DREAM12【夢と現実の違い】
私達の前に現れた人物。それはあの闇の探求者アンセムだった。しかし、その表情は何処か穏やかで、何故か一切の闇を感じなかった。
「貴方は!」
「アンセム!?」
「どうしてここに!?」
私達三人はそれぞれの武器を出現させ、すぐにでも攻撃出来るよう構えた。しかし、その瞬間アディアがアンセムの元へ歩み寄り、何故か一礼した。
「えっ?」
どうしてアディアがアンセムに頭を下げるのか理解出来ず、思考が困惑していた。アンセムはアディアの顔を見て笑顔で頷き、こちらを見た。やはり情報に聞いたような闇の表情ではなく、寧ろ優しい男性のような雰囲気だった。
「初めましてだね、三人とも」
確かに初めましてなのだが、さっきから何が起きているのかさっぱりわからない。特に困惑していたフィオ君がアローガンの弾丸を放ち、アンセムに当たろうとしたその時、アディアがそれを防いだ。
「え!?」
「みんな、武器を閉まって。話はそれから」
アディアに言われるまま自分達の武器を光の中に還し、改めてアンセムを見た。何度見てもやはり闇の気配は感じない。
「この際だから、夢と現実の違いについて説明しておくね」
アディアはそう言うと、ジョブゲート付近にあった中位の大きさの台に腰を掛け、語り始めた。
「本来、夢と現実の同じ存在はどちらであっても全く変わらないのが普通なんだけど、稀に夢の存在に変化が起こる事がある。僕らはこれを【アンチアナザー現象】と呼んでいる。」
「アンチアナザー現象には大きく別けて二種類存在するんだ。解りやすく説明するために、レン君を例としようか」
レイディアントガーデンの守護兵ことレンが良い例えになるのかは正直微妙だが、アディアの表情は自信に満ち溢れているので、信じて話を聞いてみる事にした。
「レン君はとても冷静で、かなり頼りになる騎士。だけどそれは夢の世界での話、現実世界のレン君はその真逆、頼り無くて落ち着きの無い性格である可能性がある。つまり、夢の存在の性格が現実の存在と真逆になっている事があるのさ。これが1つ目」
成る程、何となく理解出来た。つまり現実世界と夢の世界とでは性格が真逆になる事があると言う事。現実で天才なら夢ではその人は馬鹿と考えるとわかりやすい。先程の例えで行くと、もしかするとレンは現実世界では馬鹿である可能性があると言う事か。
と言う事はこのアンセムは夢の世界のアンセムで、アディアが解説した1つ目のケースで生まれた存在なのだろう。性格が真逆の闇の探求者アンセム、想像したことがなかった(と言うか出来ない)物が目の前にあるのはなんだかシュールだけど、アディアの話を聞いた後だと納得が行く。
「もう1つは、その人の長所がより強化された状態になるケース。例えばフィオなら、射撃が得意だよね?」
突然のアディアの問いかけにフィオ君は慌てて頷いた。するとアディアの代わりにアンセムが話を始めた。
「フィオ君なら射撃と言った具合に、その存在の一番強い物がより強化される事があるのだ。一番強い物は特技、感情、心、何でも良い。とにかくその存在の中の総合的に強い物が強くなると言う事だ」
「そう言うこと」
アディアが立ち上がり、自分の右隣に水色の不思議な回廊を瞬間的に出現させ、言った。
「アンセムさんは僕らの協力者で、主にナイトメアのスピリット化について研究、及びドリームイーターのブリードに取り組んでもらっている」
「へぇー」
なんとアディアは夢の世界のアンセムを仲間にしていた。アディアが私達の仲間だからアンセムもまた私達の仲間。これ以上心強い事は恐らく無いだろう。現実では世界を危機に去らしたアンセムが夢の世界ではこちらの味方になってくれているのだから。
「クロナ、後で現実世界に来て。そこでまだ教えなくちゃ行けない事がある」
そう言ってアディアは先程開いた回廊の中へ入っていった。その数秒後回廊は消滅し、私達三人とアンセムだけがこの場に取り残された。
「驚いただろう?私が君達の味方だと言う事が」
「え……はい、今でも信じられません」
「フッ……だろうな」
心強い事ではあるのだが、流石にアンセムと話すとなると、何故か緊張してしまう。いくら真逆の性格になっているとは言え、闇の探求者アンセムなのだから。
「そう言えば、先程アディアが言っていたブリードって何ですか?」
先程から何となく敬語を使っている私はアンセムにブリードと言う言葉について問いかける。するとアンセムは現実世界で聞いた情報からは想像出来ないような優しい表情で答えてくれた。
「ブリードと言うのは、ドリームイーターを産み出す技術の事で、夢の鉱石や結晶、生まれてほしいと言う強い願いから生まれる。私は長年ブリードについて研究してきたが、まだまだわからない事だらけなんだ」
ドリームイーターを産み出す技術、ブリード。と言う事はデスティニーアイランドでアディアが呼び出していたドリームイーター達はアンセムさんがブリードした物と言う事なのだろう。しかし、彼らはデスティニーアイランドと共に消滅してしまった。アンセムさんは表情だけは笑顔だが、恐らく内心ではとても悲しんでいると思われる。
「さて、アディアが現実世界で待っている。早く行ってやれ」
「え?でもどうやって戻るんですか?」
アンセムさんの言葉で漸く気がついたが、戻る方法をまだローグに聞いていなかった。その為三人とも戻る方法を知らず、困り果てていた。その様子を見かねたアンセムさんが言った。
「目を閉じてから現実世界と強く念じる事で、意識を現実に移動させる事が出来る」
「なんだかゲーム見たいで面白いね!」
アンセムさんの解説を聞いたフィオ君が笑顔で明るく言った。世間で言うオンラインゲームのような感覚で現実と夢を行き来出来るとはかなりハイテクな物である。もっとも、私達は今となっては所詮脱け殻に入り込んだ意識だけの存在なので当然と言えば当然なのだが。
「じゃあ、行こうか」
先程の絶望感がまるで嘘のように吹き飛んだ私達は心の中で現実世界に戻ろうと強く念じた。みんながここまで明るくなったのはやはり頼りになる仲間が出来たばかりだからだろうか。念じ始めてから数秒後、私達の意識は少しずつ何処か別の場所へ飛んでいく………