DREAM29【不安】
「フィオ!!」
私達は何処かへ行ってしまったフィオ君を探してレイディアントガーデンに戻っていた。アディアがアンセムさんやローグ達に知らせる為、彼女だけ別行動となり、現在捜索しているのはディア、ダーク君、そして私の三人だ。
「フィオ君!」
どれだけ名前を呼んでも返事は来ない。ワンダーランドからここに来るまでもたくさんフィオ君の名前を呼び続けていた為、さらに不安が大きくなる。
「もう、こっちにはいないって事なのかよ!?」
捜索中だと言うのに焦っているダーク君。フィオ君は彼にとって誰よりも大切な親友なので無理もないだろう。
「どうしよう……」
唯でさえレイディアントガーデンの城下町は広い。その中から人一人を三人で探すのも一苦労だと言うのに、こっちの世界にいないのであれば現実世界にいる可能性がある。しかし、こっちにいる可能性も捨てきれない。
「ならクロナ、お前が現実に戻るんだ」
「えっ?」
先程から無言だったディアがやっと口を開いた。そう言えば三人の中で唯一フィオ君の名前を呼んでいなかった気がする。
「こっちの捜索は俺達に任せて、お前が現実世界で捜索するんだ」
率直と言うか、単刀直入に思った事をすぐ口にするディアは相変わらずだった。普段こそ静かであまり話題にも参加しようとしないほど人見知りで無愛想だが、その時に応じて冷静な判断が出来る。そんな彼を私は少し尊敬している。
「わかった。一回現実に戻ってみるね」
「フィオを頼んだぞ!」
ダーク君にフィオ君の事を託され、自らの意識を現実世界に移そうと意識を集中した。すると以前のように意識がどんどん遠くなっていき、やがて別の景色が私の視界に写った。
それは自分の家の二階にある自室の天井だった。鏡を見て自分の姿を確認すると、しっかりと何時もの姿が写っていた。その後時計を見て現在の時刻が午前10時である事を確認した。どうやら現実と夢の世界の時の流れは同じようである。
すぐに身支度を済ませ、さっそくフィオ君を探す事にした。ただ、流石に一人で探し出すのは難しい。なので私はとある人物に助力を求める事にした。
「はーい」
ドアをノックしてから数秒後に聞こえてきた明るい声。暫く待っていると扉が開き、このディアス家の居候の少女、紫音が出迎えてくれた。
「あれ?クロナさん」
「久しぶり、紫音さん」
そう言えば紫音さんとはあのダークエンドの事件以来あっていなかったので、他の仲間達以上に久しぶりだった。一通り再開を喜んでから私は紫音さんに今回尋ねた事情を説明する。
「フィオさんが?」
「うん、貴女はフィオ君の良き理解者だからこそ、何か伝えられるかもしれない。だから一緒に探してくれないかな?」
紫音は元々、ミカと言うごく普通の少女だったが、とある事がきっかけで紫音と言う存在に変わり、記憶を失っていた所をフィオ君に救われ、彼にのみ心を開いていた。そして仕舞いには彼女の心その物を救った。だからこそ二人はお互いに信じあっている。そんな紫音だからフィオ君を見つけられるのではないかと思ったのだ。
「わかりました、早くフィオさんを見つけましょう!」
「OK!」
こうして私達は手分けしてフィオ君を探す事になった。そよ風村やドナイタウン、プラズマイトや東野原、様々な所を探し回ったがフィオ君は見つからなかった。あまりにも見つからない為、町のレストランで1つ食事をして休んでいたその時、携帯電話の音が鳴った。
「ん?」
確認してみると、掛けてきたのは紫音のようだ。
『クロナさん!フィオさんがいました!』
「えっ!?何処に!?」
『北の森です!早く来てください!』
「あ……その前にナポリタン食べて良い……?」
『ダメです!!』
「あ、はい……」
どうやら食事の時間は貰えそうも無く、叱られてしまった私はすぐに北の森へ向かう事になった(ちなみにナポリタンは少し食べて料金を置いた)。
「フィオ君!!」
北の森の中にある湖の付近に彼はいた。ただ一人で湖を見つめており、その後ろ姿からはただならぬ不安を感じる。
「心配したよもう!さぁ、行こう」
また一緒に戦おう、と手を差し出したその時、乾いた音が響くと共に私の手が弾かれた。
「えっ?」
何故フィオ君はここまで不安を覚えているのだろう。何故私を拒んだのだろう。様々な疑問が頭の中を駆け巡り、そしてグチャグチャになった時、フィオ君が言った。
「クロナちゃん……本当に正しいと思ってるの?」
「えっ?」
突如フィオ君の口から放たれた意味深な言葉。その言葉の意味を考える暇も無く、フィオ君は私に向かって叫んだ。
「どんな目的であっても罪も無い人を消すのが正しいのかって聞いてるんだよ!!そんな無責任でどう救うんだよ!?僕もう……やだよっ……」
ドゥーハを倒して喜んでいた者もいれば悔やんでいた者もいると思っていたが、まさかそれがフィオ君だとは思わなかった。ここまで思い詰めていて、私達の誰にも話していなかった。私達の勝手な思い上がりが彼を苦しめてしまっていたのだ。フィオ君が泣いているのが直接顔を見なくてもわかる。
「クロナちゃん、もう放っといて……」
そう言ってフィオ君は静かに去っていってしまった。誰にも話さず思い詰め、ドゥーハを倒してしまったその罪悪感が彼をメンバーから抜ける道へ動かしてしまった。
「フィオ君……」
仲間が一人去っていき、複雑な感情に襲われた私はあのとき自分が言っていた言葉を思い出した。ワンダーランドに行く前、私はみんなに言っていた。
『私達は必ず、夢の世界を救い、レイ君を見つけ出す!その為には、みんなの力が必要不可欠です!頑張っていきましょう!!』
あんな偉そうな事を言った癖に、仲間の事を何一つ理解出来ていなかった。私はどうしようもない悔しさを覚え、一人静かに涙を流す。
「クロナさん……」
その様子を紫音が不安そうな表情で遠くから見つめていた。