DREAM21【言葉の意味】
私達はあの謎のネコに七星座の情報を提供してもらい、彼らが潜んでいると言う部屋に来ているのだが、七星座所か誰の気配すらも感じない。精々いるのはナイトメアくらいである。ナイトメア達をある程度蹴散らしてからダーク君が沈黙を破った。
「どーなってんだ?七星座はこの部屋にいるんじゃ無いのかよ?」
襲い来るナイトメアをバッサバッサと斬り倒しながらダーク君はフィオ君に話掛ける。丁度台詞を言い終わった頃にダーク君側のナイトメアが全滅し、不覚にも苦笑いしてしまった。
「そんなこと言われてもわからないよ。大体あのネコ信用出来るの?」
とフィオ君。確かにあの言葉は意味がわからなかった。最初聞いたときは思わず馬鹿なのかと思ってしまったほど自分の耳を疑った。
「……"その部屋であってその部屋でない"、だよね」
先程の茶番や謎の矛盾した言葉なども物ともしていないような真顔のアディアがネコの言葉を口にした。そもそもネコが喋るなど通常はありえないのだが、この世界の名前自体が『ワンダーランド(不思議な国)』なのでそんな事が起こっても正直可笑しくない。
「どういう事なんだろう?」
「う〜ん……」
考えれば考えるほど謎は深まって行く。このままではわからない事だらけなので、もう一度ここまでの出来事を振り替えってみる事にした。
まず現実世界でディアを仲間に迎え入れ、その後七星座のリーダーベネトナシュの情報を獲得し、このワンダーランドに降り立った。その直後にナイトメアに襲われ、この世界の住人に見つからないように七星座を探していると例のあのネコに遭遇、あの矛盾した言葉を聞き、今に至る。
「わからないね」
だがこれまでの事をいくら振り替えってもヒントになりそうな出来事はまるで無く、もはや七星座探しを諦めたくなるほどに絶望的な状況に陥っていた。
ただ一人を除いて。
「………」
「…あのさぁディア、黙ってないで何か言ったらどうなの?」
さっきから黙りっぱなしで何かを考えているディアに声を掛けてみると、数秒後に目を開き、腕くみを解いた。先程から目を閉じていたので立ったまま寝ていたのかと心配したが、流石ディア。全くそんなことはなかった。
「同じ部屋……だが違う部屋……」
ディアは少し唸ると、何かを思い出したような表情で言った。
「わかったぞ、あの言葉の意味が!」
何故か妙にハイテンションにディアが言うと、私達全員の視線が彼に注目した。それを確認したディアは一歩ずつ私に近付き、なんと軽く持ち上げた。しかも頭が逆さまになっていて少しずつ頭に血が昇っているのを感じる。
「ちょっ!?ディア、何を……、!」
自分がこの"逆さま"の状態になって初めてあの言葉が理解出来た。同じだけど違う世界、矛盾していた言葉の謎が今紐解かれた。
「そう言う事だったのね……」
ディアが私をそっと下ろし、立ち上がると他の三人の視線は私達二人に集中した。全員の疑問となっていた言葉を唯一理解したディア、そしてその後で理解した私を見る目が尋常ではなく、『早く教えてくれ』と訴えているようである。ディア共々その以上なまでの視線に一瞬怯みはしたが、しっかりと説明する事にした。
「あのネコの言葉は、実はそのままだったのよ」
「そのまま?でも矛盾してないか?」
ごもっともなダーク君の感想。確かにそのままだと単刀直入に言えば矛盾していると思うかもしれないが、これは実は密かに引っ掻けである。
「ようするに、"視点が違えば違う世界"だと言う事だ」
「どういう意味?」
未だ理解出来ていないフィオ君が質問をすると、ディアが突然逆立ちを始めた。しかもその状態で筋トレをするものだから正直言葉を失ってしまう。
「つまり、逆立ちすると、視界が、逆さまに、なるだろ?それだと、同じ、場所でも、違う世界に、見えないか?」
筋トレしながら喋っている為聞き取りづらい部分も多少あるが、ディアの言葉をまとめると、逆立ちなどをして視界が反転すると同じ場所でもまるで違う場所に見えてしまい、まさにそのままなのである。ディアに持ち上げられ視点が逆さになった瞬間に私も理解出来た。だがそれをしなかったディアは一体何を考えてこれに気付けたのだろう。
「なるほど、そう言う事だったんだ」
ここでアディアが納得してくれた。フィオ君は完全にとは行かなくても半分くらいは理解してくれたようで、自分も逆立ちを始めた。流石にディアのようにその状態で筋トレはしないが。
「え〜と、どういう事だ?」
やっぱりダーク君だけは理解出来ていなかった。こう言う事はもはや日常茶飯事だが、流石にここまでくると頭に来る。
「あぁもう!」
辺りに乾いた音が響き、ダーク君は音を立てて倒れた。そう、あまりにも頭に来たので平手打ちをしてやったのである。他の三人を連れ、取り合えず七星座探しに戻る事にした。
「そうしてれば視点が変わってわかりやすいでしょ!?」
「は、はい……すみません……」
地面に倒れていて今にも気絶しそうなダーク君はディアが拾い、この部屋と同じだが違う場所――つまり天井――へ続く道を探す為に一旦部屋を後にした。