意味は恐らく、あの姿の事だろう。
「光と闇、二つの力を持っている…!」
「あえて呼ぶなら、【カオスエンドドラゴン】って所か。」
ダークエンドドラゴンが鈴神を吸収する事で進化を遂げた姿、カオスエンドドラゴンは光側と闇側からそれぞれ1つずつ頭を出し、二つの口から強大なエネルギーを放つスパーク状の弾丸をアースの海に飛ばした。
その弾丸が海に直撃したとき、大きな音と共に大津波が発生し、アースの島々に激流となって襲いかかった。アースの住民達は大パニックに陥り、逃げようとするがいつの間にか現れたアンチネス達に阻まれ、いとも簡単に攻撃され意識を失ってしまった人が絶えず出たという。しかも全ての世界は今、浮遊島の力によって1つにされようとしている為、アースを攻撃するということはもはや全世界を攻撃する事と同じだった。
アースの住民はもちろん、他の世界の住民達も大混乱に陥っている為、この世の終わりを嘆く者もたくさんいたとか。今この瞬間、数々の悲鳴がこの世界に響き渡り、人々はあの伝説に出てくる竜を思い出した。
かつてこの世の全てを破壊しつくした伝説の破壊神、暗黒竜ダークエンドドラゴン。今まさに、過去の災いが再び起こっている。
「早く!みなさん逃げてくださいっ!」
「こっちです!!」
現在フウリやライヤ達が人々を避難させているが、助けられたのはほんの僅かであり、惜しくも無くなってしまった命の方が多いという現状はフウリ達をとても悔やませた。
「くっ………駄目なのか………もう、世界は………!」
その絶望的な状況を見たリクは空に浮かぶあの浮遊島を見上げる。
地上には大津波や大量のアンチネスと、大パニックが起こっているが、俺達はこれを止めるただ一つの方法をわかっている為、とても落ち着いていた。そう、あのカオスエンドドラゴンを倒す事である。全ての元凶であるカオスエンドさえ倒せば、大津波は止められなくともアンチネスは完全に消滅させられるはず。だがカオスエンドは空を飛んでいる。キーブレードライドで向かっても戦いづらく、結局は破れてしまう為、どうするのかわからずに立ち止まっていた。
早くしなければ地上は崩壊し、全ての世界が滅びてしまう。全員が諦めかけたその時、またあの声が聞こえた。
――諦めては駄目です!――
「母…………さん?」
――希望はまだ残っています!――
「でも、どうやって……?」
――レイ、貴方は強い子です!――
――貴方のその名前の意味は、みんなの心を照らす優しき光!――
――さぁ、みんなの為に今一度輝いてください!!――
ケミアの声が聞こえなくなると、突如俺のみが不思議な光に包まれ、カオスエンドのいるあの空へと飛んでいった。それを他のメンバーは心配そうに見送る。この時、まだ誰もわからなかった。彼にもう会えなくなる事を………!
それを外で見上げていたヒナタは衝撃を受け、手に抱えていた書物を開き、その文を読む。
「光の勇者は………他人の心を強く照らし出し、心を通わせる……!そして、心の繋がりを頼りに、仲間の心を一時的に借りることで複数のキーブレードを使いこなす………!それは、光の勇者を受け継ぐ者にも秘められし能力……!」
やがて俺を包み込んだ光はカオスエンドのいる空に飛び出し、光は少しずつ俺の背中に羽のように変化しくっついた。そして俺はカオスエンドを見て、強く叫んだ。
「………うおぉぉぉぉぉぉぉぉっーーーーーーーーーー!!!!」
その大きな叫び声と同時に俺は銀色の光に包まれ、普段着が全体的に銀色に変色し、俺の背中からなんと四つのキーブレードがその姿を現した。それを掴みはせず、なんと普通に浮かせている。ケミアの影響か、超能力まで使えるようになっているようだ。
「すげぇ…………!」
「あれは……一体?」
――これが、ファイブ・ブレード光の勇者の力――
――さぁ行きなさい、レイ――
「みんな!!俺に最後の力を貸してくれっ!!!!」
