DREAM11【その日生まれた絶望】
ドゥーハ達エージェントの苦悩、それは私達の想像を遥かに絶する物だった。消えた仲間を救うために自分達の命を削ってまで戦う彼らと果たして戦って良いのだろうか。罪の無い彼らを倒して良いのだろうか。私達の心に迷いが生じた。
「怖いのか?」
どうすれば良いのかわからず俯いている私にドゥーハが語りかける。先の事実を聞いた後だと彼の放つ言葉一つ一つが重く感じてしまう。私はドゥーハの問いに答えることが出来なかった。
「我々の邪魔をしないのなら、見逃してやっても良い」
悩みで満帆になっていた私の思考にその言葉が強く突き刺さった。今逃げれば彼らも命を削る事も無く、私達も恐怖しなくてすむが、ここで逃げてしまうとこの夢の世界を消されてしまう。しかし、今の私の頭にそんなことは残っていなかった。いや、かき消されたと言う表現が正しいだろうか。私は何もする事が出来ず、ドゥーハのいる方とは逆方向に走り出し、逃げ出してしまった。その後をフィオ君とダーク君、そしてアディアが追いかける。
この時、私は初めて敵に情けを掛け、そして同時に、恐怖を覚えてしまった。
この世界から出るべく私はキーブレードで回廊を開き、急いで入っていった。フィオ君とダーク君がその後を急いで追いかけ、アディアは俯いたまま歩いて回廊に入り、数秒後、回廊は閉じられ消滅した。
「行ったか」
「はい、奴らはレイディアントガーデンに帰還したようですね」
ナイトメアの言葉に対して『わかっている』とでも言うかのようにドゥーハは頷き、絶望に満ちた声で言った。
「では、この世界を破壊するぞ」
ドゥーハの指示でナイトメア達が一斉にデスティニーアイランドを攻撃し始め、数時間と経たない内にこの世界は一面灰色となり、先程までの面影がさっぱりと消えてしまった。
「………残る夢の世界は、あと11個……!」
一方その頃、私達はレイディアントガーデンのジョブゲート前で先程の戦いの事を嘆いていた。アディアは少なくとも冷静な表情だったが、私達三人の表情は共通して恐怖に怯えた物であった。
「くそっ!!」
ダーク君が壁を強く殴り、涙を流した。その拳は壁にヒビを入れ、その大きな音からはダーク君の悔しさがよく伝わってきた。
「……俺達…何も出来なかったのか………!何も出来ずに戻ってきたのかよっ…!」
言葉を放つ度に涙が溢れてきて、ダーク君の悲しみに満ちた声を聞くたびに心が痛む。ダーク君の言った言葉は私達の気持ちをそっくりそのまま代弁したような物で、みんな同じ事を考えていたからだ。
「……僕……怖いよ…戦いならいつもしてきたはずなのに……どうしてこんなにも……?」
フィオ君の苦しみは私の感じている物とほぼ同様だった。今までの敵はただ純粋に敵対して戦ってきたのに対し、彼らは自分達に敵意があるわけでも無いのに無理矢理動かされている。当然、罪も無い人は傷つけられない。
「二人とも……元気出して」
「じゃあお前は出せるのかよ!!」
私が二人を励まそうと声を掛けた途端にダーク君が私に怒鳴った。こんなにも悲しんでいるダーク君は今まで見たことが無く、思わず怯んでしまった。
「奴らは仲間の為に自分達の命を賭けて戦っていると知って、どうやってこの世界を守るってんだよっ!!」
「そ……それは……!」
「答えろよっ!!」
そう叫んだダーク君は私を殴ろうとするが、それをフィオ君が何とか止め、悲痛な声で言った。
「ダーク!止めてよ!!……今争っても何も始まらないよ……」
まさにその通りだった。その言葉にダーク君は項垂れ、何とか自我を取り戻してくれた。私達の心に刻まれた不安はあまりにも大きく、あまりにも深く突き刺さっているようだ。
「クロナ……フィオ……ダーク」
アディアの儚げな声。しかしその言葉は私達の耳には入らなかった。いや、私達がまわりの音を自ら拒否しているのかもしれない。
その時だった。レイディアントガーデンの城の方面からとある人が私達の所まで歩いてきて、アディアの隣で足を止め、こちらに振り向いた。
「「「!?」」」
その人物の顔は、あまりにも衝撃的な物だった。