DREAM31【君と同じ体験】
「そろそろ行くんですか?」
「えぇ、あまりみんなを待たせてはいけないから」
あの後私達はディアス家に戻り、ヒナタさんにフィオ君が帰ってきているかを確認したが、彼は帰ってきていなかった。
「フィオ君を御願いね」
でも完全にフィオ君が抜けた訳じゃない。いつかまた戦える日が来るかもしれないのだ。だって仲間だから。
「任せてください!それに、恋人を支えるのは当然ですから……」
紫音さんは少し頬を赤らめて言った。そう言えば言って無かったが、フィオと紫音はあの後晴れて恋人同士となり、身長は逆転しているがお似合いの二人と私達全員公認となっていた。この世界に戻ってすぐに紫音に会ったとき、彼女は私の話を聞いて凄く不安そうな表情だった。恐らく彼女なりに責任を感じてしまっているのだろう。
「それじゃあ、またね」
そう言って再びアースを後にし、すぐに夢の世界へと向かった。自室で眠り、向こうへ行きたいと強く望む事で意識をあっちに移す事が出来る。この方法はすでに習慣になってきた。
「クロナ!」
自分の名前を呼ばれ目を開けると、そこにはもう夢の世界の風景が写し出されていた。先程私の名前を呼んだのはどうやらダーク君のようだ。
「ダーク君!」
「どうだ?フィオは見つかったのか?」
「それが……」
私はダーク君に現実世界であった出来事を話した。フィオ君がこの戦いに恐怖を感じ、逃げ出してしまったと言う事を。ダーク君は先程質問してきた時も、こうして話を聞いている時も冷静だった。もしかしたら結果を予想していたのかもしれない。
「やっぱりか……」
「フィオ君の事は紫音さんに任せたけど……私はどうしたら……?」
すぐ側にあったベンチに腰を掛け、不安げに言いながら俯いた。紫音さんは自分がフィオ君の恋人だからと言って自分のやるべき事を見つけていた。だが私はダーク君を初めとした仲間達のリーダー的存在。みんなの命を預かっているような物だ。だからこそどうすれば良いのかわからなくなってしまうのだ。
「ひゃっ」
その時頬に何か冷たい物が当てられた。それを手に取って見ると現実世界でもよく見かけるエナジードリンクだった。
「さっき買っといた」
どうやらダーク君が買っておいてくれていたようだ。彼がすぐ近くの自販機を指差していたのでそこで購入した物だとすぐにわかった。
「それ、レイがよく飲んでたんだ」
「えっ?」
渡されたペットボトルを見つつ、ダーク君の話を耳に入れる。
「キーブレードの特訓とかスポーツとかで疲れた時、よく帰りに買って飲んでたんだ」
まさかレイ君がよく購入していた物だとは思わなかった。取り合えずそれを飲んでみる事にし、口の中に運んだその時、口の中に今まで感じた事の無い感覚を感じた。
「うっ!」
「あぁ、それ炭酸なんだけど大丈夫だったか?」
今まで炭酸水など飲んだことの無い私は慣れるのにとても苦労したが、何とか何時もの笑顔を取り戻し、堂々と言った。
「ううん、レイ君と同じ物だから……好きになれる!」
改めてそれを見て、思った。レイ君は今の私見たいに落ち込んだ時や楽しかった時は何時もこれを飲んでリフレッシュしていたのだろうと。そしてそのまま笑顔で家に帰り、その日あった事を家族に話す。そう思うと私も何時までも挫けてはいられないと思った。
「所で、なんでこれを……?」
私はふと何故ダーク君がこれを購入してくれたのか気になった。私が落ち込んでいる事を察したのだろうか、或いは貸しと言う事だろうか。そんな事を考えていると意外な答えが帰ってきた。
「……お前の顔、あいつと似てっからな」
その言葉を聞いて私はあることを思い出していた。幼い頃私とレイ君はヒナタさんにこんなことを言われた事がある。
『二人とも、よく見れば顔の作りがよく似てるわよね?と言うか全く同じ?雰囲気は違うけど』
確かにレイ君の顔つきはお世辞にも男らしいとは言えず、女性である私とよく似ていると思う。ダーク君はそんな私を見てもし同じ体験をさせたらどうなるかを見てみたかったと言う事だろうか。
だが私は先程の言葉に何故か腹が立った。
「ダーク君!!」
「いっ!?」
恐怖を感じたような呻き声を揚げた後、ダーク君は走って逃げた。私はそれを全速力で追いかける。
「まてぇぇーーー!」
だが、私は本当は気がついていた。ダーク君が私にレイ君と同じ体験をさせる事で、間接的に励まそうとしてくれていたと言う事を。