カオスエンドの激しい雄叫びも物ともせず、俺は四つのキーブレードを自由自在に使いこなし、カオスエンドの首を攻撃した。そのダメージは絶大で、カオスエンドはもがきながらも四つの頭で攻撃を仕掛けるが、全てキーブレードに弾かれた。
俺はケミアから受け取った超能力によって四つのキーブレードを一線に並べ、カオスエンドの首の内一番左側の首に狙いを定め、キーブレードを矢のように放ち、キーブレードはカオスエンドの首の1つを切り落とす事に成功した。
「まだだっ!!」
俺は四つのキーブレードを自分のまわりで回転させ、光の力を集め始めた。すると先程鈴神が放って見せた物よりももっと大きな光の柱が魔方陣と共に誕生し、カオスエンドに向けて閃光の如く攻撃し、カオスエンドの首の1つを貫いた。
カオスエンドは先程アースの海を攻撃して見せたスパーク状の弾丸を乱射するが、それら全てレイに軽々と避けられ、さらに2本の首を失った。
カオスエンドはもがき苦しみ、飛行系アンチネスを大量に呼び出し、俺を襲わせるが、アンチネス達は一瞬にして俺を守る四つのキーブレードによって消滅させられた。カオスエンドはそれを見かねて、今度は羽から大量の混沌の力を持つ光線を放ち、俺を打ち落とそうとするが、俺は光の羽を見事に使いこなし、全て避けながらカオスエンドの腹の辺りまで来て見せた。
「そこだっ!!」
腹の辺りにある謎の装備品らしき物を破壊し、その中から鈴神が現れた。あの装備品はこの腹の口を塞ぐものだったのだろうか。鈴神は気を失っており、カオスエンドドラゴンの身体の一部に取り込まれようとしているようだ。
「鈴神………!」
それを見た俺はカオスエンドの首の所まで飛んでいき、四つのキーブレードを駆使し、連続攻撃を開始した。
「俺は鈴神を………みんなを救うっ!!運命を変えてやるっ!!」
俺の脳裏にはこの時、様々な仲間の声が聞こえていた。
『レイ!』
何時も明るいフィオ。
『レイ。』
自称相棒でいつも自分を支えてくれるダーク。
『レイ。』
いつも優しい先輩のシュージ。
『レイ!』
いつも励ましてくれるライガ。
『レイ!』
何時も貴族らしくなく勇敢な白凰。
『レイ。』
何時も大切な事を教えてくれる黒凰。
『お兄ちゃん!』
何時も自分を大好きでいてくれるヒトミ。
『レイ。』
何時も自分の事を思ってくれているヒナタ。
『レイ。』
和解し、仲間となったディア。
『レイ。』
デスティニーアイランドで友達になったカイリ。
『レイ!』
幼い頃からの友達のミッキー。
『レイ!』
共に旅をしたソラ。
『『レイ!』』
旅の仲間として共に笑ったドナルド、グーフィー。
『レイさん!』
新しい家族となった紫音。
『ディアス君。』
自分に世界の命運を託してくれたリアス。
『レイ。』
新しい友達のリク。
『『レイ!』』
ひょんな事から意気投合したフウリとライヤ。
『マスター!』
ずっと前にポートロイヤルで会ったベルーガ。
『レイはん!』
自分達を助けてくれたドアクロス。
そして、
『レイ君!!』
自分の事を、誰よりも愛してくれるクロナ。
その声がたった今、全て聞こえなくなってしまった。今になってブラックパラデスの代償が効いてきたのだろう。だがこれで良かった。俺はこの最後の敵を倒して自分の人生を終える事をすでに決意していた。
少しずつ記憶が消え行く中で、唯一忘れられない人がいた
『レイ君!!』
あのときの約束によって、幸いクロナだけが俺の記憶に留まる事が出来た。あの約束だけはどうしても破る事が出来ない。何故なら自分も同じようにクロナの事を愛しているから。
ねぇクロナ、この声が聞こえるかい?
もうすぐ俺の声が聞こえなくなっちゃうけど、
もしまた会えたなら、伝えるよ。
君の事を………………
「愛しているってね……!」
その時、カオスエンドの首が数本落とされ、ついに残り一本だけとなった。俺がクロナへの想いを語っている間に、キーブレードを駆使して大量の攻撃をしていたのだ。
「俺は……………クロナが生きているこの世界を守るっ!!」
俺は止まらない涙を流しながらカオスエンドドラゴンに立ち向かっていく